|
|
|
|
赤雪山登山口駐車場(653〜700)→稜線(735〜738)→赤雪山山頂(748〜752)→最初のピーク(759〜803)→皆沢分岐ピーク(819)→原仁田の頭(838)→祠のピーク(921〜928)→三角山(937)→仙人ヶ岳東峰(1011)→仙人ヶ岳山頂(1016〜1032)→仙人ヶ岳東峰(1036)→熊の分岐(1056)→知ノ岳(1110〜1116)→林道跡(1146)→砂防ダム(1155)→キャンプ場(1200)→赤雪山登山口駐車場(1220) |
今年の関東地方の梅雨入りは5月29日であった。平年より10日も早い。しかし、梅雨入り宣言とは裏腹に雨が降らない日々が続いている。今日も、暑さの厳しい晴天との予報である。ならば、山にでも出かけてみようか。
栃木県足利市の背後に広がる安蘇山塊に気になる山がある。赤雪山と仙人ヶ岳である。安蘇山塊の山の中では標高1位と2位になる山ではあるが、それでも標高は700メートルにも足りない低山である。しかし、「赤雪山」と言ういわくあり気なその山名は何となく気になる。2004年11月、安蘇山塊の深高山に登った。その際、登り上げた猪子峠の道標は北へ向う踏跡を「仙人ヶ岳」と標示していた。このときは、「深高山」と標示された南に続く踏跡を辿ったが、以来、仙人ヶ岳と更にその先に聳える赤雪山が気になっている。 調べてみると、赤雪山と仙人ヶ岳は開かれた扇のような形に尾根で結ばれており、その尾根上にはハイキングコースが開かれている。扇の要には松田川ダムがあり、このダムを起点に周回コースを採ることが出きる。季節的には視界も悪く、薮もはびこる時期ではあるが、ウツギやヤブアジサイ、ヤマボウシなどの花が見られるかも知れない。 早朝5時40分、車で家を出る。カーナビは目的地の松田川ダムまで49.7キロを標示している。1時間少々のドライブだろう。既に陽の登った空は真青に晴れ渡っている。今日も暑くなりそうである。熊谷、太田、足利と過ぎ、車は山懐へ入って行く。7時少し前、松田川ダムのダム湖畔の少々上部にある赤雪山登山口駐車場に到着した。家から約1時間15分のドライブであった。数10台駐車可能な立派な駐車場だが、車の姿は一台もない。朝、早すぎるのか、それともこの時期、この山に登る者などいないのかーーー。いずれにせよ、山は静かなようである。 支度を整え、ちょうど7時、出発する。道標に従い、駐車場の奥から続く登山道に入るが、道は夏草が繁茂し、今にも蛇が飛びだしそうで快適とは言いがたい。それでも100メートルも進むと、夏草は姿を消し、鬱蒼とした杉木立の中の小道となった。実に手入れのよい杉林で、全樹に見事な打ち枝がなされている。10分も進むと、沿うている小沢に「せせらぎの滝」、続いて「蛇尾の滝」の標示を見る。しかし、どう見ても滝とは言い難い小流である。 道は次第に傾斜を増し、階段整備された道となった。更に進むと、沿っていた小流もいつしか消え、道は沢源頭の急斜面をジグザグを切りながら登りだす。鬱蒼とした杉木立の中は陽の光も射さず薄暗い。物音一つせず静寂そのものである。ひたすら急登に耐える。高度はグイグイ上がる。7時35分、ついに稜線に達した。立派な道標が、稜線左方向を「赤雪山 0.2kM」、登り来し方向を「駐車場 1.1KM」と示している。そして稜線の右方向を「長石林道 1.5KM」と指し示している。名草巨石群から登ってくる赤雪山への昔からの登山道である。 道標に従い、稜線を左に向う。岩混じりの急登であるが、周りは明るい雑木林に変わり、陽の光がまぶしい。ほんの10分ほどの頑張りで、赤雪山山頂に達した。山頂は小広く開けた平坦地で、真ん中に三等三角点「赤雪」が頭を覗かせている。幾つかのベンチが置かれ、一角には四阿が建っている。当然誰もいない。一応周囲は開けているのだが、周りを囲む木々が邪魔をしてすっきりした展望は得られない。 朝から何も食べずにここまで登ってきた。ひと休みして握り飯を食べようと、荷物を下ろしたのだが、スズメバチと思える数匹の蜂が、周りをしつこく飛び回り激しく威嚇する。