期末考査もおわり、通知表をもらえばあとは夏休みを待つだけだ。

朝早く学校へいくと必ずが先に席についている。
「おはようございます」とが必ず先に言う。
俺は会釈だけ返していたが、遭遇する回数が増えるにつれて

「おはようございます」
「おはようございます(無愛想に)」

「おはようございます」
「おはようございます(少し笑って)」

「おはようございます」
「おはよう」

と変化してきた。
今ではついでに二言三言交わすこともある。
だんだんと変化していくのが可笑しい。
がいつも笑って挨拶をするのが可笑しい。
俺が可笑しいと思ってるのは愚かしい。
それでもなぜか、愉快なことにかわりなかった。
なぜか
俺が知るか。






夏 休 み こ い こ い 






通知表を受け取るその日も、朝早く登校するとがいた。

「おはようございます」

「おう」

が声をかけてきたから、返して席についた。
はいつもの席でノートを作っていた。
それ以上声はかけずに俺は部活の練習メニューをつくった。
暫くの間、教室には二人しかいなかった。
斜め前の方にいるの様子を盗み見る。

ペンが動く。

ペキ

と小さな音がして、の動きがとまった。
そのすぐあとに、シャーペンの芯を出す音が数回、
カチカチカチと。
折れたのか。
たいして気にせず俺はメニュー作りに移行した。
教室にはいまだ二人しかいない。



ペキ



カチカチカチ




シャーペンの上を押す音。
また折れたようだ。

がまた書き始めてから窓のほうに視線を移した。
晴れている。
今日の午後からの部活からはいつもより多めにドリンクをつくらせよう
遅刻者の外周を増やして士気を高めとくか
それから



ペキ



カチカチカチ




「折りすぎだろ」

「だよね」


が苦笑いをして振り返った。
手をひらひら振って「なかったことに」といった。
ひらひら揺れた手の白さに驚いた。
は再びノートに向き直る。
俺も机に向かった。
練習メニュー案の上に載る自分の手は、部活のおかげで
だいぶやけてきた。この夏はもっとやけるだろう。
夏休みは毎日部活だ
家と部室とコートを往復
学校にはくるけれど教室まで上がらない
教室に行っても
あの席には
いないのか



夏休みなんか来なければいい


ペキ


「あはは」

の渇いた笑い声に俺は顔をあげた。
いつも朝は教室に二人で、はなにかしら書き物をしていた。
けれど、がシャー芯をこんなに折りまくったことはなかった。

「弱いんじゃないのか、シャー芯」
「ぁれ?いつもと同じなんだけどな」


カチカチカチ・・・・・・カチカチカチカチカチカチカチカチカチ


がシャーペンを振った。芯がないようだ
ペンケースをあさる。芯をさがしているようだ。
やがてペンケースの中を見て溜息をついた。芯がまったくないようだ。
後ろから見ていての思考が全部理解できてウケた。
「バーカ」
俺はシャーペンを持って席を立つ。
俺が自分のシャーペンのキャップの部分をはずすと
は慌てて頭を下げた。
「ども、どもね」
もシャーペンのキャップをとるが、勢いで付属の消しゴムを飛ばしてしまった。
「わわわ、ごめ」
「ったく」
俺の足元にきたそれを拾い上げて手の平に載せてやる。
「ごめん。ありがとう跡部くん」
指先にだけ少し色がついていた。
ピンク色は反則だ。
このままだとシャー芯までぶちまけそうだから、俺はのペンをとって
三本入っていた芯のうち二本を注いだ。
ペンを返すと、は消しゴムを取り付ける
こんなに近くに来たのははじめてだった。

「俺のはいい芯だ、光栄に思えよ」

「ん、ありがと」

キャップを慎重にかぶせて、

「大切にする」

と笑った。



たいせつにする?



「おまえ」
「はい?」
「夏休み学校くるのか」
「来ないよ」

夏休みなんて来なければいい

「家で勉強する。跡部くんは?」
「部活だから毎日来る」
「そっか。そうだよね。がんばって」
「言われるまでもねえよ」





















「...シャー芯なくなったら来いよ」


が顔をあげる。


「部活のあとなら、分けてやる」


ぽかんとしていた。
さっさと席に戻って、頭を冷やすために練習メニューの続きを書いた。

























「これで夏休みも会えるねえ」


ペキ


途端に俺のシャー芯が折れた。


ははにかみ笑いを浮かべている。


「ドキドキしてると折っちゃうよね」

「うるせーよ」



夏休みがやってくる。