それはあまりにも甘美で、あまりにも背徳的な存在だった。
その美しい顔を見るためなら俺は、この命投げうつことさえ厭わない。
そんな思いすら抱かせた美しい存在。
俺は、生まれて初めて恋をした。
この気持ちに一辺の後悔もない。
例えその相手が、自分に目を向けぬプランツドールだったとしても……。
プランツ・ドール
彼 ら にミルクとたっぷりの
愛
情を
〜 憂いの瞳のその奥に 〜
+001:恋に落ちたのは一瞬+
その日は、本家から突然の呼び出しを受けて、道場に指導をしに行った帰り。
いつもとは違う帰り道を辿ったことが、そもそもの始まりだった。
その人は、なかなか趣のある立派な建物のガラス窓の中に、ひっそりと座っていた。
艶やかな青い髪に、雪のような白い肌。ほんのりと桜色に色ずく唇。
柳にでも聞かれようものなら、すぐさま「病院にいったほうがよいのでは?」
とでも言われそうな言葉をスラスラと並べ立ててしまうほど、その人は美しかった。
俺は、憂いを帯びた静かな顔に吸い込まれるように、その人へと近づいていった。
「人形……!?」
窓辺に座っているとばかり思っていた人影。
ガラスに吐く息があたるほど近付いて、それが人形だと気づいた俺は、愕然とする。
人に在らざる美しさだとは思ったが、まさか人形だとは。
しかし、なるほど。人形ならば、この美しさも在りうるのかと納得したのも、また事実。
そして周りを見渡して、ようやく、ここが店だと言うことに気づく。
「なるほど、人形屋というわけなのだな」
納得し、再びあの美しい人形に目を向ける。
その時だった。
人形の睫がふるり、僅かに震えた。
最初、風のせいかと思ったその動きは、そっと……しかし確実に全身に伝わり
――そして、ゆっくりと瞼が上がった。
次の瞬間、睫に彩られた鳶色の瞳が俺を捉える。
そしてあまりにも美しすぎる笑顔で、俺に笑いかけた。
その美しすぎる笑顔にしばらく魅入っていた俺だが、
次の瞬間、あまりのことに驚きの叫びを上げてしまった。
……
不覚!
その後、叫び声を聞きつけ慌ててやってきた店の主人と出会い、
そして今は、店オリジナルブレンドというお茶を頂いている。
なんでも紅茶や緑茶、ハーブなどをいろいろと掛け合わせたものらしい。
気分を落ち着かせる効能もあるそうな……
なかなかに味わい深いお茶を頂きながら、先程のことを、店主に尋ねてみる。
「先ほど人形の目が開いたのだが……アレはそういう仕組みなのだろうか?」
「ええ。この店にあるのはすべてプランツドールなんです。ご存知ですか?」
「あ、ああ……話を聞いたことぐらいは……」
確か、とても高価で、美しい姿を持つ生きた人形だとか。
「では先程の彼も、プランツドールなのか」
なるほど、それは美しいはずだ。
けれど、今この店にあるどの人形よりも先程の人形……彼が、やはり美しい。そう思う。
「はい。目を開けたということは、気に入られたのかもしれませんね。
どのプランツでしたか?」
「む? ああ、窓のところにいた青い髪の……」
「青い髪……」
そう呟いた店主が、厳しい顔になる。
気にはなったのだが、
何より俺はさっきまでいたあのプランツの姿が見えないことの方が気がかりだった。
「確かに、そこにいたのだが」
「……お客様。是非、奥のプランツもご覧くださってほいしのですが、お時間の方はよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。それはもちろん」
先程までの厳しい顔とは打って変わって、今度はにこやかに店主が聞いてきた。
この後は特に用事もないので、その申し出を喜んで受ける。
もしかしたら、またあの青い髪のプランツに会えるという期待があったのかもしれない。
ともかく、俺は目の前のお茶を飲み干すと、彼の後に続いて店の奥へと入っていった。
重厚な扉の奥の光り指す空間。
白い、外の喫茶店などに置いていそうな机やイス。
一体、何のための場所なのだろう。
店主に尋ねてみても、返ってくるのは物言わぬ微笑のみ。
「こちらです」
店主に誘われて、青いカーテンで仕切られた部屋へと足を踏み入る。
「!!」
そこには、あの窓越しに見た青い髪のプランツドールが、静かにイスに座っていた。
「彼の名は幸村といいます。なかなか気難しい子でしてね」
幸村。
そうか、彼の名は幸村というのか。
俺は吸い寄せられるように、幸村に近づき、目の前に跪いた。
手を伸ばせば、サラリとした髪が手に絡みつく。
その白い頬に手を触れると、なんとも言えぬ極上の幸福が俺を襲った。
