巻末の「参考資料 - 調性・音階・旋法・音律などに関する用語」も併せて参照して下さい。
(1)全音階(diatonic scale)
1オクターヴに5つの全音と2つの半音を持つ音階のことで七音音階(heptatonic scale)の一種です。半音程の位置に依り長音階と短音階とに分かれます。私たちが日本の小学校で習う「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」(←ミ・ファとシ・ドが半音程、他は全音程)が、これの典型です。
◆相対音階(relative scale)と絶対音階(absolute scale)
ところで、ここで使っている「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」は相対音階を指します。要するに2つの音の高さの隔たりを表す音程(※1)のみを問題にします。そしてこの音程の単位を[度]と言います。従って例えば「ド」の音が楽譜のどの高さの位置の音かという絶対音は問題にしないのです。
絶対音階を指す時は日本では標準的(又は伝統的)には「ハ・ニ・ホ・ヘ・ト・イ・ロ」を使います。ポップスなどでは英語の「C・D・E・F・G・A・B」を使って居ますが、クラシックの演奏家などは必ずドイツ語の「C・D・E・F・G・A・H」を使い、そして特にAis=A#=H♭にBを使います。そしてハ長調(又はイ短調)の時のみ、相対音階と絶対音階が一致し「ド」=「ハ」=「C」、...、「シ」=「ロ」=「B(英語)」=「H(独語)」と成ります。バッハの『ロ短調ミサ』はドイツ語で "Messe
in h-moll" と言います。又、この様に短調(moll)は小文字で、長調(Dur)は大文字で表します。
以上の説明を解り易く図示したのが下の図です。
相対音階 絶 対 音 階
日本語 英語 独語(クラシック)
<ド = 8度> 半音程 ハ C C
シ = 7度 全// ロ B H
ラ = 6度 全// イ A A(B=A#)
ソ = 5度 全// ト G G
ファ= 4度 半音程 ヘ F F
ミ = 3度 全// ホ E E
レ = 2度 全// ニ D D
ド = 1度 ハ C C
◆長音階(major scale)と短音階(minor scale)
長音階とは主音と第3音の間が長3度を成す音階で、「明るい感じ」「楽しい感じ」の長調が作られます。「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」が基本。
一方、短音階とは主音と第3音との間が短3度を成す音階で、「暗い感じ」「哀しい感じ」の短調が作られます。「ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ・ソ」が基本(=自然的短音階)で、その第7音を半音高めた「ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ・ソ#」の和声的短音階と、上行のみ自然的短音階の第6・7音を半音高めたもの、即ち上行のみ「ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ#・ソ#」(下行は自然的短音階)の旋律的短音階とが在ります。
(2)半音階(chromatic scale)
各音の間が全て半音を成す音階で、音階構成は十二音音階(後述)と全く同じですが、作曲上の用法は異なります。
半音階 ハ長調(イ短調)のみ絶対音に対応
<ド =8 度>
シ =7 度 = ロ(B)、ドイツはH
ラ#=シ♭ =6.5度 = 嬰イ(A#/Ais) = 変ロ(Bb)、ドイツはB
ラ =6 度 = イ(A/A)
