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『白いオリの中』

この建物の中では肌に不快感を感じない。
蒸し暑い夏の季節でも、凍てつく冬の季節でも、
いつも一定の、過ごしやすい温度に設定されている空気が流れているからだ。
しかし快適すぎる環境というのも、時にはストレスになるということをわかっていないようだ。

雑然とした階下とは違う、静かな廊下を進む。
ここは個室専門のフロアで、一つ一つの間取りが広い特別室ばかりだ。
主に重症患者やあまり手のかからない精神病患者などの長期入院用のものである。

だが、その特別扱いに惹かれる金持ちの御用達場でもあった。



東側、一番端のよく日の当たる角部屋に入る。
そこには、窓から入る日差しに照らされて、白く輝くベッドに横たわる少女がいた。
光の中で、まるで死んでいるかのように眠り続ける、眠り姫のように……

その目を閉じたままの頬にそっと手を当てる。
少し冷たい… だが死んでいる、というわけでは無さそうだ。 
その頬を暖めようと、優しく撫で続ける。



「ん、あ……」
その刺激に気が付いたのか、少女が目を覚ました。

「……? ……おにい、ちゃ?」
「そうだよ。」
「お兄ちゃん…… お兄ちゃん!!」
身を起こして、飛びつくように抱きついてくる体を抱き締めてやる。
少女に頬に当てていた手は外れて、抱き留めるように背中にまわしていた。



背中にまわした手に相手の髪の先端が触れた。 それを伝うように背中を撫でてやる。
「髪、延びたんだな。」
「……? 髪長いのって、キライ?」
「いいや。 ……でもここに入る前は、ずっと短いままだったから新鮮だな。」
「そう……」
「でも、長くても好きだよ。 それに、どんなになっても、お前のことは大好きなんだから。」
「! うん!!」
それを聞いてかなり嬉しかったのか、さらに体を擦り寄せてくる。



冷房に冷えている小さな肩を、いつまでも抱きしめていたくなる。
抱きしめている熱で、温かくなるまで……

「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
……まるで甘えてくる猫の如く頬を擦り寄せ、俺の匂いを感じているようだ……
……こんなに甘えてくるのは、いまの彼女にとっては唯一、自分を愛してくれる人間だから……
……以前も、ずっと前からそうなのに……



ずっと抱きついている体を、少しだけ離させて語りかける。
「なあ、せっかくのお見舞いなんだから、なんかお願いしてみろよ。
 お兄ちゃんが出来ることは、何でもしてやるぞ。」

「……ねえ、いつになったら、ココから出れる?
 いつになったら、お兄ちゃんと一緒に居られるの?」
「……もうすぐだよ。 もう悪いところは無いみたいだから、このまま大丈夫なら。」
「……本当に? もうすぐ、お兄ちゃんとずっと一緒に……?」

「ああ、こんどこそ…ずっと一緒にだ。」
「もうすぐ、お兄ちゃんと、ずっと……」
小さな鼻息が胸元をくすぐっている。 その吐息が、少しずつ熱くなっていた。



「……他にはなんか無いのか?」
「じゃあね、じゃあね… お兄ちゃんに、抱っこして欲しい!」

やけに元気に言い放ってくる。
娯楽の一つもなく、たまに見舞いに来る俺しか触れ合える人もないとなると、
よほど人との交流に飢えているのだろうか……

「そんなのでいいの?」
「そんなのとか言わないで!!!」
猛烈な勢いで叫んだ妹に、少し気おされてしまった。

「ずっと、ずっと待ってたんだから… お兄ちゃんに会えるの……」

その目には一種の狂気すら感じた。

「……じゃあ、いいよ。 お前は抱っこが大好きだもんな。」
「……ホント!? よかったぁ……」
さっき大声を出したときとは違って、にこやかな表情を見せてくれた。

「ここに来るといつも抱っこさせられてるよ。」
「えへへ…… じゃあ、準備しようね。」
裸足のまま、嬉しそうにベッドから降りた。



俺は入れ替わるようにベッドに腰掛け、
替わってベッドから抜け出た体は、俺の目の前で跪く様に俺の股間に頭を近づけていた。

「温かいな……」
頬を擦り寄せ、すがるように手を当てている部分は、すでに集まる血の熱で膨らんでいた。

ベルトを外し、ズボンを脱いで、パンツを下ろし、ようやく目的のモノへとたどり着く。
そしてまるで大好物をかぶりつくかのように先端が銜えられた。



「ふ… ぶ… ん…」
上下するタイミングに合わせて鼻で息を付くたびに、
その吐息が陰毛を揺らし、肉が擦れ合う口の周りからは独特な水音が響いていた。
その前後する頭を優しく撫でるように愛撫する。

