of course
「数馬!」
下校途中、俺は、後ろ姿の数馬を見つけて声をかけた。ちょっと長めのふわふわの髪、背丈、体つき、歩き方。後ろ姿だけで、一瞬で数馬だと判別できる。
数馬は振り返って、嬉しそうに作ちゃん!と言った。作ちゃんと呼ばれるのは小さい頃からの事でもう慣れているはずなのに、今でも俺はこそばゆくなる。作ちゃん。俺を今こう呼ぶのも、幼なじみの数馬だけになった。他の連中はだんだん俺を作兵衛と呼ぶようになったから。そういう意味でも、数馬は特別なのかもしれねぇな。
「作ちゃん、どうしたの?」
近付いていく俺に向かって、数馬がニコニコと言った。いつもどことなく不安げに眉を下げている数馬も、俺が話しかけるとぱっと顔を綻ばせる。自意識過剰かもしれない、でもそう感じる。
「数馬、今から暇か?」
努めて冷静な声を装って、俺は言った。数馬に話しかける時は、いつも余計に心臓が脈打っているのを感じてしまう。この感情が何か、分かってる。もう何年も前から。
「暇だよ」
「じゃあ俺ん家でゲームしねぇか?」
「良いの?行く行く!」
数馬は相変わらず嬉しそうに笑って言った。だから俺も、釣られてニッと笑って言った。数馬には人を微笑ませる不思議な力があると、俺は半ば本気で思っている。
俺の家と数馬の家は隣同士だから、数馬は一旦家に荷物を置きに帰った。俺はその間に自分の部屋を片付ける。片付けると言っても、家具の少ない殺風景な部屋で物も散らかしてないから直ぐ済んだ。ゲームをセットしてから、小さい丸テーブルに冷たい麦茶の入ったコップも用意する。そして気付いた。茶菓子が無い。
台所をごそごそ漁っていると、チャイムがピンポンピンポンピンポーンと3回鳴った。お互い、家に行く時はチャイムを連続して3回鳴らすと決めていた。ずっと前から続く2人だけのルール。
玄関先まですっ飛んで行くと、数馬が紙袋を持って立っていた。
「お菓子、持ってきちゃった」
「有り難ぇ。家に何にも無くて」
「昨日、僕が焼いたクッキーの残りだけど。大丈夫?」
「もちろんだ」
数馬はお菓子作りが得意だ。両親が洋菓子店を経営している影響だろう。昔からよく食っているから、だんだん腕が上がってきているのがよく分かる。昔も美味かったけど、今はもっと美味い。
「不味かったらごめんね」
二階にある俺の部屋へ上がり、用意した皿にクッキーを乗せながらそう言って数馬は微笑んだ。数馬はいつだってこんな風に謙遜するが、そんな事はない。いつだって美味しい。
クッキーをつまみながらしばらく話をして、一段落ついたところで俺はゲームの電源を入れた。人気アクションゲームのオープニングが流れだす。数馬はそれを楽しそうに眺めながら声をかけてきた。
「これ、また新作が出るんでしょ?」
「おう。もう予約した」
「僕も欲しいなぁ」
「でも数馬ん家、ハードがねぇじゃねぇか」
「あ、そっか」
「買うならハードごと買えよ」
数馬は少し考え込んでから、呟いた。
「…ううん、やっぱりいいや」
俺に向かってにっこり笑う。
「作ちゃん家で作ちゃんと一緒にする方が良い」
俺は、コントローラーに伸ばしかけていた手を止めた。否、動作全体が止まった。
「…ほんとか?」
「もちろん!作ちゃんと居たら楽しい。ずっと居たいくらい」
そう満面の笑顔で言われて、動揺しない方がおかしい。だろう?
俺は思わず口走った。溜まりに溜まった、俺の気持ちを。
「数馬、好きだ」
「僕もだよ」
間髪入れずに答えが返ってきた。でも、その好きって
「数馬、俺はlikeじゃなくて、」
「「loveなんだ」」
声が重なった。ハッとして数馬を見つめると、照れたように頬を染め頭を掻いた。
「…でしょ?作ちゃん」
「数馬…」
「作ちゃんのニブチン」
僕が分からないとでも思ったの?と数馬は言った。
俺の方に膝を進めて、宙で留まっていた俺の手を取る。握り返す。暖かい。
「ずっと一緒に居たんだよ」
「ああ」
「作ちゃんの気持ち、分からない訳ないじゃない」
「そうだな」
「作ちゃんは分からなかったの?僕の気持ち」
「…悪ィ」
「ふふ。ねえ作ちゃん」
「何だ」
「これからもずっと、一緒に居てくれない?」
俺の両腕に、数馬の温もりが広がった。
「もちろんだ」
−完ー
あとがき
フカミ様お待たせ致しました…!;;
幼なじみ富数とのことでしたが、いかがでしたでしょうか?今回はちょっと数馬に積極性を持たせてみました。
最後はぎゅっとしてる訳ですが顔を上げたら多分お互い真っ赤になってるはずです(笑)
フリリクありがとうございました!今後とも宜しくお願いいたします。