早朝とは言え、日が昇るとさすがに暑い。仕入れた魚をぎっしり積んだリヤカーを押して歩きまわるのであればなおのことだ。佐伊津漁港から広瀬方面へ出るためには、道程のしょっぱなでだらだらした長い坂を越えなければならない。おばさんは、「あつかー」と言いながら汗を拭き々その坂を登る。途中から一緒に私もリヤカーを押す。

 坂を越えれば、ぼつぼつ民家が現れ出す。一軒々声を掛けては魚を売り歩く。二、三軒の家から集まった、奥さんたちのまえでの商いもある。時にはカメラを持った私がいることを不審に思う人や、撮影されることを嫌って、せっかく玄関先に出て来たのにまた家の中に入ってしまおうとする人などもあるものだ。私は、それを思って最初は、遠くから、おそるおそるシャッターを切る事しかできなかった。しかし、そんな人がいた時もおばさんは  「あー、心配せんでよかよー。」 と言って、その人達を安心させてくれる。私もだんだん近距離から大胆に撮影できるようになって来た。

 魚箱の中を覗くと・・・・、品はカワハギ、イトヨリ、エビ、コダイ、イカ、タコ等。少ないながらフグの刺し身もあるようだ。あるところで小さなビニール袋につめてお客さんに手渡しているのに気づいた。少ない品は、それを特に楽しみにしている家に来るまで、魚箱の隅の目立たない所に、別にしているようである。そんなところに、このおばさんとお客の長年のつながりをかいま見たような気がした。 私は、撮影をしながら、  「私の来っとば待っとる人もおんなはるけん、四十年たった今でんまーだこん仕事はやめられんです。」 と、おばさんが言っていたのを思い出した。

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