長九郎山シャクナゲの名山はウツギとツツジが花盛り |
1997年5月18日 |
アマギシャクナゲ
大沢温泉(630)→富貴野分岐(845〜850)→八瀬峠(910〜915)→長九郎山(950〜1010)→諸坪峠分岐(1020〜1025)→第一林道(1035)→第二林道(1050)→第三林道(1115〜1120)→池代集落(1200)→大沢温泉(1235) |
「山がピンクに染まるんだから。それはすごかった」。ゴールデンウィークにご夫婦で岩岳山に赤ヤシオを見に行ったHさんの報告である。今年は花の時期が例年より10日ばかり早いようである。4月末から6月いっぱいにかけて、静岡の山々はどこも花盛りとなる。各種のツツジ、シャクナゲ、ウツギ、ヤマボウシーーーー。 長九郎山のシャクナゲも今が見頃であろう。この山は天城山とともにアマギシャクナゲで有名である。登るならこの時期と満を持していた。
早朝4時25分車で出発する。この山は伊豆半島も南部にあり、静岡から日帰りとなるといささか遠い。湯ヶ島から船原峠を越えて西海岸の土肥へ。さらに春霞の海を見ながら海岸ぞいの道をひたすら南下する。松崎から今度は内陸に入り、出発してから2時間、池代川沿いの雛びた温泉場・大沢温泉に着いた。ここが長九郎山の登山基地である。公衆浴場となっている露天風呂の前で車を止める。帰りにひと風呂浴びるつもりである。立派な登山案内板があり、登山道入り口はすぐわかった。照葉樹林の欝蒼とした森の中を登っていく。樹林の中は薄暗く、羽虫が跳びかい陰気である。まるでジャングルの中のようであまり気持ちのよい道ではない。それでも、この道は昔からの登山道であり道型はしっかりしている。しかし、最近は中腹を走る林道を利用して手軽に山頂を往復するものが多いらしい。下から登れば3時間だが、林道を車で登ればわずか40分で山頂に立てる。 登山道の要所要所には松崎町の整備した立派な道標があり、おまけに昨日草刈りをしたようである。木々の隙間から右側にゆったりした山容の山がひときわ目立つ。地図で調べてみると婆娑羅山である。この山は前々から気になっているのだが、登山ルートがいまだわからない。しばらく登ると照葉樹のジャングルも薄れ、新緑の美しい広葉樹の林に変わる。途端にウツギの白い可愛らしい花が道一杯に現われる。さらにガクウツギの白い花、ヤブウツギの紫の花、ヤマツツジの煉瓦色の花が山道を飾る。まさに期待した通り山は花の季節である。緩く、きつく登っていく。所々左側に展望が開け、松崎の町並とその先に広がる駿河湾が見える。ただし、春霞みは濃く、海と空との区別もつかない。大野山を左から巻き、稜線に戻ると、ヤマツツジの群生地となった。林が煉瓦色に染まり、実に見事である。思わず歓声を上げる。鶯が盛んに鳴いている。 急な上下を2〜3回繰り返すと、確りした山道が左から合流し、そのすぐ先が富貴野山分岐であった。ベンチと灰皿が設置されているので一休みとする。さらに立派となった道は水平な巻道となった。池城集落への道を見送り、沢を横切り、20分も進むと林道に出た。この地点を八瀬峠というらしい。ここからいよいよ長九郎山への最後の行程である。樹相が変わり、欝蒼としたアセビの森となる。如何にも伊豆らしい自然林である。そこを抜けると明るい雑木林となり、待望のシャクナゲが現われる。ところが、まったく花がついていない。一つぐらいはと思うのだが、どの木も蕾すらない。代わりに、何と!ドウダンツツジが群生している。真赤なかわいらしい花が、びっしりと枝から垂れ下がっている。まさかここでドウダンツツジに出会えるとは思わなかった。この花は庭木としては有名であるが自生は少ないと聞く。静岡県では千葉山のドウダン原が自生地として名高い。それにしてもこの山のセールスポイントであるシャクナゲが一つも咲いていない。一体どうなっているのだ。山頂直下を巻く遊歩道と分かれて山頂への道に踏み込む。あった!。ついにシャクナゲの花に出会えた。ピンクの大柄の花が、原生林の中にぽつんぽつんと咲いている。 すぐに山頂に達した。山頂はアセビなどの灌木の密生する林の中で展望はないが、10メートルはある鉄製の展望台が設置されている。上でにぎやかな人声がする。昇ってみると、4人づれが弁当を広げていた。「早いですねぇ」というと、「地元なもんで、林道を車で登ってわずか40分だから。大沢温泉から登ってくるとは珍しい」と聞き取りづらい伊豆訛りでいわれた。展望台からの視界はまさに360度。天気さえよければ伊豆七島まで見えるという。残念ながら今日の視界は最悪。ぼけた視界の先に伊豆の山々が緩やかにうねっている。すぐ目の前の天城山でさえ空に解け込んでいる。それでも富士山が微かに確認できる。すぐ目の下には緑の原生林が広がり、その中に点々とシャクナゲのピンクが混ざる。今年はシャクナゲの花芽が少なく、山頂付近にわずかに咲いた程度であったようである。 昼食後、下山に移る。帰路は池城集落へ下るつもりである。山頂をそのまま横切りわずかに下ると、山頂を巻いてきた遊歩道に出会う。もうシャクナゲはない。岩の露出した道を巻き気味に下ると、すぐに三叉路に達した。下山路は右に直角に折れて下に向かうのだが、まっすぐ進む踏み跡が気になる。偵察を兼ね少し踏み込んでみると、私製の小さな道標があり、「諸坪峠、白川峠」と示している。この踏み跡が諸坪峠を経て猿山、天城山に続く縦走路なのだ。まともな踏み跡はないと聞いているがいつか辿ってみたいルートである。ようやく何組かの登山者と擦れ違う。「シャクナゲは咲いていますか」「少ないですねぇ」。ここではこの会話が挨拶代りである。石のごろごろする伐採跡の荒れた道を下ると林道に出た。数台の車が駐車している。登山者のものだ。林道を5分ほど下り、再び山道に入る。明るい道だ。道端にはウツギの白い花が咲き誇っている。林道を一本横切りさらに下る。この林道にも数台の車が止められていた。何組もの登山者と擦れ違う。シャクナゲのこの時期、長九郎山が唯一にぎわうときである。やがて持草川源流にそった道となる。いくつもの山葵田が現われる。舗装された林道に下りたった。後はこの林道を池城集落までひたすら歩くことになる。相変わらず道の両側はウツギが満開である。まだ首の回りが黄色いヤマカガシの赤ちゃんがよちよち這っている。途中林道をショートカットして、ちょうど正午、池城集落に下り着いた。さらにバス道路を35分歩き、我が愛車に辿り着く。シャクナゲは少なかったが、各種のツツジ、各種のウツギの花が満開で、期待通りの山行きであった。道も実によく整備されており、二万五千図を見ることもなかった。長九郎山はよい山である。 楽しみにしていた露天風呂で汗を流す。谷川ぞいの木の葉が浮く風呂はまさに期待通りの野趣豊かなものであった。おまけに混浴とはーーーーー。 |