「楠公歌の会」誕生と歩み

…誕生まで…

 「青葉茂れる桜井の…」で始まる唱歌「桜井の訣別」(落合直文作詞、奥山朝恭作曲)。この懐かしい歌は、楠木正成公が後醍醐天皇の命を受けて湊川の戦いに向かわれる途中、「桜井の駅」(現在の大阪府島本町、「水無瀬」駅北西に徒歩10分)での父子の訣別をうたった歌で、6番まではよく知られています。親子の情愛を美しく表現しているこの歌は、戦前多くの人に愛唱されていましたが、近年はほとんど歌われなくなりました。
 神戸(湊川神社)にゆかりの深いこの名曲を後世に伝えたいと、平成16年の夏、河合純子氏(楠公のふるさと千早赤阪村の出身)と栃尾礼子の両名が、張文乃先生に相談し、湊川神社の楠公祭で、この歌を奉納する歌の会を立ち上げることになりました。
 歌の指導は張先生と、兵庫県合唱連盟最高顧問の平田勝先生にお引き受けいただくことができたのは、まことに幸せでした。平田先生は、大倉山の図書館で、この歌の歌詞が15番まであることを見つけられました。
 さて、「青葉茂れる桜井の」の歌を来年の楠公祭でうたうといってもどうしたらよいのか、会員が集まるだろうか、練習はどこでどのようにするか等々、難問続出に悩みは尽きませんで
した
が、10月になって、湊川神社宮司の参加を得て企画会議を開き、練習会場・予定などを決めました。
 会の名称を「楠公歌の会」と決め、その会の組織化に向け、まずは発起人を、堀口東四郎氏・田辺眞人氏・宇都宮浩氏・島田桂吉氏・中野貞弘氏・松下博江氏・並河京子氏・野口綾子氏・鍋野定子氏に依頼したところ、皆様のご協力を得られることになったのは、有り難いことでした。
 次は、会員の募集です。期待と不安の中、「日本の心の歌をご一緒に歌いませんか?」と会への参加を呼びかけました。
 会員募集チラシは約4000枚を作成。発起人になってくださった方々にもチラシ配布をお願いし、お陰で多数の申し込みを得ることができました。同時に、母親コーラス交歓会など、コンサートの折にも配布しました。このチラシを見て申し込まれた方も沢山ありました。
 12月に産経新聞社と朝日新聞社に出向き、記事掲載を依頼しました。マスコミに取り上げられると、大きな反響があり、その威力を感じました。大勢からの入会申し込みの電話だけでなく、「楠公の歌」15番までの歌詞を送って欲しいとの依頼も多くありました。それぞれに歌詞を送り、受け取った方からは、「青葉茂れる…」の歌に親の思い出を重ねて綴られた感謝の手紙などが数多く寄せられました。
 会員募集の苦労の他に、練習会場の確保も大変な問題でした。湊川神社には特別な計らいでの施設借用を願い出た関係上、練習日・時間に制約がありました。練習に参加する人数が予測できないなか、会場を予約しなければならないことでは頭を痛めました。



 …第1回練習日…  

 平成17年1月13日(木)「楠公歌の会」は湊川神社神能殿で産声をあげました。約半年の準備期間を経て、いよいよ初めての練習日を迎えたのです。
 当初の予想した以上の反響で、200名以上の申込みがあり、歌の練習初日の参加は174名でした。その日配布した資料は、「楠公の歌」15番までの歌詞と「楠公さん」(梨原節作詞、大熊誠作曲)の楽譜を入れたファイル。
 「楠公さん」の楽譜は、会員募集のチラシを見た山際綏子氏が、恩師大熊誠氏の作詞作曲された美しいメロディを歌い継いで欲しいとの思いから湊川神社に持ち込まれ、それを平田勝先生が編曲されたものです。



 …歌の交流会…

平成17年5月15日、長野県の「唱歌と童謡を愛する会」会員98名が観光バス3台で湊川神社に参拝。境内で歌の交流会が行われました。「楠公歌の会」会員の清水久美子氏の紹介による、長野と神戸との交流会となりました。
 当会からは「しあわせ運べるように」「ふるさと兵庫旅情」を、「唱歌と童謡を愛する会」からは「信濃の国」などの歌が披露され、「鉄道唱歌」「「楠公の歌」などが合同で歌われました。



…第4回 歌と講演のつどい…

平成17年5月22日(日)、湊川神社神能殿において開催された、湊川神社楠木同族会主催第4回「歌と講演のつどい」では、「楠公歌の会」が歌の部を企画し、出演しました。
 講演は、安岡正泰氏による「楠公との御縁」でした。休憩をはさんで歌の部となります。
 最初は、雅楽伴奏で平田先生の指揮による「南朝五忠臣」。蝶ネクタイ姿で出演した男性会員による初舞台でした。
 最後は「移情閣コーラス」の女声三部合唱「青葉茂れる桜井の」(張先生編曲・指揮)6番まで、そして引き続き、平田先生の指揮の下、詩吟を加えた「楠公の歌」15番までが「楠公歌の会」と会場の全員で歌われました。
 ほかにも「自由が丘はまゆうコーラス」「須磨ニュータウン少年少女合唱団」「なぎさコーラス」の各合唱団により、日本の心の歌が披露されました。 

