俺が乗り越えたい壁というのは友情と愛情の間にある壁なんだけども。

公平が乗り越えたくない壁というのは友情と愛情の間にある壁だそうで。

俺が折れるかあいつが折れるか。どちらかしかないことがわかった。

俺は公平と付き合いたい。けど公平はほんまにええ奴やから、あいつの心を

へし折るんが恐ろしくて、なんもできないまま毎日一緒に下校している。






ボーイ・ミーツ・ガール






「たいへんだね」

ジローは机に突っ伏したまま言った。
ほんまにちゃんと聞いとったんか。

「でも実際忍足くんは田渕さんのこと好きなんだったら意味無いじゃん」
「気づかれんかったらええやろ」
「気づいてるよ。女の子って電波受信できるんだもん」
「なんでジロが知っとんねん」
「わかんないけど絶対受信されちゃってるよ」
「なんで」
「だってほら、いつも一緒に帰るのに忍足くん置いてけぼりじゃん」
「置いてけぼりちがうわ。用事あるって」
「ウソっぽ!」

嬉しそうに顔をあげたジローの後頭部をつかみ、デコを机にぶつけさせた。



ゴチン



「いたーい」
「おまえに相談した俺がアホやったわ」
「そうやわ」
「真似すな!」



ゴチン



田渕さんだって忍足くんのことすきかもしれないよ」
「あいつ好きな人おらんて言っとった」
「好きな人いるのって聞いちゃったの?」
「聞いた。さりげなく」
「いつ?」
「この前。さりげなく」
「しゅーりょー!」



ゴチン



「いたーい」
「なんでやねん!」
「さりげなくでもなんでも好きな人いるのとか付き合ってる人いるのとか聞いたら終了だよ」
「なにが終わりやねん」
「忍足くんが田渕さんのこと好きなのバレバレじゃんバレバレじゃんバレバ」



ゴッチーン



「いたいー」
「三回も言うな」
「だってホントのことじゃん」
「うっさい。おまえに相談したおれがアホやったわってこれ二回目やアホ」
「自分で言ってるー」



カバンを引っつかんで席を立つ。
くだらんわホンマ。
腹立つ。
誰に。我にじゃボケ!


「さいなら」

「ねえ忍足くん」


教室を出ようとしたのを呼び止められた。
ドアのあたりで一回振り返ってやる。
ジロは机に突っ伏したまま、顔だけこっちに向けて言った。


田渕さんのどこが好きになっちゃったの」



「まるごとやアホタレ!」








一瞬で熱くなって焦った。


教室の扉をぴしゃりと閉じた。



誰もいない三年の廊下を早足に歩いた。
公平が待っててくれたらとか思いながら、待っていないことを
確信しながら、それでも期待しながら落胆しながら歩いた。
なんにしても好きだとまとめながら歩いた。
下駄箱に着くと、昇降口は西日に照らされてひどく眩しかった。
































「まるごとやアホタレ!」



忍足くんはそう叫んで帰ってしまった。

「あーあ、行っちゃった」

そして、オレは掃除用具入れに視線をうつした。

「あーあ、言っちゃった」

オレはどうおんいぎごでウマいこと言った。

ガタンと一回揺れて、掃除用具入れから田渕さんが出てきた。
夕日が教室を照らしているせいか、田渕さんは顔が赤っぽい。


「どうしよう、ジローくん」
「どうしようもないよ」
「そんなぁ」


オレは忍足くんより前に田渕さんから相談をもちかけられていた。
”忍足の様子がなんか最近変だ”って。
田渕さんと放課後人生相談やってたら、委員会が終わった忍足くんから
メールがきた。
”まだ学校おるやろ?話あんねんけど”って。
で、田渕さんは慌てて隠れた。

掃除用具入れに。

「全部聞いちゃった?」
「全部聞いちゃった」
「嫌いになっちゃった?」
「嫌いになっちゃわなかった」
「好きになっちゃった?」
「好きになっちゃわなかった」
「じゃあどう思ってるの」
「イイ奴」

むつかしいなー。

顔真っ赤なのに。

「どうしよう、ジローくん」
「ほっときなよ」
「忍足に申し訳ないよ」
「だって忍足くんが勝手に田渕さんのこと好きなんじゃん」


好きって言われて、田渕さんはオレの額を机にぶつけた。ゴチン、て。


オレが額をさすりながら顔を上げると、田渕さんは窓の外を見ていた。
忍足くんが正門へ向かって歩いていた。






「追いかけられてみるのも楽しいんじゃないの」

「うぅ」

「逆うる星やつら」

「は?」

「ラムが忍足くんであたるが田渕さん。楽しくおっかけられんの」

「それはちょっとおもしろそうだけど」

と、笑った。

「でしょ」

「うん」

はにかんで笑った田渕さんはまだ忍足の背中を見ていた。










これを言ったらまたゴチンてされそうだから、言わないけどね。





あのね、













あたるもホントはラムのことが好きなんだよ。