通常、蜂はいきなりは攻撃してこない。威嚇した後、それでも立ち去らないと攻撃に移る。巣が近くにあるのだろう、早々に立ち去ったほうがよさそうである。道標が北へ向う稜線上の踏跡を「仙人ヶ岳 4.2KM」と指し示している。 仙人ヶ岳に向けての縦走を開始する。雑木林に包まれた、明るい緩やかな尾根道が続く。ただし、時折蜘蛛の巣が顔にかかるのが鬱陶しい。私が今日最初の通過者である証拠である。次の穏やかなピークで小休止、改めて握り飯をほお張る。すぐに腰を上げて先を急ぐ。次の590メートルピークでルートは直角に左(西)に曲がる。ここにも立派な道標があり、「赤雪山 0.7KM」、「仙人ヶ岳 3.5KM」と標示し、右に続く弱い踏跡を「皆沢」と標示している。 幾つかの小ピークを越えながら緩やかな雑木林の尾根道を進む。すると、突如状況が一変した。尾根は痩せ、ものすごい急登が現れた。危険を感じるほどの急斜面である。立ち木に掴まり一歩一歩身体を引き上げる。小ピークに達し、ルートは直角に左(南)に曲がる。このピークは地図上の590メートル峰。標示はないが、「原仁田の頭」と呼ばれるらしい。ここにも立派な道標があり、来し方を「赤雪山 1.3KM」、左に曲がる尾根道を「仙人ヶ岳 2.9KM」と示し、右の潅木の中を下る弱々しい踏跡を「穴切峠」と標示している。 たどる尾根道は岩をまじえた急な上り下りの連続となる。一般ハイキングコースとしてはかなりのハイグレードである。「仙人ヶ岳 2.6KM」、「赤雪山 1.6KM」の道標を過ぎると視界が開け、初めて仙人ヶ岳が見えた。まだまだ距離がある。再び雑木林に包まれた痩せ尾根を辿る。「仙人ヶ岳 1.8KM」、「赤雪山2.4KM」の標示のあるピークを過ぎる。ようやく半分を越えた。しかし、未だ先は長い。山に入って以来、今日は人影を見ない。どうやら、山全て私の借り切りのようである。 小ピークに達すると小さな石の祠が安置されていた。小休止とし、握り飯をほお張る。木々の間から目指す仙人岳が見える。大分近づいた。もうワンピッチで行けるだろう。再び雑木林に包まれた痩せ尾根を辿る。凄まじい急な登りを経て顕著なビークに登り上げる。地図上の623メートル標高点ピークであろう。標示は何もないが「三角山」と呼ばれるらしい。狭い山頂は雑木林に包まれ、視界はまったくない。山頂に建つ道標が「仙人ヶ岳 1.3KM」、「赤雪山 2.9KM」と標示している。 大岩のあるピークを左から巻いて、「野山林道へ20分」と記された私製の小さな標識と左斜面を下る微かな踏跡を過ぎると、ものすごい急登が現れた。急な平斜面を小さなジグザグを切りながら真っ直ぐに上っていく。足をフラットにおいてもずり落ちる。おそらく、この斜面を登りきれば仙人ヶ岳だろう。そう思い、一歩一歩身体を引き上げる。 ようやく登り上げた山頂は、いかにも「山頂」という感じの平坦地で、まばらな木々の間にはベンチまで設置されている。「やれやれ、やっと到着したか」と思ったのも束の間、設置された立派な道標を見ると、「赤雪山 3.9KM」、「仙人ヶ岳 0.3KM」と標示され、更に左に続く確りした登山道を「仙人ヶ岳登山口」と指し示しているではないか。このピークは仙人ヶ岳山頂ではない。仙人ヶ岳東峰とも呼ばれるピークなのだ。そして「仙人ヶ岳登山口」と示されたルートこそ、帰路、私がたどるつもりのルートである。このピークは仙人ヶ岳山頂と間違えられることが多かったため、以前は「ここは山頂ではありません」との標示がなされていたとのことである。 今までとは打って変わった緩やかな尾根道をほんの5分ほど進むと、待望の仙人ヶ岳山頂に達した。万歳!である。山頂は雑木林に囲まれた小さな広ろがりで、三等三角点「朝日岳」が確認できる(仙人ヶ岳山頂の三角点名が「朝日岳」といのはどういう経緯なのだろう)。ザックを降ろし倒木に座り込む。この頂きも無人であった。今日はまだ誰とも会っていない。山頂は周りを木々に囲まれ、その間から北及び西にわずかに展望が得られる。ただし、この季節、空気は澄んでいない。