ソ#=ラ♭ =5.5度 = 嬰ト(G#/Gis) = 変イ(Ab/Aes)
ソ =5 度 = ト(G/G)
ファ#=ソ♭=4.5度 = 嬰ヘ(F#/Fis) = 変ト(Gb/Ges)
ファ =4 度 = ヘ(F/F)
ミ =3 度 = ホ(E/E)
レ#=ミ♭ =2.5度 = 嬰ニ(D#/Dis) = 変ロ(Eb/Es)
レ =2 度 = ニ(D/D)
ド#=レ♭ =1.5度 = 嬰ハ(C#/Cis) = 変レ(Db/Des)
ド =1 度 = ハ(C/C)
但し、日本語表記の 「変レ」「嬰ニ」「変ト」「嬰ト」「嬰イ」
英語表記の 「A#」
ドイツ語表記の「Aes」、「Ais」
は殆ど使われません。
ドイツ語表記では「ロ」に「H」、「嬰イ=変ロ」に「B」を使います。
音律(musical temperament)に関する専門用語は参考資料を見て下さい。音律とは簡単に言えば「音の高さ(=音高)」を規定して居るものです。現在、国際的な取り決めで
振動数(周波数)440ヘルツ(Hz)の音をイ(A)
として居ます。ヘルツ(Hz)は振動数(周波数)の単位です(※2、※2-1)。
中国には3000年位前から1オクターヴを12の音 -何やら十二音音階を彷彿とさせます- に分け、それぞれ音名を定めて居ました。日本は平安時代に中国の俗楽の調名から雅楽(※3)の中に日本独自の律名を使う様に成りました。
中国 日本(雅楽) 洋楽の近似音名
1. 黄鐘(こうしょう) 壱越(いちこつ) ニ = D
2. 大呂(たいりょ) 断金(だんきん) 嬰ニ(変ホ)= D#/Eb
3. 太簇(たいそう) 平調(ひょうじょう) ホ = E
4. 夾鐘(きょうしょう) 勝絶(しょうぜつ) ヘ = F
5. 姑洗(こせん) 下無(しもむ) 嬰へ(変ト)= F#/Gb
6. 仲呂(ちゅうりょ) 双調(そうちょう) ト = G
7. 蕤賓(すいひん) 鳧鐘(ふしょう) 嬰ト(変イ)= G#/Ab
8. 林鐘(りんしょう) 黄鐘(おうしき) イ = A
9. 夷則(いそく) 鸞鏡(らんけい) 嬰イ(変ロ)= A#/Bb
10. 南呂(なんりょ) 盤渉(ばんしき) ロ = B
11. 無射(ぶえき) 神仙(しんせん) ド = C
12. 応鐘(おうしょう) 上無(かみむ) 嬰ド(変ニ)= C#/Db
中国の十二律は陰陽に分けられ、奇数の各律は陽律であり律(りつ)と呼ばれ六律(りくりつ)と総称されます。偶数の各律は陰律であり呂(りょ)と呼ばれ六呂(りくりょ)と総称されます。従って律呂(りつりょ)と言われます。
日本では黄鐘の音(≒A)を430Hzとして用いて居ますので、国際標準より10Hz程低い訳です(△1のp16)。
ところで『徒然草』第220段には以下の様な記述が在ります(△2のp158~159)。
「何事も辺土は、賤しく、かたくななれども、天王寺の舞楽のみ、都に恥ぢず」といふ。天王寺の伶人の申し侍りしは、「当寺の楽は、よく図をしらべあはせて、ものの音のめでたくとゝのほり侍る事、外よりもすぐれたり。故は、太子の御時の図、今にはべるをはかせとす。いはゆる六時堂の前の鐘なり。その声、黄鐘調のもなかなり。寒暑に随ひて上り・下りあるべき故に、二月涅槃会より聖霊会までの中間を指南とす。秘蔵の事なり。この一調子をもちて、いづれの声をもとゝのえ侍るなり。」と申しき。
大阪の四天王時の舞楽は都に恥じない。何となれば四天王時の楽士は「六時堂の前の鐘なり。その声、黄鐘調のもなかなり。」に音を合わせて居るからだ、しかも「二月涅槃会より聖霊会までの中間」の音に、と言って居ます。つまり黄鐘の音(≒A)は当時から標準音として使われて来ました。その「六時堂の前の鐘」とは現在の北鐘堂の鐘です。
