タケル
        第一章
 アメリカは2007年夏、巨大なハリケーン、「サファイヤ」の直撃をうけ、一万人を超す犠牲者を出した。災害の復旧作業は数ヶ月たっても、 ほとんど捗 (はかど)っていなかった。ある日一本のニュース記事がニューマイアミから発信された。
 「33人の子供の死体が施設跡から発見された。水死、餓死(がし)、災害死であるか詳細は不明。」
 この一行のインターネットを世界中で7人の子供が自分のものとして受信した。以下にその名前を記す。
 リサ13歳〔パリ〕、キリー12歳〔ピョンヤン〕、ガット13歳〔ケープタウン〕、パティ11歳〔ボンベイ〕、エリー12歳〔クレタ〕、リョウ 13歳〔ペキン〕、 タケル12歳〔東京〕。
 キリーは朝鮮王朝の直系の後継者だったが、タケルといつものようにメール交換した後、彼は絶対の存在だった父親に反逆することを 決意した。
 キリー「あの記事見た?」 、タケル「見たよ。やってられないよ。」、キリー「どうする?」、タケル「もうやるしかないだろう。」、キリー「う ん。」、 タケル「もうちょっと仲間を増やそう。」、キリー「了解、ヨーロッパに流して、できそうなの集めてみる。」
 キリーは父親の銀行口座にフィルターをかけ、NK.CIAの仕業(しわざ)に見せかけて、パリに1億5000万ドル送金した。リサはネット仲間のキリー からの急な用事ということで、パリの銀行から全額、金を引き出し、自分とリョウとガットに5000万ドルずつ分散して送金した。 11歳のパティはキリー に聞いてきた。
 パティ「私はとっても悲しいの。どうして、こんなにつらいことや悲しいことがおこるのでしょう。いつになったら、人々が楽しく平和に暮らせる世の中にな るのでしょうか?」
 キリー「僕にはわかりません。タケルに聞いて下さい。」
 タケル「大人になっても誰もが、パティさんのような心優しい美しい気持ちを持ち続けることができれば、その時、素晴(すばら)しい世界が生まれると思う よ。」
 キリー「資金はできたが大人達への仕掛けはどうする?テポドンを一発、東京かニューヨークに打ちこんで宣戦布告するかい?」
 タケル「準備だけは進めといたほうがいいかな。僕は文章が苦手だから、誰か上手なやつに依頼してくれ。みんなの意思が統一された時点で戦闘開始だよ。」
 リョウ「タケル君、僕に戦略と戦術を全面的に任せないか。何せ、司馬遷(しばせん)の名文の流れと諸葛亮(しょかつりょう)の誠と無私の魂(たましい) を脈々と受け 継ぐ僕だ。子供だってそう馬鹿にしたもんじゃないってとこを見せてやるから、刮目(かつもく)して3日待ってくれ。」
 タケル「了解。君の子供離れした鋭い分析力にはいつも感心してるよ。3千年を優に超える文化が現代をどんなに捌(さば)くのか、早く知りたいな。」
 ガット「リョウ、タケル、両君、僕が田舎(いなか)に住んでるからって、僕のことを忘れないでくれよ。僕のクレー射撃の腕前はプロ級だし、足の速さだっ てチーターに負けない位なんだから。」
 タケル「ガットは人類発祥の地に住んでるけど、肥沃(ひよく)な大地から生まれる大人達へのメッセージはないのかい?」
ガット「今は、コーヒーと綿花、落花生、ココア、お茶にオリーブ、鉱物資源と人間を産出してるだけだけど、何せ、アフリカ大陸ってのは南極までいれると、 アジア全体にも匹敵(ひってき)する面積を持っているのだから、太陽から受ける総エネルギーは厖大(ぼうだい)なものだ。ここから生まれ出て行く総熱量も 相 当なものだと思うよ。いずれ、人類は生まれ故郷であるアフリカの大地に戻ってくるだろうさ。バナナだって、水だって、緑だって、新鮮な空気だって、ここに はたっぷりあるからね。」
 タケル「君は大人になったら何をやるつもりなの。」
 ガット「僕は大人になったらなんて、そんな馬鹿げたことは考えたりしないさ。大人になんかならないぞって言い張るほど子供っぽくもないけど・・。ただ、 僕は現在の僕を13年間の生命(いのち)の滾(たぎ)りを完全燃焼させたいだけさ。君だってそうだろう?」
 タケル「ふふん、僕は僕の思い通りに生きてみたいと思ってる。社会とぶつかって、抗(あらが)って、流されたり、思い通りにいかないこともあるだろうけ ど、その時はその時さ。何だってやってみなきゃわかんないさ。今は、リョウの檄文(げきぶん)が届くのを楽しみに待ってるんだ。」
 リサ「私はお医者さんになるわ。私は身体や心の病(や)んだ人々を助けてあげるの。心の病気は1万人の精神には1万個の複雑な回路があるから、難(むず か)しいところがあるけど、身体の方は簡単よ。私にはとっておきの秘策(ひさく)があるの。人が赤ちゃんとして生まれた時点で、クローンのスペアを最初か ら用意しておくのよ。それは胚芽(はいが)細胞でもいいし、分かりやすい絵(え)的にいうと、脳細胞が空(から)っぽの胎児(たいじ)よね。それを70億 個、本物の成長段階から1年遅れぐらいで発育を進行させるの。本物の方が病気になった時点で、いつでも新品の健康体の臓器やES細胞と取り替えればいい の。グッドアイデアでしょう。」
 エリー「あたしは、あたしの美貌(びぼう)で世界中の人々の心をときめかす映画スターになるわ。あたしは、3歳の時に『ローマの休日』の台詞(せりふ) を完璧(かんぺき)に覚えたわ。あたしの選択には皆なに夢や希望、感動を与える女優の仕事しか考えられないの。そして世界中を旅行してこの地球上の隅々 (すみずみ)まで、自分の目と足で全部見てまわるの。多分、とっても忙しくて、恋をしたり、結婚したりする時間はないと思うわ。だって、女優の仕事をして いない時は、ユニセフの仕事を一生懸命(いっしょうけんめい)して、貧しさや無知な大人達の性で苦しみながら死んでいく子供達を少しでも助けてあげたい の。」

『 世界の国々に通告する。6時間以内にすべての権力を停止せよ。意思表示のない場合は、東京上空で核爆撃機が自爆するようセットされた。要求は次の1点 だけだ。子供が16歳になるまで、全世界の経済生産の10%を生存の最低条件として優先的に子供達に与えよ。あらゆる経済活動に先立ち食料、教育、情報、 環境を必要なだけ子供達に分配し、6歳の誕生日にパソコンを1台全員にプレゼントせよ。
7人の怒れる子供達 』
 NEXT