険悪な岩峰を幾つも越えて 三床山とその山域を縦走低山と侮るとひどい目にあう岩と潅木のハードな山域 |
2021年2月28日 |
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三床山駐車場(705〜711)→沢コース・尾根コース分岐点(722)→三床山山頂(816〜830)→沢コース分岐点(839)→二床山分岐(856)→小三床山(902)→栗谷峠(909)→鳥ヶ岳(918〜920)→つつじ山(938)→桜山(952〜957)→林道(1029)→一床山(1111〜1125)→二床山(1139)→高松分岐(1142)→高松(1205〜1215)→高松分岐(1242)→駐車場(1243) |
新型コロナウィルスの猛威をうけ、緊急事態宣言が発せられてからもう1年となる。ただし、ウィルスの猛威は衰える気配は無い。緊急事態宣言も発し続けている。人との接触をなるべく避けよとのお達しゆえ、電車に乗ってどこかへ行くわけにもいかない。一人車を使って近郊の山へ登るのならお達しに背きはしないだろう。
二万五千図を眺めると、関東平野の北端、栃木県佐野市の奥に「三床山 334.8メートル」の三角点峰が記載されている。変わった名前が目を引くが、ハイキングの対象としては案内の類をあまり目にしない。地図を眺めても、山頂に至る登山道の記載は無い。ただし、山名記載のあるピークはこの334.8m峰のみであるが、付近には同じようなピークがいくつも並んでいる。いずれも標高は300m台で、岩場や崖などの危険を示す気配もない。調べてみると、この山域にはこれら7~8個のピークを結ぶハイキングコースが開かれている様子である。外出禁止で徒然なる1日、気分転換に出かけてみることにする。いくつかの低山を巡る軽いハイキングが期待できる。 5時55分、車で家をでる。まだ日の出前だがあたりは明るんでいる。途中で日の出を迎え、広がる田んぼの向こうから真っ赤な太陽が昇って来た。今日1日天気は良さそうである。家からちょうど40km走り7時05分、目差す三床山の麓に鎮座する鹿嶋神社脇の駐車スペースに到着した。あたりは一面に太陽光発電パネルが設置されている。駐車スペースには私が最初の一台であった。 先ずは鹿嶋神社に今日の無事をお願いする。山中にあっては驚くほど立派な社殿である。道標に従い、神社の脇から山中に向かう。軽車両なら通れるほどの林道を進む。5分も進むと沢コースと尾根コースが分岐する。予定通り尾根コースを選択する。さらに5分も進むと尾根コースが辿って来た林道と分かれて常緑樹と篠竹の密生した山中に続く。小道ともいえる登山道を緩やかに登っていき、小ピークを越える。 途端に状況は一変した。目の前に天を衝くすさまじく急な斜面が立ち塞がったではないか。露石と灌木の斜面である。「これを登れっていうの」。一瞬たちどまって思わず斜面を見上げる。斜面は上部に向かってどこまでも続いている気配である。覚悟を決めて斜面に挑む。「軽いハイキングのつもりであったのにーーー」。内面でブツブツ言いながらーーー。それでもまだ朝っぱら、体力に余裕はある。ステップもままならない急斜面をひたすら登り続ける。 8時16分、ついに三床山山頂に登り上げた。山頂は東西に細長く開けた平坦地で、灌木がまばらに茂っている。石の小さな祠が3つ程置かれ、何らかの神様が祀られていた様子が伺える。木々の枝の間からではあるが四方に展望がえられる。先ず視線は北方に向けられる。幾重にも重なる山並みの背後に真っ白に雪をまとった山が姿を見せている。その姿から、一眼、日光の男体山である。とすると、その右隣りは女峰山である。目をそのまま大きく左に転じれば日光白根山が確認出来る。振り向いて、南方を眺めれば、足元にゴルフ場が広がり、その先に関東平野が霞の彼方まで続いている。まさに今、私の立っている山が平野と山地の境界であることがよく分かる。先に進もうと、ザックを背負って立ち上がった瞬間、登山道から男性一人が姿を現した。未知の山で他の登山者に出会うと、なんと無く安心する。 これから辿る縦走路の入り口に立ち、踏み込むべき登山道を見つめ、一瞬戦慄を覚える。岩場の物凄い急斜面がなだれ落ちている。ん! これが登山道? ロープが長々と張りめぐされている。折しも、ひとりの女性がロープにすがりながら懸命に登って来る。行くっきりない。