教会旋法とは、中世ヨーロッパのグレゴリオ聖歌で9世紀には確立していた旋法で、これがやがて長調・短調に発展して行きます。
旋法名 音階
第1旋法:ドリア旋法(Dorian mode) D,E,F,G,A,B,C
第2旋法:ヒポドリア旋法(Hypodorian mode) A,B,C,D,E,F,G
第3旋法:フリギア旋法(Phrygian mode) E,F,G,A,B,C,D
第4旋法:ヒポフリギア旋法(Hypophrygian mode) B,C,D,E,F,G,A
第5旋法:リディア旋法(Lydian mode) F,G,A,B♭,C,D,E
第6旋法:ヒポリディア旋法(Hypolydian mode) C,D,E,F,G,A,B♭
第7旋法:ミクソリディア旋法(mixolydian mode) G,A,B,C,D,E,F
第8旋法:ヒポミクソリディア旋法(Hypomixolydian mode) D,E,F,G,A,B,C
↑
下線が終止音
奇数で表される旋法は正格旋法、偶数で表される旋法は変格旋法とも言います。例えば第2旋法はドリアの変格旋法です。この他、非公式の
イオニア旋法(Ionian mode) C,D,E,F,G,A,B
エオリア旋法(Aeolian mode) A,B,C,D,E,F,G
ロクリア旋法(Locrian mode) B,C,D,E,F,G,A
も在ります。
歴史的には、音律は
ピタゴラス音律 → 純正律 → 中全音律 → 平均律
BC6世紀 15世紀 17世紀 19世紀
と変化して来ました。しかし、今日の我々は殆ど鍵盤楽器の発達と共に17世紀以降に普及した平均律 -鍵盤楽器が無ければ平均律も無かった- に慣れて仕舞ったので、先ず平均律から説明します。
(1)平均律(equal temperament)
平均律とはオクターヴ以外の全ての音程は近似で、厳密に言えば唸りを生じます。振動数比(周波数比)を数式で表すと
n/12
f = 2
・
C C# D D# E F F# G G# A B♭ B C
n= 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
と成ります。オクターヴでn=12と成り振動数は2倍に成ります。これは公比が
1/12
2 = 1.05946...
という無理数(※4)の等比数列に成ります。現在ピアノはこのルールに従って調律されて居ます。言わば大量生産の規格品です。が、厳密に言えば音に濁り/唸りが有り、別の言葉で言い換えると平均律は協和度が低いのです。
(2)ピタゴラス音律(Pythagoras musical temperament)
では元々の音律とは最初誰が考え出したのか?、その答えがピタゴラス(※5~※5-3)なのです。我々は数学の定理で彼の名を知って居ます。
右の図をご覧下さい。基本波、2倍波、4倍波、8倍波、16倍波...でオクターヴ波となる訳です。同様に3倍波、6倍波、12倍波、...で別のキーのオクターヴ波です。更に5倍波、10倍波、20倍波、...も別のキーのオクターヴ波です。要するに、両端が必ず閉じるのが音波の基本です。
ところが平均律ではオクターヴ波以外では言わば両端が完全に閉じないのです。飽く迄も近似で、これが平均律の問題点なのです。
ピタゴラス音律では振動数比(周波数比)は次の様に有理数(※4-1)です(上段)。下段は隣り合う2音の振動数比(周波数比)です(△3のp57)。
C D E F G A B C
1 9/8 81/64 4/3 3/2 27/16 243/128 2
9/8 9/8 256/243 9/8 9/8 9/8 256/243
CとDは間にC#が有りますから、平均律のn=2で
2/12
2 = 1.05946 × 1.05946 = 1.12246...