 

        



 

…平成17年楠公祭 本祭…

平成17年5月25日(水)は、湊川神社の本祭の日。五月晴れの空の下、新緑まばゆい湊川神社の本殿前にて、「楠公歌の会」約200名による大合唱が奉納されました。平田先生指揮により、無伴奏で、詩吟「楠公の子に訣るるの図に題す」と「大楠公」を加えた「楠公の歌」15番までと、それに引き続き、張先生の指揮により、混声三部合唱「楠公さん」が、それぞれ心を一つにして大合唱されました。
 歌の奉納のあとは、舞楽「散手。足は大地を踏みしめ、手は悠久の天空を指して、勇壮にそしてまた優美に舞う舞楽に、参拝者も会員も賞賛の拍手を送りました




 

…感想文集「新緑の楠」発行…

5月の湊川神社楠公祭で「楠公の歌」を奉納することを目的として、月2回の練習を重ねてきた「楠公歌の会」は、そのあとも会の存続を望む声が多く寄せられました。そして「楠公歌の会」発足の記録として、会員の感想文集を小冊子にまとめることが提案され、会員や会に関わりのある方々に寄稿依頼をしました。
そして小冊子は、平成17年10月18日、「楠公歌の会」感想文集「新緑の楠」と題して発行するに至りました。
 

…楠公の史蹟を訪ねるバス旅行…

平成17年10月20日(木)、好天に恵まれた秋の1日は、一路楠公さんのふるさと千早赤阪村へ。参加者は88名。募集人数を上回る参加希望があったため、急遽バス2台に変更しての史跡めぐりの旅となりました。
 湊川神社前を9時に出発。先のバスは平田先生、後のバスは張先生の指導により歌の練習をしながら、11時半頃千早赤阪村に着くと、千早赤阪楠公史蹟保存会の出迎えを受け、楠公誕生地の石碑の前で、オレンジエコーとの歌の交流会が行われました。
 オレンジエコーの「千早赤阪村歌」に続き、「楠公歌の会」からは「千早城」と「ふるさと兵庫旅情」を披露し、「楠公の歌」15番までを一緒に歌いました。
 昼食後は、ボランティアガイドの案内で、産湯の井戸・奉建塔・郷土資料館などを自由に見学し、村でとれたみかんや野菜などを買い込んでバスに乗りました。
 次の目的地は、楠公夫人の遺跡、楠妣庵観音寺。住職様のお話の後は、楠公ゆかりの貴重な品々を見学することができました。
 旅の最後は観心寺でした。そこは建武の中興で有名な後醍醐天皇の第七皇子後村上天皇と楠木正成公とゆかりのある由緒ある寺院です。副住職様のお話を聞き、広い境内の片隅に祀られる楠木正成公首塚にて手を合わせ、一行は楠公のふるさとを後にしました。
 そして予定時刻の夕方6時前、神戸に無事到着。心に残る有意義な、楠公史蹟めぐりの旅でした。                        

 …総会及び新年会…

 この歌の会も、様々の活動を行う過程で、会の結束と維持運営を確かなものにする必要性に迫られることになりました。そこで、かねてより検討が重ねられてきた会則について、平成17年12月20日に、発起人全員が出席する場で最終的な話し合いがなされ、正式に「楠公歌の会」を設立する運びとなりました。総会は、年が明けた平成18年1月17日(火)11時から、楠公会館において、「楠公歌の会」設立総会が開催されました。出席者は96名。
 司会の阿部京子氏が開会を宣言してから、代表の堀口東四郎氏が挨拶。そのあと、議長に選出された河合純子氏により議事が進められ、経過報告の後、会則案が読み上げられました。
 その結果、その会則は承認され、次の役員が就任されることになりました。
  会長   堀口東四郎
  副会長  田辺眞人 河合純子
  理事   都宮浩 島田桂吉 並河京子 野口綾子
          鍋野定子 山際綏子 阿部京子
  監事   勝本淳弘 中野貞弘
 会則に則り、会長から指導者・事務局長が委嘱されました。
  指導者  平田勝 張文乃 (補)増田健一 松下博江
  事務局長     栃尾礼子

引き続き行われた新年会は、会席料理と余興を楽しみながらの歌い初めとなりました。
  吉田幸雄氏の扇舞「大楠公」のあとは、「お正月」「一月一日」「金剛石」「紙鳶(たこ)の歌」「ふじの山」「雪」「ペチカ」「冬景色」「雪の降る町を」「美しき天然」「早春賦」「春の小川」「ふるさと兵庫旅情」「しあわせ運べるように」を歌い、の曲は「楠公の歌」全員が大合唱するなか14時に盛会裏にました。