「幸村……」
この美しい彼と共にいられたなら――。
また、あの鳶色の瞳を見たい。
俺に笑いかけて欲しい。
「彼を……その、幸村を買うことは出来ないのだろうか?」
思わず口からこぼれ出てしまった願いだ。
「……それは」
店主がほんのすこし、困ったように言葉を濁す。
それに気づいて俺は何を大それたことを言ってしまったのだろうと焦る。
「いや!これは希望であって、そんな」
「いえ、お客様。実は……」
その後、店主はプランツについていろいろと教えてくれた。
プランツの主食は、人肌に温めたミルクと週に一度の砂糖菓子であるという基本的なことから、
それ以外のものを与えてしまうと育ってしまうというような、より詳しい様々な知識まで。
そして何より、プランツには愛情が大切だということを。
店主は言う。
今は目を閉じているプランツドールも、愛情が伝われば、目覚めることもあるのだと。
つまり、幸村に俺を気に入ってもらえばよいわけか。
とはいえ、気に入ってもらえるかなどわからない。
そう溢す俺に、
「大丈夫だと思います。最初に逢ったとき、幸村が笑ったのでしょう?」
「む、それは確かにそうだが」
「それならば、きっと……」
本当に。本当にそうなのだろうか?
そう思う反面、店主の言葉に賭けてみたくなる気持ちは確かにあった。
また、幸村に笑ってもらいたい。幸村のあの瞳が見たい、幸村と共にずっといたい。
「店主。またココに、幸村に会いにきてもよいだろうか?」
「!! もちろんです」
俺の我侭な申し出を、店主は喜んで承諾してくれた。
なんとありがたいことだろう!
これでここにくれば、幸村に会える。
例え、俺を見てくれなくとも。微笑んでくれなくとも、少なくともまた会うことが出来る。
ああ、なんという幸せだろう…!
そうして俺は後ろ髪を引かれる
名残惜しく思いながら、もう閉店だという店を後にした。
戻る
+002:指先の言葉+
「それで、どういうつもりだい? 幸村」
あの真田という客が帰った後、俺は幸村の元を訪れた。
「……どういうって?」
閉じていた目をゆっくりと開け、とぼけたように幸村が聞き返す。
「勝手にウィンドーに行ったこと? ごめんね?」
「ちがうよ。自由に歩き回るのはかまわないよ。でも、さっきのお客は君の……」
「……うん」
俯いた彼の顔は、あまりにも悲しい。顔が歪みそうになるのを必死で抑える。
彼は、この店の中のどのプランツよりも大人だ。
それは、諦めること、傷つくことを知っているが故の……。
「あの人と、波長が合ったんだろ?」
静かに尋ねると、幸村の肩がピクリと動いた。
あの人が自分の持ち主になりえる人だということが、ちゃんと判っているのだろう。
だからこそ、幸村は笑った。
けれど、同時に幸村は躊躇っているのだろう。彼と共に行くことを。
だからこそ、一度は開いた目を頑なに閉じていた。
すぐにでも彼の元に行きたい衝動を、抑えてまで。
「ねえ、四月一日。俺はきっと怖いんだ……」
暫く黙っていた幸村は、ゆっくりとこっちを向き、憂いを帯びた笑顔で言った。
そう、幸村は怖がっている、また傷つくことを。
幸村は前に一度、主人を持っている。いわゆる、出戻りプランツというやつだ。
もともと、ケイゴのような青年体のプランツではなかった幸村は、
前の主人の元で「育って」しまった。
基本的に育ってしまったプランツの返品は、店としては受けつけられない。
それなのにどうして幸村がココにいるかというと、幸村の前の主人は彼を店に押し付けたのだ。
そもそも、幸村は最初からこの店にいたわけではない。
最初は遠く離れた都市の、俺とは関係のないプランツの店にいた。
実は百目鬼シリーズのプランツが、俺の店以外に入るのは本当に稀なことだ。
それは、もともとこの店以外にプランツを落とすことを嫌がる百目鬼が原因なのだが、
その店の店主は熱心に請い続けた。
そして、最後は熱意に押された百目鬼が折れ、幸村を渡してしまったのだ。
けれど、そこで幸村は育ってしまった。
そうして店に返されたプランツは、必然的にメンテナンスを受けることになる。
アイツは、自分で作ったプランツのメンテナンスも、自分でやる。
というか、むしろ他のヤツにやらせたくないと言うのは、実のところそれなりに有名な話だ。
だから必然的に百目鬼の作ったプランツのメンテナンスは、
百目鬼のところに行くことになるのだが……
育ってしまい、店に返された幸村。
アイツは育ってしまったという事実より、幸村を返品してきた持ち主と、