と成ります。これと 9/8 = 1.125 とは僅かに異なるのです。ピタゴラス及び教団のメンバーは簡単な数の関係に宇宙調和の原理が在ると考え、音律と音の協和を恰好の問題と捉えました。
(3)純正律/純正調(pure temperament)
上のピタゴラス音律に於いて
81/64 ≒ 80/64 = 5/4
27/16 = 1.6875 ≒ 1.66667 = 5/3
243/128 = 1.89844 ≒ 1.875 = 240/128 = 15/8
とし、より簡単な分数に置き換えたものが純正律です。15世紀後半スペインのバルトロメ・ラモス(1440頃~91年頃)に依り確立されました。即ち、振動数比(周波数比)はやはり有理数で(上段)、下段は隣り合う2音の振動数比(周波数比)です(△3のp60)。
・
C D E F G A B C
1 9/8 5/4 4/3 3/2 5/3 15/8 2
9/8 10/9 16/15 9/8 10/9 9/8 16/15
純正律はルネサンス音楽に採り入れられましたが、最大の欠点は転調に弱いのです。しかし、パレストリーナの合唱曲がこの上も無く美しく響くのは純正律の御蔭です。やはり純正律でハモった時は共鳴しパワーが倍増するのです。
中全音律は長3度を純正音程にする音律で、16~19世紀に鍵盤楽器の調律用に使われモーツァルトが好んだという話が伝わって居ますが、今日では特殊な用途以外は使われません。
(1)日本の「四七抜き音階」(a kind of pentatonic scale)
「四七抜き音階」とは4度(=ファ)と7度(=シ)の音が無い音階の為にそう呼ばれます。「ド・レ・ミ・ソ・ラ」の5つの音のみで長音階を構成し、ミとラが半音下がって「ド・レ・ミ♭・ソ・ラ♭」(読み替えて「ラ・シ・ド・ミ・ファ」)が短音階を構成します。この様な五音だけで構成される音階を五音音階(pentatonic scale)と言い、その音楽を五音音楽(pentaphony)と言います。この様な曲が東アジア/中央アジア/中欧(国で言えば中国/日本/朝鮮半島/チェコ/ハンガリー/ブルガリアなど)に多く分布し、日本の伝統的な民謡や子守唄、更には日本調の歌謡曲は大抵これに該当します。日本と中国で流行った歌謡曲「北国の春」は典型的な「四七抜き」の五音長音階の曲です。
尚、五音では無いですが「ラ・シ・ド・レ#・ミ・ファ・ソ#」がジプシー音階(※6)です。
(2)東南アジアに共通のペロッグ音階(pelog scale)
ところが琉球音階(沖縄音階)は同じく五音音階ではありますが、2度(=レ)と6度(=ラ)の音が無い「ド・ミ・ファ・ソ・シ」という「二六抜き音階」で構成され、東南アジアや南方系のペロッグ音階(※7、※7-1)の影響が窺え、ペロッグ音階は沖縄の他、中国雲南省/タイ/インドネシアなどに一般的です。
何れにしてもオクターヴ中の五音のみで曲が構成されるのが東南アジア音楽の大きな特徴です。以上の事を図示したのが下の図です。
琉球五音階 全音階 五音長音階 五音短音階
(ペロッグ音階) (七音音階) (四七抜き音階)
<ド =8度(=オクターヴ)>
シ ← シ =7度
ラ =6度 → ラ → ラ♭(ファ)
ソ ← ソ =5度 → ソ → ソ (ミ)
ファ ← ファ=4度
ミ ← ミ =3度 → ミ → ミ♭(ド)
レ =2度 → レ → レ (シ)
ド ← ド =1度 → ド → ド (ラ)
オクターヴを12等分した等分音階の一種で、音階構成は半音階と全く同じですが、十二音音楽(dodecaphony)の作曲に当たっては中心音(=主音)を作らない様にする為に、各々の音を平等に使うという規則(=十二音技法(dodecaphonic method))に従って音列(=セリー)を作成しますので、用法上は普通の半音階音楽と全く異なり明確に区別されます。
シェーンベルクが1921年7月に確立した十二音技法に拠って長調・短調という調性が解体され現代音楽の新しい地平が開かれましたが、実は十二音音楽は平均律と密接不可分な関係に在るのです。
