大雪山系 沼ノ原から五色岳へ

 広大なお花畑の中を

2008年7月20日

              
 
クチャンベツ登山口←→沼ノ原←→五色ヶ原←→五色岳

 
 未明の3時半、高原ホテルを発つ。クチャンベツ川に沿った地道の林道を走る程に次第に夜が明けてくる。嬉しいことに晴天である。30〜40分走り、登山口に到着した。意外にも、駐車場には既に数10台の車が並び、どうやら山は大賑わいの様子である。

 支度を整え、4時20分出発。薄暗い林の中を5分も歩くと、クチャンベツ川の徒渉地点に出る。以前あった橋は流されてしまったとのことで、幅10メートルほどの川を徒渉することになる。昨日の雨のせいか、水量は意外に多い。4人無事に渡るが、スニーカーは内部まで水がジャブジャブである。またすぐに沢に突き当たる。今度は丸太が一本渡されている。3人は微妙なバランスをとりながら渡るが、Gさんは丸太に跨がってしまった。

 えぐれて沢と化した登山道を登って行く。道の状況は昨日よりも大分悪い。スニーカーは明らかに失敗で、既に泥んこである。登山道は次第に傾斜を増し、かつまた塹壕のごとく深くえぐれてくる。滑りやすい淵を歩いたり、足を濡らしながら水流の中を歩いたり、かなり歩きにくい。やがて、凄まじい急登となった。沢とも登山道ともつかないえぐれた溝の中の直登である。木の根、岩角を掴んで身体を引き上げる。浮き石が多く足場に注意が必要である。

 この難所を抜けると、地形はがらりと変わる。笹の密生した広大な台地が現れた。敷かれ木道がを緩やかに登って行くと、広々と開けた湿地帯が現れた。沼ノ原である。視界が大きく開け、彼方に懐かしいトムラウシ山が朝日に輝いている。豊富な残雪をまとったその姿は神々しいまでに美しい。出発から既に1時間半も歩き続けているのだが、先頭に立つHさんは一向に休む気配を見せない。Gさんがしびれを切らして「朝食を食べさせてくれぇ」と訴えた。沼ノ原分岐でようやく小休止、熊笹の密叢の中に石狩岳方面へのルートが微かに確認できる。

 湿原の中に木道がどこまでも続く。しかも、湿原には花はまったくない。規模は大きいが、余り情緒のない湿原である。大沼を左に見て、さらに進むと下りとなる。下りきったところからの登りがまた非常に悪い。水流でえぐれた恐ろしく急な溝のような登山道で、しかも、ひどいぬかるみである。泥んこになって登りきると、傾斜が緩み、篠竹の中の雑然とした道となる。到るところ泥濘だらけで気が滅入る。

 緩やかに登って行くと、景色は一変した。這松で縁取られた草原が次から次と現れだす。草原はただ一面のお花畑でその中を木道が貫く。まさに別世界の趣である。ついに大雪山系の桃源郷・五色ヶ原の一角に達したのだ。咲き乱れる花々の中を進む。ゆっくりと花々を愛でたいのだが、Hさんは相変わらず速度を緩めることもなく、すたすたと先頭を進んでいく。所々残雪も現れる。幾つめかの草原を過ぎると緩やかに流れる小川の辺に出る。ひと休みするにうってつけの場所なのだが、先頭を歩くHさんは遥か先を行ってしまい姿も見えない。私は左足首の古傷が痛みだし一人遅れがちである。

 しばらく進むと、TさんとGさんが休んでいた。もう2時間も歩き続けており、Hさんは一人先へ行ってしまったので、勝手に休んでいるとのこと。私も一緒に腰を下ろす。もはやパーティーの態をなしていない。するとTさんが上から戻ってきた。「あまり来ないので心配して戻ってきた」とのこと。

 促されてさらに1時間近く歩く。足もとが泥んこの這松の林にを抜けると、目の前に広大な緩斜面が現れた。斜面はただ一面のお花畑である。その中を一筋の木道が遥か彼方に見える頂上と思えるピークに向かって延々と続いている。Tさんはまたもや先に行ってしまっている。3人で木道に座り込んでしまった。「もう、あんな遠くまで行く気はないなぁ」「ここで待っていれば、Hさんが一人山頂往復して帰ってくるだろう」。しばしブツブツ言っていたが、「もうちょっとだけ行ってみよう」と少し登るとTさんが待っていた。「あまり来ないので弁当を食べ終わった」と笑っている。「山頂までもう30分」の言葉に励まされて重い腰を上げる。

 9時30分、ついに山頂に達した。登山口からちょうど5時間掛かったが、案内書では6時間30分となっているからめちゃくちゃ遅かったわけでもなさそうである。山頂からの展望は実によいのだが、朝方あれほど晴れ渡っていて空も、湧き上がった雲がいつしか周囲の山々を覆い隠している。それでも、眼下に広がるお花畑となった草原が北の台地の魅力を充分に実感させてくれる。山頂には化雲岳方面から、忠別岳方面から、大きな荷物を背負った縦走者たちが次々とやって来る。三連休のもと、北の台地は大賑わいである。

 ようやく朝食兼昼食にありつき、10時、下山を開始する。下りとなると、足首がさらに痛み、まともに歩けない。「1時間歩いたら待っていてくれ」と頼んで、一人遅れてゆっくりと歩く。この時間になると、下から多くの登山者が上ってくる。いずれも、忠別小屋泊まりだという。今晩小屋は満員であろう。三ピッチで沼ノ原まで何とか戻った。そろそろ足も限界だが、最大の難所、いやなガレ場の急降下が待っている。何とか下りきり、14時30分、泥んことなって仲間の待つ登山口に下りついた。いささか歳を感じる登山であった。