危険な縦走路 金原山から桜山へ 

ガリガリに痩せた稜線、通過を阻む険悪な岩峰

2021年3月11日


 
金原山
地蔵峠の六地蔵

 
金原山登山口(635〜643)→金原山(657〜700)→小俣峠(736)→林山(805〜808)→天ヶ岳(911〜925)→大姫山(952〜955)→桜山(1002〜1010)→大姫山(1014)→天ヶ岳(1045)→休憩(1106〜1110)→林山(1210)→小俣峠(1232)→金原山(1314〜1325)→金原山登山口(1338)

 
 関東平野の北限、栃木県佐野市北部に接して一群の山々が見られる。三床山(334.8m)、一床山(325m)、二床山(325m)、桜山(316m)などの標高300メートル台の低山の連なりである。この山群にはハイキングコースが開かれている。ただし、低山のハイキングとなめて掛かるとひどい目にあう。痩せ尾根が連続し、至る所に岩の露出した悪場が潜む。つい先日、実体も知らずこのハイキングコースにのこのこ出掛けて行って少なからず難渋した。
 
 このハイキングコースを備えた山々のさらに奥(北側)に山並は続いている。ハイキングの最北のピーク・櫻山から北に延びる稜線上に大姫山、天ヶ岳、林山、金原山などのピークが頂きを並べている。この稜線上にはハイキングコースは開かれていない。ただし、物好きのハイカーが時折足跡を残すようである。11日程前、山群南側のハイキングの山々を踏破した。今度はこの北側のハイキング外の山々を踏破してみたい。櫻山から稜線を北へ辿り、大姫山、天ヶ岳、林山と越えて金原山までの稜線縦走である。
 
 ただし、まずは登山口へのアプローチ方法で悩む。入り口、出口となる二つの登山口へのアプローチをどうするかである。もちろん両登山口ともバスの便はない。入り口へは車で行くので問題ないが、出口での足の便がない。インターネットに掲載された実績によると、多くのパーティが車二台を用意して入口と出口をカバーしている。しかし、私は一人である。考えた末、出した結論は、予定コース・三床山〜桜山〜金原山のうち、南半分の三床山〜桜山を省略し、北半分の金原山〜櫻山を往復することにした。南半分は先日踏破してあるので省略しても我慢できる。
 
 ちょうど5時、車で家を出る。まだ夜は明けきっておらず、空は満点の星である。天気予報は今日一日穏やかな晴天が続くと告げている。目指すは金原山の北で稜線を乗越している「林道長谷場閑馬線」上の最高地点にあるはずの「金原山登山口」である。館林、佐野の市内を抜け、曲がりくねを細い林道を登る。すれ違う車もない。6時35分、家から53キロのドライブで目指す登山口に着いた。稜線を乗っ越す林道の最高地点である。この地点のみ道幅が広がっていて分かりやすい。もちろん、辺りに人の気配は全くない。嬉しいことに林の中に向かって行く確りした踏み跡があり、「金原山」と行く先を示す道標まであるではないか。ただし「ヤマヒル注意」の掲示が気に掛かる。
 
 確りした尾根道を進む。尾根の左側は檜の植林、右側は落葉広葉樹の林が続く。今日あたりは檜花粉の最盛期だろうが、幸い私は花粉には害されない。軽く一峰を越え、次のピークが金原山であった。雑木林の中の何ノ変哲もない頂きであるが、今日辿る予定の幾つかのピークのうち二万五千図に山名が記載されている唯一のピークである。傍らには三等三角点「金原 427.3m」が確認できる。
 
 一休みして先に進む。ここからが本格的な縦走である。尾根は痩せ、ナイフリッジの様相を帯びる。積み重なった岩が至る所で前進を阻止する。尾根はどこまでも岩とまばらに生えた落葉樹に覆われている。小ピークを2つ越え、3つ目のピークに登りあげると、小さな石の祠が安置されていた。ピークの下りは岩場の大急降下、張られたロープにすがって何とか通過する。岩場の登り下りが続くが、持参のストックはいたって邪魔である。平地を歩く際はよき道具であるのだがーーー。さらに三つ程岩峰を越えて、鞍部に急降下すると、そこが地蔵峠(小俣峠)であった。6体の石地蔵が行儀よく並んでいる。ただし、あったと思われる峠道はもはや痕跡もない。林道長谷場閑馬線が開通した現在、もはやこの峠は越える人もいなくなったのだろう。
 