そんな人間にどんな理由があれ、人形を売ってしまった店側に激しく怒った。
結局このことは、
俺以外の店にプランツを渡すことを渋っていたアイツを、さらに強固にさせてしまった訳なのだが。
――
結局その後、メンテナンスした幸村は、俺の店で預かっている。
幸村がもといた店がどうなったのか、俺は知らないし、知る必要もないと思っている。
確かに育ってしまったプランツはお客様に責任をとってもらいたい。愛しんでほしい。
でも、こうも思うのだ。
幸村は返されたからこそ、今でもなお枯れずいるのだ、と。
きっと幸村は、そのまま元の持ち主の元にいても、ただ枯れるだけだったのだろうと…。
それを理解したからこそ、その店も幸村を引き取ったのだろうし、
百目鬼もメンテナンスをした。
しかし、幾らメンテナンスをしたところで、心に受けた傷は決して癒えることはないのだろう。
例え、それが、忘れた記憶だとしても……。
だから、彼には幸せになってもらいたい。今度こそ。
しかし、同時に確信もしているのだ。
再び主人に裏切られることになれば、幸村は今度こそ枯れてしまうだろう、と。
ふと、あの真田と言う人間を思い返す。
「まあ、アレだけ入れ込んでたら、そんなことはないだろうと思うけど」
幸村の為にも、もう少し様子を見るとしよう。
しかし、出来るだけ早い内に見極めなくては。幸村が枯れてしまう、その前に。
戻る
+003:淋しいときには+
アレからあの人は、毎日のように俺の元に通ってきた。
見るからに寡黙なあの人は、話が得意ではないのだろう。
なのに、懸命に俺に話しかけて、そして帰る前には必ず俺の髪を撫でていく。
その優しい手に、思わず縋りたくなる気持ちを必死で抑える。
「……幸村」
あの人が帰った後、四月一日が俺のところにやってくるのにも、大分慣れた。
「……ケイゴ、幸せそうだったね」
奇しくもこの日は、以前に主人を得たケイゴが訪ねてきた日だった。
満面の笑みを浮かべながら幸せそうに。
「すっごく、キレイになってた」
元からキレイだったけど。続けて、そう呟く。
ケイゴは姿も心もキレイだ。俺みたいに捻くれてなどいなくて。
ふと、ケイゴの言葉が蘇る。
『お前、自分の幸せは自分で掴めよ? 逃げてんじゃねーぞ、バーカ』
「ふふ。相変わらずケイゴの眼力は凄いな」
あの人のことなんて伝えてもいないのに。
そしてケイゴは歌ってくれた。
傍らに主人がいるにも関わらず、俺の為に、その美しい声で美しい旋律を奏でて。
……その後、ケイゴの主人の眉間の皺が2本増えてたな。アレはヤキモチだね。
「別に、逃げてるわけじゃないんだけどね」
毎日のように逢いにきてくれるあの人の元に行くことは、
俺にとって幸福以外の何者でもないだろう。
そもそも、目覚めてしまった俺は、あの人の愛情で活動してるようなものだ。
一日の大半をテラスで過ごして。
おやつの時間に起きてくるリョーマやガクトの遊び相手をしたり、喧嘩を治めたり、
たまに四月一日の手伝いをする。
あの人が来てる時だけ、イスに座り、目を閉じて。そして、夜眠くなったら眠る。
……本当は
駄目だってわかってる。
このままじゃ、駄目なんだってことぐらい・・・・・・
それから、また数日が過ぎた。
少しずつ、体が衰えてきた。
とは言え、髪の艶や、指先の細かい動作など、本当に些細なことだが。
やはり実際いつも一緒にいるわけではないからかな。
いくらあの人が愛情を注いでくれてるといっても限界はある。
四月一日も、すこし焦ってきたようだ。
多分、今日、四月一日はあの人に話すだろう。
俺が育ってしまったこと。返されたプランツであることを。
あの人が俺に興味をなくしてしまったらと思うと、正直怖い。
実際、中古のプランツは嫌がられることが多い。
格段に安くなるが、
やはり、違う持ち主がいたということが嫌なのだろう。
さらに俺は育ってしまった。いわば不良品だ。
彼が、そのことを知ったら。
あの人は確実に、俺に幻想を抱いていた。
どんな幻想かは知らないけれど、
あの人……真田の俺を見る目は、いつもどこかしら夢見心地だった。
きっと純真だの、無垢だの思ってたに違いない。
その俺が、前の客に突き返された出来損ないなんて知ったら。
――
けれど結局、その日、あの人は店に来なかった。
戻る
+004:何度も読み返してしまう手紙+
幸村の元に通いつめていた真田と言う客が来なくなって、一週間がたった。
状況は大変まずい方向に、急激に傾いていた。
幸村が、枯れかかっている。
こんなことになるなんて!
