大雪山系 赤岳、黒岳、北海岳

30年ぶりの大紅葉で真っ赤に燃える山へ

2017年9月13日〜14日

     
 
赤岳山頂付近の紅葉
北海岳山頂付近より北鎮岳を望む
9月13日 銀泉台( 600)→第二花園(700〜705)→奧の平(715)→コマクサ平(730〜735)→赤岳山頂(853〜905)→銀泉平(1134)
9月14日 大雪山層雲峡ロープウェイ←→黒岳リフト←→黒岳←→黒岳石室←→赤石川徒渉←→北海沢徒渉←→北海岳

 
「北海道の大雪山に行かないか。紅葉がきれいなはずだが」。Hさんから久しぶりに声が掛かった。もちろん二つ返事でOKした。日程は9月12日〜15日の3泊4日、内、13日と14日が登山日となる。どこに登るかは Hさんにお任せである。
9月13日  朝4時、真っ暗な中、車で旭川市を出発する。天気予報は「曇り、時々雨」とすっきりしないが、未だ雨は降っていない。走るほどに東の空がうっすらと明るんでくる。ただし、雲が厚く空を覆っている。今日の予定は銀泉台から赤岳に登り、更に白雲岳を往復するという長距離行程である。国道39号を進み層雲峡を過ぎる。国道というのに通る車はまったくない。ただただ視界の限り北の大地の原生林が広がっている。国道39号に分かれ、国道273号には入る。すぐに、赤岳登山基地である銀泉台へ通じる地道の大雪山観光道路に入る。道路入り口には、「9月16日より一般車は通行禁止」の標示がなされていた。連休でのマイカーの大混雑をさける処置である。登山者は観光道路入り口からのバス輸送に頼ることになる。

 5時50分、赤岳登山基地となる銀泉台に到着した。2009年9月と2011年9月にここ銀泉台から赤岳に登っているので、この地は3度目である。意外にも駐車場はガラガラ、わずか3パーティが出発の準備をしているだけであった。前回訪れたときは、駐車場はごった返していたのだが。

 準備を整え、登山届を提出して、6時、赤岳への登山を開始する。上方はガスに包まれている模様だが、銀泉台付近はまだガスに閉ざされてはいない。ただし、昨日から降り続いたと思われ、登山道は泥濘である。その泥濘に新たな踏跡はない。と言うことは、我々が今日最初の登山者と言うことだ。

 樹林地帯を抜け、20分も登ると、右側上方に視界が開け、真っ赤に染まった山肌が目に飛び込んできた。びっくりするほどの凄まじい紅葉だ。今年の紅葉は多いに期待できそうである。第一花園を過ぎ、第二花園で小休止、辺りの紅葉はますます凄まじさを増す。お互いの口からは「スゲナー、スゲーナー」の言葉が漏れ続ける。しかも今度は大きな雪渓が現れ、ルートはその中に消えている。既に季節は9月中旬、大雪山系に初雪が訪れる季節である。と言うことは、この大きな雪渓は万年雪となって、一年間とどまりつづけたのだ。雪渓表面はがちがちに凍りついていて歩行は困難。右側より大きく雪渓を巻いて通過する。

 ナナカマドを主とした真っ赤な凄まじい紅葉は、見渡すかぎりの山肌を染めている。下りで出会った地元の人の説明によると「30年ぶりの大紅葉」とのことである。しかも、今日明日が最大の見ごろとのこと、何ともラッキーな登山である。コマクサ平を過ぎるとこのコース最大の難所・第三雪渓の急登に掛かる。岩の積み重なった直線的な急登が長々と続く。2009年9月の登山では、悪天のためこの地点で引き返した。もはや周囲の紅葉を見る余裕もなく、ひたすら足下を見つめて、一歩一歩身体を引き上げる。下の方に後続パーティが見えてきたが抜かれることはなさそうである。

 第三雪渓を抜けると、しばし緩やかな登りが続く。再び、凄まじい紅葉が目を奪う。周囲はいまだガスに覆われてはいないが、山々の展望に関しては今日は絶望である。すぐに山頂に至る最後の関門・第四雪渓の急登が始まる。Hさんは先にすいすい登って行ってしまうが、私はゆっくりゆっくりである。第四雪渓の急登を抜けると、山頂に通じる緩斜面に出る。砂礫の緩斜面がうねるように続き、ガスに巻かれたら方向感覚が麻痺する危険な場所だ。岩に付けられた黄色いペンキがルートを導いてくれる。

