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肩の小屋口(1345)→肩の小屋(1400)→剣ヶ峰山頂(1440〜1455)→肩の小屋(1520)→肩の小屋口(1540) |
日本には三千メートル以上の標高を誇る山が21座ある。富士山、白峰北岳、奥穂高岳、間ノ岳、槍ヶ岳、悪沢岳、赤石岳、涸沢岳、北穂高岳、大喰岳、前穂高岳、中岳、荒川岳、御嶽山、農鳥岳、塩見岳、仙丈岳、南岳、乗鞍岳、立山、聖岳である。その他にかつては三千メートル峰であった剣岳がある(私が登った昭和39年当時は3,003メートルであったが、その後の測量で昭和45年発行の二万五千図から2,998メートルと訂正されてしまった)。南アルプスの三峰岳も2,999メートルであり、山頂に立てば頭はゆうに三千メートルを越える。
昭和50年11月に農鳥岳に登り、残す未踏の三千メートル峰は木曾御嶽山と乗鞍岳の二つとなった。三千メートル峰を完登しておきたいとの思いはあったが、残す二つはポピュラーな山、いつでも登れるとたかを括っていた。ところがいつでもと思うとなかなかチャンスが巡ってこない。特に、乗鞍岳に至っては山頂近くまで車で上がれる観光の山、深田久弥氏は「バス道路ぐらいで通俗化するようなチッポケなマッスではない」といっているが、やはり登山意欲は湧かない。こうして20年もの年月が経ってしまった。 木曾御嶽山に登ろうと決めた瞬間、ならばついでに乗鞍岳にも登って、永年の懸案事項を一気に片づけてしまおうと思った。乗鞍岳だけを登りに行く機会など永遠に来るわけがない。計画では御嶽山に登り、乗鞍高原辺りのキャンプ場で幕営して翌日乗鞍岳に登るつもりであった。ところが御嶽山に登って田ノ原に下山したらまだ10時半、ひょっとしたら今日中に一気に乗鞍岳に登れるのではないかとの気がしてきた。15時までに登山口の畳平に着けば登山可能である。木曽福島から木祖村、奈川村を経て上高地乗鞍スーパー林道を走り乗鞍高原を目指す。白樺峠に達すると、目の前に乗鞍岳の大展望が開けた。乗鞍高原を前景としてゆったりとそびえ立つその姿は実に雄大である。乗鞍岳を初めてつくづくと眺めた。乗鞍岳など馬鹿にしていたが、さすが深田久弥が百名山に選んだだけの山である。 乗鞍高原に入ると、急ににぎやかとなる。軽井沢をちょっと自然公園化した感じで、サイクリング道路や自然観察遊歩道などが整備されている。冬場はスキーの一大基地となるのであろう。ヘアピンカーブの連続する道路を遮二無二山頂に向かう。登る車は少ないが下山する車は列をなしている。まだまだ乗鞍岳は大賑わいである。スキーリフトが到る所に掛かっている。もうすぐ終点の畳平と思う頃、車が渋滞を始めた。ふと見ると、この地点から稜線を目指している登山者の列が見られる。地図を見ると、この地点は「肩の小屋口」とあり、ここから肩の小屋へダイレクトに登れる。ここで車を捨てて、登ったほうが早そうである。 肩の小屋を目指してトラバース気味の岩道を登る。見上げる山頂部は、午後も深まったにもかかわらずガスもなく晴れ渡っている。山頂直下にわずかに残った残雪の上では、何人かがスキーをしている。物好きなものだ。岩影にはチシマギキョーがわずかに見られる。わずか15分の登りで稜線に達する。摩利支天岳と朝日岳の鞍部である。ここに肩の小屋がある。ものすごく大きな小屋だ。畳平からの道と合流して人通りがにわかに多くなる。この時間でもまだまだ山頂を目指す人がたくさんいる。登山者というより、観光のついでに山頂を目指すという感じでみな軽装である。ここはすでに2,760メートル、朝日岳の山腹を巻き蚕玉岳を経て剣ヶ峰山頂まで50分コースである。道の状況が変わり、火山特有の砂小石混じりの道で滑りやすい。いつものリズムでグイグイ登っていく。私が一番早い。振り返ると、コロナ観測所のドームの建つ摩利支天岳がどんどん高度を下げていく。 山頂直下に達する。いよいよ三千メートル峰完登が目の前と思うと心が逸る。急な岩道を登る。山頂小屋の寒暖計は15度を指している。14時40分、ついに山頂に達した。3,026.3 メートルの三角点を撫でる。昭和39年7月22日、北アルプス槍ヶ岳の頂を踏んで以来実に31年、52歳にしてついに日本の全三千メートル峰を登頂した。一つの課題を為し終えた気持ちである。山頂には立派な社があり、何人もの登山者が休んでいる。北アルプス方面は雲が湧いており、楽しみにしていた槍穂の展望は得られないが、眼下には権現池が見られ、それを取り囲むように乗鞍山頂部の峰々が続く。陽が当たりぽかぽかと暖かい。 下山は早い。あっという間に下って15時40分、車に帰り着いた。松本、塩尻、韮崎を経て、夜22時前には静岡に帰り着いた。 乗鞍岳にはなんとも申し訳なかったが、単に山頂を踏むだけという味気ない登山であった。いつか、深田久弥のいうすばらしい乗鞍岳をゆっくりと味わえる機会の来ることを期待しよう。 我が三千メートル峰登頂の軌道
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