青春を憐れむ歌






○ ○ ○

どもー!
千石清純デッス!
俺は聞いてしまった。
聞いてしまったのだよ。

ある日の、部活後の校舎裏、
南がいた。
別に校舎裏に南がいたのはなにもおかしくない。
むしろあいつは「〜の裏」とか「〜の隅」という類の言葉がよく似合う男だ。
しかして、そのときの奴は、

女の子と向かい合っていたのですよ!



「・・・のことが好きなんですけど」
「・・・・・わたしも南くんのこと、そうなんですけど」

「・・・や、やった。あ、っと・・・ありがとう」
「いえ、こちらこそ」



アハハ
ウフフ
みたいなことをほっぺた赤くしやがってやっておられました。
ああ、かわいそうに。

千石清純くんに聞かれちゃうなんて★






○ ○ ○

室町十次といいます。
南(元)部長に彼女ができたそうです、昨日。
登校した時点ですでに二年の教室までその情報が伝わってきていました。
昼休みまでには一年の教室、職員室まで広まるだろうと思います。
この速さは異常です。
情報ソースは千石さんにまちがいありません。
このサングラスにかけて。

しかも相手はあの元生徒会長。
すごい人です。
どれくらいすごいかというと、
文化祭のスローガンを決めるときの最終候補に残ったやつが

『ビバ!祭』
『ぽろり!山吹だらけの山吹祭』
先輩 秋の祭典』
『野菜白菜山吹祭』

の四つでした。
公正な全校生徒の投票で、一番票を集めたのは『先輩 秋の祭典』でしたが教職員と先輩自身からダメ出しされてあえなく却下になりました。
ちなみにこの案を最初に出したの、実は俺です。
あと、先輩は亜久津さんを「仁くん」と呼びます。幼馴染だそうです。
品行方正かつ成績優秀な先輩があの亜久津さんと幼馴染なんて誰もおもいもよらないことだとおもいます。
俺がそれを知ってるのは、亜久津さんのお母さんがやたら俺のことを気にいってるみたいで色々教えてくれるからです。
『室町はマダムキラーだよなー』
と千石さんに言われました。
別に、そんなことないですよ。

まあそういうわけなんで。
南部長、死なない程度にがんばってください。






○ ○ ○

東方です。

部活が終わった後、家に帰ったら千石からメールがきていました。
その内容が

送信者:<千石清純>
タイトル:パパラッチ
本文 :
大ニュースでよ!
南に彼女できた!
相手はなんとあのちゃん★
俺その告白シーン見ちゃってケータイのカメラに撮ったからとりあえずうちの部の全員に送るねー!



というものでした。
俺は、以前から南から相談をうけていたので、あいつがが好きだということ知っていました。
そんなに好きなら告白してみれば、と助言もしました。
南は無理だと嘆いていましたが、成功したようでよかったです。
そんなふうに送られてきた写真を眺めながら思っていました。

すると突然着信が。
南からです。

「はい、もしもし」
『あ、東方?あのさ、俺、今日の部活のあとさ』

南はすこし興奮気味です。

に告ってみたんだ、そしたら・・・なんか、イイヨって言ってくれてさ!』

いま、あいつは真っ赤な顔をしているのに違いない。

「そっか。よかったな南」
『あーなんかすげーありがとな!相談とかいろいろ』
「別にいいよ。おめでと」
『ん、ああ。ほんと、ありがとな!』
「一緒に帰ったのか?」
『ああ、そうなんだ!と並んで歩いたらすげー小さくてさ!俺、全然気のきいたこといえなかったのにずっと笑っててくれたんだよな!なんかうれしくてどうでもいいようなことばっかり言ってて』

どちらかといえば寡黙な南が、これだけ多く語るのは珍しかった。
よほど嬉しかったのだろう。
30分ほど興奮冷めやらぬ様子でしゃべり続け、最後にこう結んだ。

『でも、これ秘密な、今日一緒に帰ったらもすげテレててさ、今まで生徒会とかばっかりやってたから誰とも付き合ったことなかったんだって。んで友達とかにバレるとからかわれそうだからって。秘密っつーことでひとつ頼むわ』

