宇都宮アルプス 篠井富屋連峰縦走 

積雪を踏んで、八つの峰を踏破

2015年2月7日


 
本山山頂より日光連山を望む
(左より男体山、大真名子山、女峰山)
南面より飯盛山を望む
                            
こどものもり公園(553〜611)→林道出会い(618)→再び林道出会い地点に戻る(631)→林道終点(656)→榛名山と男山の鞍部(719〜723)→榛名山山頂(730〜737)→榛名山と男山の鞍部(743)→男山山頂(751〜756)→本山山頂(820〜831)→下篠井登山口分岐(859)→241号鉄塔(904)→飯盛山山頂(919〜928)→大網公民館分岐林道(949)→青嵐峠(953)→高館山の肩(1022)→高館山山頂(1025〜1035)→大網登山口分岐(1044)→黒戸山山頂(1059〜1102)→林道終点(1109)→林道三叉路(1113〜1115)→兜山登山口(1117)→兜山山頂(1123〜1130)→林道三叉路(1136)→鬼山山頂(1148〜1151)→林道(1212)→田川に架かる毘沙門橋(1221)→こどものもり公園(1329)

 
 宇都宮市郊外に「篠井富屋連峰」と呼ばれる一塊の山群のあることを知る。別名は「宇都宮アルプス」である。標高は500メートル級と低いが、連続する幾つものビークを越えて進む縦走路はなかなか歩きがいがある様子である。そして何よりも各々のピークから望む日光連山の展望が素晴らしいとのこと、行ってみることにする。

 公共交通機関の便がよくないので、車で行かざるを得ないが、縦走となると、下山後に、車の置いてある入山地点までどうやって戻るかが問題となる。インターネットで幾つかの登山記録を見てみると、パーティ登山の場合は車二台で行って一台を下山口に待機させたり、単独行の場合は下山口に自転車を用意したりと、各々いろいろ苦心している。私はどうやらテクテク歩いて戻らなければならないようである。ただし、足には自信がある。

 5時半頃家を出るつもりでいたが、4時に目が覚めてしまい、どうにも眠れない。早すぎるぶんにはいいだろうと、4時半前に出発する。外は完全に夜の闇で、月が煌々と照っている。東北自動車道はこんな早朝にも関わらず、意外に通行量が多い。皆どこへ行くのだろう。宇都宮インターで降りる。周囲は闇に沈み、たどるべき道筋はさっぱりわからないが、カーナビが確り導いてくれる。

 5時53分、家から92キロ、1時間27分のドライブで登山口となる「こどものもり公園」に到着した。子供の自然との触れ合いをテーマとした宇都宮市市営の公園施設である。がらんとした駐車場に車を停めるが、夜は未だ明けていない。外は相変わらず真っ暗闇である。これでは登山どころではない。しばし車の中で夜明けを待つ。

 6時10分過ぎ、外がうっすらと明るくなってきた。どうにも我慢できず、月明かりを頼りに出発する。先ず、めざすは公園の背後に聳える榛名山と男山である。駐車場の奥に「登山道」との標示があり、確りした踏跡が杉檜林の中に続いている。ただし、森林の中はようやく明け始めた微かな明かりも届かず、暗闇に近い。深くえぐれた明確な踏跡だが、左右から張りだすシノダケが少々うるさい。あまり歩かれていなそうである。所々に雪が現れる。関東地方は二日前に雪が降った。平地ではほとんど積もらなかったが、山では積もったようだ。今日はザックの中に念のため軽アイゼンとスパッツを用意してきた。

 7分ほど歩くと、立派な林道に出た。地道ではあるがオフロード車なら走れそうである。道標があり、たどってきた小道を「こどものもり公園駐車場」、林道の行く先を「榛名山、男山」と標示している。榛名山と男山の鞍部に登り上げている登山道だろう。ただしこの道標は少々ぐらついており、指し示す方向が正しいのか若干不安がある。というのも、林道の右側からもう一本、山肌を巻くように進む確りした小道が伸びている。道標は何も示していないが、いくつかのピンクのテープがこの小道につけられている。このことが少々気になる。赤やピンクのテープは山でルートを示す際の印である。

