上信国境 野反湖を囲む山々を縦走 

八間山→三壁山→高沢山→エビ山→弁天山

2013年8月28日


 
八間山より浅間山(左奥)と白根山(右手前)を望む
 高沢尾根より野反湖と八間山を望む
                            
野反峠(645〜655)→イカ岩の肩(729)→イカ岩の頭(802)→八間山(832〜845)→野反湖見晴(924)→茅の尾根(941)→八間山登山口(948)→白砂山登山口(1017)→野反ダム(1022)→野反湖キャンプ場(1028〜1033)→三壁山登山口(1040)→宮次郎清水(1107)→三壁山(1158〜1207)→高沢尾根(1221)→カモシカ平分岐(1241)→高沢山(1245〜1250)→高沢平(1310)→エビ山(1331〜1338)→湖畔歩道分岐(1412)→湖畔分岐(1430)→根広、花敷分岐(1438)→弁天山北(1441)→弁天山(1447〜1457)→野反峠(1511)

 
 猛暑とゲリラ豪雨に明け暮れた異常気象の夏もそろそろ終わりである。天気予報は、夏の太平洋高気圧がようやく弱まり、大陸の乾いた高気圧が張り出してくると告げている。今日一日、安定した晴天の予報で、絶好の登山日和となりそうである。

 今回は少々遠出して、上信国境の野反湖周辺の山々を歩いてくるつもりである。2000年5月、この野反湖湖畔から残雪に覆われた名峰・白砂山を目指した。往復9時間にも及ぶハードな思いで深い山行であった。その際に眺めた野反湖を囲む山々が未だ脳裏に残っている。ゆったりとした、いかにもお花畑が美しそうな穏やかな山並みである。花の最盛期は過ぎたであろうが、秋の花々が咲き初めているだろう。

 3時半起床、夜明け前の3時45分車で出発する。野反湖までは何しろ遠い。東松山I.Cから関越自動車道に乗り渋川I.Cで降りる。いつしか夜は明けた。国道145号線を一路西進する。長野原町から野反湖に通じる国道405号線に入るつもりでいたが、何と、カーナビに導かれて中之条町から暮坂峠越えの県道55号線に進んでしまった。確かに距離的にはこのルートの方が近いのかも知れないが、峠越えのかなりの難路である。

 6時45分、家からちょうど3時間、150キロ走って野反湖の南端・野反峠(富士見峠)に着いた。大きな駐車場はがらんとして他に車の姿はない。気温は12℃、車外に出るとひんやりする。ここはもう標高1,561メートルの高地である。支度を整え、駐車場の一段上の峠の茶屋前にでる。眼下に野尻湖が静かに横たわっている。渇水のためか水位が大分低い。その右手にはこれから登る八間山が、その穏やかな山体を朝日に輝かせている。空は雲が多く、期待したほどの晴天ではないが、空気の透明度はよさそうである。

 6時55分、八間山に向け登山を開始する。もちろん周りに人影はない。八間山の標高が1,935メートルであるから標高差374メートルの登りで、コースタイムは1時間半である。今日の行動計画はここ野反湖南端の野反峠から湖東岸の八間山に登り、湖北端の野反ダムに下る。更に湖西岸の山並みを三壁山→高沢山→エビ山→弁天山と縦走し、野反峠に戻る、いわば山稜を辿って湖を一周するコースである。所要時間7〜8時間と少々長いが、八間山とエビ山は群馬百名山にも選ばれている。秋の野の花と展望が楽しみである。

 丸太で階段整備され、両側にロープの張られた遊歩道ともいえる登山道が延々と続く。階段状の道はいたって歩きにくいが、道の両側は草原が広がり、点々と期待していた野の花が現れる。もう、穂をいっぱいに伸したススキの中に薄紫色のマツムシソウが群れをなして咲いている。濃い紫色のオヤマリンドウの花もよく目立つ。黄色いアキノキリンソウは心和む花である。赤と白の斑な小さな花をいっぱいにつけたヤマハギも多い。真っ白な、実にかわいらしい花をつけたウメバチソウも見られる。おそらく、この山腹は初夏には素晴らしいお花畑となるのであろう。

 登るに従い、背後に大展望が大きく開けてくる。樹木が少ないので実に大きな展望が得られる。今日は既に秋の気配、空気も思いのほか澄んでいる。視界の右端にゆったりした大きな山体を見せているのは白根山である。未だ続く火山活動のため、山頂部は茶色の地肌が剥き出しになっている。その左奥には浅間山、黒斑山、籠ノ登山、湯ノ丸山の連なりが見える。浅間山の引く雄大な裾を左に辿ると、浅間隠山に行き着く。その更に左奥には榛名山も見えている。視界の先にはまだまだ山が溢れている。写真を撮って、帰ってからゆっくり山岳同定を楽しもう。

 30分ほど登り、「イカ岩の肩」との標示を過ぎる。背後の展望はますます大きく広がる。更に30分も登ると小ピークに達する。標示が朽ち、よく読めないが「○○岩の頭」とある。「イカ岩の頭」と呼ばれる1828メートルピークであろう。山頂まではあと100メートルほどの登りである。見上げると、緑の草原となった山腹を登山道がうねりながら登り上げている。いったん少々下って、最後の登りに挑む。

