「景吾、もう帰っても平気よ」

病院の無菌室、横たわった俺の女がつぶやいた。
喉の奥をひゅーひゅーならしている。

「帰ってもやることねえよ」
「心配性だね、悪い物でも食べた?」
「昨日食べた高級フランス料理のことか?」
「景吾のそういうところ嫌」

笑いながら言った。
喉がひゅーと鳴る。
は何度か深く咳き込んだ。
それで、えへへ、と申し訳なさそうに笑う。
「俺もお前のそういうところが嫌だ」

「景吾」
「なんだよ」
「いい名前だよね」

はそう言って頬の端をあげたかと思うと、ゆっくり目を閉じた。
ベッドからだらんと手の平をたらしている。
死んだ人間はよくこんな風にベッドから手をたらす。
だがはまだ死なない。
手首の動脈と静脈が死んだしてはきれいすぎるだろう。
死というのはもっと醜いものだろう?

「起きてるのか?」
「ええ」

ほら、死んでない。
眠りに入りそうなだけだ。

「眠いのか?」
「すこし」
「苦しいのか」
「・・・すこし」
「すこしってどれくらいだか、はっきり言えよばかやろう」
「ごめんね」
「謝るな」
「えぇ」

困った風に笑った。

眠るな眠るな眠ればお前は死ぬだろう。
絶対死ぬな!死なないで俺の傍にいろ。
恋まで眠らせて、消えることなど許さない。

「景吾、泣かないで」
「泣いていない」

手の平を掴む。
小さな手の平がくたりとおれの手の中で力を失っていた。
目を閉じて深く眠り込んでしまったように見えた。



「死なないで」
































「あの子、ハシカやろ?」
「そう」
「なんで死ぬとか死なんとかいっとん?」
「跡部がアホなんだろ」
「その彼女もアホー」
「あとべー、その子死なないからもどってこーい」






ハシカにかかった彼女を病院の無菌室にいれた跡部君でした