『ん、ぐ… うげぇぇ……』 『こぼすな!染みになるだろ!!』
『だって、こんなに… イヤだよぅ……』 『全部飲み込むんだ!!』
『イヤ… う、ぐぶぶ……』

脳裏にふと、在りし日の姿が浮かんだ。
何度教えても嫌がり、涙を流して拒んでいた……



『う、ぐ、ぇぇぇ… こんなの、もう、イヤだよぅ……』

「えへへ…… お兄ちゃん、気持ちいい?」

そして泣き叫んでいた顔と、今の喜びに充ちた顔が重なって、
そのギャップがきっかけになって急激に快感の頂点を迎えそうになった。

「ちょっと待って、ストップ。」
慌てて手で頭の動きを止めさせる。



「ん…? なに〜?」
「いや、ちょっと出そうになった。」
「え〜、まだ出したらダメだよ〜 ここで出しちゃったら、また準備するのに手間取るもん〜」
「わかってるよ。 出すのは全部、ココでな。」
こちらからも、股の間に手を差し込んだ。
すでに床に垂れ落ちるほどに粘液を分泌させていたので、楽に指が入り込んでいく。

「ん…… じゃ、抱っこ、しよ。」



「さあ、おいで。」
俺は座ったままで待ち受ける体勢。
小さな背中が後ろを確認しながら後進して、入り口が先端をかすめた。

「あ…もうちょっと…」
「ほら、手伝うよ。」
軽い体の脇の下を掴み、体の落下をゆっくりコントロールして、確実に誘導させる。
そして今度は後ろから抱きしめるように抱きかかえた。
「あ、 く、る……」



「ん、ひあ……」
慣れ親しんだ膣内の感覚。 しばらくぶりの快感に、少し酔いしれる。
しかし挿入しただけでは到底満足は出来ない。
足を揺らさせながら持ち上げた体を上下させる。 
勢いが付いた上下動で、粘膜が火を噴かんばかりに擦られ、お互いの体に快感を送る。

「ん、あ! 激しい、激しいよぉ…」
「激しいの、好きだろ?」
「うん…… 激しいの、好きぃぃ……」



その喜びに満ちた顔に、またしてもあの日の顔が重なっていた。
『痛い!痛いよ! お願いだからもうやめて!!』
『なんでわかってくれない… 俺は、本当に… お前のことを……』
『そんなのおかしいよ! 兄妹なのに…!!』

唇を血を流すほどに噛みしめ、俺はその血を舐め取って……

『…………愛して、るんだ……』
『お兄ちゃんなんて… お兄ちゃんなんて……!』



あの日は、泣き疲れるまで泣いていたのに… いまは、こんなに俺の胸で甘えて……

「なあ…… 俺のこと、好きだよな?」
「……うん! お兄ちゃん、大好き、ぃい!!」
「俺もだ… 愛してる…」
振り向かせるようにキスをさせる。 もう唇に噛みつかれることもない……

「あっ、あっ、あっ、あっ……
 おに、おにい… もっと、はっ、もっとぉ……」
もはやろれつが回らないほどに『抱っこ』に悦んでいる。



「はひっ、はひぁっ… お兄ちゃん、と、ずっと、もっとぉ……」
「ああ… ずっと、ずっと一緒だ…… 愛してる……」
室内の冷気は消し飛んで、いまや外の熱気にも負けないほどに燃え上がっている。


「よし出すぞ… 何処に、欲しい…?」

『ダメ! 膣内は!おねがい、膣内にだけは…!』

「なかに…… ぜんぶ、膣内にぃぃぃ!!」



どっ どくっ ぶぷりゅ……
「は、はあぁぁっぁぁぁぁ……」
大量に溜められた思いの丈が、子宮の壁にぶつかって弾けていく……

お互いにため息を吐くようにして、繋がったままベッドに倒れ込んだ。
「ふぅ…………」

「はぁ、はぁ、 はぁ、はぁ、
 お兄、ちゃん…… もっと、もっとぉ……」
背中を向けている体勢から反転して、今度は胸を甘噛みしながら切望してきた。
抑えが効かないかのように刺激してくる痴態に、みるみる復活させられてしまう。