 道標を信じて林道を進む。林道は緩やかに山腹を登っていく。しかし、次第に進む方向が西方に向いだした。どうもおかしい、向うべき山は北東方向のはずである。この林道はルートではないのではないかとの疑念が湧いてくる。意を決して元の地点に戻る。改めて、ピンクのテープのある小道をたどる。しかし、小道は公園の淵に沿うようにほぼ水平に奥へと続き、いっこうに上方に向わない。200〜300メートル進むと上方に向う一本の小道が左に分かれる。見たところ林業用に最近開鑿された気配で、登山道とも思えないがーーー。しかし、ピンクのテープがこの分岐する小道に付けられているのが少々気になる。

 水平に進む元の小道をもうしばらく進んでみるが、一向に高度を上げない。諦めて少し戻り、先ほどの分岐し上方に向う小道に踏み込む。確りした小道で、グイグイ高度を上げていく。しかし、雰囲気からしてどうも登山道とは思えない。しばらく登り、傾斜が緩んだ薮斜面に達すると、何と、小道は絶えてしまった。付近には、慌てた様子で、あちこちにピンクのテープが付けられている。

 さて困った。出発早々ルートを失った。しかし、それほど悲観もしていない。たかだか標高500〜600メートルの里山、登山道がなくても方向さえ間違わなければ何とかなるさとの思いがある。おおまかな現在位置も把握している。上方に向って薮漕ぎ前進を始める。雑木林の中の潅木とシノダケの薮である。冬枯れの季節であり、それほど前進は困難でもない。薮を漕ぎ漕ぎ、上方に見える支尾根に向って約10分も進むと、何と登山道に出会ったではないか。左(西)から地道の林道が登ってきており、ちょうどここがその終点。道標があり、その先には確りした登山道が続いている。道標の標示は、登ってきた林道の先を「中篠井登山口」、登山道の行き先を「男山、榛名山」である。よくよく考えるに、この林道は最初にたどり、引き返してしまった林道の続きなのだろう。あのまま進めば難なくこの地点に達したものと思える。いずれにせよ、正規の登山道に出てやれやれである。

 確りした登山道を登っていく。次第に傾斜が増し、積雪も増す。もちろん、足が潜るほどではなく、地表を覆う程度ではあるが。ただし、一部はアイスバーンとなっていてスリップに気をつけないといけない。アイゼンは持っているが、石や岩のゴロゴロした道であり、着けるとかえって危険である。山頂まではひと息と思っていたが、意外に山は深い。見上げると、稜線はまだまだ上空である。谷状の地形を登っていく。あちこちに岩壁がかかり、500メートル級の低山とも思えない。上空から人声が聞こえる。先行者がいるはずもなく空耳だろうか。

 駐車場から1時間10分かかり、ようやく榛名山と男山の鞍部に登り上げた。反対側(東方)に視界が開け、ようやく昇ってきた太陽の弱々しい光を全身に浴びる。遥か彼方には筑波山がくっきりと浮かび上がっている。ひと休みした後、潅木の茂る岩稜を榛名山に向う。短い岩場を登り詰めると山頂に達した。小さな石の祠が鎮座している。潅木が若干邪魔をするが、西方に大きく視界が開け、 朝の弱々しい光の中、真っ白に雪化粧した日光連山が広がっている。男体山、大真名子山、女峰山。しばしうっとりと眺め続ける。

 鞍部まで戻り、男山に向う。危険というほどではないが痩せた岩稜である。岩場を登り詰めると山頂部に達した。軽い双耳峰となっており、登り詰めたのは東峰、山頂は西峰であった。展望は余りよくない。松の間から日光連山が覗ける程度である。早々に山頂を辞し、三つ目の山、本山に向う。

 急な岩稜を鞍部に下る。この辺りに、室町時代から江戸時代に掛けて金を採掘した篠井金山の跡があるとのことであるが、それらしき遺構は見当たらなかった。本山から南に延びる稜線を目指して潅木の茂る急斜面を登る。この山域は低山の割に岩場混じりの急斜面が多い。息せききって登り詰めた稜線は本山の肩、山頂へは僅かに北へ進む。

 8時20分、薄く雪の積もった本山山頂に達した。瞬間、視界が大きく開け、大展望が現れた。さすが篠井富屋連峰の主峰にして最高峰、栃木百名山にも列せられた名峰である。期待通りの素晴らしい山頂である。山頂には561.47メートルの三等三角点「本山」が設置されている。

 何はともあれ、この大展望を満喫しよう。先ず目に飛び込んでくるのは真っ白に雪化粧した男体山、大真名子山、女峰山の表日光連山である。榛名山で眺めた際は、日の出直後の弱々しい光の中に霞むように見えたが、今や青空をバックに白銀を強く輝かせている。目を北へ向けると、ゆったりと裾を引く巨大な山、高原山がデンと居座っている。目を足下に近づけると、たどってきた稜線、榛名山から男山への連なりが俯瞰できる。山頂は他に人の気配はなく、私の独り占めである。

