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大雪高原温泉←→緑岳←→小泉岳←→白雲岳 |
Hさんから「大雪山へ行こう」と久しぶりに声がかかった。Hさんはここ数年精力的に大雪山系の山々を登り続けている様子。一方、私は最近、もっぱら海外放浪の旅ばかり、山登りはとんとご無沙汰である。しかし、ここは受けて立たざるを得ない。「ヒマラヤを踏破した身にとっては、逃げるわけには行きません」と回答しておいた。今回の登山には
TさんとGさんも参加するという。Tさん70歳、Hさん67歳、Gさん66歳、私が64歳、典型的な老人パーティである。
18日、どこの山に登るとも聞かされないまま、支度を整え、指定された羽田空港に赴く。聞けば、明日は白雲岳、明後日は五色岳に登るという。かなりハードなルートであるが、さぞかしお花畑がきれいであろう。 19日、早朝4時過ぎに宿泊先の旭川を車で出発、一路登山口の大雪高原温泉を目指す。高速道路を快調に進むが、何と、途中から雨が降りだしたではないか。せっかくの山行なのにーーー。心も暗くなってくる。6時過ぎ、目指す登山口に着く。温泉ホテル前の駐車場には既に20〜30台の車が駐車している。雨はますます強まり、篠突く豪雨である。しかし、Hさんは怯むことなく、雨具を付けて黙々と出発の準備を始める。私としても「しばらく様子を見よう」とも言い出せない。この雨の中いったいどこまで行けることやら。周囲の登山者はいずれも出発を見合わせている。 Hさんはさっさと登山届を提出しに行く。用紙には目的地として「お花畑」「緑岳」「白雲岳」が印刷されているのだが、躊躇することなく「白雲岳」に○を付けている。係りの人は「白雲岳までですかぁーーー」と我々の顔を見比べ、「豪雨の中、この老人パーティ大丈夫かいな」と言外に言っている。 6時20分、Hさんを先頭に出発。いきなり「お花畑」に向けての約300メートルの樹林の中の急登である。登山道は沢と化しているが、雨中の行進は意外にはかどる。約1時間で「第一お花畑」に登り上げた。その瞬間景色は一変する。緩やかにうねる大地は広大な草原となり、百花繚乱のお花畑が出現した。白いチングルマが一面に咲き誇り、その中に赤黄青の花々が混じる。第一級のお花畑である。ひと休みする。幸い、雨も小降りとなってきた。 草原の中の平坦な道を進む。お花畑の中の何とも気持ちのよい道である。雨が止んだ。「第二お花畑」を過ぎると、雪渓を横切りエイコノ沢上部の崩壊地の通過となる。かなりの悪場で、設置されたザイルを頼りに恐々通過すると、這松帶に入る。傾斜は緩やかだが両側からせり出す這松がうるさい。深くえぐれた登山道は完全に沢と化している。スニーカーは既に内部までびしょびしょである。こんなことなら軽登山靴を履いてくればよかった。 「第一お花畑」から約1時間歩いて、緑岳の基部に達した。いよいよこのルート最大の難所、緑岳山頂までの大急登が始まる。標高差約250メート、途中休み場所とてない約1時間の登りである。大石のごろごろした急斜面を黙々と登る。雨は止んだものの視界は一切ない。例によってHさんはすたすたと先に行ってしまう。9時過ぎ、ようやく山頂に達した。誰もいない。高原温泉を出発して以来、ただ一人の人影も見ていない。今日は3連休の初日であり、入山者は多いはずであるが、朝方の大雨の勢だろう。この頂は天気さえ良ければ360度の大展望が得られるのだが、生憎今日は厚い雲が周囲の視界を閉ざしている。それでも待つほどに、目の前に聳える白雲岳がうっすらと雲の隙間から見えるようになる。
砂礫の道を緩やかに登って行くと、どこが頂とも付かない小泉岳に達する。それでも小さな山頂標示はあった。そのまま通過して100メートルほど先が白雲岳分岐である。ようやく何人かの登山者が現れた。赤岳方面から登ってきたのだろう。90度左に曲がって、緩やかに下っていく。この辺りは、だだっ広い緩斜地で、ガスに巻かれたら、現在位置の特定が難しい。15分も下ると小さな鞍部に達する。ここは大雪山系縦走路の十字路、登山道が四方に分かれる。左(南)への道は白雲避難小屋を経て中別岳からトムラウシ山へ続く縦走路、右(北)への道は北海岳から旭岳に続く縦走路である。我々は真っすぐ白雲岳に向かう。縦走用の大きなザックを背負った登山者が何人か姿を現わす。 大石のごろごろした支尾根を一つ乗っ越すと、ようやく目の前に目指す白雲岳が現れた。積み重なった巨岩を乗り越え乗り越え、急登するとようやく白雲岳山頂に達した。残念ながら期待した展望は皆無で、時折旭岳方面の山肌がガスの隙間から見えるだけである。天気さえ良ければトムラウシ山の格好いい山容が望めるのだがーーー。
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