ホーリー・ナイト




わたしの騎士よ

こたつに眠るその獣の心を奮い立たせ
わたしのために半纏の甲冑をまとい
いざ立てわたしの愛しい騎士よ。





「さあ行っておいで、わたしの騎士!」
「いーやーです」
「なんでそういうこというの長太郎くん、ん?」
「ん?とかかわいく言ってもイヤです」




わたしの騎士はなかなか強い意志をもっている。
それでこそわたしのための騎士。
だがしかし、ここはわたしのため、立て、行け、わたしの騎士!
いざ戦場のコンビニまで。




「コンビニまでだよ?すぐそこだよ?」
「すぐそこなら先輩行ってくださいよ」
「わたしはこたつから一歩でも動くと氷の女王の魔術で凍ってしまうの」
「凍ってしまえ」
「ちょ!ひど!長太郎がそういうこと言うと本気で怖いからやめて」





わたしの騎士はいかんせん軟弱なのです。
こたつに入ったが最後、寝転がって蜜柑を食べて
リモコンを奪い合うしか脳のない愚かな騎士になってしまったのです。




「だめよ長太郎!闇黒の力におかされないで!」
先輩、ファンタジー小説読みすぎですよ」
「長太郎、これ長太郎。ここに座りなさい」




こたつの魔力によって倒れた騎士を引っ張り起こし、
わたしの正面に座らせる。
案外若年寄のわたしの騎士を目覚めさせる方法はただひとつ
若さに目覚めさせるのだ!




「長太郎ちゃん、おねーさん、いまこたつの中でスカートひらひらさせてるわよ」
「なに言ってるんですか先輩。あ、みかんもう一個いただきます」
「おねいさんはこたつのなかでスカート全開にしています!」




みかんに手を伸ばした騎士の手が止まった。
ふん、騎士とはいえしょせんは中学生。
ちょろい。




「おねーさんのふくらはぎ、触りたいですか?」
「・・・」
「耳まで真っ赤よ」
先輩そういうふうにオレからかって楽しいですか!」
「楽しいです!」
「もういいです!」




騎士は突然立ち上がったかとおもうと、ひょこひょこしながら
出て行ってしまった。
ああ、わたしの愛しい騎士よ。
マイナスの外へ飛び出すにはトレーナー1枚では寒いのでは
ありませんか。
わたしは愛しい騎士の帰りを祈りながら、彼のために蜜柑の
皮をむいておきましょう。
ご武運を




















  * * * 




「おかえり長太郎ぉー、あ、ファミマだ」
「ポテチとチョコとあとカップラーメンとか・・・これとか」











わたしの騎士は、意外と・・・・・若い。












「今の子ははずかしげもなくこういうものをコンビニで買えるのねえ」
「はずかしいにきまってるじゃないっすか」
「そうなんだ?」
「そうですよ」
「そうまでして、したかったのだ?」
「・・・そうなのだ」




わたしを迎えにきた騎士は
わたしを氷の女王のかけた魔法から解き放ち
こたつの城から引っ張り出した。
こうなればもうその狭い空間にこたつなど邪魔なだけで
わたしは、戦から無事に帰ったその騎士にまずくちづけて
褒美にその身をささげましたとさ。