これで何度目の転校になるのかな…
そんなことを思いながら、ふぅと僕は深いため息をついた。
親の都合で町から街を転々とすることすでに両の手では数えられないくらいになった、最近。
もう中3も半ばにもなるこのときにいくらなんでもひどすぎるだろう。
でも僕……あ、今は私か。
まあ、いいや……にとっては、いろんな街を回れるのはありがたいことだ。
なぜなら僕には、
会いたい人たちがいる。
探したい人たちがいる。
どうしても見つけたい人がいるんだ。
なぜって、僕は僕として生まれる前の記憶があるのだから。
室町の時代、戦国の忍者として生きるその前、楽しかった学園生活。
その中で大切で大切で、宝物みたいな思い出にいる、たった一人を……
ああ、作兵衛。僕は、
あと、どれだけ探せば君に出会えるのだろう。
あと、どれほどの場所をめぐれば君に出会えるのだろう。
あと、どれほど刻がたてば君に出会えるのだろう。
あと何回生まれ変わったら君にめぐり会えるのだろうか……
紫色の長い髪を丁寧に編みこんでいく。
編みこみがゆるいと、髪の毛が途中で広がってしまうのが難点だ。
この癖っ毛、なんとかならないかな…
そんなことを考えながら僕こと私、三反田数馬は、
記念すべき20回目となる最後の転校にため息をついた。
これまで長いところで1年、早いところでは2ヶ月で転校した。
しかし中学ももう3年の半ば、受験のこともあるのだし、という叔母の勧めでこの私立の忍が丘学園に転入することになったのだ。
中学に入ってからは、いい加減制服を作るのがもったいなくて、このところは5つばかり前の制服のまま、新しいのを作っていない。
丈の長いセーラー服に赤いリボンスカーフ。今は夏なのでシャツ部分は白だ。セラーカラーの赤い線がよく映える。
今度の学校はブレザーときく。
できることなら後半年、このまま制服を作らないほうが楽なんだけれどもな。
でも、最近この制服きつくなってる気がする…主に胸が…
いやいやいや、太ってない、僕は太ってない。太ってなんぞいない!!
なんてくだらないことを考え、結んだ髪の先にリボンをまいた。
振り返れば長いおさげが揺れる。
うん、転校初日は肝心だからね。
これからこの学校にいるためにも最初は大切。
さて、普通に学校に行くにはだいぶ早い時間だけど、なにしろ僕のことだ、
何が起こるかわからない。早めに出ることにしよう。
はあ。何度生まれ変わってもこの不運、いつまでついてくるんだろう……泣きたい。
***
「はじめまして三反田数馬です」
案の定、2時間以上前に家を出たなのに、学校に辿り着いたのは時間ギリギリ。
疲労困憊のままで職員室に直行、過ごすであろう教室までつれてこられた。
あれだよ、やっぱり乗ったバスが遅れたのと、通るはずの道が工事中で、
さらにその回り道にある踏切が20分以上開かない魔の踏み切りだったのが原因だよね。うん。
それでも、無事に着いただけマシかなって思う。
そして僕は今、転校生にお約束の、黒板前の挨拶中だ。
この瞬間は何度体験しても緊張するな…
ドキドキしながらそんなことを考えつつ、自己紹介を終えた瞬間、視界に飛び込んできたある人物に僕は釘付けになった。
あれは、あれ……は
「よし、じゃあ三反田の席は…そうだな。浦風」
「はい」
浦風と呼ばれた少女が立ち上がる。
すらっとした身体。長い髪の毛を頭のてっぺんで結わえている、その姿も顔も声も昔のままで。
ただ違うのは彼が女の子だということだけ。
「三反田さん、はじめまして。私は浦風藤内。よろしくね」
ふわっと笑いかけてきてくれた笑みは、
悠久の記憶の中でも色あせない、初めて出会った時とまったく同じもので。
でも、だからこそ、僕は理解する。
「はじめまして、浦風さん。よろしくね」
彼女は、藤内は『憶えていない』のだと。
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