「学びなさい、マスルール」

露店でとった林檎をシンドバッドに捧げたならば、シンドバッドは目を閉じ静かに怒りこう言った。

「砦の連中と話し合いがあるから行く」

膝を払って立ち上がり、後をついて行くことを許さない足音が石造りの廊下を遠ざかって消えた。
受けとられない林檎を差し出すいまだ小さいファナリスの両手は、行く先を失った。






彼に常識を授けようと、これまでも何人かの家庭教師があてがわれた。
あるセンセーにはファナリスの剛力にものを言わせて追い返し、あるセンセーからは窓を蹴って逃走し、あるセンセーは「奴隷に教えるだなんて聞いていなかった!」と部屋の入り口で叫んで帰っていった。

机に向かっているだけでは体がなまる。
いっこうに強くならない。
ゆえにマスルールは学びたくなかったのだ。
しかしついに家庭教師の派兵も途切れると、それはそれで退屈さが増した。
シンドバッドもジャーファルも連日連夜、砦の作戦会議で帰ってきやしないというのに。
足のつかない椅子にすわり、ぷらぷらと素足を揺らして四角い窓の外を眺める。

窓の外のひとは皆うつむいて早足に過ぎてゆく。
黄土色の砂の地面、黄土色の四角い建物、黄土色の砂けぶりにまかれるこの町はまもなく戦場になるらしい。
シンドバッドは数週間前にこの砦に雇われた傭兵に過ぎなかっただったけれど、砦のお偉方が敵に討たれるとあっというまに指揮官へと上りつめた。
こんな時にマスルールの教師に立候補する連中は戦いたくないがシンドバッドの保護は欲しいという連中だと宿の店主が言っていた。



「わしはマーリン」

翌々々々日、やってきたのがマーリンという老人だった。

「お医者の先生」

と自らを震える指で差して笑?った。
真っ白いヒゲがふさふさと顔の下半分から膝あたりまで伸びており、目深にかぶった空色のとんがり帽子のせいで顔はすっかり隠れていた。帽子の下にあるあの線は目かシワか。まとうローブは帽子と同じ空色で、木の杖をついている。
ヨボヨボだ。

「ぼうやは」
「・・・」
「確か、マッスル」
「・・・マスルール」
「そう、そうじゃった。マスルール。おまえさんの主様の家来くんから聞いたのだけれど、どうも最近あれがこれでね。さあ、さあ。学びましょう」

マスルールは次の瞬間には窓から抜け出して、市場に紛れた。
市場を走り、シンドバッドのいる砦の門をくぐって、砦の人たちと作戦会議をしているという物見塔の下の石の階段で待った。
シンドバッドが出てこないまま夜になり寒くなり、さらにはお腹も減ってしまいしかたなく宿に戻ったころには、とんがり帽子の姿はどこにもなかった。

翌朝もマーリンは「さあ学びましょう」とやってきたが、それから三日連続で同じことをした。
マーリンが来ると窓から逃げる。
砦へ行く。
おしりが冷たくなるまで階段に座る。
帰る。
毎日駆け抜けた市場からは、日に日に人と露店が少なくなっていった。



四日目

「さあ学びましょう」

マーリンは窓からやってきた。

「よっこらせ」

枯れ枝のような足を窓枠にかけ、だいぶ苦労しながら乗り越えてきた。
マスルールはドアから正規のルートで逃げることができたのに、ベッドに腰掛けたまま動く気にはならなかった。
マーリンはマスルールが逃げないのを見ると、背もたれのない木の椅子に腰掛けて「伝えたいことがいくらかあるよ」とゆっくり話し始めた。

「第一に」

骨と皮だけの震える人差し指を立てた。

「この機会をあたえたもうたマスルールの主様にご挨拶かたがたお礼を言いたいけれど、いづかたにおわすの?依頼をくれたのは代理の家来のこう、髪の白い生っちろい青年でね。まだ主様には会っておらなんだ。この歳で、ご時勢に、こんな場所でお仕事にありつけるのなんて奇跡だからね」
「・・・」
「いないね」

