山 吹 代 替 会 議


ある日の午後の山吹中、
男子硬式テニス部3年レギュラーの面々が部室にそろっていた。

まったく整頓のなされていない部室の一角に長テーブル引っ張り出し、
ホワイドボードが用意された。
壊れたパイプ椅子に座っているメンバーは、
南、東方、亜久津、千石、新渡米の五人である。

ホワイトボードには『代がえ会義』と書かれている


「じゃ会議やるぞー」
「なぁ南」

東方が南に耳打ちをした。

「なんで亜久津がいるんだ?」
「オレが連れてきちゃったのだよー!」

と言って千石が割り込んできた。亜久津は長テーブルに足をのせたまま、
東方と南を睨みつける

「眠ィからさっさと終わらせろ」
「俺、ルパン三世の再放送見てぇんだけど」
「稲吉さんの言うとおりだよ。はやくやっておわらせようぜィ」
(俺も見たい)
(見たい)
(・・・見てぇ)


南は亜久津に怯えながらも、ルパン三世のために
ホワイトボードの前に戻った。

「それじゃ、次の部長は誰がいいかひとりずつ言ってって。東方から」
「おれは室町が妥当だと思う」
「室町一票、っと。つぎは新渡米」
「喜多」
「喜多一票、亜久津は」

亜久津はしばらく凄んでいた。
「・・・」
・・・いや、悩んでいるらしい。
ちゃんと考えてくれるあたり、根はいい奴なのである。


「・・・太一」

「おまえそれ一年だろ」
「文句あんのかてめえ南!ケンカ売ってんのか?」
「う、売ってね―よ」

おそらくほかの後輩の名前を一人も知らないのだろう、と皆は推察した。

「次!千石!」

なんでおまえ亜久津つれてきたんだよバカ!という意味合いも込めて
厳しく呼んだ。

「あ、もしもしハニー?今どこいんのー?」
「ケータイ切れ!」
「ん?今の声?南だよ、頭ツンツンしてる奴。わかる?あ、わかんない?」
「気にすることないって、な。会議続けよう?な?」

東方は慌てて南に声をかけた。
南はうなだれていた。

「俺みたいにトレードマークを持てば良いんだよな、南も」
と、新渡米は言ったが誰に一人同意するものはない。


「そんでさー、あー平気平気、別になんもやってないし」
「なんもやってなくないだろ!会議中だろ!」
「・・・あー聞こえちゃった?実は会議中、うん。部長決めてんの。
えー平気だよ。マイハニーの声聞いてたいし・・・うん。・・・うん。
・・・わかった、がんばる。じゃね」

千石はあっさりとケータイをきった。

「マイハニーがちゃんと会議しなきゃダメ、だって」
「・・・で、おまえは真面目に誰がいいんだよ」

「南」

「真・面・目・に」

「いーじゃん。南、国語苦手なんだろ?留年しちゃえよ」
「いや、国語の赤点だけじゃ留年できないんじゃないか」
「東方はツッコムのそこかよ!」

「そういえばそういえば!この前の歴史のテストで選択問題全部えんぴつ転がして
書いたら俺82点とれたんだぜ」
「卑怯!」
「ウフフ、運も実力のうちですよ」
「俺、必死で勉強してきたのに78点だった・・・あのとき鎌倉幕府と
書いていれば・・・書いていれば・・・!」
「そういえばテスト受けてねえな」

「コツとかあるんだろ千石。ラッキーになるコツ教えろよ!そのかわりにオレのこの芽の
秘密を教えるから」
「いらん。日ごろの行いじゃないかしら」
「ケッ。バカじゃねーの」
「素行不良に言われたくありませーん」
「んだとてめぇ」
「きゃー仁君が怒ったー!ヒガヒガ助けて」
「え、俺?」
「んだてめぇ・・・なぐられてぇのか?」
「そうみたいだよ、ね?東方Mッ気あるもんね」
「うわ、放せ、無理、俺そういうの無理だから!」
「歯ぁくいしばれ!」





ワーワーギャーギャー



ドシンバタンドシンバタン



ズガガガガ



バシーンボコバキッ



ウーウーウー













「あの・・・みんな、代替え会議・・・」

そして、決まらないまま春が来る。












今日の部誌

担当 南健太郎
内容
 今日は三年でミーティングをしました。代がえ会義です。
千石が亜久津を連れてきて、千石はケータイでずっとしゃべって
いて、千石の彼女はぼくの存在を忘れていました。二回会ったこと
あるんだけど。
 千石が亜久津を超発し、亜久津がキレて千石をなぐりそこねて
東方をなぐり、キレた東方が千石のロッカーに穴をあけました。
あれは怖かったです。
来年度の部ひはボールにつぎ込もうと思っていたけど、ロッカーを
かわなくてはいけなくなってしまいそうです。
ぼくはテニスは好きだけど、はやく部長をやめたいです。
顧問より
 とりあえず、ロッカーの件がPTAに伝わるとよくありませんので
口外せずに自分たちで修理しましょう。それから、全員小学生の
漢字ドリルをやり直しましょう(会義 -> 会議)