放課後の教室でオレは反省文を書いていた。
横の席には女の子がいた。
横の席に女の子をはべらせてる時点で反省してないよね。
でも別に、はべらせているわけではないんだ。
横の席の子は美化委員長の子で、彼女もまた反省文を書いているのだ。
ぼくらは、教頭に言われて反省文を書かされている、いわば「一味」とされているのだ。






反省文






美化委員でありながら、掃除の時間に教頭の花壇にサッカーボールを

「ゴォォォォォォル」

させたオレと、

「ちょっと千石やめなさいよ」

と走ってきた君が


「こりゃあ!」


と大声をあげた教頭と鉢合わせになって、

「わしの花壇になんてことをするんだ!」






となって今にいたる。

反省文の作文用紙を渡されて
「ひとり10枚。書き終わったらわしの机の上においておくように」と言い置いて
教頭は出て行った。
うわさによると、今日は教職員の新年会があるらしい。




「オレ、わすれられないよ君のことが」
「え・・・」

君の語尾に軽く動揺を見た。

「こりゃあ!って教頭が言ったときの君の”は?”って顔が」
「千石この前亜久津くんとゲーセンでさぼっていたでしょう。言いつけられたいですか」
「・・・サボてないもん」
「サボてた」
「見てた?」
「サボてた」

君は書きながらうなずいた。

「わたし具合悪くて早退したら」
「オレらがサボテンしてたんだ」
「そう」
「ば、ばんじいと南にはご内密に」
「オーケー」
「ホーケー」
「変態!もう、さっきからほんっととばっちりで怒ってるんですけど!」

君はガタンと席をたって、オレがびっくりしてそれを見上げると
怒りの行き場がなかったようで、ぺたんと座って、シャーペンをまた動かしはじめた。
我慢強い子です。

オレも席につく
オレも書く
この400字詰め作文用紙に。



オレのラッキーパワーが、花壇にサッカーボールと君と教頭と教員新年会を
引き寄せた今日という日。
オレはのがすわけにはいかないとおもった。

オレは

君の

生年月日と星座と血液型と靴のサイズさえ知っているほど君のことが好きなんです。
南たちにさえバレないくらいじっと、じっと好きなのをこらえていたんです。
だって君はちっともオレの事を好きでないようだったから。
今だってほら、また怒らせたりとかしちゃってる。



「わたしあと一枚でおわりだから先行くよ」
「え!待っててくれないの!?」
「あげない」



オレは急いでシャーペンを探したらボールペンが出てきた。
なんでもいいからはやく終わらせなきゃと思ってボールペンでガリガリ書いていった。





反省文

           3年E組 19番千石清純

 ぼくは今日学校のかだんにサッカーボールを入れてしまい、
とても反省してい





君が席を立った。




「え、ちょ、はやくない?」
「千石がおそいの」
「待っててよ、すぐ書けるから」
「まだ名前しか書いてないくせに」
「すぐだよ!」



オレはガリガリガリ書いた。
この400字詰め作文用紙に。



ガリガリガリガリガリガリ
ガリガリガリガリガリガリガリ
ガーリガリガリ
ガリガリガリガリガリガリ



怒っているのに一応待っててくれてる優しい君に見えないように
袖で作文用紙を隠しながら書いてく。
もうすぐ書き終わる。
でもコレ見たらたぶん怒るんだろうな。
きっと怒る。
怒る。
怒ってもいいけど、最後にはちょっとテレて笑ってくれるといいな。
明日あたり引っ叩かれても仕方ないけど、引っ叩いたあとに
そこにキスしてくんないかな。
くれるわけない。
つーか、オレの名前が「千石きよすよ」であればよかったのに。
そうすればここ、そうここで、この一文で「みょければ」と無理やり作る必要は
なかったんだ。
いやしかし、きよすよって名前じゃモテないかな、君に。
まあ、どっちでもたぶんダメだろうな。
君はものっそ怒ってるもん、オレに。



「終わった」



静かにペンを置き、オレは席を立った。
九割九分九厘ダメであろうことを確信すると、
なんだか妙な冷静な気持ちになって、オレは
作文用紙をきれいに折りたたんだ。


「どうして折るの」
さんにあげるから」
「えー、自分で出しにいきなよ」
「教頭に渡さないでもかまわないから」

オレはかばんを掴む。

「読んでみて渡したらヤバイと思ったら、持っといて。ハイ」



君がなにか尋ねようとしたのを背中で聞いたけれど
オレは無視して教室を飛び出した。
飛び出して風よりも速く廊下を駆け抜け、あと3キロスピード出したら
時空を超えられる気がした。けれど、銀魂のあの人のように
「ヒャッホウ!」とは言えない。

なぜなら、明日の朝
教室で君と会うのにどんな顔すりゃいいんだ。







室町くんメガネかしてください。
























   反省文

           3年E組 19番千石清純

 ぼくは今日学校のかだんにサッカーボールを入れてしまい、
とても反省してい


千石清純の あいうえお作文のコーナー

せんごくきよすみの「せ」 世界できみがいちばんかわいい
せんごくきよすみの「ん」 んーん、マンダム
せんごくきよすみの「ご」 ごめんね君はサッカーしてなかったのに、でも
せんごくきよすみの「く」 苦しいんだ胸が
せんごくきよすみの「き」 きみと二人きりになれたんだもの
せんごくきよすみの「よ」 よくやくつかみとったチャンスなんだ
せんごくきよすみの「す」 すきですさん
せんごくきよすみの「み」 みょければぼくと付き合ってください



























時空を超えられず、明日の朝はあっけなくやってきた。
朝練を終えてから部室でオレは室町くんにお願いをした。

「すんません室町くんそのナウでヤングなメガネ貸してもらえませんか」
「サングラスです」
「じゃあそれ貸して」
「いやです」
「待ってよぉ!昼ごはんおごるからおごるから!東方が」
「え、俺?」
「なんでも買ってあげるから、ね?東方が」
「室町、俺320円しか持ってないんだけどやきそばパンで」

「まともに聞くなっつの!」

南が割り込んできて、オレのケータイを投げてきた。

「え、なに」
「メール光ってた」
「マジで」


パカっとひらいて、新着メールを発見


さん!」


オレは思わず声をあげてしまった。
なんだなんだ、と後ろから部員たちが覗いてくる。
ケータイがミシミシなるほど強く握って、恐る恐るビビりビビり

オレは
メールを



た。


























































「やっぱメガネいらない!」

オレは「サングラスです!」という声を背中に聞きながら
部室を飛び出した。

飛び出して風よりも速く校庭を駆け抜け、あと3キロスピード出したら
時空を超えられる気がした。



「オレは風になる、いや、さんの彼氏になる!ヒャッホー!!」



オレは時空は超えなかったけれど、

昇降口を超えてゆく。