 白き山々の姿を目に焼き付け、本山山頂を辞す。次ぎに向うのは飯盛山である。稜線を南に少し下ると、岩場の大急降下となった。かなり危険を感じる岩場である。子供連れや初心者はちょっと通過をためらうだろう。穏やかとなった稜線を進み、小ピークを2〜3越え、鬱蒼とした杉檜林の中を平坦地に下る。確りした道標があり、下篠井登山口への登山道が分かれる。

 Uターンするように向きを北へかえて少し進むと、241号送電線鉄塔に出会う。ここから飯盛山山頂に向け凄まじい急登が始まった。まばらに生える広葉落葉樹の急斜面を木の根、岩角を踏んでの登りである。結果として、今日一番の急登であった。約15分の重労働に耐えると、ついに山頂に達した。周りを雑木で囲まれた小さな平坦地で、石の祠が安置されている。周りを囲む潅木が邪魔して展望は余りよくない。それでも木の間に越えてきた本山が見える。早々に次の目的の山、高館山に向う。

 飯盛山の下りは凄まじかった。地肌剥き出しの大急斜面で、上から下までロープが張りっぱなしである。何しろズルズル滑って足の置き場がない。雪こそついていないが、積もった落ち葉が、いっそう滑り易さを促進している。何しろ怖かった。とても一般ハイキングコースとは思えない。

 何とか下り切ると、打って変わって樹林の中の緩やかな道となった。ここより先、今までの急峻な地形は姿を消し、穏やかなゆったりした地形が続くようになる。しばらく進むと、鋪装された立派な林道の三叉路に出た。道標があり、南に下る林道を「大綱公民館」、東に向う林道を「青嵐峠、高館山」と示している。

 道標に従い、林道を少し進むと、再び道標があり、林道から右に分かれて林の中を進む小道を「青嵐峠、高館山」と示している。道標に従う。雑木と薮に覆われた雑然とした鞍部に達すると、「青嵐峠」の標示がある。「青嵐峠」はもっと確りした鞍部と思っていたので意外であった。二万五千図では破線がこの峠を乗っ越しているが、峠道は既に廃道と化し、薮の中にその痕跡が僅かに残るだけであった。

 高館山の登りにかかると、にわかに積雪が増した。15センチもあるだろうか。ただし、スパッツもアイゼンも必要ない。この程度の積雪はかえってステップが切れて歩きやすい。青嵐峠から30分も歩くと高館山の肩に到着した。山頂に向う登山道が左に分かれる。少々疲れの出た身体に鞭打って急登すると山頂に達した。小広く開けた平坦地で小さな石仏が鎮座している。そして、476.59メートルの三等三角点「西山」が確認できる。山頂の周りは雑木が取り囲み展望は得られない。三角点に腰掛け、握り飯を頬張る。この山頂も無人である。今日は山中で誰とも会わない。

 次の目的地・黒戸山に向う。樹林の中を緩やかに下っていくと、顕著な分岐に達した。道標が「大綱登山口」と示すしっかりした小道が右に下っている。私は「黒戸山」と示された登山道を進む。所が、たどる登山道が急に薮道となった。両側から萱とや笹が張りだし、薮漕ぎというほどではないが、正規の登山道とも思えない状況である。一瞬道を間違えたかと思ったが、大綱公民館分岐辺りより続いている先行者の足跡があるので間違いはなさそうである。

 緩やかに下っていくと、突然前方から若い男女の二人連れが現れた。今日初めて山中で出会った人影である。しかし、この時刻にいったいどこまで行くのだろう。鬱蒼とした樹林の中を進み、緩やかな山稜に登り上げると、そこが黒戸山の頂きであった。山稜上の小さな高みで「山頂」という地形ではない。証拠写真だけ撮ってすぐに下りに掛かる。

 杉檜の深い植林の中を道なりに下った行くと、舗装された林道の末端に出た。この林道を5分も下ると、立派な鋪装林道に出会う。この三叉路に道標があり、私の下ってきた林道を「黒戸山、高館山」、出会った林道の下って行く先を「中徳次郎登山口」と示している。この林道を「中徳次郎登山口」に下れば今回の山行きの無事の終了である。普通はそうするのであろうが、まだ時刻は11時少し過ぎ、もう少し活動できそうである。

