大雪山系 銀泉台から赤岳往復 

 痛い足をかばいながら復帰第一戦

2011年9月20日

              

赤岳山頂より北鎮岳を望む
 
銀泉台←→コマクサ平←→赤岳山頂

 
 昨年8月、中国敦煌で足を骨折した。以来リハビリに励んできたが、未だ走ることも長距離歩行も不可能な状態にある。そんな中、例年通りHさんから北海道大雪山系登山のお誘いが来た。Tさんも一緒とのことである。「登山はちょっと無理」と回答するも「運転手としてでもいいから来いよ」との優しい誘いである。覚悟を決めて行くことにした。だめなら途中で一人だけ引き返せば、パーティに大きな迷惑をかけずにすむだろう。
 
 夜明け前の朝4時半、旭川を車で出発する。今日の予定は銀泉台から赤岳登頂である。私の足の調子が良ければ、さらに小泉岳→白雲岳→緑岳と縦走して高原山荘へ下る縦走も可能である。夜の明けかけた層雲峡を経て大雪湖湖畔の登山バス発着場に向う。この時期、赤岳の登山基地である銀泉台への自家用車の乗り入れは規制されており、代わりに麓の大雪湖湖畔から銀泉台行きシャトルバスが頻発する。5時55分、湖畔のバス発着場着。6時の始発のバスに間に合った。すでに数十人の登山者が詰めかけており、1台には乗りきれず、バスは2台発車した。
 
 40分ほどで銀泉台着。ここは2年ぶりである。1昨年の9月、今回と同じコースで赤岳を目指したが生憎吹雪きの吹き荒れる荒天、第三雪渓で登頂を諦め逃げ帰った。今日はそのリベンジでもある。支度を整え、入山届を提出して登り始める。足首に未だ痛みもあり、早くは歩けないので、私が先頭を歩かせてもらう。果たして山頂まで行き着けることやら。2台のバスでやってきた70〜80人がほぼ同時に登り始めるので登山道は大賑わいである。ただし、私のせいで、我がパーティの歩みが最も遅い。次から次へと抜かれる一方である。それでも、立ち止まることもなく、着実に高度を上げていく。
 
 登るに従い、背後に東大雪の山並みが高さを増してくる。ただし、未知の山域ゆえ、山名は同定できない。右側、谷を挟んだ向こう側の斜面が鮮やかに赤と黄色に染まっている。日本一早い大雪山の紅葉である。天気は時々薄日の差す高曇で無風である。ただし、さすが9月下旬の大雪山系、寒さはそれなりに厳しい。到るところ霜柱が見られ、水溜まりには薄氷が張っている。
 
 短い幾つかの急登を経、森林限界を超えると、這松に覆われた高原状の地形に登り上げる。「コマクサ平 1842メートル」との標示がある。おそらく、夏には駒草の群生が見られるのだろう。ひと息入れるのにちょうどよい所である。空気がますます冷たくなり、セーターの上にヤッケを羽織る。上方に大きく視界が開けているが山頂は見えない。
 
 岩の間を縫うように緩やかに登って行く。小鳥のさえずりにも似たナキウサギの声があちこちから聞こえる。高原状の地形が尽き、第三雪渓の急登に掛かる。長い急峻な登りで、赤岳登山道最大の難所である。ゆっくりゆっくり着実に登って行く。足は少々痛いが、苦しくはない。久しぶりの山登りにしては調子は良いようだ。左側の谷を隔てた斜面の紅葉が素晴らしい。時々薄日の差す薄曇りだが、視界はいたって良好である。2年前には、激しい風雪のためこの辺りで登頂を断念した。
 
 第三雪渓の急登を登りきると再び緩やかにうねる高原状の地形が現れる。ただし、その先には急峻な登りが待ちかまえている。このルートの最後の難所となる第四雪渓である。両側は色鮮やかな紅葉に染まっている。もはや全ての人に抜け去られたとみえ、後方からやってくる登山者もいない。ゆっくりゆっくり最後の急登に耐える。登りきると、目の前が大きく開けた。緩やかな草原状の広がりの先に、巨石の積み重なった小ピークが見える。多くの人々が休んでいる。赤岳山頂である。時刻は10時少し前、約3時間の登り行程であった。
 
 到着した頂はいたって山頂らしからぬ場所である。ピークともいえぬわずかな高まりで、巨岩が積み重なっている。ただし、その巨岩の上には登れない。また、目の前から小泉岳に続く砂礫の斜面が続いており、この山頂はその斜面上の小さな瘤としかみえない。それでも北東側に大きく展望が開けていて、大雪山系の核心部を眺めることが出きる。左端に主峰・旭岳が聳え、右に向って間宮岳、北海岳、北鎮岳と続き、右端に凌雲岳がみえる。腰を下ろして握り飯をほお張る。第三雪渓から抜きつ抜かれつして登ってきた単独行の若い女性が「一緒に写真を撮りましょう」と誘う。喜んで一緒にカメラに収まる。
 
 この赤岳山頂でひと休みしたパーティの大部分が、小泉岳に続く斜面を登って行く。いずれも白雲岳や緑岳に向うようである。さて。我々はどうしよう。問題は私の足である。思ったよりも調子が良く、ここまでは登ってきた。白雲岳まで行っていけぬことはなさそうであるが、下山に自信がない。場合によってはパートナーに迷惑をかけそうである。私の気持ちを察して、Hさんが「このまま下ろう」と言ってくれた。
 
 10時30分、下山に掛かる。ともに登ってきたパーティのほとんどは小泉岳へ向ってしまったし、新たに登ってくるパーティもほとんどない。紅葉を愛でながらのんびり下る。陽が陰ると空気の冷たさが実感される。ここは2000メートルほどの高地なのだと思い知る。大きなカメラを三脚につけた人々があちこちに陣取っている。紅葉を撮りに来たアマチアカメラマンである。登山者ではないので頂に登る気はないようである。銀泉平が近づくと紅葉を見にやって来た観光客の姿が目立つようになる。下りは意外に時間が掛かった。13時過ぎ、無事に銀泉平に下り着いた。 
 

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