マスルールはこくりと頷いた。

「そう。じゃ第一は置いておいて、第二」
「・・・」
「わしはね、今でいうところの”マグノシュタット”出身の102歳。昔ちょっとやんちゃして追放されて、この歳だから手術は無理の役立たず。でもいまから役に立てるからうれしいの。はい、自己紹介」

小刻みに震える手が差し伸べられた。
彼の震えは怯えているわけではない。
死にかけの人間はこうなるということはマスルールでも知っている。

「・・・マスルール」
「ほっ。ファナリスかしら?」

マスルールはこくりと頷いた。
マーリンはまた「ほっ」と肩を揺らした。目は未だにシワと見分けがつかないし、口や頬は真っ白いヒゲに覆われて見えないけれどマーリンは笑ったのだとマスルールは四日目にしてなんとか理解できた。
マーリンの質問は続く。

「好きな食べ物は?」
「・・・」
「好きな場所は?」
「・・・」
「好きなひとは?」
「シンさん」
「好きな色・・・ほほ、シンサン。砦の助っ人シンドバッド。男前の」

マスルールはこくり、こくり、と二度頷いた。
そう、助っ人だ。誰からも求められている。
あるじを褒められるのは嫌いではない。

「ほほ、決まった。伝えたいことの第三。この学びの目的」

また”学び”・・・
主の話ならまだいいが、ほかのはなしは興味が無い。
もうすぐ戦争がはじまるのに、いつだって主のために戦う準備があるのに、マスルールには戦況すら知らされていない。
ヒナホホとドラコーンほど役にたつとは思っていないが、5つ上のジャーファルはシンドバッドの補佐として砦に行っているのだ。
マスルールだけが呼ばれず、そのかわりに「お勉強」が課せられている。

「やがて主の力となる」

マーリンの言葉にマスルールは静かに弾かれた。

「そのために学びましょう」
「おまえから学んだらなるか?」

ポガンと木の杖が頭を叩いた。

「マーリン先生かイケメンと呼びなさい」
「マーリンせんせい」

なりたい。
主の力になりたい。
砦の石階段ではいやだ。

マーリンの放った言葉は、マスルールを従順にさせるのに充分な魅力を持っていた。
かの日より少年の願いはただひとつ。

あるじの剣になりたい
あるじの槍になりたい
あるじの矢に
あるじのメリケンサックに
あるじのピンヒールのヒール部分に
わがあるじの力になれるなら、なにものでもかまわない






***






マーリンは一日にひとつかふたつの課題を出した。
マスルールに求められたのはその課題を行って、夕方にマーリンへ言葉で報告することだった。
本当は日記のように報告を文字で書くよういわれたが、マスルールは字が書けなかったのである



学び一日目【命を大切におもうこと実習】

具体的には、となりの家の赤ん坊の面倒を見る、という課題であった。
夕方を向かえ、報告である。
報告といっても軍隊の兵士みたいに腕をうしろにやって背をびしっとして、というやつではない。ベッドに並んで座って、マスルールは足をぷらぷら揺らしながら今日やったことを思い出し口にする。

「どうじゃったね」
「わりと、たいへん」
「どう大変?」
「壊れそうだし、すぐしっことうんちするし、よく泣くしほあほあ言うばっかりで言葉、つうじないし、ちいさいし」
「ふむふむ。ほかには」
「あとリタの、赤ん坊のお母さんとお父さんは逃げたって。だから、年寄りしかいない」



