宇都宮郊外 鞍掛山から古賀志山を目指し 

道標・赤布も皆無の薮尾根に四苦八苦し

2015年4月26日

 
大岩より古賀志山を望む
540mピークより古賀志山を望む
                          
森林公園駐車場(644〜650)→林道長倉入線(652)→長倉山(720〜725)→舗装された林道(737)→鞍掛山登山口(742)→弍の鳥居(743〜746)→双体神(756〜758)→鞍掛山神社(802〜804)→尾根コース・岩コース分岐(807〜813)→尾根鞍部(829)→大岩(836〜840)→鞍掛山頂(849〜852)→シゲト山山頂(912〜916)→豬倉峠(935〜940)→北尾根分岐(958)→手岡峠(1027)→540mピーク(1050〜1100)→北コースとの出会い(1210〜1215)→山峡苑(1241)→森林公園駐車場(1255)

 
 宇都宮市の北西郊外、日光市との境に古賀志山、鞍掛山、半蔵山などの連なる一塊の山塊がある。標高は最高峰の古賀志山でも583メートルと低いが、古賀志山は関東百名山や栃木百名山に名を連ねる名山であり、その北東隣りの鞍掛山も栃木百名山に名を連ねている。山塊の南西に位置する主峰・古賀志山には2004年10月に登頂した。また、山塊の北東に位置する半蔵山には先月苦労して登頂し、鞍掛峠までの縦走した。まだ山塊中央に位置する鞍掛山が未踏のまま残っている。

 調べてみると、鞍掛山へは登山コースが開かれており、少々岩場はあるものの、登山口から1時間もあれば山頂をきわめることが可能なようである。しかし、単なる山頂ピストンでは如何にもつまらない。インターネットで調べてみると、鞍掛山から古賀志山まで縦走が可能とのことである。ただし、この縦走コースは整備された登山コースではなく、地図読みを必要とする上級者向コースとある。ならばやりがいがありそうである。

 数日間暖かな晴天が続くとの天気予報に誘われ、早朝の5時22分、車で家を出る。既に夜はすっかり明けている。91キロ、1時間22分走って、目的地である古賀志山東面に広がる「宇都宮市森林公園」の駐車場に着いた。ここが鞍掛山から古賀志山への縦走の出発地点となる。駐車場は早朝のためゲートが閉まっているが、駐車場前の道路の駐車スペースには既に数十台の車が駐車している。おそらく、古賀志山への登山者や釣り人のものだろう。辺りに人影はない。支度を整え6時50分出発する。

 車を停めた宇都宮市森林公園は古賀志山東麓を流れる赤川を塞止めた赤川ダム及びそのダム湖周辺に広がる自然公園である。縦走の終着点・古賀志山からの下山地点としては大変便利なのだが、縦走の出発地点となる鞍掛山の登山口に行くには長倉山という360メートルの山を越える必要がある。

 車を停めた地点のすぐ先から地道の林道が右に分かれる。入り口に「林道長倉入線」との標示がある。この林道に入ってほんの4〜5メートル先で細い山道が右に分かれる。なんの標示もないがこの山道が長倉山へのルートのはずである。事前に調べてきた。それにしても、何らかの標示ぐらい設置して欲しいものである。意外にも山道は丸太で階段整備までしてあり、よく踏まれている。一体いかなる人がこの道を踏み固めているのだろう。

 少々の登りで尾根に達し、緩やかな上下を繰り返しながら奥へ進む。辺りは落葉広葉樹の森で新緑が目に眩しい。林床には橙色のヤマツツジが咲き誇っている。何とも気持ちのよい尾根道である。ただし、時折蜘蛛の巣が顔に当たるのが鬱陶しい。私が今日最初の通過者なのだろう。檜の植林を抜けると、薮の中を徘徊している二人連れに出会った。どうやら山菜採りのようである。

 歩き初めてちょうど30分、軽い登りを経ると最初の目的地・長倉山山頂に到達した。樹林の中の平凡な頂きである。事前調査によると、この頂きでルートは3分岐する。そして、その各々のルートを示す案内板が立てられているはずである。所が、山頂には私製の山頂標示が一つ立ち木に取り付けられているだけで、案内板は見当たらない。少々まごつく。少なくとも、1年前までの登山記録には確実に存在が記されており、写真も掲載されているのだがーーー。そして、この案内板喪失の事態が今日これから先続出することになるのだがーーー。

