寄居町郊外 鐘撞堂山から八幡山へ 

荒川左岸稜の末端を縦走 

2013年2月9日

鉢形城址より荒川越しに鐘撞堂山を望む(中央)
鐘撞堂山より八幡山を望む(中央一番奧)
                                                          
造り酒屋・藤崎総兵衛商店(1108)→大正池(1138)→登山口(1147)→竹炭窯(1156)→鐘撞堂山(1212〜1230)→八幡山(1320〜1325)→八幡大神社(1334)→桜沢駅(1358)

 
 造り酒屋・藤崎総兵衛商店を出発し、跨線橋を渡って駅の北側にでる。あとは辻辻に立つ「大正池、鐘撞堂山」を示す道標に従い、山に向ってひたすら北上する。迷う事無き一本道である。交通量の激しい国道140号線を突っ切ると、道は次第に山懐へと入って行く。

 実は、この道を辿るのは二度目である。2000年10月、妻を連れて鐘撞堂山に向った。キンモクセイの甘酸っぱい匂いが漂い、道端には真っ赤な彼岸花が咲き乱れていたのを覚えている。もちろん、今は真冬、花の姿など皆無である。

 鐘撞堂山はポピュラーなハイキングの山、しかも今日は三連休の初日、天気もよい。数多くのハイカーがこの山に向っているはずなのだが、寄居の街中を出て以来、ハイカーには一人も会っていない。昼近い時間のせいだろうか。登るには遅すぎるし、下るには早すぎる時間である。

 家々がまばらとなり、道が山懐に入りかけたところに最初の目標地・大正池があった。小さな貯水池である。岸辺には休憩舎やトイレもあり、休憩するのに最適な場所だが人影はない。私もそのまま通過である。

 道は北から西向きに大きくカーブして山中に入って行く。人家は絶え、舗装道路から地道に変わる。日陰には微かに残雪が現れる。人影はまったくない。寄居駅南側を出発して以来休むことなく、すでに30分以上歩き続けているのだがーーー。未だ登山口に着かず、少々苛立つ。更にピッチを上げると、ようやく登山口に到着した。幾つもの道標が建ち、確りした小道が右に分かれている。

 傾斜の増した登山道を足早に登って行く。13年前の記憶では、この道の両側にママコノシリヌグイのピンクの花が群生していた。今は冬枯れの景色が続くだけである。ようやく下ってくる人とすれ違った。ただし登山者ではなさそうである。

 登山口から10分の登りで、竹炭窯に達した。山中の小平地に竹炭を焼いている一軒家が建つ。小屋の周りはただいちめん竹林である。この辺りが昔の馬騎ノ内集落跡だろう。昭和50年代前半までは人家が残っていたようである。傾斜の増した登山道を相変わらず快調なピッチで登り続ける。

 支尾根に登り上げ、南から尾根伝いに登ってくる高根山コースと合流する。さらに円良田湖方面へのルートを左に分けると山頂に向っての急登となる。確り階段整備されているがかなりきつい登りである。山頂から人声が聞こえ、人影が見える。12時12分、南から回り込むようにしてついに山頂に達した。登山口からわずか25分の行程であった。

 山頂は10人ほどの登山者で賑わっていた。さすがに人気のハイキングの山である。雑木林に囲まれ、小広く開けた平坦地で、休憩舎が建ち、展望用の櫓も建っている。ベンチに腰掛け、昼食用にコンビニで買った握り飯をほお張りながら眼前に開ける展望を楽しむ。寄居の街並みが広がり、その背後に荒川が視界を真一文字に横切る。その向こうに午前中に登った小さな車山が何とか確認できる。そして、その背後には比企丘陵の山並みが空との境となって連なっている。目を左に振れば、足下から何本かの尾根がまるでアメーバーの足のごとく関東平野めがけて張りだしている。その中で、一番遠くまで伸びている尾根をこれから辿るつもりである。その尾根の末端に小さく盛り上がっている高みが八幡山のはずである。

 見渡すかぎり続く関東平野の遥か遥か背後に、空に溶け込むように微かに形よい山が見える。筑波山である。余りにも微かすぎ、もはや写真に写すのは無理だろう。双眼鏡をかざしたグループが歓声を上げている。どうやら、東京スカイツリーが見えるらしい。私も目を凝らしてみるが、裸眼では見えるような見えないようなーーー。

 今日最後の行程、八幡山を目指しての縦走に移る。続いてきた荒川左岸稜が関東平野に没する寸前の最後の山稜歩きである。この稜線上に然るべき登山道があるのかどうか心配していたが、山頂に「八幡山、八幡大神社」を示す道標があり、尾根上にも確りした登山道が続いている。14年前には登山道はなかったと記憶しているがーーー。

 山稜上の道をたどると、すぐに逆さ落としのごとき大急降下となった。板材で確り階段整備され、ザイルも張り巡らされているが、それでも下りは怖い。下りきると、気持ちのよい雑木林の中の尾根道が続く。振り返ると鐘撞堂山がひときわ高く聳え立っている。時折ルートは分かれるが道標が確り整備されていてルートに不安はない。十二神社方面との大きな分岐を過ぎる。前後していた2〜3のパーティは皆そちらに下って行った。更に幾つもの小ピークを越えていく。もはや誰とも会わない。山中我一人である。

 どこまでもどこまでも明るい雑木林の尾根が続く。植林が一切現れないのがいい。大正池へ下るルートを二本見送り、更に尾根を辿る。風もなく、明るい冬の光があふれている。もういい加減八幡山に着いてもいいころなのだがーーー。相変わらず小ピークが連続する。

 鐘撞堂山を出発してから50分、ついに八幡山に到着した。何の変哲もない小ピークで、八幡山と記された杭と「マムシ注意」の看板がある。もちろん無人である。戦国時代、この頂きには八幡城と称する小さな砦があったとのことである。地図の等高線を読むと標高は200メートル、荒川左岸稜最後のピークである。このピークを最後として山稜は関東平野に没する。

 いよいよ関東平野に向けての下りとなる。ザイルの張り巡らせた大急降下である。この急斜面を杖をついた老人がゆっくりと登ってくる。地元の人のようだ。約10分で。麓に鎮座する八幡大神社に下りきった。縦走の終了である。神社に今日の無事を感謝し、秩父鉄道桜沢駅へと向う。
 
登りついた頂  
   鐘撞堂山  330.2 メートル 
   八幡山   200 メートル

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