足尾山塊 栗生山と荒神山 

水沼駅温泉センターを拠点に登る山・二座

2013年5月27日

栗生山山頂
くろほね大橋より望む荒神山
                            
栗生神社参道石段下(619〜626)→栗生神社(630)→尾根(713)→栗生山山頂(719〜724)→展望岩(726〜733)→栗生神社(801〜805)→栗生神社参道石段下(809)
水沼駅温泉センター駐車場(832)→荒神山入り口(848)→遊歩道入り口(852)→分岐(912)→展望台(926〜931)→手作り広場(937)→荒神山山頂(940〜952)→分岐(1006)→遊歩道入り口(1017)→荒神山入り口(1019)→水沼駅温泉センター駐車場(1032)

 
 先日、わたらせ渓谷鉄道に乗って、足尾地方奧の備前楯山に登った。その折、途中の水沼駅で、駅舎がそのまま温泉施設になっているのを見て驚いた。そして、是非一度入浴したいものだと思った。帰宅後調べてみると、水沼駅近くには栗生山と荒神山という二つのハイキング対象の山がある。この二つの山に登って、帰路、温泉に浸かるのがよさそうである。天気予報が、今日が梅雨入り前の最後の晴れ間と告げている。まだつつじも咲いているだろう。出かけてみることにする。

 栗生山も荒神山もそれほど名の知れた山ではないが、一応、群馬百名山に選出されている。荒神山は水沼駅の目の前の山であり、わたらせ渓谷鉄道でも行けるのだが、栗生山は駅から遠く、バスの便もないので、車で行かざるを得ない。朝、6時過ぎに出発するつもりでいたが、4時には目が覚めてしまった。早い分には問題なかろうと、4時半過ぎ、出発する。既に夜は明けているが、予報に反して、空は厚く雲に覆われ、今にも降りだしそうな空模様である。カーナビは栗生山登山口の栗生神社まで68.3キロを表示している。約2時間のドライブだろう。

 熊谷、太田、桐生、大間々と過ぎ、国道122号線を北上する。渡良瀬川沿いのカーブの実に多い国道である。水沼駅先より県道257号線に入る。先が行き止まりの山奥に向う地方道にしては立派な道である。早朝のためか、すれ違う車もない。田沢下集落で、栗生神社を示す小さな標示に従い細道に入る。奧に進むに従い道は次第に細まり、最後の集落を過ぎると。小型車がやっと通れる道幅となって、6時19分、栗生神社参道石段下に到着した。車4〜5台停められるスペースがあるが、もちろん、他に車の影も人影もない。ここが栗生山への登山口である。

 (栗生山登山)

 参道となった古びた長い石段を登る。170段あるという。両側には杉の巨木が並び、薄暗い参道は物音一つしない。深山幽谷の趣である。籠り堂を兼ねた山門を潜り、栗生神社境内に入る。もちろん、人の気配はない。人里離れた山懐深くに鎮座する古社の風情が何とも心地よい。

 掲げられた説明板によると、当神社の創建は慶雲4年(707)で、現在の祭神は新田義貞の功臣・栗生左衛門頼方であるとのこと。もともと、栗生山そのものを御神体として祀った神社なのだろう。この神社の特筆すべき見所は、見事な彫刻で埋め尽くされた本殿である。彫師は上州の左甚五郎といわれる関口文治郎である。群馬県の重要文化財に指定されている。妙に横長の拝殿に詣で、裏手の本殿を拝見する。覆屋が架けられているため、近づくことは出来ないが、隙間から見事な彫刻を見学する。本殿右手には天然記念物である樹齢1200年と言われる大杉が聳え立っている。樹高は46メートルあるという。

 道標に従い、神社左手より登山道に入る。周りは鬱蒼とした杉林である。登り口に「栗生神社 640m」との表示があるので、968メートルの山頂まで328メートルの登りである。すぐに登山道は幅1.5メートルほどのコンクリート舗装の細道となった。しかも、爪先立ちせさせるを得ないほどの急勾配である。この鋪装された細道が何を意味するのかさっぱり分からない。小型ブルドーザーでも通るのだろうか。