 8時55分、ついに山頂に達した。巨岩が積み重なり、その基部に2078メートルの山頂標示がある。私にとって2011年9月の登頂に続いて二度目の頂きである。山頂は無人であった。我々が今日最初の登頂者である。辺りはガスに包まれ展望はいっさい得られない。天気はゆっくりと悪化の気配である。すぐに後続パーティが登ってきた。続いて、白雲岳方面からのパーティも到着した。みな生憎の天候にがっかりしている。

 当初の計画は、ここから更に白雲岳に縦走するつもりであったが、「何も見えない中、縦走してもつまらない。それに雨も降ってきそうだし。このまま下って温泉に入ろう」とのHさんの提案に従うことにする。と決まれば善は急げである。第四雪渓、第三雪渓を足早に下る。一人また二人と大きなザックを背にした登山者が次々と登ってくる。今夜は恐らく白雲岳避難小屋泊まりなのだろう。「山頂の天候はどうですか」と、すれ違うたびに登って行く先の天気を心配している。第三雪渓を下り、真っ赤な紅葉のトンネルを潜り、「奧の平」で一休み。ここは目を見張るほどの真っ赤っかの大紅葉である。

 コマクサ平を過ぎると、登山者というよりカメラマンの姿が目立つようになる。この30年に一度の紅葉を写真に納めるべくやって来た人たちである。我々も心ゆくまでこの大紅葉を眺めつつ、のんびりと下る。周囲に立ちこめるガスは次第に濃くなってゆく気配である。11時34分、無事に銀泉平に下り着いた。そのまま層雲峡の黒岳の湯に向い、汗を流して帰路に着く。


 

9月14日

 13日の夕方から大雨となった。天気予報は14日も雨と告げている。「大雨だったら、山には登れないしーーー。どうしたもんか」「少々の雨なら緑岳へでも行ってみるか」。Hさんの浮かない顔のつぶやきを聞きながら13日、眠りについた。

 14日朝3時半に起きると、幸い雨は降っていない。ただし天気は悪そうなので「緑岳付近で紅葉でも楽しむか」と言いつつ、4時、車で旭川市を出発する。走るほどに次第に夜が明ける。何と、東の空は雲が切れ、朝日が差しはじめるではないか。我々もにわかに元気づく。「よし、当初の計画通り黒岳から北海岳→間宮岳→北鎮岳→黒岳の大縦走だ」。

 層雲峡より6時始発の大雪山黒岳ロープウェイに乗る。意外にも、ロープウェイが満員となる数十人の乗客がいたが、ほとんどが観光客。登山者は大きなザックを背負った3人の若者と我々2人だけのようである。約7分でロープウェイは標高1300メートルの黒岳駅へと運んでくれる。更に、その先には黒岳ぺアーリフトが設置されている。約15分、リフトに揺られるとそこはもう標高1510メートルの黒岳7合目である。ここから山頂まではわずか1時間半の行程、黒岳は大雪山系の山々の中でもっとも登り易い山である。

 支度を整えいざ出発である。大ザックを背負った若者3人組は飛ぶような早さで登って行き、あっという間に視界から消えてしまった。若さはうらやましい。山頂までわずか1時間半の行程だが、岩のゴロゴロしたやや急な登りがどこまでも続く。まるで急な階段を登り続けるような登山道である。Hさんはドンドン先に進んでいく。歩みの遅い私はおいてきぼりである。8合目でHさんが待っていてくれた。初めて視界が開けた。行く手黒岳の斜面は真っ赤な紅葉で染まっている。今日も一日素晴らしい紅葉が楽しめそうである。そして左手、視界の遥か先には一筋の山並が連なっている。その中で富士山の様な形よい山が目に付く。Hさんが「ニセイカウシュッペ山」だと舌を噛みそうな山名を教えてくれた。

 登るに従い、天気はますます回復の兆しで、青空が見え、日差しさえあらわれてきた。大外れの天気予報である。それにともない、山肌を染める「紅」はますます鮮やかさを増す。「昨日よりすごいや」。二人の口から同じ言葉が何度も漏れる。ただし、階段のような急な登りはなおも続く。再びHさんは先行し視界から姿を消した。

 ひときわ急な石段を登り詰めると、そこが山頂であった。ちょうど9時である。山頂は砂礫の広がりの中に大岩がゴロゴロ転がっており、どこが最高点とも分からない。何ともしまりのない頂きである。小さな祠や、避難小屋とも思える建物もある。先ずは一休み、初めて腰を下ろす。山頂からの展望は大きく開けており、白雲岳や北海岳の山頂部は残念ながらガスの中だが、紅葉の赤と豊富な雪渓の白が、視界の限りの山肌を染め、何とも素晴らしい景色である。

