友達なんかいらねえよ、夏








ちょっと聞いてって。
うちの部の部長さん、跡部に彼女ができよったんや。
いや、あいつの場合四六時中彼女おるんやけどな。
しかも同時に複数。
二股三股で修羅場なんてあいつにとっちゃ日常茶飯事やった。
その跡部がこの春、きれいさっぱり付き合っていた女の子全員を振ったんやで。

そんで、俺と同じクラスのっつー子に告りよった。
最初に告白した時は振られたらしかったが、二ヶ月間かけてちゃん落として付き合い始めた。
あいつが身辺整理したり振られてもアタックし続けたあたり、
これまでと一味違うと踏んだ俺は、今日まで二人を観察し続けとる。

授業と授業の間の短い休み時間に、俺の教室に跡部が来た。
「お、跡部やんか」
「・・・」
跡部は俺をちらっと見てシカトしよった。
さては目当てはちゃんやな。
あ、ちゃんも気づいてこっち来よった。
相変わらずメロメロにかわいーな自分。
もう付き合ってからかれこれニヶ月経ったし、とっくに処女はもってかれてんやろなー。
かっぺムカつくわ。



「跡部くん、おはようございます」

カシャン

俺は持っていた箸(早弁)を落とした。
『跡部くん』て・・・。
自分ら付きおうとるんやないんか?
いや、いいんですけどね。別に呼び方くらい。



「今日、帰りどこ行きたい」
「え・・・。えっと、跡部くんとならどこでもいい」

ビリッ!

俺は左手に持ってたジャンプのページを破いてしまった。
そんなベタな・・・



「そういうこと言うなって言ってるだろ。どこでも連れてってやるから」
「でも、わたしほんとうに跡部くんと帰れるのが一番嬉しい」



ガッシャーン!!



俺の弁当箱が床に転がった。(まだ1/3しか食ってへん・・・)
もうやめてー!誰かこのアホら止めー!!












「じゃあ、家まで送る。・・・今日こそ手、繋がせろ」




ガシャーン!!!




教室中の筆箱が机から落ちた。


























 ★ ★ ★



みんな跳んでるか!向日岳人だぜ!

俺は授業中、熱心に教科書を読み、先生が話すことを一字一句逃さずきいているぜ。
えらいだろ。
だって保健の授業だし、オレ男の子だしな!

んでさ、先生が一回の射精でいくつの精子が出るかって質問したんだよ。
この先生は全クラスを教えているから、のクラスでも聞いたのかなって
思ったら、すげー燃えたわけだ。
で、部活んときに跡部にそれ言ったらすっげ睨まれてさ。
なんだよこえーな、くそくそ跡部め!
あいつの彼女だからってオレ全っ然あきらめてないもんねーだ。

でもさー次の日、下駄箱空けたら上履きのなかにトゲトゲしたのが入っててさー。
「おい侑士見ろよコレ!イジメだろ、誰だよムカツクなー」
「上履きに画鋲なんてベタな奴やな。ん、これ画鋲ちゃうやんか」

よく見たら、バラの棘だった。


ぜってー跡部じゃん。




 ★ ★ ★



こんにちは。
鳳長太郎といいます。よろしくおねがいします。

先輩は跡部さん二ヶ月くらい前から付き合っている人で、すごくきれいです。
たまに練習を見に来てくれていて、昨日はコートの外に飛んでいってしまったボールを
拾ってきてくれました。

「これ、向こうに落ちていたんです」
「あ、ありがとうございます!」

先輩は間近で見てもやっぱり綺麗で緊張しました。
手とか、すごい白くて細い。

「鳳くんですよね」
「は、はい!どうしてご存知なんですか?」
「いつも見学させてもらっているので。サーブがすごくはやくてわたしではきっとよけることも
できないね」

小さく拍手してくれた。

か、かわいー!

「あああ、ありがとうございます!でも俺絶対先輩にはあのサーブ打ちませんだって先輩小さくて
可愛くて俺なんか図体でかいばっかりであんなサーブ先輩に打つなんて畏れ多くて」

はっ!
俺は何を言っているんだ。
わー、どうしよう先輩きょとんとしてる(かわいい)
あ、微笑った。

「頑張って」
「は、はい。おれがんばります!」

完璧子ども扱いだけど、嬉しい。
嬉しさを噛み締めながらコートに戻る。

っと、

正面に跡部さんが!

「ったく、どこまでボール拾いにいってんだよ」
「すみません。サーブ練に戻ります!」

とりあえずほっとした。
さっきのは見られてないみたいだ。
見られてたら絶対リンチされてるよ。

よし、それじゃあがんばるぞー!
俺が走り出そうとした時、

「次、スマッシュ練やるぞ!」

跡部さんがコート全体に響く声で言った。
部員たちから返事が返る。

俺は跡部さんを振り返る。

「長太郎、スマッシュ練・・・殺るぞ」











 ★ ★ ★



俺は、他の連中と違ってのことが嫌いだ。
だから、たらしの跡部と付き合うことになったと聞いて
ざまあみろと思った。

だってあいつ・・・、
はじめて話し掛けてくれたとき

「おはようございます、あなどくん」

って。

『あなど』ってなんだよ

宍戸だよ。ウ冠に六だよ。ウ冠に八じゃねえよ。それじゃニ多いんだよ!
バカもいい加減にしろよ
跡部に部員名簿見せてもらった時に名前覚えたらしいけど
ふざけんなよ!
おまえなんか嫌いだ
ちきしょう!
すげーかわいいよ
好きになっちまったもんはしかたねーだろ・・・




