 この細道も100メートルほどで終わり、急登が始まった。一面に杉林が広がる急勾配の平斜面を小さなジグザグを切りながらグイグイ登っていく。それにしても凄まじいまでの急勾配である。所々に大きな露石が堆積しており、もし崩壊したら凄まじい速度で一気に下まで雪崩れ落ちるであろう。そう考えると恐怖さえ覚える。ただし、登山道は確りしており、ルートを示すテープや赤ペンキが頻繁に見られる。登山道の左側には急峻な空沢が沿っている。

 時々立ち止まって息を整えるが、休むことはなく登り続ける。もっとも、急斜面の連続で腰を下ろす場所さえないが。どこまでもどこまでも杉林が続く。手入れがよいのか潅木など一切ない。そのため、花もなく、鳥の鳴き声一つしない。ただただ早朝の静寂が辺りを支配している。次第に上空の灰色の空が近づいてくる。もうひと息である。

 登り始めて43分、ついに尾根に登り上げた。登り上げた場所は、案内書の記載と異なり、山頂から南に伸びる尾根の鞍部である。この栗生山の登山案内は山と渓谷社の「群馬県の山」や上毛新聞社の「群馬の山歩き130選」に載っているのだが、いずれの案内も、山頂から東に伸びる尾根に登り上げることになっている。案内書が間違っているのか、それとも最近ルートが付け替えられたのかーーー。そのまま、道標に従って尾根を右に進む。山頂まで200メートルと標示されている。尾根に達すると同時に樹相が変わり、若葉の緑がまぶしい潅木帯となった。所々橙色のヤマツツジの花が見られる。露石の多い急勾配の尾根をたどる。

 7時19分、神社から49分の頑張りでついに山頂に到着した。途中休むこともなくノンストップで登ってきた。山頂は潅木の中の小さな高まりで、真ん中に968.20メートルの二等三角点「栗生山」が頭を覗かせている。展望は一切ない。小さな山頂標示と「展望岩まで50m  石宮まで200m」との標示がある。

 証拠写真を撮っただけで、展望岩に向う。標示に従い西に伸びる尾根をわずかに下っていくと、絶壁となって落ち込む岩場の上に 出た。ここが案内書にも記載されている展望岩である。しかし、何という不運、見つめる視界の先は、真っ白なガスに閉ざされ何も見えない。ここからの展望こそが、栗生山の唯一のセールスポイントなのだがーーー。天気予報に騙され、さえない日に来てしまった。案内書によれば赤城山から袈裟丸山にかけての山並みが目の前に連なっているはずなのだが。周りに咲き誇っているヤマツツジの花を愛でながら握り飯をほお張る。

 何も見えない岩場にとどまっていても仕方がない。早々に下山に移る。いったん山頂まで戻る。道標が「石宮」と示す東に続く尾根上の踏み跡を辿ってみようかとも思ったが、思いとどまり、下山ルートである南に続く尾根上の踏跡を下る。下りは早い。超急斜面を転げ落ちるように下り、あっという間に栗生神社に下り着いた。相変わらず辺りはシンと静まり返っている。石段を下り、8時9分、車に戻った。山中、人はおろか、虫一匹出会わなかった。
 

 (荒神山登山)

 次の山・荒神山に登るべく、車を走らせ、水沼駅前の水沼駅温泉センターの駐車場に到着した。広大な駐車場には数台の車が駐車しているものの人影はない。渡良瀬川を挟んだ正面にこれから登る荒神山がどっしりとその全貌をさらしている。

 8時32分、荒神山に向け歩き始める。くろほね大橋で渡良瀬川を渡る。遮るものもなく眼前に立ち塞がっている荒神山は、まるでコンパスで画いたごとく半円形の山容である。この地点の標高が約270メートル。荒神山の標高が624メートルであるからこれから354メートル登らなければならない。