 15分ほどの休憩の後、次の目的地・北海岳に向け出発する。小流でえぐれたような這松の中の登山道を緩やかに下っていく。何人かの登山者とすれ違う。昨夜、黒岳石室に泊まった登山者だろう。10分も下ると眼下に山小屋が現れた。黒岳石室である。「石室」と言うから粗末な山小屋を想像していたが、何棟もの建物を有する思いのほか立派な山小屋であった。シーズン中は小屋番が常駐するとのことである。

 小屋前を通過して、更に緩やかに下り続ける。ここから先一切の人影が消えた。即ち、登山者とはもはや出会うことがなかった。代わりに、シマリス、キタキツネ、ナキウサギには出会ったが。しばらく下ると、思いのほか大きな流れに行き当たった。御鉢平から流れ下ってくる赤石川である。飛び石で靴を濡らすことなく何とか渡りきるが、増水時には難所となりそうである。

 小尾根を一つ乗っ越して、再び流れを飛び石で渡る。北海沢である。ルートはしばし沢の右岸上部をトラバースしながら緩やかに上流へと進んでいく。沢の対岸斜面には巨大な雪渓が張り付き、更にその上部には真っ赤な紅葉が塊となり帯となり連なっている。やがてトラバース道は左側、北海岳の連なる山稜へ向け急な登りに変わる。北海岳は左前方に穏やかな姿でそそり立っているが、その手前の峰、即ちすぐ頭上の峰は何とも荒々しい姿である。噴火口璧の跡と思える垂直の絶壁が山頂付近を囲み、山腹は巨岩が到るところに点在している。

 ルートは北海岳を目指しての山腹の斜登となる。突然足下にシマリスが現れた。あわや踏みつけそうである。シマリスには何度も出会っているが、これほど馴れ馴れしく寄ってきたのは初めてである。進むに従い、右手眼下に「御鉢平」と呼ばれる巨大なカルデラが見えてきた。約3万年前の大爆発で形成されたとのことである。現在も有毒ガスが噴出しているため立ち入り禁止となっている。

 10時15分、ついに北海岳山頂に達した。無人である。遮るものの一切ない砂礫に覆われた穏やかな高まりで、展望絶佳である。休む間もなくカメラを携え眼前に広がる展望に見入る。眼下に広がる御鉢平の背後に左より北鎮岳、凌雲岳、桂月岳が連なっている。ただし、北鎮岳の頂きはガスで覆われ、天気は次第に悪化する気配が感じられる。更に目を大きく右に振ると、三角形の山容がひときわ目立つ烏帽子岳が見え、その右には五色岳の平らな山容が続いている。更にその右に見えるはずの白雲岳はわき上がるガスの中である。

 山頂で腰を下ろして一休みしたいところだが、遮るものとてない山頂は寒風がまともに吹き寄せ、とても留まっていられない。山頂からちょっと下った這松林の中に逃げ込み腰を下ろす。昼飯の握り飯を頬張りながら、Hさんから提案があった。「この先予定通り間宮岳→北鎮岳→黒岳と辿ると約4〜5時間掛かる。天気が悪化する気配があるので、この地点から戻ろう」。もちろん私も異論はない。既に峰々の頂はガスに覆われだしており、寒風も強まっている。こんな稜線で雨風に遭ったらそれこそ遭難である。数年前にトムラウシ山で大遭難事件がある。

 もと来た道を戻る。北海沢徒渉点の手前で、10メートルほど先を歩いていたHさんが突然立ち止まり、黙って右斜面を指さす。指の先に目を向けると、何と、キタキツネが歩いているではないか。初めての出会いだが、尻尾の巨大さに目を見張った。更に進むと、今度はナキウサギが現れた。未だ夏毛の赤褐色である。我々に気づくと慌てて、這松の中に逃げ込んだ。

 黒岳石室まで戻ると、ようやく人影を見るようになる。今朝、ここから先、北海岳との間では人に出会うことはなかった。今日最後の登りを頑張り、黒岳山頂に登り上げる。山頂は今朝ほどとは大違い、濃いガスに包まれ、何も見えない。大きなカメラを据え付けた何人かが、残念そうに立ち尽くしていた。もうすぐ雨になりそうである。休むことなく、一気にリフト乗り場を目指して下る。既に霧雨が降り出している。

トップページに戻る

山域別リストに戻る