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四阿屋山(あずまやさん) | 771.6m |
所在地 | 埼玉県両神村 |
名山リスト | 日本の山1000 |
二万五千図 | 三峰 |
登頂年月日 | 1999年2月28日 |
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薄川と小森川に挟まれた尾根が両神山頂から長々と東に伸びている。この尾根の末端に盛り上がった岩峰が四阿屋山である。普通は「四阿」でアズマヤと読むのだが「四阿屋」と一字よけいに書くところがご愛敬である。山名の由来は、もちろん、その山容が四阿に似ているためである。
新編武蔵風土記稿には次のように記されている。 四阿屋山 村の南小森村の界にあり、麓より山上まで凡二十町許、 山上の西邊一階高き處を大嶽といふ、天狗の小祠を安ず、下に四 阿屋明神社及四阿屋権現社の二社を安ぜり、日本武尊・乙橘姫命 の二神を祭ると云、又伊弉諾・伊弉冉の二神なりともいふ、例祭 九月九日、里正頼母が持成り(薄村) 角川日本地名大辞典には次の通り記されている。
この山は登山対象としては軽いハイキングの山で、三方から登山コースが通じている。しかし、さすが両神山系の山、登ってみると意外に手強い。山頂付近は完全な岩場である。メインコースの薬師堂コースを登っても、途中の山居福寿草園地に「これより先は初心者危険」の標示がある。また、山頂直下は岩壁に無理矢理刻まれたトラバース道で、鎖が張り巡らされているものの恐怖感が湧く。最も厳しいルートといわれる大堤コースは登山口、下山口に「初心者立入禁止」の標示がなされている。コースも鎖場の連続する厳しいものでわずか772メートルの低山とは思えないほどである。山頂は小さな岩場で、数人で満杯になる。ただし、展望は抜群である。うねる尾根が足下から続き、その先に両神山が大きくそびえ立ち、その左奥には奥秩父主稜線の山々が連なっている。 四阿屋山のセールスポイントは福寿草である。2月末から3月に掛けて、山腹を覆う雑木林の中に可憐な黄色の花が咲き誇る。山頂を目指す登山者ばかりでなく福寿草を見にやってくるハイカーも多く、四阿屋山が最も賑わう季節である。しかし、最近は盗掘により数が著しく減少してしまったようである。今では柵を施したいくつかの福寿草園地が設けられ、保護がはかられている。さらに、おそらく内緒の処置なのだろうが、自生株だけでなく、栽培株を園地に植えている気配である。 薬師堂コースの登山口にある薬師堂は埼玉県指定有形文化財で一見の価値がある。県内に現存する建築物としては、数少ない室町末期の古制を遺す三間四面の堂である。本尊の薬師如来は「め」の守護神として庶民の信仰を集め、目薬師と言われ眼病に霊験ありと、多くの人に信仰されてきた。また、鉢形城主北条氏の保護が厚かったと伝えられている。 四阿屋山には登山とは別に隠れた楽しみがある。薬師堂登山口の側に両神温泉薬師の湯がある。この温泉施設は、ふるさと創生事業により建設され、平成3年7月にオープンしたもので、施設から200メートルほど離れたところに源泉がある。四阿屋山の登山は半日行程であり、下山後にこの温泉で汗を流す余裕は十分にある。 私が四阿屋山に登ったのは1999年2月である。6年半にわたる静岡での単身赴任生活に終止符を打ち、故郷に戻って初めて登った山であった。それまで、ハイキング対象の低山と見向きもしなかった山であったが、咲き出しているであろう福寿草を見ようと出かけていった。福寿草は自生のものとは思えず、期待はずれであったが、山頂付近は厳しい岩場で、意外な手強さに驚いた。小なりといえどもやはり両神山系の山である。このとき薬師の湯に隣接する道の駅で購入した福寿草は毎年我が家の庭で春一番に花を咲かせ続けている。
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