第31話
漆黒の宇宙を強化服が漂う。
ココに
未来石の帰還を出迎える者は居なかった。
「どうせなら皆の居た世界で死にたかったです…」
見慣れたハズの宇宙も
過去世界の生命の輝きを観た今となっては
地獄の光景そのものだった。
6日目の夜、
正体不明の宇宙船に強化服は捕らえられた。
未来石は不安になっていた。
何故なら船体の表記、
中に至るすべての文字が未来石の知らない言語で書かれ、
船の構造も未知の建造技術の塊だったのだ。
私は救助されたのでなく実験やエサとして回収されたのでは?
未来石は怯える心を抑え付けた。
格納ハッチが開く。
未来石が強化服を出ると
急に照明が向けられ視力を奪われた。
何者かが質問を始めた。
『まずは所属と認識番号、名前をどうぞ』
「??…時空局所属、番号はRZM-FJDS361未来石です。
そちらは?」
『あぁ失敬、我々は<FTBちゃんねる>の報道班、
といっても10名足らずの地方局、
で私は司会兼、ディレクターの…』
照明に眼が慣れ始めた。
人間のシルエットに未来石は震えた。
過去の実装石達の様に
自分も粛正されるのでは無いか、と。
すると、司会の人物が小声で近付いて来た。
『ちょっとキミ、お昼の生中継なんだ。
英雄らしく胸を張ってくれなきゃ困るよ』
<お帰りなさい未来石>
のジミな垂れ幕がようやく眼に止まった。
撮影クルーには人間に混じり
進化した実装石達の姿が見えた。
司会の顔に涙傷がある事に気付いた。
彼はまじまじと未来石を見つめていた。
『胸をといってもその、
キミの姿は、少しハデかな』
「ひぇ!?(私、下着のままです…)」
『オメーはこれトットと着るです。目障りデス!』
ジャケットを投げて寄越したのは
顔に傷のある小柄なカメラマン。
一方、
密かに近付く巨大宇宙船のブリッジでは
『時空石様、これで<実装古文書>に記された
最後の予言が実証されましたな』
「彼女の発見を民間メディアに先を越されたんだぞ、
職務怠慢だね。
それとボクを役職名で呼ぶな!」
『所蔵の古文書が
言語学者によって修正されていた第2版でなければ…
時空石様お許しを』
「…原本があるとは誰も知らなかったからな、
奴らは運が良かったんだよ。おし、乗り移るか」
司会はジャケット取り、未来石に着せた。
『奴は口も顔も悪いけど良い奴だよ。
今の言葉を要約すると
<ボクはあなたの事が好きデス結婚して下さい>
ってとこかな』
『オメーナニ勝手に言ってるデスか!?
オレはカメラマンとしてデデッ』
「顔が黒いけど紅いぞ?どうした、ホレ本番準備〜」
『ムキー!テメーは焼き飯の具にしてやるデス!』
未来石は2人を強く抱きしめた。
「涙、ありがとう。飯…あなたはいつも私を…」
戸惑う2人をよそに未来石は泣き続けた。
ほかの人間のクルー達は呆れ顔で
その様子を眺めて居た。
しだいに未来石は
あまりにも出来過ぎた偶然にクスクスと笑い始めた。
涙も止まらなかった。
ココには人間と実装が一緒に居る。
何て素晴らしい世界だろうか。
その様子を時空省一団が観て居た。
『時空石様、中継は切らせました。彼女を回収できます』
「いや、ちょっと待て、
このママにしよう、面白いから。
ボクが今興味あるのは胸、否、
司会が片手に持ってる原本らしき古本なんだなぁ」
『ではこの船ごと回収致しますか、時空石様』
「うっさい!役職で呼ぶなって言ったじゃん。
ボクの名前は空(スカイ)だ!」
その声を聞いて未来石の泣き笑いは一層高まった。
たゆたゆとした時の流れが
それぞれの運命を絡め、
再び動き始めた…
補足
・出迎える者は居なかった
強化服は正確な場所に帰還したハズだが
そこに存在した時空局の基地が無かったため。
・知らない言語
実装文字の事であるがこの未来では
かなり砕けた文字が流行で
未来石には読めなかった。
・お昼の生中継 ジミな垂れ幕
「古文書に記された事の実証」
というオカルトめいた内容のため
人々の関心は薄かった模様。
これでは拍子抜けである。
・キミの姿は、少しハデ
下着といっても一応パイロット用
インナースーツ ではあるのだが。
それと
知らず内に未来石の体は
この世界の実装同様に 進化していたようだ。
・「実装古文書」
30話補足で述べた言語学者が発表した本である。
学者による独自解釈が多いと後年に批判を受ける
・最後の予言
原本に書かれた最後の内容を正確に直すと
未来石が過去から帰還する場所、時間などが
表記されている。
他には実装石達が実装城で見せた
技術の事が事細かに表記さている。が
その技術を理解するためには
実装石達が進化するのを待たなくてはならず
「予言」と呼ばれたらしい。
・第2版
言語学者が発表した「実装古文書」の事。
本書の理解には実装石による
翻訳が不可欠なのだが
学者はそれを待たずに発表してしまった。
・時空省一団
時空局はすで時空省として
独自の行動がとれる 高ランクの組織に
再編成されていた。
・原本らしき古本
実装涙の子孫と思われるディレクターが
代々受け継いだものと思われる。
・役職名
なぜ「時空石」なのか?
ひょっとすると彼がこの世界に
居たのかも知れない。
しかも実装空の子孫がその役職に就くという。
・出来過ぎた偶然
救いの無いエンディングも考えたが
30話もやって来てそれは無いだろうと。
すべては実装零が用意した奇跡という事で。
・彼女を回収 船ごと回収
役人らしい対応である。
このまま言葉通り回収されたら彼女は
災難であったろう。
・たゆたゆとした時の流れ
「たゆたゆ」
「川面にうき輪が〜と漂う」など水場の情景に
溶け込む様な表現で使われる。
文章として的確な表現なのかシラんが
31話の激戦締めの言葉として使いたかったのだ。