君の名を


桜が咲いた。遂に咲いてしまった。
満開の桜を恨めしげに一睨みして、俺は、その門をくぐった。

忍術学園

そうでかでかと書かれた看板が下がっている門を抜けると、正面に「新入生受付」の張り紙を発見する。
そこに居た若い男の先生に親から貰った入学金を渡し、入学手続きは完了した。

今日から俺は、この学園で6年間を過ごすんだ。忍者になる為に。

親と離れる事の、何と心細い事か。
友達は出来るだろうか。勉強はできるだろうか。
心配は尽きない。

貰った入学案内には、まず教室に向かうように書いてあった。

教室はどこだろう…

きょろきょろと辺りを見回していると、ふわっと、何かが香った。

振り返ってみると、俺と同じようにきょろきょろと辺りを見回す私服の子が、ちょうど俺の後ろを桜の花びらをまとって通り過ぎていた所だった。

桜吹雪の中のふわふわした藤色の髪のそいつは、女の子のように見えた。

俺が振り返った一瞬、目が合った。
そいつはちょっと微笑んでから、教室のある建物を見つけたらしく駆けて行った。

名前を聞いておけば良かった。

俺は、少し後悔した。


***


教室のある建物だと思ったのに、違っていた。
僕は、仕方なく引き返した。

さっき目のあった男の子が居た場所に戻ったけど、男の子はもう居なかった。

赤茶けた髪の、意志の強そうな目をした男の子。
もう教室に行ったのかな。

名前を聞いておけば良かった。

僕は、ちょっぴり後悔した。



ようやくお昼休みになって、食堂へ行った。

先生の説明は分かりやすかったけど、忍者ってやっぱり難しそう。
僕、忍者に向いてるかな…。
今朝会ったあの子は、どうなんだろう。
あの子とは、同じ組じゃなかった。

食堂に入ったら、席があまり空いていなくて、紫色と青色に挟まれるようにして食べた。

心細かった。

すんなり友達ができるような性格じゃないのは分かってたけど。

あの子は…どうなんだろう。

ふと隣の机を見ると、緑と紫色に挟まれている赤茶けた髪のその子が見えた。
僕はもう食べ終わっていて、その子は今来たばかりのようだ。

一緒に食べようとは言えない。

僕は、仕方なく食堂を後にした。


***


同じ組の奴の迷子騒ぎで、食堂に行くのが遅くなってしまった。

迷子は結局見つからず、気の弱そうな暗い感じの先生に任せる事になった。
全く、迷惑な奴らだ。俺は、先生のように迷子捜索隊にはなりたくないと思った。

迷子捜索で出遅れて1人で飯を食べていると、ふと藤色が視界に入った。
食堂を出て行く、後ろ姿。

俺は、慌てて飯をかき込んだ。

残すとどうなるか、さっき受付に居た先生がカマボコを残しておばちゃんに包丁を投げられていたのを見て、思い知った。お残しはダメだ。

急いだのに、廊下に出てももうその藤色の髪は見えなかった。

名前を、聞きたかったのに。

俺の後悔は深くなった。

次こそ絶対聞いてやろう。


***


行くあても無かったので、校庭の木の下でぼんやりとしていた。

ぽかぽか陽気で、気持ち良いなぁ。

寝っ転がって空を眺めていると、僕の瞼は勝手に下がってきた。
ちょっと位なら、寝ても大丈夫だよね…


***


行く場所も無いので校庭をぶらぶらしていたら、木の下に藤色を見つけた。

近寄ってみると、くるんと丸まってすうすう寝息を立てている。
もうすぐ始業の鐘がなるというのに。

起こしてやらないと。

そう思って肩に手を置こうとした時、声が飛んだ。

「そこの!ええと…富松!」

振り返ると、両脇に子供2人を抱えこんだ受付の先生がいた。
子供は、例の迷子2人らしい。もらったばかりの制服を、泥だらけにしている。

「悪いが、こいつらを頼む。斜堂先生が触れないらしくてな…」

受付の先生は、溜め息混じりにそう言った。


***


松…?
誰が松なんだろう。

夢の中で誰かの名前を聞いた気がして、ふと目を覚ました。

「お」

受付に居た先生だ。
僕のそばに立っている。

「寝てたのか?そろそろ教室に戻れ、三反田」

「はーい」

寝ぼけ眼で立ち上がったら、向こうに赤茶けた髪が見えた。
両手は、誰かの首根っこを掴んでいる。

もしかして、松というのはあの子だろうか。

僕は、教室のある建物に消えたその後を追った。

名前を、聞きたい。
聞けるだろうか。


***


風邪に乗って、「たんだ」という先生の言葉が聞こえた。

あの、藤色の髪の奴の名前か。

たんだ。

そう心の中で呟いて、俺は両手の2人を引きずりながら教室のある建物に入った。

今度こそ、ちゃんと名前を聞いてやろう。
俺はそう決心して、1年ろ組の教室へ入って行った。



−完−




あとがき
フカミ様、お待たせ致しました;リクエストありがとうございます!
絵か小説か指定が無かったので、今回は一応小説オンリーで…。絵も、良かったら描きますので、遠慮なく連絡して頂ければと思います^^

「一年生のときにはまだ知り合ってなく、でもなんとなくお互いを意識してる数馬と作兵衛」との事でしたが、どうでしたでしょうか…?
お気に召していただければ幸いです!

最近それぞれの心情を書くのが自分の中で流行ってまして、またぞろこの形式です(笑)

先生達は、よく考えず「名前を呼ぶ媒介」として登場させたので、キャスティングに大した意味は無かったりします←


ありがとうございました!





あんだ様のサイト「もけもけの宿」にてフリリクさせていただきました。
「一年生のときにはまだ知り合ってなく、でもなんとなくお互いを意識してる数馬と作兵衛」
などという無茶振りのリクにもかかわらず、本当にありがとうございます!!
もう可愛い、可愛い可愛い、お互いの名前を知りたいのに知ることができない二人にきゅんきゅんがとまらないvv
初々しい二人に、頬がでれでれとゆるみますvv

あんだ様本当にありがとうございました!



戻る