 山頂から先、分岐する三つの踏跡が確認できる。案内板がないので、事前調査の記憶と照らし合わせて、各々の踏跡の行く先を判断する。まず、北西に伸びる尾根を下っていく確りした踏跡。これはおそらく「北尾根」に向うルートだろう。次ぎに北へ下る支尾根上の踏跡。この踏跡もかなり確りしている。「鞍掛林道」に向うルートと判断する。三本目の踏跡は東側の谷に下るかなり弱々しい踏跡。「鞍掛山登山口」へ向う踏跡と判断する。と、なると鞍掛山に行くには2本目または3本目の踏跡を辿ることになる。割合確りした2本目の踏跡を下る。

 踏跡は支尾根上をドンドン下っていく。標示はおろか赤テープ一つなく、何となく不安である。下りながらふと気がついた。長倉山山頂で証拠写真を撮るのを忘れている。ルート判断に気が行ってしまっていたようである。仕方がないかーーー。10分少々下ると、小沢を渡って鋪装された立派な林道に下り立った。おそらく「鞍掛林道」だろう。ただし、下ってきた踏跡の入り口には道標はおろか赤テープ一つない。ようするに辿ってきた長倉山越えのルートは入り口にも途中にも出口にも道標・赤テープの類いは一切ないということである。知っているもの以外利用不可能なルートといえる。

 林道を右に緩やかに下っていく。立派な林道だが、車も人の気配も皆無である。周りはただただ新緑の森である。林道をほんの5分も歩くと、左側に大きな広場が現れ、「鞍掛山登山道入口」の立派な標示を見る。どうやらここまでは計画通りの道筋をたどれたようで、ほっとする。鞍掛山ピストンならこの広場に駐車すればよいのだが、車の姿はなかった。広場から奥へ向う広い道を100メートルも進むと、そこが鞍掛山登山口であった。弍ノ鳥居が建ち、登山案内図も掲げられている。一休みする。

 ここからは登山道となった。石のゴロゴロした極めて歩きにくい道を登って行く。辺りは鬱蒼とした檜の植林である。10分も登ると右側の岩陰に二体の小さな石の神像を見る。「双体神」である。摩耗しきっているが、いつごろのものなのだろう。と、ここで登山道が消えてしまった。あれ、と思って一瞬目で道を探す。このとき、下から犬を連れた男性が登ってきて、目の前の荒れた沢の中を登って行く。地元の人のようである。「そっちがルートですか」と声を掛け確認する。どうやら登山道が沢の中に完全に呑み込まれてしまったようである。

 沢とも道ともつかぬルートを2〜3分登ると「鞍掛山神社」との標示がある。ただし、神殿はなく、右側の岩壁から水量は少ないが3段の滝が落ちている。その横に小さな洞穴があり、中に御神体が祀られている気配である。ただし、暗くて中の様子はよくわからない。更に2〜3分登ると登山道分岐に達した。山頂へのルートはここで二つに分かれる。確りした道標が右を「尾根コース」、左を「岩コース」と示している。ここからいよいよ本格的な登りが始まる。その前に腹ごしらえが必要である。一休みして、握り飯を頬張る。その間に若い男が岩コースを登って行った。

 私は尾根コースに向う。尾根コースといっても、差し当たりは谷に沿った登りである。道端に山吹の花が盛んに咲いている。赤いボケの花も現れた。足下には紫のスミレである。やがてロープのある急登となり、尾根の鞍部に登り上げた。周囲は橙色のヤマツツジが咲き誇っている。

 ここからルートは急峻な尾根道となった。ただし、距離は短かい。ひときわ急峻な岩場を突破すると、「展望台」との標示のある巨岩の上に抜け出した。通称「大岩」と呼ばれている岩だろう。眼前には大展望が広がっている。思わず「うぇーーー」との声を発して立ち尽くす。凄まじい展望だ。岩上は畳3〜4畳ほどの平坦な広がりとなっており、絶好の休み場所を提供している。ちょうど、双体神で抜かれた犬を連れた男性が一人休んでいた。地元の人だという。

 「あの山はーーー」、腰を下ろすまもなく、山肌を新緑で輝かせて連なる眼前の山を私が指さす。「あれが古賀志山です」。彼が故郷の山を誇るがごとくに即答する。これから私が向う山である。山頂部に幾つもの小ピークを連ね、全山新緑に輝いている。まるで命が躍動しているような山である。さすが関東百名山に名を連ねる山である。「となると、あれが多気山ですね」、古賀志山の左に他の山塊から孤立した独立峰を私が指さす。あの山も栃木百名山に名を連ねている。ようやく岩上に座り込んで輝く山々を眺め続ける。