もっと早い段階で、手を打っておくべきだったのかもしれない。
俺は百目鬼に急ぎ手紙を出した。
おそらく、アイツは飛んでくるだろう。幸村については、アイツが誰よりも心配している。
「四月一日、どういうことだ」
「百目鬼……」
最近、うちに来る客は仏頂面が多いが、相変わらずコイツも負けず劣らずの仏頂面だ。
けれど今ばかりは、その顔が少し歪んでいる。
「……俺のミスだ」
「――幸村は?」
幸村は、一日の大半を寝て過ごすようになっていた。
ミルクを飲む量も、日に日に少なくなってきている。
「幸村……」
百目鬼の呼びかけに、うっすらと目を開ける幸村。
その瞳にあんなにも輝いていた光がない。
「……あれ? なんで……静がいるの……?」
心底不思議そうに、子供のように首を傾げて幸村が百目鬼に聞いた。
その弱弱しい声。
あんなにも優しげに、部屋に響き渡るようだった涼やかな声が掠れ、
喉を絞り上げたように苦しげなものに変わってしまった。
「……四月一日、幸村をメンテする。連れて行くぞ」
そんな幸村を見ていられなかったのだろう。
百目鬼が、ベットの上に横たわっている幸村を抱き上げようと手を伸ばす。
しかし、幸村はその手を力なく振り放った。声が静かに部屋に響く。
「いいんだ、静」
もう自分でも駄目だって分かってる。もう、手遅れだって……。
どこか遠い目をして、幸村が微笑みながら呟いた。
――きっと。
きっと幸村はメンテナンスをしても、真田というあの客のことを忘れることはできないだろう。
そしてこの子は、彼を思い出すたびに枯れていく。
……
でも……でも、そんなこと言わないでくれ!
まるで他人事のように笑う幸村。
この子はいつもそうだ。どうしてこんなにも自虐的なのか!!
どうしてもっと自分を大切にしないのか!!
百目鬼はそんな様子の幸村を黙って見ていた。
が、もう埒が明かないと思ったのだろう。幸村を黙って抱き上げる。
その時、店の扉が開くひどく大きな音がした。
いや、それだけじゃない。何か物の落ちる音、人の叫び声、
そしてその音はそのまま、この部屋まで飛び込んできた。
その、店を壊さんばかりの勢いで幸村の部屋に飛び込んできた男
――真田は、その勢いのまま床に頭を押し付け叫んだ。
「すまない、店主!!幸村を!!幸村を貰い受けたい!!」
戻る
+005:眠れない夜に+
店の奥、俺たちの空間に続く重い扉を壊さんばかりであの人が飛び込んできた。
ああ、あの人の顔を声を存在を見ただけなのに、こんなにも体が軽くなる。
今まで、まるで鉛のように重く沈んでいた手が勝手に動く。ああ、なんて現金な体なんだろう。
俺は静の元を離れ、ただ思うままにあの人に飛び込んだ。
今まで動けと思っても動かなかったこの四肢で、以前よりだいぶ冷たくなったこの体で。
あの人のところへ。
「会いたかった」
突然のことに、あの人が硬直してるのがわかった。
でも、そんなことどうでもいい。この声が、肌が、匂いが。
今ここにあの人がいるのだと俺に語る。
床に押し付けていた頭を上げさせ、その頬に手を添える。
高揚して少し熱くなってる体温が心地よい。
この一週間どれほど望んだのだろう、この人と共にいることを。
こんなにも心が体が渇望している。
俺はこの人と共にいたい……
もう迷いはない。
戻る
+006:どうか傍にいて+
頬に触れられる。柔らかな、そして少し冷たい手に体が溶けそうになる。
この一週間、幸村に会えない、それだけでどれほど苦しい思いを味わったことか……!!
