八高山から大日山へ(1)スズタケの密叢にルート発見できず |
1998年1月31日 |
福用駅(720〜725)→白光神社(730)→支尾根(740〜745)→尾根合流点(830)→分岐(840〜845)→林道(850)→馬王平(905)→八高山(945〜1010)→カザンタオ峠(1100〜1105)→川根山(1145〜1150)→鞍部(1200)→703m峰(1245)→林道明ヶ島線(1305〜1310)→693m峰→林道明ヶ島線(1445〜1450)→切山集落(1535)→家山駅(1624〜1653) |
大井川右岸稜の一等三角点の山・八高山は平成8年11月に経塚山から縦走して山頂に達した。今日は八高山から右岸稜を北上して大日山まで縦走するつもりである。大日山は大日山金剛院の拠る修験の山である。山稜上に踏み跡があればよいのだが、藪漕ぎと地図読みに神経を使うハードな縦走になりそうである。
金谷発7時の大井川鉄道に乗る。無人駅の福用で降りたのは私一人であった。八高山へはこの福用集落からがメイン登山道である。駅前に金谷観光協会の立派な道標があり、八高山まではルートの心配はなさそうである。風は強いが、空は真っ青に晴れ渡り雲一つない。県道を50メートルほど北へ進み、高熊公民館のところで道標に従い左折する。茶畑の中を100メートルほど進むと白光神社に突き当たる。神社に今日の無事をお祈りして左折する。犬の散歩中の若い娘さんが丁寧に挨拶する。朝から気持ちがよい。すぐに登山口に着いた。集落背後にそそり立つ崖をよじ登る。竹林と雑木林の中の急登である。約10分で支稜に登り上げた。右側直下に林道が開削中である。あとはこの支稜を辿ることになる。風が上空でうなり声を上げている。 痩せた支稜を登っていくと尾根が緩んで茶畑が現われる。さらに、急登となった尾根をぐいぐい登る。やがて杉檜の欝蒼とした広々とした尾根に達した。八高山から東に延びる大きな尾根である。日の光も届かず気味の悪いほど薄暗い。この辺りは天竜美林で有名な杉の産地である。ほとんど傾斜のない広々した尾根を右側を巻きながら進むと放置された茶畑に出る。樹高5メートルものまさに茶林である。ここで福用集落からのもう一本のルートが合流する。日向に腰を下ろし小休止とする。この冬は暖冬であるが、今日も暖かい。すぐに地図には記載されていない地道の林道に出た。尾根の右を絡みながら林道を進むと左から見覚えのある微かな踏み跡が合流する。以前歩いた経塚山からのルートである。すぐに林道の三叉路となる馬王平に出た。そのまま八高山への最後の登りに入る。欝蒼とした杉林の中の急登である。山頂まで30分ほどだが、前回は空腹も重なりかなりばてた。電波反射板でちょうど半分、さらに登ると山頂直下の白光神社に達した。この地点から大井川右岸稜は粟ヶ岳へと続いている。2週間前、粟ヶ岳からこの稜線を北上したが、八高山までは達することはできなかった。いつか辿ることもあろうかとルートを探ってみると、道標も赤テープもないが、微かな踏み跡が確認できた。 ひと登りすると、待望の八高山山頂に達した。誰もいない。今日は八高山を借切である。期待通り、東から北にかけて大展望が開けている。ザックを放り投げてまずは山座同定である。見つめるほどに次第に幾重にも重なる山々が解きほぐされてくる。一番左の台形状の顕著な山は前黒法師岳。その右の大きな山は一目で大無間山と同定できる。朝日岳の三角錐はその前に重なっている。右端には五合目まで真っ白に染まった富士山が真っ青な空を背景に悠然とそそり立っている。その左に長々とスカイラインを切り裂く山並みは安倍東山稜のはず。各々の山の頂は白く染まっている。微かな凹凸を頼りに同定を試みる。竜爪山、真富士山、十枚山が確認できた。そうすると、はるか奥の山頂部が平らで左側が急速に落ち込んでいる山が山伏か。足元には大井川を挟んで志太山地の特徴のない山並みが幾重にも重なっている。その中でさすが主峰の高根山だけは一目で確認できる。あの山は何だ! 山伏の右手前に安倍東山稜を突き抜けて大きく盛り上がっている三角形の山。実にかっこいい。あんなかっこいい山が安倍奥にあったっけ。頭の中で地図をこね回す。七つ峰だ! 安倍西山稜の主峰・七つ峰ではないか。七つ峰に改めて惚れ直す。見えるはずの南アルプスのジャイアンツは押し寄せる雪雲に隠されている。山頂の反対側は雑木が邪魔して展望はよくないが、それでも2週間前に登った粟ヶ岳と岳山が確認できる。その右には掛川の街並が広がっている。山座同定にひと区切りつけ、備え付けのベンチに座って握り飯を頬張る。風が強くさすがに寒い。 ここからいよいよ大井川右岸稜の縦走開始である。ただし、しばらくは勝手知ったハイキングコースである。小さな上下を二度ほど経て、所々ザイルの張られた急な下りに入る。滑りやすく嫌なところだ。左足の踏ん張りが利かないので慎重に下る。鞍部に下って樹林の中のトラバース道に入る。道は崩れ落ちる土砂で所々埋まっており危険である。ピークを二つほど巻いて、馬王平から八高山の中腹を巻いてきた林道に出る。突然後ろから大きな声が掛かった。振り向くと一人のハイカーが近づいて来て「家山へはどう行ったらいいのか」と尋ねる。馬王平からこの林道を歩いてきたようだ。