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有東木集落→細島峠→仏谷ノ段→地蔵峠→天津山→十枚峠→十枚山→関ノ沢集落 |
安倍川源頭の八紘嶺から静岡市街の浅間神社まで続く安倍東山稜の全縦走も、残すところ真富士山と天津山の間だけとなった。あと二回分である。前日大雨を降らせた低気圧も東方海上に去り、朝目を覚ますと快晴である。中町7時5分発の有東木行きバスに乗る。有東木集落から細島峠に登り、真富士山、または十枚山まで縦走する計画である。どちらに行くかはその時の気分で決めればいい。空々のバスはのろのろと安倍川上流に向かう。例によって最後は私の貸し切りとなってしまった。
安倍川流域の典型的な山上集落である有東木集落はすばらしいところである。まさに今生の桃源郷の趣がある。バスが安倍川沿いの梅ヶ島街道から離れて急坂をうんうんと登っていくと、突然周囲が開けて緩やかな傾斜地に意外なほど大きな集落が出現する。一面お茶畑が広がり、谷筋はすべて山葵畑である。その背後には仏谷山が紅葉を朝日に輝かせている。 8時17分、いよいよ細島峠に向け出発する。集落の人と朝の挨拶を交わしながら、林道を進む。空は真っ青に晴れ渡り、雲一つない。今日の最初の関門は、細島峠道がうまく見つかるかどうかである。この安倍川流域の山々は道標がまったく期待できない。立派な道標でなくても、なんらかの目印があればよいのだが。林道をまっすぐ登っていくと地蔵峠へ行ってしまう恐れがある。どこかで細島峠道が分かれるはずである。すぐに大きな沢を渡る。沢一面に大規模な山葵畑が営まれている。林道はかなり傾斜がきつい。時々農作業の軽トラックが追い越していく。大きくヘアピンカーブを切ると、平坦地に出た。一面に茶畑が広がり、すでに農作業が始まっている。林道が分岐した。地図にない新たな林道だ。さて、何か目印はないかと注意深く見渡すと、朽ち果て半分欠けた小さな道標を見つけた。よく読めないが、右にわかれる新たな林道が細島峠道らしい。 急な林道をさらに登る。小さな沢を横切る。沢添いに踏み跡がある。地図によると峠道は沢添いに登ることになっているので、念のため探ってみるが、どうも山葵畑への作業道のようだ。さらに進むと、林道延長工事の先端に出てしまった。シャベルカーが動き回り、日曜日の早朝だと云うのにフル稼動である。しかしここで行きづまってしまった。先に進むルートはなさそうである。困ったなぁとシャベルカーに近づくと運転者が「どこに行くのか」と尋ねてきた。「細島峠」と答えると、「100メートルほど戻ったカーブの所に踏み跡がある」と教えてくれた。云われたところまで戻ってみると、小さな山葵畑に沿って微かな踏み跡がわかれている。山葵畑の作業道にも見え、果たしてこの踏み跡が細島峠道なのか自信はないが、ともかくたどってみることにする。分岐には道標はおろか赤テープすらない。これでは知っているもの以外絶対にルートはわかりっこない。 山葵畑が終わってもその先の植林地帯の中へと踏み跡は続いていた。どうやら目指す細島峠道のようだ。しばらく登ると登山者のつけた小さな道標があり、ようやく細島峠道であるとの確信が持てた。薄暗い杉檜の植林地帯の急斜面を小さなジグザグを切って登る。いかにも山蛭がいそうな雰囲気ではあるが、どうやら大丈夫そうである。この道も登る人がいると見えて、細いながらも踏み跡はしっかりしている。急な平斜面の一本調子の急登が続く。嫌になる頃、周囲が明るくなって自然林に入った。しかし急登はなおも続く。 10時25分、ようやく峠にたどり着いた。樹木に囲まれた小さな峠であり、展望はまったくない。富士川流域へ踏み跡の痕跡はあるが、笹に覆われ果たして歩けるのかどうか。腹が減ったので弁当を食べながら、さてどちらへ稜線をたどろうかと考えた。南に行けば真富士山へのルート、北へたどれば十枚山である。この時、同じ道から中年の単独行者が登ってきた。しかし、持っている無線機を付けっぱなしでうるさくて仕方がない。せっかくの静かな雰囲気が台無しである。早く去ってほしいと思っていると、真富士山のほうへ出発していった。これで自ずから私のルートは決まった。 10時40分、十枚山に向け出発する。まずは、仏谷山を越えて地蔵峠までである。周りはこの地域特有の背の高いスズタケの藪で、その中に山毛欅の大木が点々とそそり立っている。切り開きはしっかりされているが、笹の囲いの中の道で周りの展望は得られない。どこが頂上かわからないような仏谷山山頂に至るが、ここも笹の囲いの中で休むことはおろか証拠写真を撮る気も起きない。下って、ちょうど十一時、地蔵峠に着いた。細島峠に比べれば幾分ゆったりした峠ではあるが、ここも樹木に囲まれ展望はない。案内書にあった地蔵堂は見当たらない。5分ほど休んだだけですぐに出発する。しばらく登りが続きその後小さな瘤をいくつも越える。相変わらずスズタケと山毛欅の道で、左側に南アルプスの山々が見え隠れはしているが大きく展望が開けない。
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