北丹沢というメジャーではない山域の中でも更に訪れる人もまれなルートを舞台にえらんだコース設定が、なんとも言えず気に入っているレース。とても地味なコースだが、アップダウンの激しさは誰もが認めるところで、丹沢特有の急登、急下降がこれでもかと出てくる。その一方でロードあり、林道あり。そして、ピークや峠を踏むことなく急下降に入ったりで、山歩きではほとんどありえない、もうわけの分からない不思議で楽しいコースに1000人ほどの選手が参加する、ハセツネカップに次ぐトレイルランニングの人気レースである。
◆神ノ川キャンプ場まで
渓谷沿いの緑の休暇村を朝7時、スタート。最初は苦手なロードである。ウォームアップのつもりで軽く走る。
コースは沢筋から山道へ入る。夏の朝特有の湿気が下草から上がってくる。ただ、気温が高くないため快適な湿り具合に感じられる。15分ほどの急登で標識があらわれ、尾根を離れて山腹の下降路へ入る。ここまでの登りを数時間後には激下ってゆくときには、おそらく体はボロボロの状態になっていることを思うとうれしさがこみあげてくる。半年ぶりの耐久レース、消耗すらもまた楽しげだ。
再びロードに出るまでの急下降で、何人もの選手が追い越していく。みんな実に下りが速い。おそらく長時間のレースであることを踏まえたうえで飛ばしている人は少ないだろうが、一方でこの中に本当に速い人も数名いるだろうとも思う。今はまだ見分けがつかないが。
キャンプ場までのロードは、おそらくキロ4分20秒くらいのペースで走ったように思う。ときおり先頭集団が見えるので、全体的に登り基調の部分は抑え気味になるようだ。
下りが続くようになるとまもなくキャンプ場がみえる。
◆第1関門(神ノ川ヒュッテ)まで
スタートから50分。15位で川を渡り、いよいよ標高差800mの急登に入る。去年参加したいくつかのレースから学んだこと、それは「前半はとにかく抑える」という至極あたりまえのことだった。どのくらい抑えたらいいのかの按配は難しいが、要は後半の姫次の登りをコースタイムの1/3くらいでこなせる余力を残しておきたい、ということから逆算して、まあこのくらいだろうという、やや速足ペースで歩く。
鐘撞山を通過。キャンプ場から29分。去年の初参加レースではなんと、いつ山頂を通過したのかも分からなかった。余裕十分なつもりで実はまったく我を見失っていたのかもしれない。森の木々に包まれた平坦で穏やかな鐘撞山で今回、ようやく小さくてかわいらしい鐘を眺めることができた。
ここから山道は斜度を増す。あまり足場のよくない登りを疲れないペースで進む。周囲の選手もそんなに飛ばす人はいない。キャンプ場から51分で下りへの分岐。濃緑の木立がここだけ途切れ、草原の心地よい急斜面を下っていく。去年と同様、この激下りで速い選手にあっという間に追い越される。つくづく下りが得意な選手は本当に速いものだと感心してしまう。そこにいくと私は、山道の登りがやや速いかなというくらいで、後は見事になにも得意とするものがない。良く解釈すれば、全体のバランスがとれているということ、か?
◆第2関門(神ノ川園地)まで
第1関門を2時間ちょうどで通過。10位くらいのようだ。
ここからの登り、最初はゆるやかだった道も沢が細くなるにつれだんだんと急になり、源頭部の趣を増してくる。ただ、荒涼とした感じがいかにも丹沢らしい。
やがて道は沢をはなれ、左側が大きく崩壊した崖のふちを這うようにして上っていき、左折点にでる。犬越路のわずか下、ここで峠に出ずに林道へ行ってしまう、こんなレースがあってもいい。ピークや峠を踏まなくとも山は面白い。
林道は、先ほどの下りが速かった選手と抜きつ抜かれつしながら進む。あとで分かったが渡辺さんという、去年のどのレースでも私より上にいた選手であった。「ロード速そうだね」と声をかけられ、「いや、自分は山岳専門なんでロードはやったことないんですよ」と答える。この細い体は、見かけ上はいかにもランナーだろう。でも、ロードなんて真剣に走ったことはないし、ロードレースすら一度も出たことがない生粋の山ヤ、というか山しかやったことのない人間である。
右下に見える渓流の底は、林道のアップダウンに合わせて上がったり下がったりする。空はうす曇りで、さえぎるもののない路面も快適に走れる。そしてトンネルをふたつ抜けると、唐突に給水所だ。
◆ゴールまで
第2関門を2時間58分で通過。最後の難所、去年はもう帰りたくなるくらい疲れた姫次の登りに挑む。今日は気楽に登っていける。コースタイムとの関係でいうと、私は常に1/3で歩けることを目指している。通常ならどんなところでも大抵は可能なのだが、疲れたときでもこのくらいで歩けることが今の目標だ。ちょうど今挑もうとしているこの急登は、姫次までコースタイム3時間15分。これを1時間5分で登れれば、今の自分としてはOKだ。
