中心街の高齢社会対策

研究の目的

対象地区の調査概要

住民意識の調査

調査分析に基づく対策

結論


研究の目的

 本研究で対象とする岡崎市の65歳以上の高齢者人口比率は,すでに12.1%になっている。近い将来、比率が数十パーセントに増加することも予想され、それに伴う社会構造の変革が望まれている。
高齢社会に対応した街は、安全で人と人とのコミュニケーションが豊かな空間でなければならない。そのためには単に物質的なバリアフリーを整備するのでなく、高齢者だけでなく老若男女が互いに行き交うことが可能な日常生活圏での「計画された下町」の復活が求められ、精神面でのバリアフリーによる多様なコミュニティ生活が演出できる「まち」の創出が求_られている。
 本研究は、上記の視点で岡崎市中心市街地を対象に、これからの高齢社会に対応した地域性のある商店街の高齢化対策に必要な方策を検証し提示する事を目的とする。


対象地区の調査概要

 調査対象エリアは岡崎市の康生地区商店街とし、そこを日常生活圏として営む住民、そして市内在住の一般市民に対して、以下の項目について表1に示した割合でアンケート調査を行った。
アンケート内容
・政策に対する満足度
・高齢化問題に対する要望
・中心市街地の居住性
・社会貢献に対する意識
・日常生活で必要とする情報
また、このアンケート調査の対象地区商店街における住民の年齢層は属性の結果を見ると50歳以上の人が50%近くになり既に高齢化の状態である事が伺える。


住民意識の調査

 アンケート結果に基づき、年齢別に現在の高齢化対策に対する満足度をまとめたものが図1で、年代別に中心街での居住についての意識をまとめたものが図2である。
 これらの結果より、現在の高齢化対策に対する満足度はたいへん低く、「中心街の居住に対する年代別意識」でも、全体の傾向として「住みたくない」が50%を占めている。しかし、60歳以上の住民では、「住みたい」が53.3%と、「住みたくない」の30%を大きく上回っていることは、これまでの認識との差異を生じている。これらのことを念頭に、中心街の在り方を考えていかなければならない。
 次に、高齢化問題に対する要望を自由意見として、まとめたものが表2である。
 ここでは、「高齢者にもっと働く場、活躍する場が必要」と言う高齢者の雇用を求める意見が多く、「医療施設、福祉施設の充実」や障害を持ったときのための介護の充実を求める意見や、「高齢者に対する住民の意識」や「高齢者のための情報の提供」といった、高齢者に対する意識の低さや、情報の不十分さを訴える意見も多く見られた。そういった中で、少数意見ではあるが、「高齢者どうしが助け合い、自立できるような環境」、「高齢者自身が地域活性化の中心となる仕組が必要」、「高齢者が活動できるボランティアが有ると良い」と言った高齢者自身の自立を促す意見もあったことは、注目すべきである。
 さらに、年代別に社会貢献に対する参加意識をまとめたものが図3で、日常生活で求められている情報を年代別にまとめたものが図4である。
 これらの結果をみると、60歳以上の高齢者は社会貢献に対し積極的な参加意識があり、高齢者の85%もの人が社会参加への意欲があることがわかる。
 さらに、60歳以上の高齢者は「金融サービス情報」に次いで「生活情報」、「イベント情報」といった、野外活動に対する意識が強いことがわかった。

図1 現高齢社会対策に対する満足度(図F-2)

図2 中心街の居住に対する年代別意識(図E-2)

図3 社会貢献にたいする参加意識(図C-3)

図4 日常で必要とする情報(図G-2)

表2 高齢化問題に対する自由意見(表F-5)

意見内容
1.高齢者が働く場・活躍する場が必要。(9人)
2.医療施設,福祉施設を充実させる。(6人)
3.高齢者に対する住民の意識が薄い。(4人)
4.高齢者コーナーなど市政便りの部分をもっと大きくし、多くの情報提供をする。(3人)
5.老人の交流の場がもっと増えると良い。(3人)
                         (回答者数64人)


調査・分析に基づく対策

 調査・分析から社会貢献や野外活動など高齢者の社会における自立の意識の大きいことが明らかになった。そうした意識のもとで、日常生活がもっと楽しく、従としてでなく主として自由に選択できる社会が望まれていることも明示された。そのための必要な社会基盤として、生活をサポートする情報や安全性の提供、そしてNPOやボランティアとの関わり合いを考えなければならない。また、その関わり合いを、相互にサポートしあうシステムも必要である。そのことが精神的な障壁を取り除くことにもつながる。
 現在の高齢社会対策として、一般的によく使われているバリアフリーとは障害を持つ人でも地域の中で普通に暮らせる社会づくりを目指す理念に基づいて、身体的・精神的な障壁を取り除こうという考え方である。そして、この考え方を実現するために、1994年9月にハートビル法が施行されたが、現在のバリアフリーの認識の多くは物質的な側面にかたよっている。また、既往論文においてもバリアフリーを論点としたものでは物質面における研究を主に取り上げている。もちろん、高齢者が実際に街の中で危険であると考えているのは、歩行路面を舗装する平板の歪みからくる1p程度の認識も出来ないほどの段差である事も事実ではあるが、この様な点を、物質的にのみ処理するのではなく、前述しているような高齢者の視点に立ち、解決していく態度が精神面でのバリアフリーにも繋がり、高齢者のための地域社会を構築していく事になる。


結論

 以上の結果から高齢者にとって最良の生活環境とは、活気があり、様々な情報を得られ、日常生活用品等が徒歩圏内で入手できる都心の環境である。
 また、今後、社会はボランティア依存型になっていることはさけられない状況であるが、高齢者人口の絶対数に対し、それを支えるボランティア人口の絶対数は減る可能性がある。そういった生活環境の中で高齢者自身もボランティアに積極的に参加する意識は高く、そのことを認識した社会創りを考えなければならない。
 従って、高齢社会に最も重要なことは高齢者が自由に活動出来る場を提供することで、物質的な側面である複合情報インフラや余暇を楽しめるオープンスペース等の施設も必要であるが、それらをサポートする体勢がより必要である。そして、これらのことが、最終的には精神面におけるバリアを取り除くことにも繋がると考える。
 本研究では、康生商店街を対象に精神面でのバリアフリーとなる多様なコミュニティー生活を演出できる「まち」の位置づけを行ったが、今後それぞれの詳細に関して、各論としてさらなる研究が必要であると考える。



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