ヒョーゴとキュウゾウは喧嘩になった。
喧嘩をしていたら互いの刀は刃こぼれして使い物にならなくなった。
しばらく刀鍛冶に出すことになったが互いに代替にできる刀はなかった。



喧嘩



「あんたらねー!いい年こいて仲間同士で喧嘩ってどゆこと」
「申し訳もございません」とヒョーゴはウキョウに向かって正座の姿勢からさらに深く頭をたれた。
傍らのキュウゾウはぼうっとしてあさっての方角を見ている。キュウゾウとヒョーゴのその頬やら
首やら手やらに絆創膏が当てられている。ヒョーゴはキュウゾウを歯軋りしながら睨んだ。

「聞いてんの?」
「は、申し訳ありません。若」とヒョーゴは再び降頭する。
キュウゾウはぼうっとしてあさっての方角を「貴様も頭をさげんか!」

ゴッ

キュウゾウの後頭部をヒョーゴの手が掴んだかと思うと前に引き倒したのである。
キュウゾウの額は床板に2センチほどめり込んで止まった。一瞬の沈黙が走る。
ヒョーゴは当然のことをしたという顔でまったく悪びれる様子はない。
「ふん、自業自t

ゴッ

ヒョーゴの後頭部をキュウゾウの手がつかんだかと思うと思い切り前に引き倒したのである。
ヒョーゴの額は2.5センチほど床板にめりこんでとまった。キュウゾウも未だめり込んだままである。
二人がほぼ同時に顔を床からゆっくり引き抜くと、はらはらと破片がおちた。
ヒョーゴがめがねのフレームを直したのが合図であった。
4つの眼光が鋭くひかる。
「もとはといえばおまえが朝稽古に遅刻をしてくるからいけないのだろう!あまり遅いから
迎えにいってやれば寝ぼけて人に足払いなぞしおって」
「・・・なんぴとも俺の眠りを妨げることは」
「スラムダンクの読みすぎだばか者」
「三角はげ」
「これは剃りこみだと言っておろうがっ!」
ヒョーゴは腰にさげた柄に、キュウゾウは背にしょった柄に手を伸ばし!
・・・同時に三回ほど手をグーパーした。
あれ?と互いに刀があるはずの腰と背を見てみる。


「だから刀鍛冶に出したって今言ったじゃん」
あきれたウキョウが少し離れたところでため息をついていた。
自分には止めることはできないし、近くにいて被害をうけたらたまらないと思ったからだ。

「・・・」
「・・・」

「わかったわかった、ほら、これ使いなよ」
ウキョウは背後の部屋からなにか取ってきてひょいと投げやった。
床に、新聞紙とセロテープが転がった。
二組ある。

キュウゾウとヒョーゴはちらりとそれに視線をやるとまずは取らず、ぱっと飛び退った。
互いに低く身構える。
間合いをとりつつ、じりじりとすり足で二人の間の新聞紙と距離を縮める。
さきほど破壊した床板から、ぱらっと破片が落ちた。
その音と同時に二人は飛び込む。
新聞紙とセロテープの芯をつかむとすぐにまた床を蹴り、交差するように位置をかえた。
ヒョーゴは床に座ると素早く新聞紙をぐるぐる巻く。
「フン、この勝負もらったぞキュウゾウッ」
「・・・」
「なぜなら私の刀は一本だがおまえは二本丸めなければならn
バシーン!

キュウゾウは新聞紙を四つ折りにしたままヒョーゴの頭に投げつけた。
威力は弱かった。
が、精神的ダメージが大きかった。


「参る」
キュウゾウは投げた格好のまま、そうつぶやいた。

「それ、先に言え。というかちゃんと作れ。なんのためにセロテープもあると
思っているのだこの大ばk
コツーン

ヒョーゴの鼻先にセロテープの替芯が投げつけられた。
「・・・」
ヒョーゴができあがった新聞紙の刀を掴み、ゆらりと立ち上がる。
「覚悟、せよ」
地を這う声である。
キュウゾウには得物を全て使い切って身構えることしかできない。
ヒョーゴの一瞬の跳躍で間合いが詰まる。
「くっ」
恐ろしく精巧にできている名刀、新聞紙を肩に受けてキュウゾウは膝を屈した。睨み上げたその鼻先に
ヒョーゴの刀が突きつけられていた。キュウゾウは劣勢に奥歯を噛む。

「仕舞いかキュウゾウ」
「・・・!」
「む?」
「ルパン三世の映画」
「なにっ!?」

キュウゾウは突きつけられた新聞紙のある部分を驚愕しながら指差す。
テレビ番組欄である。

「なんということだ、これ今日のではないか、くっ!紙面が丸まっていてよくGコードが
読み取れないっ・・・ってなるかー!」


スパーン!