 二万五千図を眺めると、黒戸山の南西と南に372メートルと同じ標高の二つの顕著な標高点ピークがある。南側のピークには「兜山」との山名表記があるが南西側のピークには山名表記はない。少々ややこしい話しなのだが、この二万五千図の表記は間違いらしい。「兜山」と表記されている南側のピークの実際名は「鬼山」とのことである。そして、山名表記のない南西側のピークの実際名が「兜山」とのことである。以上、事前にインターネットで得た知識である。今日はこの二つのピークにアタックしてみるつもりである。ただし、兜山には登山道があるものの鬼山には登山道はないらしい。

 先ずは実際名「兜山」に向う。林道の三叉路から道標の何も示さない登り方向に林道を進む。ほんの2〜3分進むと左側道脇に「兜山登山口」の標示を見る。この地点より、山肌を細い踏跡が山中に登り上げている。踏跡をたどる。廃棄されたと思える林道跡を横切り、さらに登っていくと、積み重なった巨岩が現れた。その裾を背後に回り込み、ひと登りするとそこが山頂であった。展望もなく、「兜山」との山頂標示があるだけの平凡な頂きであった。「登った」という事実だけに満足し、林道三叉路に戻る。

 さて、今日最後の仕事は「登山道のない山・鬼山」への登頂である。三叉路より鬼山の北面に取り付いた。落葉広葉樹と潅木の薮に覆われた斜面で、踏跡らしきものはまったくない。ただし、冬枯れの季節のため、前進はそれほど困難でもない。しかし、上部に行くに従い斜面の傾斜が増し、ずり落ちないように登るのが大変になる。立ち木で身体を確保しながら慎重に登っていく。さすがに息が切れ苦しい。それでも10〜15分もがき続けると山頂部に達した。この山の山頂部は、北東から南西方向に伸びる長さ200メートルほどの細長い平坦部となっている。一番高いと思われる北東の端に行ってみたが、山頂標示は何もない。立ち木に赤テープが巻き付けられているだけであった。せっかく苦労して登ったのにーーー、少々がっかりである。。

 証拠写真を1枚撮って、早々に下山にかかる。登ってきた薮の急斜面を下ってもよいのだが、細く伸びる山頂部上には微かに踏跡らしき気配が認められる。どうせなら踏跡をたどって下山したい。踏跡らしき気配をたどって南西の端まで行く。微かな踏跡の気配は、更に下界に向って続いている。しめしめである。ただし、見下ろす斜面は巨岩が積み重なった巨大な絶壁が幾つもかかり、身震いするような景観を呈している。下界までうまくルートが採れるのだろうか。少々心配である。

 少し下り、絶壁に行く手を阻まれたところで、ふと、岩陰を覗くと、何と、一人の男性がシャベルを振るって何か作業をしているではないか。この山中、人がいるとは思わなかったのでびっくりする。相手も私の姿を認めてびっくりした様子である。「この踏跡をたどれば下まで行けますか」と私。「踏跡は途中で消えてしまうよ」と男。「薮を漕いでもいいんですが、危険個所はありますか」と私。「岩場さえ注意すれば下まで行けるだろう」と男。

 下るに従い踏跡は怪しくなる。そして、何度も行く手を巨大な絶壁に阻まれる。その度にルートを探る。何度目かの巨岩を回り込むと、ついに踏跡は完全に消えてしまった。もはや、薮を漕いで進むしかない。幸い、巨岩の積み重なった地形は終わり、傾斜も緩んで、周りは雑木林と潅木の斜面である。冬枯れの季節であり、何とか薮をかき分け進むことが可能である。物音一つしない広大な薮斜面を一人ガサガサと下る。熊公が現れそうである。

 しばし薮を漕ぎ続けると、ぽんと、鋪装された立派な林道に飛びだした。この林道は、先ほどの林道三叉路から「中徳次郎登山口」へ向った林道のはずである。林道を下る。大きなヘアピンカープを過ぎると人家が現れ、道脇に「中徳次郎登山口」の道標を見る。過たず、無事の下山である。そのほんのすぐ先が田川に架かる毘沙門橋であった。あとはひたすらこの川に沿って里道を歩き「こどものもり公園」駐車場の愛車に戻るだけである。
 

登りついた頂  
     榛名山   524   メートル
     男山       527   メートル
     本山    561.6  メートル
     飯盛山      501   メートル
     高館山   476.6  メートル
     黒戸山      412   メートル
     兜山    372   メートル
     鬼山    372   メートル
                                 

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