すぐに林道の三叉路となったカザンタオ峠に出た。ハイキングコースはここから家山へと林道を下って行く。いよいよ道なき稜線の縦走開始である。どこまで行けるやら。峠に案内板があり、次の753.3メートル三角点峰を「川根山」と記している。地図に山名の記載はないが、顕著なピークであり、何か名前がありそうだと思っていたが。 林道から稜線に這い上がり、川根山を目指す。入口は藪が濃かったが、樹林の中の登りに入ると微かに踏み跡らしき痕跡が認められる。相当な急登で左足首が痛み出す。山頂部の一角に登り上げた。ここでルートは右に曲がる。この山の山頂部は細長く、その北東の端に三角点がある。ところが微かな踏み跡はここで絶え、ものすごいスズタケの密叢に阻まれた。どこから取り付いていいものやら。しばし右往左往したが、覚悟を決めて藪に飛び込む。稜線は明確でルートの心配はないが、この藪が続くとなるととても大日山までは行けない。スズタケの中に所々灌木が混じるのでよけい始末が悪い。悪戦苦闘をしばし続けると、樹林の中に入ってスズタケは消えた。やれやれである。すぐに三角点に達した。山頂は杉檜の樹林の中で、山頂標示もなく人の登った形跡はない。 アセビの目立つ下りに入ると、稜線上には確りした踏み跡が現われた。左側がまだ若い植林地で八高山では見えなかった黒法師岳が見える。鞍部に下ると、椎茸のホダギが積まれ、確りした山道が乗っ越していた。地図に破線が記されている道だろう。左足首がますます痛み出したので、よほどここから下ろうかと思ったが、思い返して次の約700メートル峰を目指す。幸いにも尾根上の踏み跡は続いている。やがて尾根筋が消え、同時に踏み跡も消えて、欝蒼とした杉檜林の中の山頂に達した。広々としていて、どこが山頂かも定かでない。ここで右に直角に曲がるはずのルートが発見できない。スズタケの藪の中に微かな切り開きを見つけしばらく辿ってみたが、どうも方向が違う。戻って、地図とコンパスをにらみながらルートを探る。ようやく目指す方向に踏み跡を見つけ、次の703メートル標高点峰を目指す。この辺りは尾根筋もはっきりせず、ルートを辿るのは神業的となる。 踏み跡は次第にはっきりし、703メートル峰に達する。ところがこの山頂部は実に地形が複雑で、小さなピークがいくつもあり、二万五千図もこの地形を捕え切っていない。辿ってきた尾根筋はこのまままっすぐ北東に向かっており、踏み跡もこの尾根に添っている。しかし、大日山へのルートはここで左に直角に曲がらなければならない。しばし右往左往するが、周りはスズタケと灌木の藪でとてもルートは発見できない。仕方なく、方向のみを確認して進むと沢の源流に出てしまった。この沢を下ることにする。下り切った鞍部を林道が横切っており、この林道に突き当たるはずである。迷っても沢は下るなと言われているが、現在位置は確認できており危険はないだろう。水のちょろちょろ流れる沢を下ると悪場もなく目的の林道に達した。達した場所は目的の鞍部からほんの20メートルほどのところであった。舗装された真新しい林道で「林道明ヶ島線」との標示がある。 時刻はすでに1時、このまま無事に大日山まで行けても2時間、そこから家山駅までさらに2時間、時間切れが濃厚である。この林道を家山に下るのが正解だが、少々意地がある。幸い、鞍部から稜線に登る確りした踏み跡が確認できる。小峰を越すと右側が伐採地となり、久しぶりに展望が開けた。黒法師岳、前黒法師岳、大無間山がぼやけだした視界の先に浮かんでいる。目指す大日山が目の前に初めてその姿を現した。道さえあればひとっ飛びなのだが。下った鞍部では伐採材の積み出し作業をしていた。残念ながら、踏み跡もここまでであった。微かな気配を辿って次の693メートル峰を登る。間伐材があちこち放置されていて、いたって歩きにくい。山頂部手前でものすごいスズタケの密叢に行く手を阻まれた。どうにもルートが取れない。無理を承知で強引に一番高いと思われる地点まで行ってみたが、ただスズタケの密叢の中に孤立するだけであった。戻って、スズタケの薄いところを拾って左から巻き気味に進んでみる。尾根状のところに出てしばらく進んでみるが、どうも方向が違う。再び戻る。ただし、一面のスズタケの中、視界もまったく利かず、元の場所にも戻るのも右往左往である。一瞬ヤバイと危険を感じる。なんとか無事もとの地点に戻った。もはや時間切れ、明ヶ島林道を下ることを決意する。しかし、なんとかルートだけでも発見しておきたい。歩けるとしたら右から巻く以外にはなさそうである。再度這いずり回ってみたが、徒労であった。 左足首の痛みと、悔しさを胸に林道まで引き返す。藪山の天才をもってしてもルートが発見できないとは。この復讐は日を改めてだ。ひたすら林道を歩く。コストパフォーマンスを考えればこんな立派な林道が必要なのだろうか。ブサクサ言いながら足の痛みを紛らわす。山上集落である切山に達する。集落の周りは茶畑である。ここは川根茶の本場、どの家も豊かそうである。はるか下に家山の街並が見える。大井川鉄道ぞいの駅はどこもバスもタクシーも一切ない。ただ歩く以外ないのだ。家山川を渡り家山の街並を横切り、辺りが薄暗くなりかける頃、ようやく家山駅に到着した。 |