十二音音階
<ド = 8度(=オクターヴ)>
シ = 7 度 -+
ラ#=シ♭ = 6.5度 |
ラ = 6 度 |
ソ#=ラ♭ = 5.5度 |
ソ = 5 度 |
ファ#=ソ♭ = 4.5度 +- 12の等分音階
ファ = 4 度 | (=半音階)
ミ = 3 度 |
レ#=ミ♭ = 2.5度 |
レ = 2 度 |
ド#=レ♭ = 1.5度 |
ド = 1 度 -+
◆音列(tone row)とセリー(serie)
単に「音列」と言った場合、高さの異なる音の連なり(広義)と、次に説明するセリー(狭義)とを含みますが、狭義の用法が現在一般的です。
セリー(serie[仏])とは、十二音音楽などの楽曲構造の基礎と成る数個~12個の音の順列(=セリー(serie[仏]))のことです。セリーを生成するには一定のアルゴリズム(※8)が必要で、採用するアルゴリズムの違いに拠って生成される音列は異なり、それに依り「××技法」という立場の違いも生じます。しかし、一定のアルゴリズムを解く事は今日コンピュータの方が勝って居るので、セリー理論に生き詰まり感が出て居ます。
◆◆◆参考資料 - 調性・音階・旋法・音律などに関する用語
■調性と長調・短調
(1)調性
●調性(tonality)とは、旋律や和声などが調、又は主音に拠って秩序付けられ統一されて居る現象のことです。機能和声に基づく和声的調性(harmonic tonality) -長調・短調の調(ちょう)の区分が明確- と旋律的調性(melodic tonality)とが在り、狭義には前者を指します。
●無調性/無調(atonality)とは、音楽で調性の無いこと。長調・短調の音楽と違い、全ての音がそれぞれ対等に独立して中心に成る音(=主音)を感じさせない様に作られる。シェーンベルクらの十二音音楽はそれを組織化したもので典型的な無調音楽(atonal music)です。
●多調性/多調(polytonality)とは、異なった調を同時に用いて作曲する技法のこと。新しい和声音が得られるのが特色で19世紀後半以後に後期ロマン派などに於いて頻繁に用いられました。汎調性。
(2)長調・短調、主和音と属和音
●調(ちょう、key)とは、或る楽曲、又は楽句の基づく音階の種類で、主音の位置に依って定まる音組織の特性。西洋の調性音楽の長短の七音音階に於いては、長調(major key)の12種と短調(minor key)の12種を合わせて24種の調が在り、主音の位置に依ってハ長調・ト短調などと呼びます。
・長調(major, major key, Dur[独])は、長音階に拠る楽曲の調子(=主和音が長三和音)のことで、一般に「明るい感じ」「楽しい感じ」の響きを持つ。←→短調。
・短調(minor, minor key, moll[独](楽譜表記上は moll と小文字にする))は、短音階に拠る楽曲の調子(=主和音が短三和音)のことで、一般に「暗い感じ」「哀しい感じ」の響きを持つ。←→長調。
●主音(tonic)とは、音階の第1度音。その音階の中心音として調と調名を決定します。例えば、ハ長調ではハ(C)の音。主調音。キーノート(keynote)。トニック/トニカ。
・主和音(tonic)とは、音階の主音の上に組み立てた3和音で、長三和音(ドを主音としド・ミ・ソの和音)と短三和音(ラを主音としラ・ド・ミの和音)が在る。トニカ(略号:T)。
・属音(dominant)とは、主音の5度上(=4度下)の音。ドミナント。
・属和音(dominant)とは、属音の上に組み立てられた和音。例えば、長調ではソ・シ・レの和音。ドミナント(略号:D)。
・属七和音(dominant sevens chord)とは、属音(ドミナント)の上に組み立てられた4和音の一。ソ・シ・レ・ファの4音から成り、これは属和音ソ・シ・レに属音ソから見て7度上のファが加わった構成。
・下属音(subdominant)とは、(「属音の1度下の音」の意味)主音の4度上(=5度下)の音。サブドミナント。