 次のピークに登り、ふと後ろを振り向くと、 葉を落とした木々の枝の間から、何と!  幾重にも連なる山並の背後に真っ白な山が頭を覗かせているではないか。その形から男体山はすぐに同定できる。とするとそのずっと左手にひと際白く白銀を輝かせているのは日光白根山だろう。しばし山頂にたたずみ、白い山々を眺める。
 
 急降下して急登する。さらに2つ程小ピークを越え、嫌な岩場を通過する。辿っている尾根は痩せてガリガリである。両側は数10メートルの絶壁となって切れ落ちている。もし、手掛かり、足掛かりとしている岩角や木の根、木の枝を掴み損なったら、まっ逆さまに墜落しかねない。何しろ恐い。
 
 何ヶ所目かの嫌な岩場を過ぎると林山山頂に到着した。立ち木に小さな山頂標示が掲げられているだけの愛想ない頂きである。休む間もなく先に進む。3つ程小岩峰を越えると、今回の行程上最大の大急降下となった。ロープが絶えまなく張り巡らされているのだが、そのロープに頼ったところで、スムーズには下れない。それこそ命がけの通過である。ようやく岩場を過ぎると、たどる尾根は左から右へと大きく回り込む。幾手に二つの顕著なピークが見える。次の目標である天ヶ岳だろうかーーー。ひーひー言って登り上げたピークは二つとも天ヶ岳ではなかった。残念!  さらに小ピークを越え、ようやく天ヶ岳に到着した。ここまで来れば、終点・櫻山までもうすぐである。
 
 次の目標・大姫山に向け歩を進める。ふと、左側少し奥に目をやると、葉を落とした落葉樹の中にピンクの鮮やかな花が、枝一杯に咲き誇っているではないか。赤ヤシオの花である。今日はじめて出会った花である。なんだか嬉しくなってしまった。こんな所にひっそりと咲いていたのだ。小峰をひと登りするとそこが大姫山山頂であった。振り返ると、男体山と日光白根山が相変わらず前山の背後に顔を覗かせている。
 
 櫻山は大姫山からほんの5分程の距離であった。今年の2月28日にこの頂きを踏んで以来、わずか11日で再びこの地にやってきた。山頂の小さな石の祠に懐かしさを覚える。これで予定の半分は来たことになる。後は来た道を戻るだけである。腰を降ろして握り飯を頬張る。朝から何も食べずにここまでやって来た。辺りに人の気配はない。8分程の休憩の後、腰をあげる。帰路に出発である。通過して来た幾つもの悪場を再び辿るのかと思うと若干憂鬱だがーーー。
 
 櫻山からわずか5分で大姫山に到着。さらに30分で天ヶ岳に。順調な歩みである。意外なことに、前方から人声がして、60年配の夫婦連れが現れたではないか。山中初めて見かける人影である。少々立ち話となった。埼玉県の深谷市からやって来たとのこと。車二台で登山口に対応したとのことである。それにしても、一般登山道とは言いがたいこの険悪な尾根を60才を過ぎた身で歩くとはたいしたものだ。
 
 林山が近付くと、行きに難渋した垂直に近い岩場の超悪場に行き当たった。何度か試みるのだが、中々岩場の上部に抜けられない。両側は垂直に近い崖ガ迫っている。恐いことこの上もない。何とか突破して林山山頂に達した。ここまで来ればもう安心である。岩場は何ケ所かあるが、超危険と言う程の悪場はない。地蔵峠でお地蔵様に御挨拶をし、金原山で握り飯を頬張り、13時38分、無事に愛車に返り着いた。思いのほかハードな山行きが無事に終了した。
 
 

トップ頁に戻る

山域別リストに戻る