事後
座って、低い窓にもたれて外を見ていた。
いつのまにか眠っていた。
身体にやわらかい毛布がかけられて目が覚めた。
めのとが「夕方は風が寒うございます」と笑っている。
これは夢。
幸せな夢。
「・・・怒らないのですか。窓の近くへ寄ってはいけないと」
「何度申し上げても姫様はこれだけは聞いてくださいませんので、めのとめは姫様のなさりたいことを妨げることはいたしませぬ。それに、姫様が危ないときにはこのめのとがお守り申し上げます」
バシンと音がした。
「ほら、このように」
めのとの手が矢を握りつぶしていた。
窓の外から一瞬で放たれた矢。
切っ先はわたくしをめがけたもの。
めのとの目が鷹のように豹変し外を見据えながら、わたくしの身体を窓の死角に置く。
「めのとが戻りますまで窓を開けてはなりませぬ」
微笑まれる。
外を睨んだのと全く違う優しい微笑み。
「近衛ども!来い!」
これはわたくしに向けるのとは違う声。
常に部屋の外に控えている三名の近衛が音もなく間近に、跪いた格好で現れる。
「私は矢を放った者を追う。我らが君をお守り申し上げよ」
「御意」と三人が返事したときには、めのとはしなやかな獣のように飛び出していった後だった。
この、33階の窓から。
朝六時。
いいえ、もっと前。
窓外は紫。
明け方に目を覚ます。
傍らには大佐が眠られている。
大佐の寝顔は珍しい生き物のようにじっと見てしまう。
(・・・かわいい)
ここは33階?ここはカーティス大佐の私邸。
これはめのと?かれはジェイド・カーティス大佐。
わたくしを守る?いいえ、ピオニー陛下を守る。
知っている
把握している
わかっている
理解している
だからその上で夢の続きを見るように言ってみる。
夢の続きは夢が覚めないように小さい声で
「ケガをしないようにするのですよ」
「ケガをしないようにするのですよ」
そう呟いた村雨はまだ明け方だというのにシャワーを浴びにベッドを降りていった。
あの口調は私に対するものではない。
私は村雨にとって“めのと”の身代わりだろうか。
王に近しい臣下という、立場上の共通点があるだけにそう思ってしまうことがある。
彼女の乳母だった女性に嫉妬するのは我ながら趣味が悪い。
更に相手は死人だ。
・・・セックスをしている最中に間違って「めのと」と呼ばれたらどうしようか。
もしそう呼んだりしたらアレをこうしてコレをあーしてこうして「らめえ」と言わせた上で、私がいないと生きていけない淫乱な身体にしてやろう。
そして
そのあと殊更やさしくして、それで・・・
それから・・・・・・
ああ、くやしがりすぎだ、私は。