学び二日目【いただきますは、作り手への敬意と、動物や植物たちの命を「いただきます」という意味であることの座学】

「説教くさい」と一言で報告すると、マスルールの目の前に広がっていた晩御飯が一瞬にしてマーリンに食いつくされた。



学び三日目【お米の粒はのこしちゃいけない実習」「水を汲む実習】

午前の「お米の粒はのこしちゃいけない実習」は昨日晩御飯抜きにされたおお飯食らいのマスルールには容易く、逆に午後の水を汲む実習は案外に難しかった。

カコン

井戸の底でつるべがそんな音をたてたのだ。



学び四日目「露店の売り物の買い方実習」

露店はもう残り少なく、物を売っている店を探すほうが大変だった。
食べ物を売る行商は砦の軍に売れるだけ売って次の町へと消えてしまったらしい。
それでもなんとか布屋が開いていて、マスルールは長いさらしを二巻き買った。ひと巻きは明日の勉強に、もうひと巻きはリタのおんぶ紐に使うらしい。

「林檎をシンさんにあげたら学びなさいっていわれた」

買い方に合格をもらった帰り道でマスルールはその話をした。一度後ろを振り返る。
砦のおんぼろ城壁のうえに、物見塔が見える。
軍議はいつもあの場所で行なわれている。らしい。

「盗んだから、シンさん怒ったんだ」
「ふむ」
「だからシンさん帰ってこない。俺を使わない」

前に結んだ大剣に目を落とし、柄に手を添えた。

「でもなんで。俺、殺せるのに」

マーリンは柄に添えられた手を取って、親子がそうするように手を繋いで歩いた。

「殺すだけなら爆弾でできるからね」

バカにするなと手を振り払って横の壁に穴をあけて見せたら「おバカ」と言ってポガンと木の杖がマスルールの頭を叩いた。
物見塔のてっぺんにはパルテビアの国旗が精一杯にはためいていた。
ここに集った人々はパルテビアの生き残りとも言うし、残党とも言われている。



学び五日目「負傷箇所ごとの止血方法」
学び六日目「包帯の巻き方実習」

「やあ、ミイラ作りの練習か?」

どれくらいぶりか、シンドバッドが宿に戻った。
シンドバッドの姿を見るなりマスルールはパッと立ち上がった。犬ならば尻尾を振っていただろう。
マスルールの横には、足の先から頭?にしてはずいぶんとんがっている上の方まで包帯でぐるぐる巻きになっている人型が座っている。

「シンさん、おかえりなさい」
「ただいまマスルール。なんだか久しぶりだな」
「ほほ、そちらがシンさんですかな」
「おっミイラがしゃべった」
「家庭教師のマーリンです。こんな格好で失敬。包帯の巻き方の練習をしておりましてね」
「そうでしたか。マーリン先生、マスルールが世話になっています」
「シンさん、あの」
「日ごろのお礼に酒でもご馳走させていただきたいところですが、あいにくあっちもこっちもてんやわんやなもので」
「ご事情は存じ上げておりますとも」
「また後日に」

シンドバッドはベッドの下から袋につまった荷物を引っ張り出すと、扉へ歩いてゆく。
マスルールはその後を一目散に追いかけた。

「これ、マスルール。これとっておくれ。おしっこ行けない」

方角もわからぬままマーリンが呼びかけると、マスルールはダダダと戻ってきた。

「あ、よかった」

ほっと息を着いたミイラ風のマーリンだったが、マスルールはベッドの上にあった剣を取って大切に抱えると、そのままダダダと出て行った。



宿の出口には砂避け布をかぶったジャーファルが控えていた。
すっかり露店が消えて、数日のうちに廃墟のようになってしまった市場通りをシンドバッドが行く。

「風向きがよくないな。東門近くのゴダの枝は今日のうちに切ってしまおう。切った枝は傷病テントへ。ゴダはよく燃えるからな、湯を沸かすときの火に。それと夜警のたいまつに」
「はい、シン様」

きびきびと歩くシンドバッドの横、ジャーファルは早足に追従して瞬時に主命を解す。
マスルールも走って追いかける。
主から賜った大剣を前にかかえ、

「おまえは戻れマスルール」

追いつき主命を求めて仰いだ矢先にぴしゃりと跳ね返され、彼は黄土色の砂の上に残された。
ジャーファルが一瞬心配そうに振り返った。
砂漠の砂を巻き上げた黄土色の風はマスルールを通り過ぎ、砦の方角へと吹き上がる。
ひどい砂塵でもうジャーファルも、シンドバッドの背もパルテビアの国旗も見えなかった。