深呼吸一つして、私もこの露石と潅木に覆われた大急斜面に飛び込む。10分ほどで何とか痩せ尾根の一角に下り着いた。ここが沢コースとの合流地点であった。 小峰を超え、次の一峰に登りあげると、そこが二床山と小三床山との分岐であった。私はそのまま尾根を北上して小三床山へ向かう。のろのろと登っていたら背後からやって来た女性に追い抜かれた。私は昔のように速くは登れない。小三床山を越え、鳥ヶ岳との鞍部に達すると「栗谷坂峠」との表示があり、東側からかすかな踏み跡が登って来ていた。ただし西に下る踏み跡は見当たらない。 鳥ヶ岳、つつじ山と同じ様な小ピークを越える。どのビークへの登り下にも短距離といえどもロープの張られた岩場の急斜面が現れる。たどる尾根もナイフリッジとなり、左右は絶壁となって谷底に切れ落ちている。勿論、踏み外したら生きては生還出来ない。つまずく事が怖い。歳のせいで、注意していても時折、小さな躓きを経験する。時々、展望に恵まれた岩場が現れる。あいかわらず男体山、日光白根山の真白な姿が美しい。時折、浅間山もみえる。 9時52分、桜山に到着した。越えて来た他の小ピークと同様雑木に覆われ展望もない平凡な頂きである。小さな石の祠が二つ無造作に置かれている。三床山より北および北西に向けて続いて来た主稜線はこの桜山からなおも北に向かって続いている。大姫山、天ヶ岳、林山、金原山と続く稜線である。ただし、この桜山以北の稜線には整備された登山道は無い。冒険好きの登山者が時折踏み込むだけの領域である。私も今日はその領域に踏み込むつもりはない。ハイキングコースは、この桜山から南西に伸びる支尾根をはるか下の山裾まで下り、そこから一床山、二床山の連なる稜線に改めて登りなおすのである。下りに入る。時々、ロープの張られた急斜面が現れ緊張する。人の気配は全くない。 30分ほどで谷川沿いの林道に下りついた。交差し分岐する林道はわかりづらいが確りした道標がルートを示してくれる。いよいよ一床山325mの登りに入る。ジグザグを切った急登が続く。流石に疲労の色が濃い。下ってくる登山者とすれ違う。彼らもこれから桜山への急登に挑むことになる。尾根が狭まりナイフリッジとなる。左側は切り立った絶壁だ。落ちたらひとたまりも無い。登るに従いピッチは落ちる。10歩歩いては立ち止まりーーー。それでも歩く都度山頂は近づく。山頂の人影が見えてきた。話し声も聞こえる。 11時11分、ついに一床山山頂に到達した。山頂は10数人もの大パーティで賑わっていたが、彼らはすぐに出発していった。山頂に私一人残された。なんとも素晴らしい山頂である。大石の積み重なった狭い頂ではあるが、さえぎる物もなく360度の大展望が得られる。腰を下ろし握り飯をほおばりながら眼前にひらけた大展望に見惚れる。男体山、日光白根山などの日光連山は朝から何度も眺めた。そのさらに左には真白な浅間山が確認出来る。さらにその左手はるか、かすかに白き山々の連なりがみえる。八ヶ岳連峰だろう。ここはなんと素晴らしい頂なんだろう。 数人の登山者が登ってきた。狭い頂のこと、場所を譲らねばならないだろう。素晴らしい頂に別れを告げる。めざすは稜線を東にたどって隣の二床山である。目指す稜線への降り口を覗き込んで驚いた。岩場の垂直に近い絶壁である。何段にもロープが張り巡らされてはいるが、今日最大の難所である。こんな難所を抱えるにも関わらず、案内書の「三床山ハイキングコース」の難易度評価は「初心者向け」である。冗談では無い。岩場がこれほどあちこちにあるとは知らず、今日はストックを持参している。岩場では邪魔で仕方がない。途中まで降りると、二人連れが登ってきた。どうやってすれ違ったらよいのやら。双方しばし顔を見合わせる。 15分程で二床山山頂に到達した。誰もいない。雑木がまばらに茂る平凡な頂である。いよいよ下山に移る。ここより南に続く支尾根が下山ルートである。途中、高松と呼ばれる303mの小ピークを越えるだけである。緩やかな尾根道を下る。葉を落とした落葉樹の間から左右に展望がひらけている。左には先ほど登った一床山、山頂に屯する人影が見える。右側には今朝一番で登った三床山がそそり立っている。 高松で一休み。最後の握り飯を食べて緩やかな尾根道を走るように下っていく。満足な1日であった。12時43分愛車の待つ駐車場に到着した。
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