 8時32分、ついに山頂に達した。低い笹に囲まれた平坦地で、朝の光をいっぱいに受け、光輝いている。広場の真ん中には三角点「八軒」が頭を覗かせている。山名と三角点名で「ケン」の字が異なるのはどういうわけであろう。山頂に人影はなく、四方に大展望が開けている。荷物を下ろすのももどかしく、カメラを構えて山頂を走り回る。白根山、浅間山、浅間隠山、榛名山などの展望に加え、反対側に、新たに白砂山方面の展望が開けた。ただし、残念、白砂山の山頂部だけは雲がかかり見えない。座り込んで握り飯を頬張る。山頂の隅には朽ちかけた小屋が建っている。

 しばしの休息の後、下山に移る。登ってきたのと反対側に下るのだが、山頂の標示は、登ってきた方向を「登山口」、反対方向を「堂岩山、白砂山」と示している。私の目指す野反湖北端の野反ダムを示す標示はない。かまわず廃屋の脇から続く登山道に飛び込む。すぐに分岐があり、堂岩山、白砂山へのルートが右に分かれる。真っ直ぐ下る道が私の目指すルートである。

 登ってきたルートに比べ、このルートはかなり悪い。道型ははっきりしているものの、道は深くえぐれ、木の根や岩石が露出し、泥濘も多い。おまけに、ルートは全て樹林の中、展望は一切利かない。シラビソ、コメツガ、ダケカンバの林である。もはや野の花も見られない。登ってきた道とは好対象である。

 40分も下ると、「野反湖見晴」の標示がある。ただし、木々の間から微かに湖面が見えるだけである。更に15分も下ると「茅の尾根」との標示があった。八間山まで2キロ、登山口まで0.3キロとの標示である。突然、人声がして60年配の男性と20歳代の女性の二人連れが現れた。男性はザックを背負い、登山靴を履き、完全なハイキングスタイルなのだが、女性はウエストバッグに運動靴スタイル。何となく変なパーティである。いずれにせよ、今日山中で初めて出会った人影である。

 すぐに湖畔沿いの車道に下り立った。「八間山登山口」の標識が建ち、立派な駐車場が設置されている。先ほどの登山者のものだろう、車が一台駐車している。車道を進めば目指すダムサイドに行けることははっきりしているが、林の中に一本のトレールが見られ、道標が「池の峠 1キロ」と標示している。池の峠とはどこをいうのかさっぱり分からないが、この道を通ってもダムサイドに行けそうである。

 トレールは山腹を巻くようにして緩やかに登っていく。あまり人の通った気配はないが、所々丸太で階段整備されており、ハイキングコースと思える。15分ほど進むと、支尾根の末端の様な高みに達し、そこから湖面に向かって一直線に急降下する。長い長い丸太の階段である。ひとしきり下ると、またもや巻き道となる。一体この道はどこに導くのだろう。すぐに立派な登山道に行き当たった。ただし分岐には道標が一切ない。勘としてはこの立派な道はダムサイドから白砂山に向う登山道だろう。登山道を下ると、過たず、湖畔に降り立った。「白砂山登山口」の標識が建ち大きな駐車場がある。そして立派なトイレと茶店があるが、相変わらず人影はない。

 湖畔沿いの車道を進む。いつしか空は雲に覆われ、天気悪化の気配である。すぐにダムに達した。野反ダムは信濃川水系中津川に建設された高さ44メートルの発電用ダムで、昭和31年に完成した。ダムの上に立ち湖面を眺める。その左側背後にはいましがた登ってきた八間山がゆったりとそそり立っている。ダムを渡りきったところが野反湖キャンプ場である。管理棟、テント場、バンガローなどのある大きなキャンプ場であるが人影はまったくない。まだ夏休み中であり、シーズンオフとも思えないのだがーーー。

 予定ではここから三壁山に登り、高沢山、エビ山、弁天山と縦走するつもりであったが、弱気の虫が一瞬頭をもたげた。三壁山、高沢山をカットして、直接エビ山に取りつくことも可能である。そうすればかなりの行程が省略できる。しばしの休息により、弱気の虫を追い払う。道標に従い、バンガローの間の少々分かりにくい道を登っていくと、三壁山登山口に達した。

 どの程度の登山道かと心配したが、隈笹の密叢の中に確りした切り開きが続いている。どこまでも雑木林と隈笹の中の特徴のない登りが続く。展望も一切ない。登るに従い次第に傾斜が増し。凄まじい急登の連続となった。30分ほど息を切らして登ると、『宮次郎清水』との標示があり、山愎に差し込まれたパイプから冷たい水が流れ出ていた。

 更に急登が続く、さすがに立ち止まってひと息入れる回数が増える。相変わらず目を楽しませてくれるものは何もない。人の気配もまったくない。熊公が現れなければよいがーーー。見上げる山頂部にガスが渦巻きだしている。天気が悪化しなければよいのだがーーー。