 「これから古賀志山まで行くんです」。少々自慢気に私が話す。「鞍掛山を下ってところで右に折れる地点、それから次のピークを越えて左に下る地点、この二箇所は迷いやすいですから気を付けて下さい」、彼がアドバイスする。やがて彼と犬はもときた道を下っていった。私も稜線を西に辿って鞍掛山山頂を目指す。

 大岩を掛けられた鉄梯で下り、ほとんど上下動のない稜線を進む。大岩から10分ほどで鞍掛山山頂に達した。半分檜の植林、半分落葉広葉樹の林に囲まれた、小広く開けた山頂である。展望は一切ない。立派な山頂標示が立てられており、その足下に492.35mの三等三角点「鞍掛」が確認できる。あるいは分岐で抜かれた単独行者がいるのではないかと思ったが、山頂は無人であった。証拠写真を一枚撮って、いよいよ古賀志山に向って縦走を開始する。

  西に向け緩やかに下っていくと、立派な道標があった。来し方を「山頂・大岩方面」、行く先を「古賀志山方面」と記している。そしてこの道標が今回の縦走路における最後の道標であった。狭くなり、傾斜の増した尾根をグイグイ下っていく。ただし、この下りの途中で今日最初の試練が待ちかまえている。ルートはこの尾根から一つ北側の尾根に乗り換えなければならないのだ。その乗り換え地点が問題である。道標は期待できないが、せめて赤テープでもあれば助かるのだがーーー。

 右側前方に乗り換えるべき尾根が確認できる。乗り換えの分岐を見逃さないよう細心の注意を払いながら痩せ尾根を下る。小さなピークに達した。辿ってきた確りした踏跡はそのまま尾根に沿ってさらに先に続いているのだが、弱い踏跡が分かれて尾根を右に下っている。ただし、分岐には道標はおろか赤テープ一つない。「ここだ!」と神経を集中し持参の二万五千図を睨む。読図能力と山勘の見せ所である。決断して、尾根を外れる踏跡を下る。踏跡は小さなピークを越えて隣りの尾根に乗った。二万五千図から読み取れる地形通りである。このルートで間違いないと確信する。

 岩と潅木の痩せ尾根を急登すると、地図上の480メートル峰に登り上げた。狭い尾根上の小ピークである。立ち木に「シゲト山」と記した小さな私製の山頂標示が見られる。潅木が少々邪魔であるが北方にまぁまぁの視界が開けている。一休みする。

 岩や木の根の絡んだ急な痩せ尾根を下る。次の試練が待ちかまえている。尾根をこのまま西に進んでしまうとルートを外れる。南西方向から南方向へと回り込まなければならないのだ。ただし、明確な方向転換点はない。どんな具合か歩いてみなければ分からない。下るに従い、尾根は広がり尾根筋は曖昧となる。辺りは鬱蒼とした杉檜の植林となり展望も皆無となる。弱々しい踏跡を頼りに、南西から南方向へと進路を変えながら尾根を下る。

 尾根分岐点もよく分からなかったし、途中赤テープの類いもいっさい見かけない。辿っているルートが正しいのかどうか、確信が持てず不安が募る。鬱蒼とした檜の植林の中のゆったりとした大きな鞍部に下り着いた。立ち木に「豬倉峠」と記した小さな標示が取り付けられている。万歳! これでルートの正しさがはっきりした。峠には両側から細い踏跡が登ってきている。安心して一休みする。その間にトレールランの男が一人、場違いのように駆け抜けていった。

 はっきりしない踏跡を追い、南に向ってやや急な斜面を登ると、再び痩せた尾根筋に乗った。岩や木の根が絡んだ急登の多い尾根である。地図上の431メートル峰を越え、尾根が南から西に方向を変えると、北尾根分岐点が現れるはずである。そして、その分岐点には、「古賀志山」「鞍掛山」「北尾根」の三方向を示す確りした道標が設置されているはずである。所が一向にこの標示が現れない。尾根は一本道でありルートを間違えているとは思えない。明らかに分岐点を過ぎたと思われる地点まで来て、思い当たった。先ほど通過した薮尾根の片隅に、来し方を「鞍掛山」と示す半分消えかかった小さな道標を見た。気にも留めなかったがどうもあの地点が「北尾根分岐」であったのだろう。だが、あるべき道標が姿を消している。

 豬倉峠から休むことなく痩せ尾根を50分歩き続けると、檜の植林の中のゆったりした鞍部に達した。鞍部を乗っ越す細い踏跡も確認できる。「手岡峠」と思うのだが、なんの標示も、赤テープさえない。事前調査では、この峠にも尾根道の両方向、峠道の両側、4方向の行く末を示す確りしたルート標示版が建っているはずなのだがーーー。あるはずのルート案内版がここにもない。一体どういうことなのか。