ルートは最初から息もつかせぬ急登がひたすら続く。さすがにきついが、こういうところこそ、ペースを上げすぎず一度も立ち止まらず歩くのだ。たまに現れる緩斜面も走らずに歩く。ひたすら歩く。東海自然歩道にもなっているこの道は、急ではあるが足場は良好であるため、無理な体勢で踏ん張ることもなく歩きやすい。・・・などと言えるのも余力があるからこそだ。時折、遠い前方に選手が見え隠れするが、その差はなかなかつまらない。でもこれだけ余力があれば下りで抜けそうな気もするがどうだろう。登りつめた時点で本当に力は残っているのだろうか。
果たして力は残っていた。あれもう着いた、という感じで姫次を1時間1分で登りきる。トップと9分差の4位!、と思いもよらぬ好順位を聞かされ、下りへ一気にギアチェンジする。ここまですべての下りをセーブしてきたのも、ここからを走りきるためだった。脚の消耗も避けられた。自分のもてる最大限のスピードで下ろう。それにしてもいつの間に4位に上がっていたのだろう。
空はいつのまにか本降りの雨となった。大粒の雨が木々をすり抜け落ちてくる。黒土の下り坂はびしょ濡れだが、登山道自体がよく整備されているため、速度の低下もなく走り降りることができる。なだらかな東海自然歩道を15分ほどで走り抜け、平丸分岐から急下降に転ずる。
ペース配分に気をつかうことなく、山を全力で走るのは本当に楽しいことだ。石の露出した下り道を駈け下りながら思わず鼻歌が出てくる。この下りで2人の選手を抜く。あと1人か。どのくらい前を走っているのか分からないけど、悔いを残さずにすむよう、全力で追いかけてみよう。
ロードに出る。すぐにキャンプ場への下降路へ。速度を上げいかにも視野が狭くなってそうな私に、役員の方が大きく手を振って身振りで右折点を示してくれる。森の遊歩道をかけ抜けると、給水所が見えた。去年はパスしたので、今年は飲んでいこうと思っていた。立ち止まり、水をいただきながら言葉を交わす。いかん、急に立ち止まったから脚を攣りそうだ。再度ペースを上げ、休暇村に帰ってくる。終わりはもうすぐだ。2位でゴール。タイムは4時間34分14秒だった。
◆今回の反省
前回の経験から、とにかく前半を抑えた。ゆるい登りもひたすら歩き、そして下りもすべてスピードが出ないよう注意して行った。登りでのふくらはぎ、下りでの太ももの疲労を最小限にとどめて、姫次の登り、ゴールまでの下りで勝負するためだ。力のある前半は、ペースを抑えたつもりでも実際はそんなに遅くはならない。逆に後半は普通に進んでいるつもりでもどんどん遅くなっていくものであり、この部分のダウンをいかに小さくするかがレースの成否を分けると考えていた。
結果としてこのやり方は、うまくいったように思う。姫次も快調に登りきり、下りもスピードに乗って走り降りることができた。ただ、後半に余力を残すのは考えてみれば当たり前のことで、「なおかつ前半も速い」のが理想の形だ。残念ながら今の力では、そこまで完璧なレース運びは無理だろう。
それでも今日は、走り終えてまだまだいけたような気がした。うまくいったときはそんな風に感じやすいものかもしれないが。
順位は、最後で運よく2位に上がっただけで、棚ぼたと思っている。また、先週の御嶽スカイマラソンの影響で、上位選手はベストでなかったり欠場したりしたはずで、私は北丹沢一本に絞ったからこその順位だったのだろう。そんななか、先週の好成績につづいて、今週も優勝を成し遂げた望月選手は、本当に強いのだろうと思う。8分というタイム差以上に、自分との力の差を感じる。この結果でいい気にならず、秋の日本山岳耐久レース(長谷川カップ)に向け、トレーニングをしていこう。
最後に、表彰式で人生初トロフィーをもらったのは嬉しかった。景品もほしかったモントレイルのサンダル(モロカイ)をいただいてしまった。どうもありがとうございました。
◆装備と食糧
ボトルホルダー(ミズノ・ラン用)
梅ジュース500mlくらい(途中給水2回)
パワージェル5個(4個消費)
第1関門でバナナ1本
◆ウェア
ノースリーブシャツ(ナイキ)
タイツ(CW-Xハーフ)
X-ソックス
ランニングシューズ(アシックス・カヤノ)
去年、驚きの目で見ていたランニングシューズで参加することに。しかし、すべりやすい斜面も特に問題はなく、快適な走りに大いに貢献してくれた。シューズの善し悪しはその性能ではなく、どれだけ足にフィットしているかなのではないかと思っている。
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