児玉の山 河内十二天山から茱平山へ 

踏跡もない山稜を地図と山勘を頼りに見事縦走

2017年5月2日


 
 河内十二天山山頂
 茱平山山頂
                            
八高線児玉駅(729)→高柳の三嶋愛宕神社(808)→小山川(823)→河内の金鑽神社(832)→元田の富士浅間神社(838)→元田富士山頂(905〜915)→富士浅間神社(932)→游楽荘(943)→いずみ亭(948)→寺山集落(956)→山中に入る(1005)→尾根に登り上げる(1009)→330mピーク(1038)→河内十二天山(1053〜1100)→365mピーク(1130)→白髭神社の碑(1209)→茱平山(1236〜1248)→細い林道(1300)→杉の峠(1320)→神流川(1358)→鬼石郵便局(1408〜1442)

 
 前回、前々回の山行に続いて今回もまた児玉の山である。埼玉県北西部に位置する児玉地方は秩父山地から派出した山並がさざ波のごとく押し寄せてはいるが、山並はいずれも標高500メートル以下と弱々しく、名のある山を盛り上げる力はない。このため、登山ハイキングの対象となる山もなく、案内の類いを見ることはほとんどない。

 このため、私もこの山域に興味を示すことはなかった。しかし、今年3月、偶然知った間瀬山、児玉男体山というそれまで山名さえ聞いたこともない山に登ったのを機会に、この地の山々に興味を抱いた。調べてみると、山名さえ確定していない山があちこちあり、踏跡さえない尾根も多い。ただし概して山は穏やかであり、危険は少なそうである。また迷ったとしても山が浅いので大怪我はないと思える。地図とコンパスを頼りに気ままに尾根を辿ってみるのも面白そうである。

 先月は踏跡も定かでない吹通山(ふっとおしやま)山稜の縦走にチャレンジし、無事に縦走を果たした。今度は小山川左岸上部の集落・寺山集落から山稜に取り付き、河内十二天山(こうちじゅうにてんやま)→茱平山(ぐみたいらやま)→杉の峠(すぎのとうげ)と縦走してみよう。勿論、山稜上には踏跡は期待できない。ルートの選定には地図とコンパス、山勘が頼りである。

 いつもの通り、北鴻巣駅6時5分発の下り1番列車に乗る。ゴールデンウィーク中ではあるが今日は平日。会社を休む人は多いが、学校は普段通りである。列車は朝練に向う高校生で溢れていた。熊谷、寄居で乗り換え、7時29分、八高線児玉駅に到着した。山に向って勝手知った道を進む。予報通り空は真青に晴れ渡り、今日一日安定した好天が続きそうである。

 街中を抜け、県道44号線を南下する。児玉駅から山稜取り付き点の寺山集落まで約7キロ、徒歩で約1時間半の距離である。少々遠いが歩く意外に交通手段がない。今日は行きがけの駄賃に、途中の元田集落に聳える「元田富士(げんだふじ)」なる318メートル峰に登ってみるつもりである。

 県道44号線の旧道を進むと道端に金鑽神社(かなさなじんじゃ)があった。由緒によると、神川町に鎮座する武蔵国の二の宮・「金鑽神社」と関係が深いらしい。そのすぐ先で、標示に従い右の小道に入る。正面にこれから上る元田富士が端正な三角形の山容で鋭く聳え立っている。すぐに富士浅間神社に行き当たる。「元田富士」はこの神社のご神体であり、山頂に奥宮が祀られている。ここが登山口である。この山については、インターネットで検索すると、幾つかの登山記録がヒットする。それによると、15分程度で登れるようだが、山頂まで凄まじい一本調子の急登が続くらしい。ただし、麓には「山頂まで30分」と標示されている。

 覚悟を決めて登山道に入る。先ずは荒れた急な石段を登る。枯れ葉枯れ枝が積み重なり最近人の歩いた気配はない。階段を登り詰めると、荒れ果てた神殿に行き当たる。そこからは地道の登山道が始まる。想像以上の凄まじい急登の連続である。道型は確りしているが、斜面が急すぎて足の置き場さえ確保できない。立ち木を頼りに一歩一歩の前進である。最初のうちは休むことなく足を運んだが、そのうち、足を止めては呼吸を調えるようになる。ついにはへなへなと座り込んでしまった。到るところトラロープも張り巡らされている。小さな祠が点々と現れる。何と、30分近く掛かり、息も絶え絶えのていたらくで山頂に辿り着いた。

