| 行商もそろそろ終わりに近づいて来た。魚箱の中身もだいぶ減ってきた。残っているのはタコが多い。佐伊津から茂木根、広瀬・・・・。直線距離でもかなりある。あちこちの路地裏に入り込んでの行商だったからもっと歩いているはずだ。
いつしか広瀬のわが家の近くまで来ていた。うちに寄って行きませんかと言うと、おばさん曰く・・・・、 「お宅にはきのう寄りましたけん今日は行かんどきましょー。続けてタコばかりは食べ よごつながでっしょけん。」 こんなところに、このおばさんの良さがある。 わが家の近くの一軒の家に立ち寄る。いつもそうしているのだろう、おばさんはここでタコを売った後、そこの奥さんからお茶を御馳走になった。玄関先に腰掛けて奥さんと雑談しながらゆっくりお茶を飲む。木陰になっていて涼しい。楽しそうだ。一息入れた所で写真を一枚・・・・。雑談の最後のほうで・・・・、 「もう殆ど売ってしまいました。先生もここで家に帰りなはらんですか。私も、残っと るのを売りながら引き返しますけん。」 「私は、帰ってから時々ビールば飲みます。暑か時はビールはうまかですね。」 (笑い) おばさんがこう言ったのを潮に、私もここで別れることにした。さっき撮った写真はいずれ焼き増ししてプレゼントすることを約束して・・・・。 さあ出発。今度は帰路だ。リヤカーは軽くなってはいるが、佐伊津まで引っ返すのは、これまた大変だ。もう十時、おばさんが佐伊津にたどり着くのは何時ぐらいになるだろうか。しんどいだろうけど頑張ってください。自分がついて廻ったために足手まといになった所があったかもしれない。だが、そんなことは、全く表情に表さずに、私に付き合ってくれて本当に有り難うございました。 「じゃー、先生さようなら。」 「有り難うございました。さようなら。」 最後の挨拶を交わして私はおばさんと別れた。いつまでも元気で頑張って下さい。さっきまであんなに暑かった夏の日差しがなくなり、空には俄に雨雲が広がり始めている。 「雨にならなければ良いが・・・・。」 私は、そんな事を念じながらおばさんの後ろ姿を見送った。 |
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