足取り重く戻った宿で、もがいていたマーリンを助けるとマスルールはベッドにうずくまった。
課題の報告を求められないまま夜を向かえ、初めて声がかかったのはマスルールが不貞寝から起きてから。

「夕ご飯を食べようね」

いただきますをきちんと言って、いただいた。






その夜、連続した爆発音のあと地鳴りのような腹の底を揺らす音が響いた。
ガアンガアンと城壁の上の警鐘が叩かれ、跳び起きて窓から外へ身を乗り出すと町を囲う低い街壁沿いに無数の火が見えた。
マスルールは大剣を帯びて窓から外へ躍り出た。
シンドバッドがいる砦の方角へ走り出そうとしたとき、赤ん坊の泣き声がきこえた。
マスルールはとなりの家の扉を叩き割ってリタとリタのおばあちゃんを背負って砦へ走った。

夜襲をかけた敵軍は一時間もしないうちに引いていった。
一夜明けると、砦の城壁の内側には町の人が皆集まっていた。
「脅しのつもりだろう」「次来られたらもうこの砦で守るしか」「今夜にでもまた来たら」と知らない大人がくやしそうに話している。
シンドバッドはとてもではないが話しかけられる雰囲気ではなく遠目に立ちすくんでいると、

「なにしとるんじゃマスルール!」

とマーリンが裾を蹴り上げ走ってきた。
いつもあんなにヨボヨボしているのに、サッサカ走っている。

「手当てじゃ!急げ!急げ!」

マスルールは首根っこを引っ掴まれ、傷病テントへ放り込まれた。
マーリンは重傷者の治療を始め、マスルールは裂傷や骨折した者達の治療が課せられた。



夕方を過ぎ最後の骨折者の腕へ包帯を巻きつけていると、マスルールの頭の上に大きな手がのった。

「マスルール」

シンドバッドであった。
わしゃわしゃと髪がかきまぜられ、シンドバッドの目が優しくわらう。
なぜだか目が潤んだ。
何か言おうとしたときには、シンドバッドの顔はもう別の方向へ向いて、傷病テントを別の場所へ移す指示を与えていた。
マスルールは骨折した男の方へ向き直った。
使命感を帯びて包帯の結び目を縛ると力の加減を間違えて骨折男が短く悲鳴をあげた。

とっぷり日も暮れてから外でマーリンを見つけた。
血のにおいがしたけれど、これはマーリンのにおいではない。重傷者の血であろうとファナリスの鼻がかぎ分ける。

「マーリン先生」

ちゃんとそう呼ぶのははじめての気がして、気をつけの格好で呼びかけると木の幹にもたれて眠っていたマーリンが「むにゃ」と言って起きた。
「はいはい、どうしたね」とひどく眠たそうにだがマーリンは答える。

「シンさんがね」

夕方の誇らしい出来事を報告した。






夜襲だ
誰かが叫んだ。
警鐘は鳴り続ける。
城壁を越え投げ込まれた石つぶては一拍置いてから炸裂した。
爆弾だ。
砦のなかでそこかしこから悲鳴があがる。
雷のような音がして何か崩れた。
悲鳴が途切れた。
また別の絶叫がわいた。
城壁の外で無数のカブト虫が蠢く音がする。

マスルールは剣を抱き物見塔へ走ったがその途中、悲鳴の中に赤ん坊の声を聞いて一旦引き返した。
リタではなかったが拾ってそばの女に預け、物見塔へ疾走した。

そこに王を見た。
城壁上に我があるじ
松明に照り出され、敵軍に堂々と姿をさらし、砂漠の夜風に紫の髪をたなびかす。
敵すら息を飲み一瞬の静寂がおとずれた。
仰いだ王は無名の剣を中天へと振りかざす。
その喉は大号令を発した。
応じた自陣の声は砂漠をも揺らす。
心臓が躍る。






