古代伝説研究(仮公開中)


 世界にはかなり人魚系の伝説があるものです。まあ中には民話と混ってしまった部分もありますけど…
 あと、アイルランドやイギリスって国は妖精が多い国なので、別に項を設けようと思っていますので、そちらをご覧下さい。(<−ってまだ工事中です。)


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バビロニア(最古の水神)
 まず神話系で最古といわれているものは、バビロニアの水神エアなのですが、実はこの神は先住民のシュメール人の神をそのままひきついだもので、元はエンキといいました。この神は男神です。
 水神エアは、叙事詩『ギルガメッシュ』の中の大洪水の話で人間に洪水が起こることを知らせ、巨大な箱船を作らせた神でもあります。
 またこのエアとは別に、オアンネスという水神もバビロニアにはあったそうで、この神の方は下半身が魚の姿の男性像として彫刻も出土しています。


ダゴン
 それから少し時がたった頃(前13世紀ごろ)、地中海東岸を荒しまわっていた海洋性民族の一派、フィリステル(聖書の中に出てくるペリシテ人)は、現在のイスラエル西南の海岸線沿いに定住していました。
 そのペリシテ人が崇めていたのが、ダゴンもしくはダガンという半人半魚の神で、旧約聖書の『士師記』には、「ここにペリシテ人のきみたちともにあつまりて、その神ダゴンに大いなる祭物をささげて祝いをなさんとし」という部分があります。
 比較的古いダゴンの姿は、魚を元にした人間の姿でしたが、のちには上半身が人、下半身が魚という形になりました。
 聖書に出てくるのは、後期の姿のようで同じく神で、旧約聖書の『サムエル前書』には、「また翌朝、はやくおきエホバの箱の前にダゴンうつむきに地にたおれるを見る、ダゴンの頭とその二つの手、しきいのうえに断ち切れをり、ただダゴン、体のみ、のこれり」とあります。
 またダゴンは、怪奇小説家のH・P・ラヴクラフトの作品中によく人類前の怪物(神)として登場しています。


初の女神
 まあ今まで三神ほど紹介しましたが皆、男神なんですよね、人魚といったら、やっぱり女性(神)ですね。
 っで女体としての姿を持つ最初の神はシリア、セム族の月の神アテルガティスもしくはデルケトという神で、魚のひれを持つ女性の姿で表わされ、大地の恵みをつかさどりました。
 これがそののちギリシア神話のアフロディテなどの原形となりました。


ギリシャ神話の神々
 ところでそのギリシア神話ですが、その中にも水に関係したニンフやら神やらが大勢出てきます。
 その中でも有名なサイレンもしくは、セイレーンと呼ばれるこの妖精(かな?)は、まあ知られている通り、その妖しい歌声で舟人をおとしいれ船を遭難させます。
 ギリシア神話以外でも出てくるのですが、その姿には幾つかの種類があるようです。
 まず、ごく普通の半人半魚のものが一般的ですね。それ以外にも、人面鳥体もしくは半人半鳥のものとか(ハーピーは違うのかな?)、人間の美しい乙女の姿をしているもの(ライン川のローレライですね)などあります。また、楽器を持っているものもあります。
 このうち、後者の鳥の姿をしているものは、アルゴ探検隊やオデュッセウスのような勇者やら、知恵のある者に無事通過されたため、腹をたてて、もしくはそうなる運命だったため、海に飛び込み魚に変じたといわれます。
 どうもサイレンは、この鳥形が原形のようで、その後に魚と結びつき、今よく知られているように、人魚の形になったようです。  また海神には、トリトンとかポセイドンという、これまた有名な神がいますが、あまり人魚とは関係なさそうなので略します。


麗しきメリュジーヌ
 時代は突然14世紀へと飛びまして、そのころ、フランスに下半身が蛇の美しい水の精メリュジーヌ(メルシーナともいう)と伯爵の甥とが結婚するという物語があります。
 この話のメリュジーヌは一週間のうち日曜から金曜までは、普通の女性なのですが、土曜になると蛇の体になってしまう水の精です。
 土曜日は自由に行動させてもらう約束で、ポワティエール伯爵の甥のレイモンと結婚しますが、ある日、半身が蛇の姿でいるところを見られてしまい、しかたなく彼女は2人の子供を残こして別れなければならなくなってしまうのでした。
 そして、その2人の子供は成長して、フランス名門貴族の先祖と仰がれるという話です。
 この話はメンデルスゾーンの『麗わしきメルシーナ』の原形ともなっています。


ウェンディーネ
 メリュジーヌと似たものとして、アンダイン(オンディーヌとかウェンディーネとか)という水の精がいまして、こっちの方は人間と結婚すれば魂を貰い、人間になれる妖精なのですが、もし夫が心変りでもしたら、海(水)の中の自分の国に帰らなければいけないこととなっています。
 『ウェンディーネ』の方は、ドイツの作家、フーケが書いた話で『アンダイン』を原形としています。
 『オンディーヌ』は『ウェンディーネ』をさらに、フランスノ劇作家、ジャン・ジロドウが1939年に戯曲化したものです。


古代インド(ビシュヌ)
 古代インドでは、ヒンズー教の大神、ビシュヌが怪魚の口から生まれたということになっていて、下半身がその怪魚に飲み込まれている(出て来た?)絵があります。人魚とはちょおーっと違いますね。
 一説には、ビシュヌの化身が魚だともいわれています。


オセアニア
 太平洋地域のソロモン諸島には人魚ではなく、魚人ともいうべき形の上半身がサメ、下半身が人というサメの精霊があります。
 この地の漁師は、サメを祖先霊としていて、家庭を守護してくれるサメを定めていまして、何か大変な問題があると海へ出て行き、祖先の霊のサメに相談するといいます。


中国
 お隣り中国でも『山海経』という書物に、「人魚は四足を持ち、嬰児のような声を出す」とあります。また『本草網目』には、《せいりょう魚》という、上半身が男、女の形のようで、下半身は 魚尾という動物をあげています。


日本
 日本でも『扶桑略記』、『古今著聞集』、『北条五代記』などに出てはいるのですけど、どうもこれらは人魚ではなく別の海獣類(トドとかアシカとか)のようです。
 他にも『和名抄』とか『釈日本記』などにも魚身人面の人魚が出てきます。どうも上半身だけ人間という形の人魚は江戸時代になってから、『和漢三寸図会』という本で、広められたらしいのです。


その他(未来予知)
 人魚は未来を予知することができるそうで、中世ドイツの叙事詩『ニーベルンゲンの歌』には、英雄ジークフリードを殺したハーガンが、ダニュウブ河で水浴びをしていた二人の人魚の衣を盗って、自分の未来を占わせたという一節があります。