「!」

『・・・東方?どうかしたか?』
「あ、ああ。うんわかった。言わないよ」
『頼む。なんかしゃべりまくってごめんな。これじゃ千石みたいだよなぁ』

「!」

『ん?聞こえてるか?」
「いや・・・ちょっと電波が弱かったみたいで、わかった。俺、誰にもいわないから」


俺、と強調したことに南は気づいてくれただろうか。
いや、興奮しすぎていておそらく気づいてはいまい。

『じゃ、明日学校でな』
「ああ・・・」

回線は切断された。

明日、登校したときの学校を想像してみた。
























カタン...

俺はケータイを手の平から落とした。
・・・俺じゃない
みんなが知ってるのは、俺のせいじゃないんだ、南・・・!

床に崩れ落ちた俺に再びメールが入った。




送信者:<室町十次>
タイトル:超レア情報
本文 :
千石さんからのメール見ましたか?南部長と一番仲いいと思うので東方さんにだけ教えておきます。先輩は亜久津さんの幼馴染だそうです。しかも今まで先輩に言い寄ってきた男は全員闇討ちされたそうです。大事にならないようにどうにか頑張ってください




俺は何も知らない何も聞いていない何も見ていない俺 は な に も . ..






○ ○ ○

どうもです!
壇太一です!

美人で有名な先輩と南部長が付き合い始めたらしいです!
おめでとうございますです!
でも僕は今日も亜久津先輩の観察を続けるです。
いつか亜久津先輩がまたテニスをやってくれるように、頑張って弱みを見つけるです!
あ、亜久津先輩、昼休みなのに屋上にいくですか?
おや、屋上にはすでに南部長と先輩がいるです!

「な、なんだよ・・・。用って」

南先輩が恐る恐る言いましたです。
亜久津先輩は思い切り部長を睨みつけました。怖いです。

、こっち来てろ」

!?
亜久津先輩が先輩のことを名前で呼んだです!
これはどういうことでしょうか。
亜久津先輩は先輩を自分の後ろに隠してしまいましたです。


!」
「返り血あびたくねーだろうが」

わー!

手の骨をパキパキ鳴らしてやる気です!
亜久津先輩は部長を殺る気ですー!

「仁くん」
「黙ってろ」
「いくら幼馴染でも、南くんになにかしたらわたし怒るからね」
「・・・」

亜久津先輩が黙りました。
お二人は幼馴染だったのですか!新事実です、メモメモ・・・。

「幼馴染なの?」
「うん。家が近所で」
「そういうことだ。こいつに近寄るな」
「・・・なんだよそれ」
「仁くん!わたしは南君のことが好きで付き合うことにしたの。そういう言い方はひどいでしょう」

「・・・」

また黙ったです!
しかもちょっとショックをうけていますです。
『亜久津先パイは先パイに弱い。』っと。

「・・・そこまでいうなら、南」
「なんだよ」
「俺が言ったとおりのことができたら認めてやるよ」

衝撃の急展開!!です。



「いいよ、やってやるよ。なんでも。」

南部長の目には男としてのファイティング・スピリットが燃えだぎっています。
好きな人のために男になる・・・
尊敬です、南部長!



「で、なにやればいいんだよ」



「蓬莱の珠の枝か火鼠の皮衣か竜の頸の珠を持って来いや」






無っ理だーん。


















○ ○ ○

やあ、乾だ。

なんで山吹中にいるかって?
それはもちろん偵察さ。
盗撮ではない。
れっきとしたテ・イ・サ・ツだ。

その証拠に、今回はこれまでに収拾したデータを特別に公開しよう。
そうだな、たくさんあるんだが・・・山吹の部長についての調査は興味深いかな。

・山吹中男子硬式テニス部部長:南健太郎
・特徴:特に無し 彼女が美人
・告白年月日:2003年11月27日(水)
・告白成立時刻:17時54分31秒
・告白時の目撃者(潜伏場所):千石清澄(校舎わき)/乾貞治(校舎裏生垣)/伴田教諭(3階窓)
・彼女概要:/3年/ミス山吹/美化委員/元生徒会長/おとなしい気性/亜久津の幼馴染/
・11月27日(告白当日)の二人の交際認知率(全山吹生中):5.3%←主にテニス部員
・11月28日(告白翌日)の二人の交際認知度(全山吹生中):97.4%
・南の上履きの中の画鋲数(28日〜30日累計):311個

