リボーンの奥さんを見たことがあるのは2回だけ。

遠くから見たことがあるだけで、向こうは僕のことは知らないだろう。
ボンゴレの屋敷でパーティーがあって、それがはじまる25分前の庭の東屋。
パーティーにはどうしても出ろというから、最初の15分だけという約束で来た。
(骸がいたら即刻帰るとも言ってある)
この東屋はパーティー会場へ行く経路上にあるけれど会場ではない。さらに、できる限り人に会い
たくない自分のような人間しか選ばない、知る人ぞ知る経路だ。
その人はひとり、座る格好で寝ていた。



見た目でわかるのはお腹、赤ちゃんいると思う。



東屋は石の椅子と木の屋根でできていて、一面黄色い花に囲まれている。
あたりを見回すが誰もいない。
もう一度その人に視線を戻すと、顔色が悪い。
肌寒いというわけではない。だからここは外だが、妊婦が一人で寝ていても問題はないのかもしれない。
しかし肌寒くないのは長袖スーツを着ている自分の感想であって、柔らかい薄手の半袖ワンピースの
妊婦が寒くないかはわからない。

「ねえ、君」

声をかけると簡単に目を覚した。ゆっくり。

「生まれるの?」
「まだ生まれません」
「ふうん」
「・・・あなたは雲雀さんですか」
「そうだけど?」
「リボーンの言っていたとおり。はじめまして、といいます」
「ふうん。君がリボーンの奥さん」

ほがらかに笑う姿と背景の黄色の花畑が似合いすぎだ。遠くから見たり、話には聞いていたが、
随分リボーンの趣味からはずれる人のように思われた。エロスがない。

「リボーンは?」
「貧血を起こしてしまって、いまブランケットを取りに行ってくれています」
「ふうん」
「妊娠中はよくあるんです」
「じゃあ、戻ってくるまで話し相手をしてあげようか」
「もうすぐパーティーが始まってしまいますよ」
「望むところだね」

有無を言わさず横に腰掛けた。

「・・・」

リボーンの新妻はきょとんとしていた。

「何?」
「聞いていた人柄と違って、少し驚いたものですから」
「リボーンからなんて聞いてるの?興味あるな」
「美人で、ナミモリが大好きで、一匹雲雀」

という人は指折り数えるように特徴を挙げた。
一匹狼を文字っているらしい。

「あのリボーンが君の前だとおしゃべりなんだ。気持ち悪いね」

よっこいしょ、と体勢を変えて、半身覆うように向き合う。
あごを上向かせ、首に指を当てる。

「貧血だね。本当だ。身体冷たい」
「・・・雲雀さん、ちょっと近いです」
「近くしてるんだよ」
「どうして」
「ぼくがリボーンのこと好きだってリボーンから聞かなかった?」

間近で笑ってやる。

「バイセクシャル」

知らなかった、という顔。
優位は愉快だ。

「そのリボーンがタバコも女も男もやめたのが君のためなのかと思うと妬ける」

ずいとさらに寄ると、もう産毛に触れる距離。
腕で、下がろうとする薄い背中を阻む。驚いているけれど目を見たままそらさないのは勇敢な獣みたいだ。
リボーンに習ったの?
目、綺麗。

「妬けるから、君にいやらしいことをしたくなる」
「これ以上寄れば頭突きをします」
「よけちゃいます」
「よけちゃえません」と低い声がした。
「なんだ、もう戻ってきたの?残念」
「おまえが9mm弾と頭突きしたいみたいだから急いで来てやったんだ」

唇だけ笑っているだろうリボーンに、後頭部に彼の愛銃Cz75が突きつけられている。あれだけ殺気ふりまか
れちゃ近づいてきた時点でわかってたんだけど、面白かったからやってみただけ。大人しく軽く両手を挙げ、
(かなり適当な)降参のポーズをとる。

「リボーン」

たしなめる声音に、リボーンはくるっと指で半回転させてスーツの内側へ銃を仕舞った。

「わぉ、素直だね」
「俺はいつだって素直だ」
「知ってる」

リボーンがふわふわのブランケットを抱えている姿は気持ち悪かったので、椅子から離れた。

「先行くよ」
「ああ」

東屋をちょっと出たところで振り返る。花畑に、お腹がぽっこりふくらんだ妊婦さん、黒服黒帽子の殺し屋さん。

「そうそう」

二人がこちらを見た。

「頭突きするって言ったときの君、結構いいね。リボーンもも飽きたら相手してあげる」

嫌味を言ったつもりだったのに目深にかぶった帽子の下、形のよい彼の唇がふっと笑った。
なんて強い

































「あー・・・完全に遅刻」

完全に遅刻なのにのんびり歩いてやってきた山本は、黄色い花の庭を通って会場へ向かっていた。
途中、東屋の囲いから、見たことのある黒帽子がぴょこんと見えている。
リボーンなら遅刻くらいでとやかく言うまい。近づき

よう、リボーン

そう声をかける最初の「よ」で声は止めた。

山本はよろめき、言葉を叫びそうになった口を押さえて走りだした。
パーティー会場に飛び込むなり、ご歓談中の皆様をかきわけて一番最初に目に入った獄寺の肩を
ガシッ!っと掴んだ。



「痛ってえ!なにしやがる!」
「す」
「酢?」



「すげーかわいい!!」



ざわ、となった後に皆二歩ずつ獄寺から離れた。
さらに



「俺も赤ちゃん欲しい!」



皆が六歩ずつ獄寺から離れた頃、ツナだけは引きつった笑いで「お、お幸せに」と力ない拍手を送った。









「あのリボーンがホルスター丸見えになっちゃってんのにジャケット脱いで奥さんの肩に掛けてて
ブランケットも半分コどころかあいつの左腕しか掛かってなくてあと全部奥さんで、おでこコツーンて
あわせてお花畑の真ん中の椅子で寝てんだ!すげーかわいい!!俺も赤ちゃん欲しい!」

と言おうと思ったけど勢い余って後半しか言えなかった。