「一週間ぶり、だからな… 満足、するまで…」
「うん、うん… はぁぁぁ… もっ、と…抱っこ…」



「は、ふぁぁ…………」
何度出したかなんて数えていない。
体から力が抜けて、失神したように横たわってしまった。

「終わり、だな。」
「…………。」


体はお互いの汗以外は思ったより汚れてはいない。
精液は全て膣内に出されていて、いま抜け出た容積分から外に漏れ出始めていた。



まずは自分の体を拭いてから、次に相手の体を清める。
体を拭き終わったころには、膣内から零れる液体の流れも止まっていた。

元通りに服を着せようとすると、
「お兄ちゃん、  おしっこ……」
うなされたように、虚ろな目で訴えてきた。

すぐにベッドの下の尿瓶を取りだして、秘部に当てる。
「ほら、いいよ。」
「んん……」
すぐに黄色い流れが発生して、瓶の底に溜まっていった。



「あ……」
小さな声と一緒に、まだ残っていたらしい白い固まりが零れ出てきた。
それも瓶の底に流れていって一緒に混じる。

完全に服を着せて、寒くないように半分だけ布団を掛ける。
「捨ててくるから。」
「……すぐに、帰って……」


処理を済ませて病室に戻った。 どうやら疲れて寝て……
? でもどこか様子がおかしい……



横になったままだが、眠りについているわけでもなく、身じろぎもしていない。
顔をのぞき込むと、何処も見ていないような、虚ろな目があった。

「……ねえ、  ……まだ……なの……?」
目は俺を見ているわけではない。 しかしその言葉は俺に向けられていた。
これは、戻って、いるのか…?

「……俺は……本当に、愛して……」
「……そう……」
一つ鼻で息をして、そのまま目を閉じた。



……本当に寝てしまったようだ。

「帰る、からな…… また、くるよ。」
静かに、病室を出ていく。

部屋の外の冷ややかな空気に、熱かった感情すら押さえ込まれていく。

あの時まで、妹は俺に愛されること自体に、絶望していたのではない……
最後まで、俺が正常に…元に戻ることを願っていた。
だが、俺が変わらないことに耐えきれずに、ついに母親に打ち明けた。
しかし……



『お母さん…… 私、毎晩お兄ちゃんと一緒に…寝てるんだよ……』
『あらそう。 仲がいいのね。』
『……だから、それだけじゃなくて……私……』

『あ、もうこんな時間。 じゃ、出てくるから、お兄ちゃんと仲良くね。』
『ちょ、ちょっと待って! まだ話は終わって…!』
『じゃあね。 二人共仲良く留守番しててね…』
『待って!おか…』

アイツらは、面倒事を嫌がった。
家庭が崩壊して世間に恥をさらすより、ただ一人の犠牲で済まそうと思ったのだ。
……その時に心底絶望を感じ、心は暗闇の中でずっと震えていた。



そしてついに、家族の中でただ一人愛してくれる人が
一番嫌悪すべき存在であるという現実に、ついに心が壊れてしまった。
親である二人を憎むことも出来ず、間違いを繰り返す兄を拒絶することも出来ず……

しかし、俺は愛し続けた。
壊れた心は現実を受け止めるように再構築され、
俺の愛する者は、俺を愛する者になっている……

そのことにアイツらが気付いた頃には、もうすでに取り返しが付かないことになっていた。
手が付けられないとわかると、こんな所に押し込めて、後は責任のなすりあい…




俺が面倒見る、とその身を引き取る事に、もはや反対すらしない。

アイツらは、自分の身だけが可愛いんだ。 子供達がどうなろうと、禁忌を犯していようとも…

だがもう邪魔は入らない。 今度こそ、絶対に、離しはしない……

愛しい、妹(ひと)を……




お兄ちゃん……

ずっと一緒にいられるようになったら、

ずっとず〜っと、抱っこしてて欲しいな……

大好、き……




許されることのない罪

誰もそれを裁かないのなら

愛することが、愛されることが、それ自体が、罰なのかもしれない

ならばもう、この微睡みの中で、あの暖かさの中で、目を閉じ続けるしかない……



終わり



澱:液体中に沈んだカス
檻:けだもの、罪人などを入れて逃げ出さないようにした箱(室)