・下属和音(subdominant)とは、下属音の上に組み立てられた和音。例えば、長調ではファ・ラ・ドの和音。サブドミナント(略号:S)。
(3)和声と対位法
●和音(chord)とは、2つ以上の高さの異なる音が同時に響いた時に合成される音。協和音と不協和音とが在る。和弦。コード。
・協和音(consonance)とは、同時に鳴らされた複数の音が互いに良く融け合う協和性の高い和音。和声学では長3和音(例えばドミソ)と短3和音(例えばラドミ)。完全5度(ド-ソ、ラ-ミ)と長3度(ド-ミ)又は短3度(ラ-ド)から構成される。
・不協和音(dissonance)とは、協和性が低く不安定な感じを与える和音。和声学では協和音(=長3和音と短3和音)以外は全てこれに該当する。
・根音(basic tone)とは、和音の基礎を成す音で、一番下の音。
・唸り(beat)とは、〔音〕僅かに振動数の違う二つの音波が重なり合った時に、干渉の結果、音波の振幅が周期的に増減し、音が強く成ったり弱く成ったして聞こえる現象。毎秒の唸りの回数は二つの音の振動数の差に等しい。音叉と弦との振動の唸りを利用してピアノの調律などを行う。又、電気振動に於いても同様な現象を唸りと呼び、スーパー・ヘテロダイン受信機などに利用。
・共鳴(きょうめい、resonance)とは、〔理〕物理系が外部からの刺激で固有振動を始めること。特に刺激が固有振動数に近い振動数を持つ場合を指す。共振。
●和声(harmony)とは、音楽に於ける和音の連なり。リズム・旋律と並んで音楽の基本要素の一。ハーモニー。
●対位法(counterpoint, Kontrapunkt[独])とは、(「点対点」「音符対音符」の意から)西洋の多声音楽に於いて、複数の独立した旋律を同時に組み合せる作曲技法。各声部毎の独立性と水平的な流れを第一義的に考えるもので、パレストリーナが模範とされる。後期バロック時代には調性感の発達と共に和声的対位法も成立し、バッハに依って集大成された。
■旋法
●旋法(mode)とは、〔音〕或る音階に基づく旋律に関し、その動きの性格を規律している法則。ギリシャ旋法・教会旋法・律旋法・呂旋法・陽旋法・陰旋法など。
・教会旋法(church mode)とは、中世ヨーロッパのグレゴリオ聖歌で確立した旋法。正格・変格各々4種、計8種の旋法から成る。他の4旋法と合わせた12種の旋法は近代の長調・短調へと理論的に体系化された。
■音律
●音律(おんりつ、musical temperament)とは、[1].音の調子。
[2].音の高さ。
[3].楽音の相対的な音高関係を一定の方法に従って厳密に規定したもの。今日ではオクターヴ音階で表される事が多い。西洋の純正律・中全音律・平均律、中国・日本の十二律など。→楽律。
・楽律(がくりつ、musical temperament)とは、日本伝統音楽で音律のこと。
・調律(ちょうりつ、tuning)は、楽器の音の高さを特定の標準音と音律に従って整えること。又、楽器を演奏に相応しい状態に整備すること。調音。整律。「―師」。
・純正律(じゅんせおりつ)/純正調(じゅんせいちょう、pure temperament)とは、〔音〕音階中の各音の音程が最も単純な整数比から成る音律。平均律に比して、和音は完全に協和する。15世紀後半、バルトロメ・ラモス(スペイン)に依り確立された。←→平均律。
・中全音律(ちゅうぜんおんりつ、meantone temperament)とは、〔音〕全ての長3度を純正音程にする為の音律。5度音程を僅かに狭くして得られる。16~19世紀、鍵盤楽器の調律に使用。今日では殆ど使われない。
・平均律(へいきんりつ、equal temperament)とは、〔音〕1オクターヴの間を12個の半音に等分して構成した音律。純正律に対してオクターヴ以外の全ての音程が近似的であるが、有らゆる調を等しく処理できる便利さの為、和声法が複雑化した19世紀に普及した。バッハの「平均律クラヴィーア曲集」は本来の訳は「良く調律されたクラヴィーア曲集(Well-tempered clavier)」だが、平均律の確立に繋がる役割を果たした。12等分平均律。←→純正律。<出典:一部「学研新世紀ビジュアル百科辞典」より>
