「はじめまして、善法寺伊作です」

これから家族になるという彼らと、初めて会ったその日。
相変わらず、僕たちは不運だった。















ぼくらが家族になった日












朝起きると、ちゃぶ台の上に書置きが一枚おいてあった。

父がどこかへ出奔したということだ。
正直に言おう。これはいつものことである。

放浪癖のあるあの男は、気が向くとふらふらとどこかに消えてしまう。自分も不運のくせに。
それがたとえ海外であろうとも。
なまじ医学の知識があり、昔はさる病院で院長を務めたこともあるなどという、
正直眉唾に聞こえるその技術で彼は世界を飛び回るのた。一人で。不運のくせに。


そうして後に残されるのは、いつも僕たち5人だ。


数馬は、
「夕飯のおかずがひとつ減るね。5人ってパックだとひとつ余分に買わなきゃいけないからもったいないな~」
などと主婦じみたことをいい。

左近は、
「またあの人は、着替えも持たずに消えて。不要物の整理ぐらいしていけばいいものを!」
と怒りつつ、あの人が各地各国で買って送りつけてきたものを整理し、売りに行く準備をする。

伏木蔵と乱太郎は、
「今度はどこだろう、僕はおみやげはもっとスリル~なものがいい~」
「私はもうちょっと使えるものがいいです」
などと楽観的になりつつ左近の手伝いをしている。

そして僕は「またバイトを増やさないといけないかな~」なんてことを考える。



普段はそんなことが日常の一コマであるが、今日は違う。
今日だけは違った。


なぜならば今日は新しい家族ができるはずの日だったからだ。





***





「伊作兄さん、父さんはまたですか?」

キツイ物言いが特徴の左近は、実の父に向かってもキツイ。
しかしその分周りの状況を的確に判断し、いま必要なことを最善の順で導き出す。
その証拠に、ほら、今だって、書置きひとつで消えた父の代わりに最低限必要な物の確認と整理をし始めている。



「でも一応相手先の地図は書いてあるんだね、お父さんも珍しく気が利いてるね」

なんて苦笑しているのは数馬。
どちらかというと雰囲気がやわらかい印象を与える数馬でさえも、あの人には厳しい。
朝ごはん5人分でいいのかな、といいながら数馬は台所へ歩いていく数馬は、
今やこの家の誰よりも料理がうまい。
いいお嫁さん…否、お婿さんになることだろう。



「これが今日からお世話になる家なんですね~スリル~」
「向こうの方にはちゃんと連絡いってるのでしょうか、父のことなので連絡ミスとかしてそうですね…」

基本的に、日常にもスリルを求める伏木蔵はいつもマイペースである。
たぶん、この家で一番日常を満喫してるのではないだろうか。実によいことだ。
乱太郎はというと、同じ年の伏木蔵がこれなので人一倍気を使う子に育ってくれた。咄嗟の判断もいい。


嗚呼、我が弟たちながら実によくできた子達だ。誇りに思う。
兄バカといわれようとも、この子達が自慢なのは事実なのだ。
これは決して欲目ではない、がしかし、その称号は甘んじて得よう。


僕はというと、これからお世話になるお宅へ、連絡が行ってるのかの確認の電話を入れようとしていた。
そう、父親の再婚相手の家へだ。



僕たちは今日、新しく家族が増える。
そして、僕たちはこの17年お世話になったこのアパートを出る。

新しい母には同じくらいの息子がいるという話を聞いた。
彼は小さい子は平気だろうか。仲良くできるだろうか。
こちらは兄弟が多いので何かと心配だ。もちろん弟たちはしっかり者なので迷惑などかけるはずないが!








まあ、この時は、家族がさらに5人も増えることになるとは思ってもみなかったわけだけど。







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