タウンモビリティ

研究の目的

研究の方法

タウンモビリティの事例

関連調査

岡崎市中心市街地のバリアフリー 

結論


研究の目的

 岡崎市中心市街地は高齢化に伴いタウンモビリティへの要求が高まりつつある。タウンモビリティとは、一般の健常者はもちろん高齢者や障害者などが常時自由に街の中を移動できるサービスを提供するシステムのことであり、そのタウンモビリティの環境面で強く関わってくるのが街のバリアフリー化である。バリアフリーを問題にするとき、段差、通路幅員、仕上げの問題や手摺りの有無等の物質的な部分が個々に取り上げられるケースが多い。もちろんそれらを個別に考えることも大切であるが、本来バリアフリーは精神面も含めて、総合的または補完的に解決しなければならないものであり、具体的には公的空間と私的空間の連続性や居住性、住民の意識等、バリアフリーについて広範囲に考察することである。
 本研究では、岡崎市中心市街地のタウンモビリティについてバリアフリーからの視点で公的空間と私的空間の実態調査を行い、タウンモビリティの具現化への可能性を考察し、提案することを目的とする。


研究の方法

 最初に平成11年度愛知産業大学山田研究室卒業研究の基礎調査による高齢者の意識の把握と、近年実施された街のタウンモビリティ化の事例の調査を行い、その結果を基に具体策への方針を決める。 次に東康生通商店街、伝馬通商店街の15店舗を対象に店舗内の私的空間と、それが面している歩道等の公的空間について実態調査を行い、バリアフリー状況を把握する。その際、商店としてのサービス上のバリアフリーに対する店主の考え方についてもヒアリングを行う。公的外部空間については、伝馬通を対象に各街区毎に機能的側面でのバリアフリー度と安全性や安心感といった精神的側面に関わるバリアフリー度の実態調査を行う。さらに対象地区の道路について交通量、路上駐車の実態調査により、歩道等の公的オープンスペースの利用方法に関する可能性を分析する。
 以上の分析結果を基に中心市街地のバリアフリーに対する評価を行うと共に商店街のタウンモビリティに対応する街路利用法のイメージを提案する。

図1 タウンモビリティの仕組み


タウンモビリティの事例

 タウンモビリティは社会システムの一つとしてイギリス(サットン地区、キングストン地区、バートン地区)を中心にその取り組みが進められている。
 タウンモビリティとは電動スクーター(三輪・四輪で時速6キロメートル以下)、車椅子などを商店街に用意し、障害・病気・ケガ・高齢などのため常時または一時的にスムーズな移動が難しい人々に無料(一部有料)で提供し、ショッピングを含め街の諸施設を自由に利用できるサービスを提供するものである。日本でも多摩ニュータウンで試みられている。
 EUの高齢対策は、Healthy Aging(健康的に歳を重ねること)に重点が置かれ、単に介護保険を充実させることだけではない。その具体策は社会から孤立させないことで、そのためには、人が自由に移動や行動できる環境が不可欠とし、「やさしいまちづくり」や「公共交通機関や利用環境の整備、機器開発」に力を注いでいる。特に街づくりでは、中心街での歩行者空間の拡大が顕著に行われてきている。


関連調査

・高齢者の意識調査
昨年の基礎調査により高齢社会に最も重要なことは高齢者が自由に活動出来る場を提供することで、物質的な側面である複合情報インフラや余暇を楽しめるオープンスペース等の施設も必要であるが、それらをサポートする体勢がより必要であり、これらのことが、最終的には精神面におけるバリアを取り除くことにも繋がることが示された。

・交通実態調査
シビコ前、籠田公園前の交通量と路上駐車台数及び国道1号線について実態調査を行った。
交通量及び路上駐車台数の実態調査の結果、現在片側二車線ずつの計四車線ある道路だが、近くの店に出入りするための路上駐車の数が多く、それ程交通量も多くないために、片側一車線の計二車線で足りることが明らかになった。これらのことより、歩道拡張や部分的に短時間料金メーター付き駐車スペースを設けるといった、道路面の有効利用も視野に入れた改善策も可能であると考える。