●十二律(じゅうにりつ)とは、中国・日本などの音楽で、1オクターヴを12の律で構成する音律。1律は半音に近く、ヨーロッパ音楽の1平均律と大体同じ。その基音を中国では黄鐘、日本の雅楽では壱越と言い、長さ9寸(約27cm) の律管の発する音とし、律管を交互に3分の1だけ短く(三分損一)又は長く(三分益一)して順次12の音高を定める(三分損益法)。十二調子。<出典:一部「学研新世紀ビジュアル百科辞典」より>
・律(りつ)とは、
〔音〕[1].音の高さ。楽律。音律。
[2].[a].日本音楽で音程を示す単位。洋楽の半音に相当。
[b].律旋(りつせん)の略。←→呂(りょ)。
[c].十二律の内、奇数番目に当たる六つの音。←→呂(りょ)。
[d].律管。
・呂(りょ)とは、
〔音〕[2].呂旋(りょせん)の略。←→律(りつ)。
[3].十二律の内、偶数番目に当たる六つの音。←→律(りつ)。
・律呂(りつりょ)とは、[1].律の音と呂の音。即ち音律(楽律)。謡、経政「―の声々に情(こころ)声に発す」。
[2].律旋と呂旋。即ち旋法。
■「モダニズムの音楽」と「現代音楽」の定義
通常は「近代音楽」「現代音楽」「近現代音楽」と言われますが、「近代」や「現代」の時代区分が曖昧なので、当サイトは「モダニズムの音楽」(或いは「モダニズム音楽」)と「現代音楽」とを以下の様に定義・再定義して使います。
●モダニズムの音楽(modernism music)とは、ロマン派迄の調性や和声や形式を打破或いは破棄して、様々な方法論の革新を試みて無調音楽に接近したの音楽様式(=モダニズム)を中核とする。時代的には凡そ19世紀終盤(=印象派の頃)~20世紀前半に対応するが、モダニズムの方法論を言う場合は現代をも含む。
●現代音楽(contemporary music)とは、「モダニズムの音楽」の様式を引き継ぎ、1945年の第二次世界大戦以後~現在の間に生まれた音楽。
【脚注】
※1:音程(おんてい、[musical] interval)は、2つの音の高さの隔たり。音響物理学では振動数の比で表すが音楽では音階の音を基にした「度」で示される。例えばハとハは同度又は1度、ハとニは2度と成り、含まれる半音の数に依って長短、完全・増減の区別が有り、響きの性質に依って協和と不協和の区別が有る。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>
※2: ヘルツ(hertz)は、(H.ヘルツの名に因む)振動数・周波数の単位。国際単位系の組立単位。1秒間n回の振動をn(Hz)と言う。記号はHz。
※2-1:ヘルツ(Heinrich Rudolph Hertz)は、ドイツの物理学者(1857~1894)。電磁波の存在を初めて実験的に確かめ、光がこれと同性質のものであるというマクスウェルの予言を実証した。
※3:雅楽(ががく、Japanese ceremonial court music)は、(雅正の楽舞の意)元来は祭祀用楽舞を指したが、後には饗宴用楽舞をも含めての宮廷の楽舞の総称。国風歌舞(くにぶりのうたまい)・外来楽舞・歌物(うたいもの)に大別される。国風歌舞は、神楽・東遊(あずまあそび)・久米舞など、日本古来の皇室系・神道系の祭祀用歌舞。外来楽舞は唐楽(とうがく)と高麗楽(こまがく)とから成る宮廷の饗宴用楽舞で、平安初期迄に伝来した楽舞に基づく。歌物は平安中期頃成立の饗宴用の声楽曲で、催馬楽と朗詠。狭義の雅楽は外来楽舞を指す。
※4:無理数(むりすう、irrational number)とは、〔数〕有理数で無い実数。例えば ルート2やπ(円周率)など。←→有理数。
※4-1:有理数(ゆうりすう、rational number)は、〔数〕二つの整数a、bに
依って a/b の形(分数)で表される数。←→無理数。
