朝日新聞(東京版)1997(平成9)年2月26日「声」らん掲載

            慰安婦問題を教師も学ぼう

                                    浜松市 野島恭一(中学校教員39歳)

「従軍慰安婦」をあつかうことに反対する主張は、次のように要約できる。@日本の歴

史に誇りを持てない自虐的な国民を育てることになるA中学生に人間性の恥部に触

れる問題が耐えられるのか、教師は教えられるのか。

 教える現場からすると最も大切な問題はAである。教科書を全て教えることは不可

能だし、またその必要もないので、中学レベルの一斉授業では「詳しく調べてみたい

人は相談にのるよ」という程度でよいのかもしれない。しかし、生徒の中には、この問

題を真剣に追究できる生徒もかなりいて、三年生の公民や高校「現代社会」の人権・

倫理学習に深めていける。

 この問題を「恥部」として逃げたり香港のB級映画のような劇画的・表面的な日本軍

の悪魔性の強調に終わってはならない。もし自分が認識不足で教える自信がなけれ

ば、一緒に考えようと言えばよい。教師自身が学ぶ姿勢を持つことが大切だと思う。

 私は、この問題の表面にアジアへの侵略と民族差別の問題があり、さらにその基底

部に戦前の日本社会の家父長制と男女差別の問題があると考えている。特に私の個

人的な感想では@の主張をする人たちにこの男女差別構造にあぐらをかいている人

たちが多いと思うがどうだろう。

               教科書問題の原資料として

 1997年、教科書問題が始まったころ、やむにやまれない思いで新聞に投書し掲載された

意見です。

 掲載されたのは娘が生まれる前日でした。抗議の電話が自宅にかかったりして、ちょっと

心労したことを覚えています。またこの記事と私の名をある漫画家が勝手に自分のベストセ

ラーのマンガの扉に載せたことも不愉快な思い出です。

 先日(2006年)、ある先生の「韓国併合」の研究授業作りに協力しました。在日の韓国の牧

師さんをゲストティーチャーとして「日本が韓国に併合されたら」をシミュレーションする授業で、

韓国語による授業・土地調査を再現しました。画期的ないい授業でした。その中で、温厚な牧

師さんの穏やかな言葉の背景にある強い思いをうかがい、この問題は決して避けて通っては

ならないこと再び実感しました。

 以下の資料はやがて歴史の和解がなったとき、教科書問題の研究をする人たちの原資料

になることでしょう。私のあのときの思いを忘れないためにも封印しないでここに掲載しておき

ます。

新聞記事画像