「ねえ、オレたちもうすぐ大人になっちゃうよね」
オレは屋上のフェンスのそばで言った。
「うん・・・」
きみは少しさびしそうに返事をした。
「千石は大人になりたい?」
「・・・あんま。っていうか、今きみと一緒にいる状況からかわっちゃうのかと思うと」
「わ!それはやだね」
「うん、そうなんだよ。だからさ、ものは相談なんだけど」
「心中はしませんよ」
「オレもしないよ。まだ童貞だし」

やっだ千石!と真っ赤な顔をしたきみに突き飛ばされて
落ちるかと思った。ビビった。
「相談ってなに?」



「大人になるのをやめようよ」
オレが大真面目な顔で言うと

「それ、いいねえ」
と、きみは軽く笑った。
恐る恐る、オレはつづけた。


「でも、老後まで一緒にいれたらいいよね」


オレがそう云うときみは、心の水が溢れ出したかのように
じんわりとはにかんで微笑った。
そしてただひとこと、深くかみしめるように




「それ、さいこう」
と、おっしゃった。
屋上で
オレときみはぎゅっと手を握った。







オレたちはその日の午後の授業中、それぞれのノートのはじっこに
大人にならないための作戦をたてることにした。
オレは一生懸命考えたけど思いつかず、気づくと寝ていた。
いや、気づかず寝ていた。
「じゃあ千石くん、次の『をかし』の意味はなんですか?」
伴じいに当てられた。らしい。
「ちょっと横の南くん、たたいてあげてください」

バチン!

「ってぇ・・・、南ちゃんデコペンは、デコペンは暴力・・・」
「千石くん、『をかし』の意味は」
「三時のごはん」
「寝ているからわからないんですよ」
「そんなことないでーす」
オレは反抗した。
そういうお年頃だ。
「起きてたってわからないでーす」
チョークが空を切った。



授業が終わった後、きみがノートを見せてくれた。
ノートのはじっこには一行、青いペンで、きみの文字。
見てビビった

「これ・・・マジで?」
「マジで」
「あるかな」
「あるよきっと」
「あるねきっと」

きみが嬉しそうに笑ったので、あるのかないのかわからないそれは
ほんとうは、ほんとうのほんとうはあってもなくてもよいのだと気づいてしまう。
けれどオレは死ぬまで決して、それをきみに言わないことを無言で誓った。

ノートのはじっこ

青いペン

きみの文字

”ドラゴンボールを集めてシェンロンに願いをかなえてもらう”
























オレときみがさがすドラゴンボール。
ふたりでずっとさがしたら、少しずつだけれど見つけていくことができた。

けれど、最後の一個。
最後の一個がどうしても見つからない。

だからオレはきみとずっとずっとドラゴンボールをさがし続けた。
どれほど時間がたっても、大人になることも忘れていたオレときみは大人にならないまま、
いつのまにか一緒に老後をむかえた。
子供のあと、大人をすっとばして老人になってもずっとさがしていた。
きみはオレの隣りの家に住んでいた。












さがして

さがして



さがしていると、
いよいよきみが眠りにつく日が来た。
きみの横たわるベッドの傍ら、オレはひざをついている。
しわくちゃになったきみの手をとって、オレはいまにも泣きそうです。
きみは何度か
「さきにいくことをなんとかなんとか」と謝ったりしたけれど、
オレはずっと下を向いて首を振っていたので聞こえなかった。ことにしたい。


「謝ることなんてないんだよ」
オレは言う。
「謝ることなんてないんだよ」
オレはもう一度言う。
「謝ることなんてないんだ・・・」
オレは三度目繰り返して、そこで決心をする。

のどから声をしぼりだす
ちゃんときみに届く声になってください
だって
謝らなければいけないのはオレのほう



「最後の一個、・・・ほんとうはオレがもってるんだ」



きみの手を祈るように握る。
ずっとこの手を繋いでさがしてた。
さがしてるんだよ
だからこの手を放さないで






























「知ってたよ」
きみはそういって笑う。

そして、驚いているオレが「おやすみ」とも「すきです」とも言う間もなく

きみは安らかな眠りにつく。



あの日

屋上で

ぎゅっと握った手のそのままに



















ああどうか



どうか



どうか





いでよシェンロン

そしてねがいをかなえたまえ














































きみとずっと恋をしていたい