山吹中学屈指の美少女、フェイバレンタインは2年の秋から東方と付き合っている。
平凡★oneday
「おーい、地味's東方ぁ~」
休み時間に山吹中の有名人、千石清純が教室にとびこんできた。
そこは地味's東方の在籍するクラスである。
他クラスだというのにおかまいなしの大声で、無駄に派手なアクションで。
入り口付近にいた女子に「おはよ!」などと言いながら。
「小テストどこでたか教えて!」
東方はちょっと困った顔をしてから素直に単語集を取り出した。
「自分でやんなきゃ意味ないだろ、千石」
言いつつ、出題されていた単語に丸をつけていく。
「えー、だってヒガヒガ地味に勉強してるから頭イーし」
「地味地味地味地味いってんじゃないわよ!今日という今日は許さないんだから!」
突如、千石はすさまじい速さで下敷きで髪をこすられた。
静電気が発生する。
「ぎゃ!なにすんのー?あー、せっかくセットしたのに」
「近寄らないでよ静電気男!」
「バレンタインちゃんが発生させたんじゃん」
「東方君のこと地味っていうからよ」
「地味じゃん!」
「嗚呼、うちのテニス部のエースはなんて見る目がないのかしら!よく見てみなさいよ」
バレンタインは下敷きで東方を指し示す。
東方は前触れなしに始まったケンカに動揺している。
「こんな見事なオールバック、中学生ではなかなか見られないわ。お見事東方くん!」
バレンタインは勝ち誇った顔を千石に向ける。
自信満々の顔である。
東方はさらに困惑し、千石は声をあげて笑った。
「な、なんで笑うのよ!」
「ひー、うけるー!やっぱうちのマネはすっごいウケる、な、東方」
突然フられて思わず頷いてしまうが、バレンタインに睨まれてすぐに首を横に振った。
「どこもウケないわよ。ウケてるのはあなたの頭の中 だ け !」
「あのさフェイ、オレは構わないからそんなに怒るなよ」
恐る恐る口をはさんだ東方にバレンタインは振り返る。
少し寂しそうな表情をみせた。
「だって、東方くん地味くない」
「フェイ・・・」
「相変わらずラヴラヴでキヨ困っちゃう」
千石が肩をすくめて小ばかにした態度をとると、バレンタインが千石の髪を引っつかんだ。
「イデデッ!」
「貴様の髪を真っ黒にそめあげてヤる・・・」
バレンタインの手には美術に使うアクリル絵の具のチューブが握られていた。
色はもちろんブラックである。
「バレンタインちゃん態度違う!目がすわってる!うわっ、勘弁!東方ヘルプ!」
千石は素早く東方の後ろに隠れた。
「え?あ?え?フェイ落ち着いて」
「・・・っ、なんで・・・。なんで東方くん千石の味方するの」
東方が千石に加勢したのを見て、バレンタインの勢いはやや弱まる。
「ヒガヒガはオレのことが好きだからだよ」
千石が揶揄するように横槍を入れた。
バレンタインは掴んでいた絵の具チューブをなげるが千石はひらりとよけ、チューブは虚しく転がった。
東方は床に転がったその絵の具チューブを見、しばらくすると一歩前に出た。
「あのさ・・・俺はフェイのことがちゃんと好きだよ」
頬を赤くしている東方の一言に、笑いながら傍観していたクラスメイトが一斉に硬直する。
一方、今までの寂しげな表情を恍惚の表情に一転させ、バレンタインは頬を赤らめて言う。
「・・・わたしも東方くんが好き」
クラスメイトの心境
(((((バカップルがいる・・・)))))
キーンコーンカーンコーン
「んじゃ出張恋のキューピットは帰るんで、また昼練でな~」
千石は来た時と同様に、陽気に出て行ってしまった。
バレンタインは東方の横の席に座る。
おもむろに東方の腕が伸びて、バレンタインの髪を大きな手のひらが撫でた。
二人は顔を赤らめて向き合い、にこりと笑った。
(((((先生もう来てるんですけど・・・)))))
「みなみィー!!」
自分の教室に戻ってきた千石は南の首に泣きながら抱きついた。
南は心底面倒臭そうだがはねのけはしなかった。
「バレンタインちゃんと東方がラヴラブなんだよー!ひどいよー!」
「あー、そういえばおまえフェイにはマジなんだっけ?」
「マジ!すっげーマジ!だってあんなカワイイ子めったにいないしおっぱい大きいしカワイイしー、なんでヒガヒガなんだよー。俺・・・カッコわりぃかな?南ィ」
―――俺に聞くなー!つか、なんでいつも俺なんだ・・・
「確かにフェイはカワイイけど。ほら、フェイはさ、この前W杯のマスコットキャラかわいいとか言ってたじゃん。そういうことなんじゃん?」
―――すまん東方・・・
「でも俺バレンタインちゃんが好きなんだってばー!」
「それならほら、フェイってサドっ気強いし、東方はどっちかっつーとマゾっぽいつーか」
―――ほんとーにすまん!東方
「俺だってマゾだもーん!南叩いてー!」
(((((あいつらおホモだちか・・・?)))))
「だ、だからそれはほら!美少年と美少女だと絵になりすぎるからじゃないか!?」
「あ、そうか」
南がやけくそで言い放った言葉に千石は心底納得いった様子だ。
「なんだ、そういうことか!それなら仕方ない、ここは千石クンの出る幕じゃなかったんだな。フムフム!」
ようやく千石が離れて一安心の南。千石が(何かを)納得して席に戻っていった時、
ちょうど先生が入ってきた。
―――相変わらず運のいい奴
「はい、それじゃあ小テストするわよー。教科書しまってー」
「テスト?」
「なに首かしげてんだよ千石。このテスト問題聞きに東方のとこいったんだろ?」
「・・・忘れてたー!!!」
千石の叫び声が学年中の廊下に響き渡った頃の東方とフェイのカップルはというと。
不意に、バレンタインが消しゴムを落としてしまった。
東方はそれをすぐに拾い、バレンタインに差し出した。
「はい」
「ありがとう」
「ううん、いいんだよ」
っとそのとき、東方の伸ばした腕にあたって、彼の消しゴムも机から転がり落ちた。
バレンタインの足元に転がったので、彼女もすぐにそれを拾い上げる。
「・・・交換っこしようか、東方くん」
「うん。それじゃあ、消しゴムの角使っていいから」
「え、そんな!悪いわ」
「フェイが使うんだから、全然構わないよ」
「わたしの消しゴムの角も使っていいわ、東方くんだもの」
「フェイ・・・」
「東方くん・・・」
クラスメイトと教師の心境
(((((早退したい・・・)))))