 山頂は小広く開けており、奥宮である社が建っている。ただし、内部は落書きだらけでかなり荒れ果てた感じである。座り込んで握り飯を頬張る。ここまで、朝から何も食べずにやって来た。

 下りはさすがに早い。トラロープにすがりつきながらも約15分で富士浅間神社に下り着いた。そのまま県道44号線を更に山に向って進む。約10分も歩くとNPO法人「本庄市げんきの郷本泉」の運営する「游楽荘」が現れる。食堂や入浴施設を備えたリクレーション施設であるらしい。その前に道標があり、この地点から左に「河内ハイキングコース」、右に「稲沢ハイキングコースが分かれている。河内ハイキングコースは先々月その一部を辿ったので承知しているが、稲沢ハイキングコースとは初めて聞く名前である。どんなコースなのか帰ってから調べてみよう。

 更に5分ほど県道を進むと、「いずみ亭」と言う蕎麦屋がある。有名な店らしい。進むべきルートはここで県道を外れ、右に上って行く細い鋪装道路に変わる。斜面中腹に展開する寺山集落に通じる道である。2万5千図をザックから取りだし、いつでも見られるようにズボンのポケットに移し替える。いよいよ地図を頼りの前進となる。

 坂道を約10分辿り、斜面にへばりついた寺山集落に登り上げる。集落に人影はない。集落を抜け、細い鋪装道路を更に上部へと辿ると、畑の広がる緩斜面に出る。その畑の更に上部にこれから辿るべき尾根が横たわっている。畑にそって尾根と平行方向に進むと、畑は尽きて手入れの悪い竹やぶが現れる。思い切って、この竹やぶに飛び込み、上部の尾根を目指す。朽ちた竹が積み重なり歩きにくい。少々もがいて尾根に登り上げた。まずは第一関門突破である。

 登りとなった尾根を辿る。踏跡もテープもないが落葉広葉樹の林のなかで、歩くのにそれほど支障はない。ただし地表に低く繁茂する潅木の枝が少々うるさい。椎茸栽培のホダ木の列を左下に見る。踏跡はないがやはり里山である。人の入山はあるのだろう。

 尾根の登り傾斜がにわかに急となった。立ち木を支点としてよじ登るが、危険を感じるほどの急斜面の登りが続く。ただし、尾根筋は明確でルートに不安はない。次第に辿る尾根の傾斜も緩み、地図上の340メートル等高線ピークに登り上げた。2万5千図を頻繁にチェックする。現在位置を失ったら山中を迷い放浪することになってしまう。次のピークが目指す「河内十二天山」のはずである。

 雑木林の中の尾根を緩やかに下っていくと、尾根は登りに転じる。やがて立ち木を支点としなければならないほどの急登に変わった。登り上げると、そこが見込み通り河内十二天山の頂であった。立ち木の根本に小さな私製の山頂標示が一つぽつんと置かれており、他に人の訪れた気配はまったくない。山頂部はほとんど傾斜のない穏やかな地形で、新緑の美しい雑木林の中である。腰を下ろし、握り飯を頬張る。

 ルートはここでほぼ90度右に曲がる。即ち、南西方向から北西方向へである。ただし、尾根はすぐに西方向へと向きを変え、だだっ広くゆるやかとなった。一瞬、踏跡らしい気配が現れたがすぐに消えた。ここに到るまで赤布、テープの類いは一つも見ない。小ピークを越えると顕著なピークに達する。地図上の365メートル標高点ピークのはずである。ルートはここで西向きから南西向きに変わる。緩やかに下り、緩やかに登る。地形が少々複雑になり、地図読みに細心の注意が必要になる。地表に繁茂する雑木が増え、前進の邪魔となる。ルートは南向きに変わった。

 左からの尾根と合わさりピークに登り上げた。地図上の360メートル等高線ピークと思えるが確証はない。しかし、ここでハタと足は止まった。登り着いたピークを下らねばならないのだが、尾根筋が消えて、下るべき方向がわからない。「これは少々ヤバイかな」。先を見通そうとするも、立ち木が視界を遮り、はっきりしない。えぃやー ! と微かに尾根筋の気配を感じる南斜面を下る。急斜面を50〜60メートル下るも一向に尾根筋は現れない。立ち木の隙間から下っている斜面の行き先を伺うと、よく分からないが、深い谷底へ向っている気配である。どうやらルートが違う。諦めてピークに登り返す。