 畑中の道を直進するとすぐに荒神山に突き当たる。道標に従い、T字路を左に曲がる。すぐに右に分かれ山腹を登っていく車道に入る。しばらく進むと、道標が「荒神山入口」と指し示す細い舗装道路が右に分かれる。勾配のきついこの道を50メートルも進むと、また道標があり、山腹を這い上がって行く登山道を「遊歩道入り口」、辿ってきた舗装道路の行く先を「荒神山山頂」と示している。一瞬、進むべき方向に迷う。行きたいのは、もちろん「荒神山山頂」だが、どう考えても車道がそのルートとは思えない。山腹を登って行く山道こそが山頂に至るルートと思うのだがーーー。しかも「遊歩道」とは何を意味しているのだろう。

 我が勘を信じ、山道に踏み込む。結果的にはこの判断は正しかった。帰宅後調べて分かったことだが、車道は山腹を大きく迂回しながら山頂近くまで通じていた。「荒神山山頂」に通じることは確かだが、登山ルートではない。「遊歩道入り口」と標示された山道こそ、荒神山山頂に至る登山ルーであったのだ。道標はもう少し分かりやすく標示して欲しいものである。

 山道はジグザグを切りながら急な山腹を登っていく。周りは鬱蒼とした杉林である。人の気配はまったくない。時折、蜘蛛の巣が顔にかかるところを見ると、私が今日最初の登山者なのだろう。登山道を20分もたどると分岐に出た。道標が左の道を「山頂神社」、右の道を「展望広場」、来た方向を「帰り道」と示している。どちらを進んでも山頂に行けそうである。右の「展望広場」への道を選ぶ。

 周囲の樹相が変わり、杉の植林から広葉落葉樹の自然林となった。登るに従い心持ち傾斜も緩んできた。「展望広場」は近そうである。すっかり傾斜が緩み山頂部の一角に達したと思ったら、突然細い舗装道路に出た。まさか鋪装道路が上ってきているとは思わなかったので、びっくりするやら興ざめするやら。この鋪装道路は登山道に入る前に辿った鋪装道路の続きだったのだ。すぐに、左側に群馬テレビのアンテナ施設が現れ、その隣りが「展望台」であった。

 無人の展望台に寄る。設置された櫓の上に登ると、北から西にかけての視界が大きく開けた。栗生山と異なりガスこそ立ち篭めていないが、どんよりとした灰色の空のもと、見通しは極めて悪い。設置された展望図によると、赤城山から袈裟丸山にかけての大展望が目の前に開けているはずなのだがーーー。今日はわずかにか眼下の渡良瀬渓谷とその背後の栗生山付近が霞んで見えるだけである。

 早々に展望台を辞して山頂に向う。緩やかな登りとなって続く鋪装道路をたどると、5分ほどで草原となっている広場に出た。「手作り広場」との標示がある。途中の分岐で「山頂神社」と示された小道もここに登り上げている。帰路はそちらの道を通ってみよう。鋪装道路はここで終わり。道標が雑木林の中に続く小道を「荒神山山頂」と示している。

 小道を辿るとほんの2〜3分で荒神山山頂に達した。雑木林の中の狭い小さな高みで、624.37mの二等三角点「荒神山」と山頂標示があるだけで展望も一切ない。無人の山頂に座り込んで握り飯をほお張る。これで、今日目指した2座の登頂終了である。あとは楽しみの温泉が待っている。

 下山に移る。と、「手作り広場」手前で、何と、登ってくる単独行者とすれ違った。中年の男性である。栗生山も含め、今日初めて見かけた登山者である。「手作り広場」からは予定通り、登りとは別ルートで下る。ジグザグをきる登山道の谷側は杭とロープで確りガードされている。よく整備された登山道である。山頂から15分も下ると、分岐に達した。ここからは登ったルートを下ることになる。温泉が待っていると思うと、自然と足も速まる。

 10時32分、駅前駐車場の愛車に帰り着いた。早速、タオルをもって水沼駅温泉センターへ行く。入浴料は600円であった。施設のオープンは11時からとのことで、少々待たされたが、一番風呂に入ることが出来た。湯船の窓一杯に、登ってきたばかりの荒神山が広がっている。天国天国である。

登りついた頂  
   栗生山  968・2 メートル
   荒神山  624・4 メートル 
    

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