 ★ ★ ★



樺地宗弘、です。
ウス。
先輩が、部活を、見に来てくれました。

「おつかれさま」
「おー。ちょっと待ってろ、すぐ着替えてくる」
「いいよ、ゆっくり着替えてきて」
跡部先輩が、先輩の頭を撫でました。

「跡部君。靴ヒモが」
「ああ」

跡部先輩が、先輩の前で片膝をついて屈んで



跪く王子と、綺麗なお姫様みたいに見えました。



お幸せに。
ウス





 ★ ★ ★



アロハーアロハーあくたがわじろうだよアニョハセヨー。

ちゃんはものすごくきれいな子です。
二年のとき同じクラスで、俺の世話役でした。
俺はちゃんの気がひきたくてずっと寝たふりをしていました。
そうすると、起きた時に勉強をおしえてもらえます。

ちゃんは頭がいいです。
で、すごくやさしいです。
で、すごくまじめです。
さいきん跡部と付き合いはじめました。
でもちゃんがはずかしがって、まだふたりは手もつないでないんだって。
おれはちゃんが好きなので、跡部にわたしたくありません。
だから、跡部より先にちゃんと手をつないじゃおうと思いました。
そしたらオレの勝ちです。

ちゃん」
「芥川くん久しぶり。どうしたの?」
「おれと手、つないで」
「はい」

ギュ


・・・ギュってしてくれた、エヘ。



でもなんかちがくて
忍足君に聞いてみた。


「それはな。試合に勝って勝負に負けた、言うねん」


ふて寝してやる。








 ★ ★ ★



やあ、乾だ。
なんで俺が氷帝にいるかって?
それはもちろん偵察だよ。ていさつ。
なんでもあの跡部が本気で好きになった子がいるっていうから参考までに
観察させてもらったんだ。
今日は特別に、そのデータの一部を紹介しよう。


跡部がに告白した回数:(二ヶ月間で通算)6回
跡部の告白のセリフの推移:
(一回目)俺のことが好きなんだろ?
(二回目)テレることなんかねえよ
(三回目)俺の女になれよ
(四回目)俺と付き合え
(五回目)ほかに好きやつ、いるのか・・・?
(六回目)・・・付き合ってください⇒成功
交際し始めてから樺地を呼ぶ回数平均:62%減
の好きな本:アンデルセン童話・大人の絵本
跡部のよく買う本の推移:
(交際前)スマッシュ
/テニスジャーナル/ファッション雑誌全般
     ↓
(交際後)スマッシュ
/テニスジャーナル/ファッション雑誌全般/アンデルセン童話集
が最近買った本:「料理の基本」「はじめての方のテニス<入門編>」「東京有明MAP」
跡部が学食を利用する回数:72%減
が起床する時刻推移: 7:00→6:00
昼休みに二人が屋上で食べる昼食はの手作りである確率:98%
が好きなお菓子:チョコボールいちご味
お菓子市場動向:一部財閥のチョコボールいちご味買占めにより森永株高騰
二人が付き合っていることを知らない氷帝生徒:1人

まあ放送コードに引っかからない程度でこんなものかな。
手塚も跡部も根底にあるものは性質は同じなのだろうね。







 ★ ★ ★



俺は日吉若という。三年の先輩が好きだ。
あの人はテニスを見るのが好きなようで、たまに部活や試合を見に来てくれる。
すごく綺麗なひとで、礼儀正しくて、好きだ。
先輩は今フリーらしい。

今日の部活も見に来てくれていた。
先輩たちと話しているのを盗み聞きしたところ明日も見にくるらしい。
俺はひとり、部活が終わってからも明日のために演武テニスの練習をした。
明日は誰よりもかっこよくキメてみせる!
そう意気込みつつ部室に入ろうとすると、中から話し声が聞こえたので
思わず足を止めた。
誰だろう、こんな時間まで。


「そうしたら先生が間違えて隣の席の子にチョークをあててしまって、あの、ごめん。私の話は退屈やも」
先輩だ!
「退屈じゃねーよ」
と、跡部部長・・・?

「でも、跡部くんさっきからなにか考え後としてるかと思って、考え事の最中だったらわたし全然」
「なんでもないからしゃべってろ」
「そ、そう?」
「・・・」
「・・・」
「その」
「はい?」
「上の名前で呼ぶのやめられないのか」
「え」
「名前で呼べよ」
「・・・景吾くん」
「くん付けてどうすんだバカ」
「景吾さん?」
「だから・・・、まあいいか」
「けいごさん・・・、ヘヘ」
「なに笑ってんだよ、気持ちわりーな」
「景吾さんもわらっていますよ」


くそう・・・。

なんで誰も教えてくれなかったんだ・・・











下克上だっ!!!







友達なんかいらねえよ、夏