岡崎市中心市街地のバリアフリー 

・バリアフリーの実態調査内容
東康生通商店街・伝馬通商店街の15店舗を対象に店舗内空間とそれが面している歩道空間について、ハートビル法の指標に沿った実態調査を行った。
店舗内空間では、主として車椅子の対応状況、支障となる段差の有無、出入口の状況、カウンターの高さ、駐車場、さらに店主のバリアフリーに対する意識について調査を行った。
また、歩道空間の調査では仕上げ、段差、車椅子の通行可能な広さ、駐車場、盲人ブロック、緑地スペース、トイレなどの項目について診断し、特に夜間歩道空間については、エリアを限定し詳細に夜間照度の調査を行った。

・店舗内空間におけるバリアフリー度
店舗内空間の調査においては、店舗自体建てられてから年数がたったものが多く、出入口が車いすでの通行に対応していない店舗等、全体的にバリアフリーの対策をしている店舗が少なく、これからの対策についても予定がないという回答が多数あった。
このことからも分かるように、店舗内のバリアフリーに対する意識はそれほど高いものではなく、現段階でその必要性があまり認識されてないのが実情である。

・歩道空間におけるバリアフリー度
歩道空間の調査では、歩面については部分的に破損が見られる箇所はあるものの、特に危険な箇所はなかった。しかし、身障者用の駐車スペースや身障者用を含んだトイレの設置はほとんどなく、休憩スペースについても少ないということが判明した。
全体的に通路としての整備は進んでいるものの居心地性といった視点ではまだ改良の余地があり、安心して楽しく散歩ができる空間として歩道空間を捉え直すことも必要である。

・夜間歩道空間におけるバリアフリー度
夜間照度は十分に配されてはいるが、照度差が大きいため高齢者には必ずしも優しい空間とは言えないのが実情である。
高齢者は、明・暗順応が一般の2倍程かかり、また、まぶしさも2倍程感じ取られるため、明るさの均一性が望まれるため、重視しなければならないのは、明るさの斑や眩しさが少ない照明計画であるといえる。

・総合的評価
総合的には、ハートビル法の適応度により物理的バリアフリーと居心地感により精神的バリアフリーを分析した結果、街全体としてのタウンモビリティに対する意識とそれに対応した環境が乏しく思われた。


結論

 以上の結果から高齢社会対策の一つとして、岡崎市中心市街地にタウンモビリティの導入を念頭にしたバリアフリーに関する環境整備を行うためには、まず最初に、街の住民に将来高まる高齢者対応の社会的意義を理解してもらい、街全体として共通の意識を持つことが最も重要な点である。
次に公的空間である歩道については、現段階での不備な点を部分的に修繕するだけではさほどの効果が得られない。
 そこで、交通量及び路上駐車台数の調査により、それぞれ1車線ずつを有効利用することにより街全体のタウンモビリティ化の試みの一つとして具体的に提案したものが図2である。

図2 東康生通利用形態提案断面図

 ここではそれぞれ1車線分を短時間対応のパーキングスペースとして確保し、その一部分を身障者用として整備する。また、交差点付近では右折レーンを設けることで車の流れを阻害しないようにし、レーンが増えない部分では歩道を拡幅し、椅子やテーブルそして水飲み場や緑地などを配備したストリートテラスとすることで、歩道空間の居心地といったアメニティを高めることができ、精神面におけるバリアフリー対策へと繋がると考える。
 夜間照明に関しては、フットライトにより足元を明るくし、空間全体を光源が直接目に入らないポール照明により柔らかい均質な明るさを供給することで、安全性と機能性を高める。
 また、駐車スペースを確保する際、高齢者が安全かつ安心して移動可能な段差無しのバリアフリー化を前提とした勾配で処理し、同時に一般生活インフラと高度情報インフラ及び雨水処理を総合的に整備し、電動スクーターや車椅子の貸出をする施設として街情報ステーションを位置付けることで、市街地のタウンモビリティ化への提案としている。



Copyright(C): 愛知産業大学山田研究室,S.S.I. All right reserved.