 
 …歌の練習…

正式に「楠公歌の会」が発足し、その後の練習は、次の楠公祭に向けて行われることになりました。
会員から練習日を増やして欲しいとの要望が多く出されたため、再度、湊川神社に練習会場借用を依頼し、平成18年1月からは、月2回の練習を行うことになりました。
 顧みますに、神戸新聞に青葉茂れる桜井の「楠公歌の会」が唱歌復活≠ニいう見出しの記事が掲載された平成17年8月は、多数の入会申し込みがありました。また、練習日には会員の紹介による新規会員の入会もありました。
入会者が多くなり、合唱が初めての方にも合唱の経験者にも満足される運営について試行錯誤を重ねました。自由参加による2部制を試みたこともありました。第1部では一般的な曲を、第2部では「あかがり」と「子等を思ふ歌」のコーラス曲を練習したりしました。そして今年の神能殿における「歌と講演のつどい」出演では、月2回の練習では難問題でしたが、「子等を思ふ歌」を披露することができました。
 これまでに練習曲として取り上げた曲目は、「楠公の歌」(落合直文作詞、奥山朝恭作曲)15番までに詩吟を加えた曲と、「楠公さん」(梨原節作詩、大熊誠作曲、平田勝編曲)混声三部合唱を中心に、楠公に因んだ曲や懐かしい童謡・唱歌・抒情歌など、日本の心を歌った曲です。


 …伝統芸能の公演…

楠公夫人を祀る甘南備(かんなび)神社の創建百年を記念して開催された平成18年5月7日(日)「伝統芸能の公演」の日は、大雨となりましたが、神能殿は満場を埋める観客でした。舞囃子「」、狂言「伯母ヶ酒」、日本舞踊「楠公」藤間莉佳子氏、筑前琵琶「大楠公」川村旭芳氏、講談「楠木正行公母子物語」旭堂小南陵氏など、楠公に因んだ伝統芸能が公演されました。最後は「楠公歌の会」の歌唱となりました。雅楽伴奏による「南朝五忠臣」に続き、張文乃先生・文暁鈴氏母娘の指揮・伴奏で混声三部合唱「楠公さん」が、最後は会場の皆さんと一緒に「楠公の歌」6番までが合唱されました。楽譜を持たずに舞台に立つことも、能舞台での女性の袴姿も、「楠公歌の会」としては初めての経験でした。




…第5回 歌と講演のつどい…

湊川神社楠木同族会主催の第5回「歌と講演のつどい」の平成18年5月21日(火)は、神能殿の前には開場を待つ長い行列が出来ました。午後1時、開場間もなく座席がなくなり、あわてて補助椅子を追加し、歌の部に移ってからも、会場に入れずロビーで待つ人もいるほどでした。
 田辺眞人氏の講演「湊川についてー歴史地理的考察―」の後は、休憩をはさんで「楠公歌の会」の企画演出による歌の部。湊川神社神職の雅楽伴奏により「楠公歌の会」が歌う「南朝五忠臣」で幕を開けました。
 「楠公歌の会」舞台出演の男性は、黒のスーツに蝶ネクタイ。女性は、各自の色無地のきものに、この日のために会で揃えた紫の袴姿で登場。客席で出演の70名の会員の衣装は、白のブラウスに黒のスカート(ズボン)でした。
 ほかに出演をお願いしたソプラノの田中潤子氏をはじめとして、千早赤阪村のオレンジエコー、少女合唱団のジュニアコーラスティンカーベル、塩屋あらかしコーラスの皆様により、楠公にゆかりの曲「楠公さん」「大楠公」や、懐かしい童謡・唱歌、また日本人の情感あふれる美しい抒情歌などの歌が披露されました。
 「楠公歌の会」の出演は、張先生のピアノ伴奏で、女性のみで歌った「薫風湊川」、そしてこの日の出演に向けて練習を積んできた平田先生指揮によるコーラス曲「子等を思ふ歌」でした。最後は、漢詩「櫻井の駅」に続けて満員のお客様と「楠公の歌」15番までを歌い、「歌と講演のつどい」は成会裡に閉幕となりました。
 
そのあと参集殿にて開催された懇親会では、千早赤阪の方々やオレンジエコーの皆様との交流の場となりました。


 …平成18年楠公祭 本祭…

平成18年5月25日(木)、前年同様素晴らしいお天気に恵まれました。湊川神社楠公祭では湊川神社では陸上自衛隊第三音楽隊の吹奏楽演奏が奉納される準備が進められ、そして「青葉茂れる…」の曲の演奏を依頼するという話しになっていました。「楠公歌の会」は、楠公祭にその曲を歌うことを目的に練習してきましたので、自衛隊の吹奏楽を伴奏に「楠公の歌」を奉納することが提案されました。
11時からの祭典のあと、本殿前の特設舞台において、舞楽に引き続き、「楠公歌の会」会員100余名の混声三部合唱「楠公さん」が、張先生の指揮のもとに奉納されました。
 そしてその歌が終わると同時に、正門から社殿前へ、自衛隊吹奏楽団の演奏行進が行われ、定席に着くと平田先生の指揮のもと、音楽隊の伴奏で、「楠公歌の会」により、「楠公の歌」6番までが奉納されました。晴れ渡った空に心地よい風、楠の青葉がまぶしい境内に、吹奏楽の音に乗って「楠公の歌」の大合唱の声がひびき渡りました。


                     (文責 事務局 栃尾礼子)
                             平成18年10月発行「悠久のひびき」より