一週間前、突然本家からの呼び出しがあった。
真田家を総まとめしているお爺様が倒れたのだ。
幸い命に別状はなかった。
しかし、やはりお倒れになって弱気になったのあろうか。
お爺様は、俺に早く嫁をもらい道場を告いでくれと言ってきた。
無論結婚なんぞまだ早い。
言葉にしたことさえなかったが、今の仕事も気に入っているのだ。
道場についても、指導自体は好きではあるが、まだ継ぐには早すぎる。
お爺様をそう説得するのに一週間、本家にほぼ軟禁状態を強いられた。
おかげで有給をすべて使ってしまった。
さらに、やっと開放されたと思ったとたん、会社の方で急な転勤を申し渡されたのだ。
期間はそう長くはないから、と。
しかし一週間幸村に会えなかっただけで、こんなにも辛い思いを強いられているというのに、
この上更になんぞ……!
そう思うともう形振り構っていらず、俺は店へ駆け込んだのだ。
たとえ幸村が俺を選ばずとも、店主が拒もうとも。犯罪者になろうと構わない。
幸村を攫っていきたい。
しかし、この頬に触れる手は。
俺を見つめるこの鳶色の瞳は。
真田、と少し掠れた心地よい声で、俺の名を呼ぶこの存在は。
「ゆき……む……ら……?」
感動のあまり、声が震えた。
恋い慕い続けた、あの鳶色の瞳が俺を見つめているというこの事実に。
幸村は――幸村は俺を受け入れてくれたのか?
「真田、俺を連れて行って」
言葉と共に、唇へ落ちた柔らかな感触。
それが幸村の唇だと気づくまで、しばらく時間がかかった。
そして、驚きのあまり硬直している俺に向けられた、極上の笑顔。
ああ、なんという幸福。
俺はその幸せと共に、幸村を強く腕の中に抱きしめたのだった。
「では、コチラが一ヶ月分のミルクとなります。
そしてコチラは粉末タイプのものとなっております」
晴れて幸村を連れていけることとなった俺は、すぐさま幸村に必要なものを買い揃えた。
その際に、幸村のことも聞いた。
一度買われたが、手放されてしまったという悲しい過去のこと。
育ってしまっているプランツだということも。
しかし俺にとって、そんなことはどうでもよかった。
むしろたったそれだけのことで、こんなにも美しい幸村を手放すなど、前の持ち主は信じられんことをしたものだ!!
しかしそのおかげで、幸村は今俺の隣にいてくれるのだから。感謝するべきだろうか。
……その関係で驚かせられたことといえば、値段のことくらいだろうか。
覚悟していたものより、ずっと低価だったのだ。
予定よりもかなり浮いた金額で、俺は出来るだけ幸村のものを買い揃えた。
これからしばらくこの町を離れることになるのだから、準備は念入りにしておくのに越したことはない。
「通販の方もご利用できますので、必要となりましたらご連絡ください」
「うむ」
しかし、世の中は便利になったものだ。
店主から受け取った、厚みが数十センチはあると思われるカタログを眺めながら、つくづくそう思った。
ともあれ、これで幸村を不自由させずにすむ。
「幸村、行こうか?」
「ああ」
俺の言葉ににっこりと笑みを浮かべる幸村。
どれほど、この時を願っただろうか。
ゆっくりと幸村の手をとり俺たちは店の外へと、俺たちの家へと歩き出した。
俺は、この笑顔を守り続ける。たとえ、この先に何があろうとも、共にあり続けるだろう。
あとがき
真幸の出会い編でした〜〜
もうコレは元のプランツのお話を改造しまくってます・・・
設定がね!設定をね!!作りまくりました今回!
ちなみに幸村さん、おそらくプランツの中で一番乙女化してます。
多分私の中で入院中のイメージが一番強いからだと思われる。あとテニミュの幸村さんとか。
次に描くお話では幸村さんのあの黒さが出せるといいな〜
ではではお付き合い有り難うござました〜〜
戻る
プランツ参考「スノウホワイト」