カ エ ル に 抜 刀






カエルを見つけた。
雨のやんだ昼過ぎのこと
目のぎょろっとした小さな、あざやかな緑の、きれいなカエルだ。
黄色いぎょろっとした目を睨むとカエルはぴたりと止まっていた。
おとなしいカエルだ。
さっと手のひらにのせて包み込んで踵を返した。
水たまりで水がはねた。
雨のやんだ昼過ぎのことだ。
屋敷の手前で手の中で小さいカエルが生きていることを目視確認してから
いつものように塀を跳び越えた。塀を跳び越えるのは怒られないが靴を
履いて座敷にあがったらこの前怒られたから、靴は縁側で脱いであがる。

白い肌の女に手の中のカエルを見せた。

なぜならとても小さくてあざやかな緑のきれいなカエルだったからだ。
カエルは座敷に落ちてぎょろっとした黄色い目で白い肌の女を見上げた。
小さいくせに見とれているのに違いない。おまえはきれいな女だから
カエルにさえ好かれる。
女もまたじっとカエルを見下ろしていた。

「これは」

「おまえにやる」

「ありがっ、うっ」

ありがとうと言いたかったらしいの声は途切れた。
カエルが一度跳んで女の膝の上に乗ったからだ。
は身を後ろに引いて固まっている。袖を顔の前に交差させて、
ぎゅっと目をつむっている。
カエルはその様子を膝の上から覗き込んでいる。
カエルにならうように女を覗き込む。どうした。

「・・・気に入らないなら捨ててくる」

「気にいら、なく、ないっけど、怖っ、ひ」

「落ち着け」

声がびくついていてよく聞き取れないが、とりあえずカエルに驚愕して
いるらしいことはわかった。カエルはの指を噛んだりしないというのに
何を怯えるのか。
カエルを二本指でつまみあげて膝からとってやった。
カエルは白い腹をに向けてあわあわと手を動かしている。
はようやく交差して突っ張っていた袖を下ろしてこっちを見た。
はあと息をついて
なみだ目だ。

カエルは手足をばたばたあわあわ

は目をぱたぱたびくびく

座敷がしんとする。

あわあわ

ぱたぱた

しん














「・・・すまない」

帰る。
カエルは水溜りにかえす。
はぱたぱたやっていた目をニ三度ぱちくりさせて、立ち上がろうとした俺の手を
引っ張った。
カエルをつかんでいないほうの手。
ずいぶん緊張していたらしい手はひどく冷たい。

「ほしいっ」

いつもは流暢に丁寧な言葉をつむぐ声がこのときばかりは違った。
はあいている手のひらを出す。白い手のひら。少し震えている。
手のひらとカエルを見比べてから暴れるカエルをの手の上に乗せた。
「うっ」とは身構えたけれど、それきりだった。

「嫌いならそう言え」

「・・・キュウゾウのくれたものが好き」

必死な声に表情にそう言われると、今度動けなくなったのは自分で
カエルはおとなしくを見上げている。
潤んだ目と必死な表情と上から見下ろすと見える胸元にムラッときた。
のアゴを上向かせ顔を寄せる。



よくやった、カエル。



唇を寄せる。


















と思ったらカエルが突然跳ねての唇にぶつかった。


「参るっ」



「お、おちついて」