 さしもの急登も緩み、山頂は近そうである。しかし、疲れた身体にはここからが長かった。あそこが頂上だろうと、頑張って坂を登り上げると、その先にまだ登りが続いている。この連続である。突然前方から一人の登山者が現れた。びっくりするやら嬉しいやら。山中で見かけた二度目の人影である。そして、結果的には今日山中で出会った最後の人影でもあった。

 11時58分、ついに三壁山山頂1,974メートルに到達した。登山口から1時間20分のアルバイトであった。ほぼガイドブック記載の標準時間である。山頂は稜線上の緩やかな高まりで、切り開きもなく、標示がなければ山頂とも思えない一角である。樹林の中で展望もまったくない。座り込んで握り飯を頬張る。時刻は既に正午、腹が減っては戦は出来ない。周辺の林の中をうっすらとガスが流れている。

 10分ほどの休憩で元気回復、高沢山を目指す。緩やかに下っていくと、高沢尾根との標示があり、樹林が切れて隈笹の草原にでた。視界が大きく開け、左側に野反湖とその背後の八間山が姿を現した。前方には樹林と草原の入り組んだ稜線が高沢山へと続いている。何と、ついに雨が降ってきた。雨具を付けるほどではないが、何とも大外れの天気予報である。一峰を左から巻き再び樹林の中を進むと、カモシカ平分岐に達した。右にカモシカ平、大高山へ続く確りした登山道が分かれる。ここから30分ほどのカモシカ平は広大な笹の原で夏にはキスゲが一面咲き乱れる場所として有名である。まだ咲いているだろうから寄ってみたいが、今日は時間的に無理である。

 ほんのひと登りで、高沢山山頂に達した。何とも貧相な山頂である。
稜線上のほんのわずかな高まりで、樹林の中でなんの切り開きもない。標示がなければとても山頂とは気がつくまい。ひとまず腰を下ろす。5分ほどの休憩で腰を上げる。時刻は既に1時近い。ゆっくりはしていられない。

 150メートルほど大きく下り、稜線を右から巻き気味に林の中の平坦な道を進む。20分ほど行くと、樹林が切れ、東側に大きく展望が開けた。「高沢平」との標示がある。白根山から横手山に続く稜線が目の前に広がっている。行く手には緑の草原となった顕著なピークが見える。目指すエビ山であろう。

 13時半、目指すエビ山に到着した。何とも素晴らしい頂きである。草原となった大きな広がりで、四方に大展望が開けている。無人の草原に寝ころび、心ゆくまで天下の大展望を万喫する。来し方を振り返れば、越えてきた三壁山と高沢山の連なりが見え、振り返ればアキノキリンソウ咲く草原の先に八間山がゆったりと聳えている。その右裾には今日の出発点であり終着点でもある野反峠がはっきりと見え、その背後に赤城山が黒く浮き上がっている。更に目を右に振れば、榛名山、浅間山、白根山、横手山と今日一日見慣れた景色が広がっている。山頂には湖畔の野反湖キャンプ場からの道も登り上げている。

 展望を十分堪能した後、今日最後の山・弁天山を目指す。弁天山との鞍部を目指して標高差約200メートルの一直線の急降下が続く。深くえぐれた登山道、滑りやすい泥濘、何ともいやな下りである。この道を登りに採ったらと思うとぞっとする。それでも約30分で最低鞍部に下る。左に湖畔遊歩道への道が分かれる。弁天山への登りとなる。今日最後の登りと思うと、踏みだす足にも力が入る。

 地図で見ると、弁天山は双耳峰である。北西のピークは1,652.6メートル三角点峰であるが、山頂標示は南東の1,650メートル等高線ピークにある。湖畔への分岐を過ぎ、更に、根広、花敷への道を右に分け、三角点ピークを左から巻きながら進むと、「弁天山北」との標示された地点に達した。道が二分し、左は野反峠に直接下る道、右は「弁天山山頂経由野反峠」との標示である。私はもちろん右の道を選ぶ。

 すぐにザイルの張り巡らされた岩壁の登りとなった。ただし距離は短い。すぐに山頂に飛びだした。岩峰上の狭い平坦地である。小さな石の祠と琵琶を抱えた弁財天の石像が安置されている。そしてまた、岩峰上だけに大きな展望が得られる。来し方には山頂部が雲で覆われだしている三壁山のから高沢山へ続く山稜、振り返れば八間山がもう目の前に迫っている。南を眺めれば、赤城山、榛名山。そして今まで浅間隠山の陰となっていた鼻曲山も姿を現している。眼下に見える終着駅・野反峠は手の届きそうな距離である。

 ひとしきり今日最後の展望を楽しんだ後、のんびりと野反峠に下っていった。峠着15時11分、予定通りの行程である。何とも素晴らしい山旅であった。
 

登りついた頂  
   八間山  1,934.5メートル
   三壁山  1,974 メートル
   高沢山  1,903 メートル
   エビ山  1,744 メートル
   弁天山  1,650 メートル     

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