 更に尾根を辿る。二人連れの登山者とすれ違った。縦走路に入って初めて出会う登山者である。進むに従い、痩せ尾根はますます厳しさを増す。何と岩場の多い尾根なのだろう。岩角、木の根を手掛かり足がかりとして、前進を続ける。どこまで行ってもすっきりした展望は得られないが、潅木の間から見え隠れする行く手の古賀志山はずいぶん近づいてきた。

 短い距離だがザイルの張られた岩場を突破し、幾つ目かの小ピークに達すると、思わず万歳! という気分となった。山頂を囲む高木がなく、大展望が開けている。しかも、山頂は無人である。ここは二万五千図上の540メートルピークのはずである。小広く開けた山頂に座り込み、握り飯を頬張りながら眼前に広がる景色に見入る。目指す古賀志山が早く来いと呼んでいる。ちょうど11時、大展望のピークを出発する。『ここから先はもう迷いやすい箇所はないはずだ、尾根を忠実に辿ればよい。次の目標は富士見峠だ』。この思いのもと、地図もろくに見ずに出発した。この山を少々舐めた行為がこの後大失敗をもたらすとも知らずに。

 ルートは更に峻厳となる。両手両足総動員し、張られたザイルや岩角を確保しながらの前進となる。小ピークで3人連れが休んでいる。続いて、二人連れ、単独行者とすれ違う。にわかに人の気配が濃くなった。一体どこから来てどこへ向うのだろう。極めて険悪な岩壁が現れた。何本ものザイルが張りめぐされているものの、手掛かり足がかりも少なく、かなりの危険を感じる岩場だ。何とか登りきると、ちょうど反対側から7〜8人の中年パーティがやって来た。この岩場を覗き込んで、「どうやって降りるの」と悲鳴を上げている。傍らにザイルの垂れ下がった巨大な岩塔がそそり立っている。弁天岩と呼ばれる岩だろうか。

 どうやらこの辺りでルートを踏み外したと思える。富士見峠から古賀志山へ続く主稜線を辿っているつもりであったが、いつしか中尾根ルートへ引き込まれていたようである。すなわち地図上の559メートルピークを左(東)から巻くルートに入ってしまったと思える。分岐には注意を促す何の道標もなかったと思える。しかし、分岐のあることを意識し、地図を頭にたたき込んでおけば、こんなへまはしないのだがーーー。

 ルートを踏み間違えていることも気がつかず、主稜線を富士見峠に向っていると思い進んでいた。女性4人ほどのパーティとすれ違った。何気なく「どこまで行くのですか」と聞いた。リーダーらしき中年の女性が「559を越えて富士見峠に向います」と答える。どうやら地元山岳会のメンバーらしい。しかし、私と反対方向に向いながら「富士見峠」に向うとはどういうことだ。私も富士見峠を目指しているのだ。改めて聞くと、私の進んでいる道は中尾根を経由する下山道で、富士見峠へは分岐までかなりの距離を登り返す必要がある」との答えである。「えぇぇぇ」である。今更登り返す気力も湧かない。この中尾根ルートを下ることにする。

 中尾根とは主稜線上の559メートル峰付近に東から突き上げている顕著な支稜である。このことは二万五千図により分かるのだが、この支尾根に登山道があることは知らなかった。もちろん地図にも記載はない。このため、中尾根ルートだと教えられたこのコースは一体どこに下り着くやらさっぱり分からない。いずれにせよ何とか愛車のところに戻らなければならない。すれ違った女性に「この道はどこへ下りますか」と少々恥ずかしい質問をしたが、要領を得なかった。そのまま支尾根上の確りした踏跡を下っていくと、鞍部状のところで道が三つに分岐した。そのまま尾根を進む道、尾根の左右に下る道である。道標は何もない。えぃや!と右に下る道を選ぶ。しばらく下ると、何と、古賀志山北コースに合流したではないか。赤川ダムサイドから富士見峠に登り上げる古賀志山メイン登山道の一つである。合流点は広場となっており、ベンチもあり、数人の登山者が休んでいた。結果として最適の場所に下山したことになる。

 荒れた林道のような登山道をのんびり下り、12時前に愛車に巡り合った。波乱多き登山の終焉である。
 

登りついた頂  
     長倉山   360  メートル
     鞍掛山   492.4 メートル
     シゲト山  480  メートル
               

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