※5:ピタゴラス/ピュタゴラス(Pythagoras)は、古代ギリシャの哲学者・数学者・宗教家(BC582?~BC497?)。サモス島の生まれ。南イタリアのクロトン(現クロトーネ)で、一方では宗教的に霊魂の救いを目的とする新宗教を説き、他方では科学的に宇宙の調和の原理を数[の関係]に求める秘密教団を設立。広く地中海世界を遍歴し、エジプトの実用的数学を理論的数学に発展させ、ピタゴラスの定理や自然界の数比例の関係を発見した。この教団は大地や天体が球状で在ると主張し、一種の地動説を唱えた。彼自身は著書は残さなかったが、科学的思考の基礎を築くのに果たした役割は大きい。<出典:一部「学研新世紀ビジュアル百科辞典」より>
※5-1:ピタゴラス学派(―がくは)は、ピタゴラスの教えを信奉した学徒(教徒)。霊魂の不死と輪廻を信じ、霊魂の救いの為その浄化を説いた。世界の根源は数であり、一切は偶数と奇数とから成るとし、特に数学・天文学・音楽の進歩に寄与した。紀元前5~4世紀に栄え、フィロラオス・アルキタスが著名な代表者。前1世紀には新ピタゴラス学派としてその伝統が復活した。
※5-2:ピタゴラスの数(―のすう)とは、x2+y2=z2 を満たす自然数の組(x,y,z)のこと。例えば、(3,4,5)、(5,12,13)など。この様な数の組は、直角三角形の3辺の長さと成り、無限に存在する。
※5-3:ピタゴラスの定理(―のていり)とは、幾何学の定理の一。直角三角形の斜辺の上に立つ正方形の面積は、他の2辺の上に立つ正方形の面積の和に等しいという定理。日本では、古くはこれを鈎股弦(こうこげん)の定理と称した。三平方の定理。
※6:ジプシー(Gypsy)とは、(「エジプトから来た人」に由来する英語の他称で、彼等自身は「人」を表すロム(Rom)の複数形ロマ(Roma)を自称)
[1].インド北西部が発祥の地と言われ、6~7世紀から移動し始めて、今日ではヨーロッパ諸国/西アジア/北アフリカ/アメリカ合衆国に広く分布する民族。言語はインド・イラン語系のロマニ語を主体とする。移動生活を続けるジプシーは、動物の曲芸・占い術・手工芸品製作・音楽などの独特な伝統を維持する。
[2].転じて、放浪生活をする人々。
<出典:一部「学研新世紀ビジュアル百科辞典」より>
※7:ペロッグ(pelog[インドネシア])とは、インドネシア音楽の重要な音階。半音を含む五音音階で3種類在り、基本の形は琉球音階に似る。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>
※7-1:スレンドロ(slendro[インドネシア])とは、ペロッグ音階と共にインドネシア音楽に用いられる音階名。1オクターヴを略5等分した音階で、標準高度は無く、音名も地方に依って異なる。全音音階的に聴こえる。インドネシアでは、この音階は「神から与えられたもの」として神聖視され、儀式やインド神話劇の伴奏などに用いられる。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>
※8:アルゴリズム(algorithm)とは、(アラビアの数学者アル・フワリズミーの名に因む)
[1].アラビア記数法。
[2].問題を解決する定型的な手法・技法。コンピュータなどで、演算手続きを指示する規則。算法。
※8-1:アル・フワリズミーは、(クワリズミーとも)アラビアの数学者・天文学者・地理学者(780~850)。初めて「代数学」の書を著す。英語のalgebra(代数学)はその著書名”al-jabr”に拠る語。又、彼の名はalgorithm(アルゴリズム)の語源に成った。他に「地球の形の本」。
(以上、出典は主に広辞苑です)
【参考文献】
△1:『雅楽がわかる本(日本古典芸能シリーズ)』(安倍季昌著、たちばな出版)。
著者の安倍季昌氏は安倍家(篳篥を楽業とする楽家)の29代目です。この本は雅楽の用語・楽理・楽曲・楽器及び楽人渡来と日本の雅楽・楽家の成立の歴史を、非常に要領良く簡潔に纏めて在りますので雅楽入門書としてお薦め。
△2:『徒然草』(吉田兼好著、西尾実校注、岩波文庫)。
△3:『音律と音階の科学』(小方厚著、講談社ブルーバックス)。