山頂を通り越して更に先に進んでいる踏跡には「白葉峠へ」との小さな私製の道標が添えられている。ハードなバリエーションルートのはずである。 10時32分、いよいよ下山にかかる。仙人ヶ岳東峰まで戻り、道標に従い「仙人ヶ岳登山口」と示されたルートに入る。猪子峠に続く尾根道である。下りだすとすぐに登ってくる老夫婦に出会った。今日初めて出会う人影である。猪子峠から仙人ヶ岳往復とのこと、口ではヒィーヒィー言っているがたいしたものである。 周りの雰囲気が何となく変わってきた。どうやらこの辺りは大規模な山火事があったと見え、落葉広葉樹の森は姿を消し、根本の黒く焦げた松が目立つ。しかも、緑の葉をつけていないところを見ると枯れている気配である。山火事の跡がどこまでも続く。おかげで、視界が大きく開けた。左手には今朝方登った赤雪山がその全貌を初めて現した。そこから稜線が仙人岳へと続いている。 岩場もまじえた痩せ尾根をドンドン下っていくと「熊の分岐」に達した。二人連れの若者が休んでいた。ここで尾根は大きく二つに分かれる。どちらの尾根にも確りした登山道が開かれている。私は左の猪子峠に続くルートを選択する。右の尾根は岩切登山口に通じている。更に15分も痩せ尾根を下ると小さな岩峰に到着した。標示はないが、地図上の561メートル標高点ピークのはずである。「知ノ岳」とも呼ばれているらしい。この岩峰からは今日最高の展望が得られる。目の前には赤雪山を盛り上げている山稜が連なり、眼下には豊に水を湛えた松田川ダム湖がみえる。これからあそこまで下らなければならない。 荷物を下ろし、仙人ヶ岳以来初めての休憩を取っていたら、単独行の男性が登ってきた。聞けば、バスでやってきて、猪子峠から登ってきた由。帰りは熊の分岐から岩切登山口に下る予定とのこと。「バスの便が少ないでしょう」と言うと、「帰りのバスは2時台と5時台の二本きりないんでーーー」と笑っている。なかなかの猛者である。 さて、私もここで下山ルートを決めなければならない。考えている案は二つ。一つは、このまま尾根上の登山道を終点・猪子峠まで辿り、そこから車道を延々と歩いて松田川ダム湖畔の駐車場に戻る案である。二つ目は、このピークからバリエーションルートである微かな踏跡を追って、直接湖畔に下る案である。直接下るバリエーションルートの存在は調べてある。現に、ピークの隅には「松田川ダムへ」と標示した私製の小さな道標と、薮の中を下っていく微かな踏跡が確認できる。 第二案で下山することとし、薮の中の踏跡に飛び込む。微かに尾根状の地形とはなっているが、一気に雪崩れ落ちる急斜面である。山火事で雑木林が焼失し、その跡に発達した潅木の薮が一面に覆っている。道標はおろか赤テープもないが、踏跡は何とか確認できる。斜面をズリ降りた後、小さな岩峰に辿り着く。この辺りは岩も露出しており、ルートはわかりにくい。小さな手製の道標が薮の中に隠れるようにあり、右の急斜面を下るように指示している。ルート上の唯一の道標であり、この道標を見つけられないと、途方に暮れることになる。 潅木と萱との中の逆さ落としのような急斜面をずり落ちる。もはや歩くという感覚ではない。このルートに入って以来、人の気配はまったくない。知ノ岳を出発してから緊張を強いられる下りを続けること約30分、林道の跡と思える地形に下り着いた。今は使われていないようだが、幅3メートルほどの草深い緩やかな林道跡が続いている。大きくジグザグを切って緩やかに下っていくと沢に出た。砂防ダムが続けて二つ現れ、それを乗り越えて下ると、ついにダム湖畔のキャンプ場に下り立った。無事の下山である。やれやれーーー。今日、山中で出会った生き物は蜂と蟻と蜘蛛、それに人間5人のみであった。期待していた花が皆無というのは残念であった。 湖畔の道をテクテク歩いて駐車場に向う。さすがに暑い。帰宅後知るのだが、今日は今年最高の暑さで、熊谷の気温は31.7度、全国最高温度であった。12時20分、無事愛車に辿り着いた。駐車場には我が愛車ともう1台の2台のみ駐車していた。
登りついた頂
|