明け方に勝ち鬨があがった。
シンドバッドはいつのまに砦の外に出たのか、砦を助けた巨大な猛禽とともに城門外から凱旋した。
朝焼けを背負う勇壮なシンドバッドの姿に、また歓声が湧き上がる。
シンドバッドの勝利をどうして喜ばずにいられよう!
















































マーリンはボロ雑巾みたいになって砂の上に転がっていた。

傷病テント近くの四角い建物だった瓦礫のすぐ横だった。
膝をつき、伸ばしたマスルールの手は直前で電流が流れたように引っ込む。
もう一度ゆっくり伸びてその冷たさに驚いてヒュっと引っ込んだ。
冷たいのにところどころこげている。
マスルールはまばたきをわすれた。

「せんせ」

呼びかけたが声は返らない。

「イケメン」

返らない。

「先生」

返らない
理由を
探して
恐る恐る腕をなぞってマスルールははっと気づき、瓦礫としてちらばっていたうちから枝と布を慌てて拾い上げた。
枯れ枝のようなマーリンの腕に枯れ枝を添え木にして習ったとおりに布で手早く固定した。






***






敵軍にせき止められていた行商がどどどと町へなだれ込み、町はあっという間に活気を取り戻した。
重すぎる貢ぎ物を断るのと、兵士らへの賃金の配分に忙しいシンドバッドのもとへ、マスルールがふらりと現れた。

「ああマスルール、マスルール。来なさい。疲れたろう。よくやってくれた。これはおまえの分の賃金だ」

「シンさん、人が死んだら何をしたらいいんですか」

シンドバッドは行商たちと兵らへの愛想笑いをふっと消し去った。
上向きに掴んだ小さな手に金貨と銀貨が落とされる。
シンドバッドの手のひらは上から蓋をして一度だけぎゅっ、と強く子供の手を握った。

「・・・泣くんだよ」

マスルールはわかったのかわからなかったのか、ぼうっと足元をみつめて踵を返した。
その手からシンドバッドから授かったばかりの金貨と銀貨がカラコロこぼれ落ち、ジャーファルが拾ってやったころにはもうマスルールの姿はあたりになかった。



マスルールはにぎやかになった市場通りを行く。
果物屋でみずみずしい林檎を一つ取った。

「ぼうや、お待ち」

店主がマスルールを呼び止める。

「これじゃあ多すぎる。2つ分の値段だ」
「正しいです」

それから大きな石を町のはずれまで抱きかかえ、盛り上げた土の上に、ゆっくり下ろした。
林檎を置いた。
一歩離れ、
シンドバッドに言われたとおり泣いて、とまらなかった。






シンドバッドはマスルールの震える背が見える場所、爆弾で壊れた建物の影に背を預けていたが、その背を離してマスルールとは反対方向へ歩き出した。
ジャーファルは追従し、しかし問う。

「よろしいのですか」
「いい」
「・・・」
「よく教えてくださった」

命を

言葉を次げないジャーファルを横目に見ると、シンドバッドはカラと笑った。

「俺は強いから、最後まで生き残っちゃうもんなあ」






***






シンドリアの海岸線、入り江のほとりではいっそうか弱い波が穏やかにみなもを揺らしている。

「学んだほうがいい」

乞われ、繰り返される鍛錬のうち痛めたモルジアナに右腕に、マスルールはテーピング代わりのさらしを巻いていく。
じつに手際よく。

「え。なにをですか」
「勉強」
「そんな、私は学もなく、唯一この手足で敵を倒すほか能がありません」
「敵を倒すのは爆弾でできる」

言葉は厳しい。
しかし太く、縄のような質の指先は優しく繊細に、丁寧にさらしの端を結び終えた。
よく似た目が重なった。

「モルジアナは賢いから、やがてアリババの力になる」