 改めてしげしげと2万5千図を眺める。この地点から次の目標地・茱平山までの地形は実に複雑である。もはや続いてきた主稜線は消え、小さな尾根が複雑に絡み合っている。立ち木を透かしてみると、南東側に東西に走る尾根筋が見える。あの尾根に乗れれば、茱平山へ続く尾根に行きつけそうである。問題は、現地点のビークとその東西に走る尾根筋との間に弱いながらも尾根筋の繋がりがあるか否かである。もし、間が深い谷筋であるなら、行き着くことは難しい。とは言っても、他に選択肢はない。

 覚悟を決めてピークの南東側の急斜面を下る。尾根筋の現れるのを祈りながらーーー。もちろんテープはおろか、踏跡の気配もまったくない。下るに従い、先が少しづつ見通せるようになる。どうやら、期待通り、目指す尾根筋と接続がありそうである。

 結果として、目指した尾根とは、弱々しい鞍部で繋がっていた。ピンチ脱出である。取り付いた尾根の平斜面を稜線に向って強引に登り上げる。あとはこの尾根を西に辿り、南北に走る尾根と合流したら、その尾根を南に辿ればよい。相変わらず広葉落葉樹の林の続く尾根を辿る。

 いったん下り、南北に走る尾根との合流点に登り上げる。すると何と、ここに大きな石碑があるではないか。「白髭神社碑」と刻まれている。山中で初めて目にした人工物である。意外な感じがしたが、どうやら辿っているルートが正しいとの確証に思えひと安心した。

 乗り換えた尾根を南に進むと、尾根筋は消え、広々と開けた緩斜面が現れた。その行く先に東西に走る明確な尾根筋が見える。目指す茱平山に続く尾根である。にわかに繁茂しだした下薮を蹴散らしながら緩斜面を登る。突然下薮に足を取られて大きく前に放り投げられた。幸い怪我はなかったがーー。続いてもう一度。何てことだ。歳のせいだろうか。

 目指す東西に走る尾根に登り上げた。尾根の反対側を覗き込むと、新緑を纏ったピークがひときわ高く聳え立っている。一目、茱平山だ! そして、そのピークに向って足下から顕著な尾根が左から大きく回り込むように続いている。一気に心が踊る。絡みつく潅木を押し分け、目指すピークに向け足早に薮尾根を辿る。

 12時36分、ついに茱平山山頂に達した。万万歳である。少々迷ったが、無事に計画通りの縦走の成功である。山頂は落葉広葉樹林と杉の植林が半々に覆った穏やかな地形で、傾いた石の祠が祀られている。その脇に、一本のヤマツツジがオレンジ色の花を咲かせていた。山中初めて見る花である。ただし、山頂標示は何もなかった。座り込んで、最後の握り飯を頬張る。

 いよいよ下山である。計画では、茱平山の南麓を細い林道が走っている。その林道めがけて、山腹を強引に下るつもりである。ただし、はっきりした尾根筋はない。樹林の中のやや急な斜面を下薮を蹴散らしながら強引に下っていく。踏跡はないと言えども下りは早い。やがて下方に目指す林道が見えてきた。林道脇に建つ二軒の無人小屋の脇を抜け、細い地道の林道に降り立った。無事の下山である。

 林道をのんびりと歩く。相変わらず人の気配はない。20分も歩くと、県道13号線の越える「杉の峠」に到達した。大型ダンプカーがひっきりなしに通過している。少々遠いが、あとはこの県道をひたすら歩いてバスの通う鬼石の街に下るだけだ。県道をひたすら下りながら振り返ると、横隈山(よこがいさん)が高々と聳え立っている。この山がこれほどの山容を持つとは思わなかった。2001年の正月に登った山なのだが。

 ヘアピンカーブの連続する県道をひたすら歩き続けること約50分、神流川を渡り、ついに群馬県の鬼石の街に到着した。本庄行きのバスには長い待ち時間となった。
 

登りついた頂き
   元田富士    318メートル
   河内十二天山  360 メートル
   茱平山     421メートル
     

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