・上履き画鋲混入事件に気づいたあとの。↓
(11月30日)
南の下駄箱を見て崩れ落ちる
笑ってみせる南を見て自分が元凶だと落ち込む
亜久津に声をかけられる
涙ながらに亜久津に事情を話す。
(12月1日)
画鋲混入が止む。

・12月1日欠席男子生徒:98名(打撲、捻挫、骨折等)
・11月30日に画鋲混入犯に亜久津の制裁があった確率:87.3%
・南が好きなアーティスト:Mongol800
が最近好きになったアーティスト:Mongol800
・下校時、二人でひとつのポータブルMDプレーヤーを聞く確率:100%
・下校時、道路側を歩く人:南
・交際進行状況:(非公開)


微笑ましさに免じて、最後の項目は非公開にしておくよ。






○ ○ ○

再び千石三畳!いや、参上。

今日は久しぶりに部活にでたよ!
後輩の指導をしたのさー。
部活終了後、俺と稲吉さんは部室でちゃんのことについて語らっていました。

「はー、ついにちゃんも人のものになっちゃったのかー・・・」
って膝がいいんだよな。あと手首とかさ」
「あー、それオレも思った。看護婦さんの格好とか似合いそうだよね」
「萌える」
「婦警さんとかネ」
だったら逮捕されてーなー」
「ちょっと稲吉さんったら顔がエロくなってるわよん」
「だっての白衣とか婦警さん姿想像してみろよー・・・」
「そういう格好して膝曲げて屈んで欲しくない?」
「最っ高!」



「そういう言い方するなよ!」



突然会話に割って入ってきたのは、ちゃんのハートを射止めた男、南でした。
ちょっと怒ってます。
さすがに彼氏の前でこーいう会話はマズったかな、と
俺たちは大人しく肩をすくめました。
けれど、南はまだ怒りがおさまらない様子で顔を真っ赤にして叫びました。















は、なんでも似合 うっ だ ろ っ...」(前かがみ)















笑いのかみさま、
ぼくはどこからツッコめばよいのでしょうか。






戻る 






○ ○ ○

(おまけ)先生孝行

こんにちは。
山吹中で国語科を担当している伴田です。

今は昼休みです。
わたしは今日もまた亜久津君を説得すべく、彼が来るであろう屋上でこっそり待っていました。

最初にやってきたのは南くんと さんでした。
とりあえず隠れておきましょう。
このふたりはつい最近交際をはじめました。
実は告白をしているところを目撃してしまったんですよ、
ハハハ、もちろんまったくの偶然ですよ。

二人は誠実でとてもよい生徒ですから、是非とも清い交際を続けて欲しいものです。
と言ってるうちに、ようやく来ましたか亜久津君。

「な、なんだよ・・・。用って」

おや、南君は亜久津君に呼びされていたようです。
暴力沙汰は見逃せませんが・・・しばらく見守りましょう。

おや、亜久津くんが さんを呼び捨てに?
おやおや、幼馴染なんですか。
ふむふむ、亜久津くんは さんにホの字のようです。
亜久津くんを勧誘するにあたっては、真正面から行くよりも
さんを介して説得したほうが効果が望めるかもしれませんね。

「・・・そこまでいうなら、南」
「なんだよ」
「俺が言ったとおりのことができたら認めてやるよ」



これは大変なことになってきました。
条件はなんなんでしょう・・・



「蓬莱の珠の枝か火鼠の皮衣か竜の頸の珠を持って来いや」

































わたしの授業、
ちゃんと聞いていてくれたんですね。(ほろり)



古文「竹取物語」より